第3夜
その日は朝からにぎやかだった
「ふぁあ」
でかい欠伸をした後に彼は目をこする
結局、あの後は寝ていない
「レイ、寝不足?」
隣にはフレックがいる
「…」
黙りこむレイドを見て、フレックは小首をかしげた
「レイ、このごろ変。よく黙るぞ…」
「そう、か?」
「うん」
どうやら、自覚していないらしい
十面を食っているフレックの横で、レイドはため息を押しとどめていた
本当は自覚している
あまり、悟られないように勤めていたのだが、さすがは幼馴染
バレバレか…
思考の泉に浸っていると、耳鳴りがした
ぷっつりと、音がかき消される
聞こえてくるのは水の音
否、いくつもの固体が動き回る音
それから、うめき声
モウ、スコシ…
また、あの声だ
思わず耳に手をやる
ムダダ、モウ、オマエノ…
聞きたくない
けれど声は直接、脳に響く
スグソバニ…
それ以上は聞こえなかった
フレックが騒いでいたからだ
気づけば、自分は周りの大人たちに囲まれていた
彼らは口々に何かを言っているけれど、聞き取れない
「しばらく、休ませたほうがいいだろう」
誰かが、そういった
でも、いったい誰が
同じように感じた彼らが声の主を探す
誰かが、あっと、声を漏らす
人々の視線が一点に注がれる
そこにいたのは、一人の男
「なんだ?私は見世物でもないぞ」
真顔で、男は不平をもらした
「…ひゃぁ。レイにちょっと似てる」
小声でフレックが感嘆する
「そうか?」
「うん。特に輪郭とか」
「どこを見ているんだか」
男は、二人のやり取りに目をくれずに、周囲の人々を追い払った
完全に散った頃、男は始めてこちらを向いた
「どうやら、なんともないようだな」
「あるはずない」
「ふ。…そうか」
「ところで、あんた誰?」
フレックが言うと、男は少し、面食らった顔をした
「人に名を尋ねるときは、自分から名乗るのが礼儀であろう?」
「…フレック・ルヴィウス」
むっとするが、フレックは答えた
「レイド・アーバンクル」
そう、言ったとき、かすかだが男は目を見開いた
「それなら、私も名乗らぬわけにはいかないな。私はクラウド・ロジェルス。旅の傭兵だ」
「へぇ…いったいどうして?」
「女王に頼まれてな」
片目を眇めるクラウドだった
「…?」
二人はほとんど同時に顔を見合わせた
「あまり、気にするな」
「はぁ」
そして、夜
裏手にある山の前で、彼らは集まった
祈祷だ
「…」
レイドはかなり後ろのほうにいる
フレックは前のほうだ
今頃、町の中では、衛兵が見回っているのだろうなと拉致もないことを考えながら、レイドは眠たくなる話を聞いていた
と、また耳鳴りがした
ムカエニキタゾ
半瞬遅れて、町のほうから爆発音が響いた
「皆さん、落ち着いて、非難しましょう!」
なだれのように彼らは動いた
たった一人を除いては
その一人は、ぼうっとしていた
「レイ!早く!!」
フレックが人ごみを分けていこうとするが、流れに逆らえず、飲み込まれていった
その一方でレイドは、ふらふらと、町のほうへと歩いていった
「レイーィっっ!!」
もはや彼は、生気を失っているといっていいほどだった
「…っ…」
ようやく我に返ったとき、目の前に広がっていた光景は、赤い光だった
ゆらゆらとゆれている
それが炎だとわかったとき、同時にいる場所を理解した
町の中だ
路上には、血の池が広がっていた
「うそだろう…?」
その場から逃げ出そうとすると、火が行く手を阻んだ
『ニガサン…』
その声に、レイドは硬直した
ぎしぎしと音を立てながら首を動かして、背後を見る
そこにいるのは赤い目をした、この世のものとは思えない生き物達だった
『コノヒヲ、マチワビタゾ』