第1夜
大公海には、連なるように国が点在しているといわれている
実際にこの目で確認したわけではない
ただ、時折訪れる旅人達から聞いた話だ
彼らは語る、この世界のどこかに伝説の大陸があると
そこには、この世のものとは思えないすばらしい剣が眠っていると
その大陸の名は、セレスティアというそうだ
彼らは、その大陸を見つけるため旅を続けているらしい
そう言えば、旅人の中に変わった人たちがいた
家族連れらしかった
旅人のことなど、いちいち覚えてはいない
けれど、彼らのことははっきりと覚えている
正しくは、彼らではなく、彼らとともにいた…幼い少女
いつも、夢の中に出てきて、手を振り続けて…
だけど、駆け寄ろうとしても少女には近づけない
いつも少女は連れて行かれた
伸ばした手はいつも空をつかむばかりだった
今日もまた、手を伸ばす
つかむことなく目が覚める
どうせ、今日もそうだろう
だけど、今日はいつもと違った
なぜか近づけた
一歩一歩、確かに近づいている
あと、少し
もうすこしで……
「れ・いぃぃぃぃいい!!」
「!!!」
耳元で叫ばれて彼は、目を覚ました
場所はとある部屋
そのベッドの上
「…おい」
視界にとびこんできた光景を見て、彼は不機嫌な声をだした
目の前に見えるのは茶髪の少年
愛嬌のある目で彼を覗き込んでいる
それなら、まだ許せるが、寝台の上で、しかも四つんばいになって自分のうえに覆いかぶさっている
切れ長の瞳を半眼にすると、彼は思いっきり蹴りつけた
「どけ、フレック!」
「ぎゃん!」
吹っ飛ばされたフレックは壁に頭を打ちつけそのまま地に落ちた
着地音とともにレイと呼ばれた少年はむっくりと起き上がった
「お前、誰の部屋にいると思っている」
「きゅ〜ん。レイの部屋。…許可ぐらい取っているから」
頭を抑えながら、フレックは飄々と言ってのける
そんな彼を、黒髪の少年がにらみつけた
レイド=アーントーク
それが、彼の名
「レ〜イ。しわが消えなくなっちゃうぞ〜」
ちゃっかり胡坐をかいているフレックを見て、レイドは適当に、手に触れたものを投げつけた
「うるさい。着替えるからさっさと出ろ」
「ぎゃいん」
投げたものは見事命中
再び頭を抱え込むはめになったフレックは涙ぐんだ目でレイドを見る
「いいじゃん。男同士なんだからさ」
「でてけ」
げしっと、蹴っ飛ばすレイド
乱暴にしめたドアの向こうからフレックがぎゃんぎゃん騒いでいる
「ケチケチケチ!!いいだろう?!ちょっとぐらい!お前風呂はいるときどうしてんの?!」
「よくない。…特にお前みたいなやつは」
「わんわんわん!」
「…すこし黙れ」
「きゅ〜ん。きゅ〜ん。きゅ…」
がん
何かが、何かにぶつかった
いったいなんだろう
答えは、ドアとフレックがぶつかった音
開け放したドアから出てきたのはレイドだった
「レイ」
どこからか、くぐもった声が聞こえる
「これは、僕への愛のあか…」
「だれが」
最後まで言わせはしない
「やだな〜、つんつんしちゃっふぐ」
ドアに力を加えて黙らせる
しかし、ここで黙るフレックではない
「えへへ、レイになら何されても僕はなんともいわないよ〜」
「Mか?!」
とりあえず、フレックを出してやる
「…」
開放されたフレックはじっとレイドを見る
一方のレイドは、首もとの黒い輪をいじりながら胡乱気に見返す
「何だ?」
「うに?…今日もいけてるなって」
「…は?」
「そんな風に地肌見せちゃだめだ」
「関係ないだろ」
フレックの頬に拳をお見舞いする
彼は笑顔でそれを受けた
「それより、なんでここにいる」
「あれれれ?昨日一緒に寝ようって言ったじゃんか!なのに、レイは冷たーいんだもんもん」「気色悪い」
「んで、寝顔をみにきた」
親指を立てて言うフレックにレイドは内心、変体がと、つぶやくのだった
「だけ?」
「まだあるよ。…明日は何の日?」
「確か…、国立記念日だよな」
「正解」
それは、 この国の女王を祝う日のことであり、この国の未来を願うひでもある
女王、アルテナ3世によって統治されているこの国は、1年中雪と氷に閉ざされ、不毛の地とされている
物資はすべて、他国からの輸入しているのだ
だから、何とかしてほしいと女神にすがっているというわけだ
「親父らは大変だろうな」
祈祷する際、この町はもぬけのからとなる
それを狙ったかのように、他国が侵略しにきたら大変だ
でも、そんな国はないだろうと思われる
いや、たった一国だけある
膨大な軍事力を持つ国
大帝国グランベロス
このごろ最近不穏なうわさが流れ出ている
戦争が起きるのではないかと
それは、できればただのうわさであってほしいとねがうばかりである
「…んじゃ、稽古だ!!」
「あ、ああ」
考え事をしていたので、わっと、万歳するフレックにあいまいな返事しか返せなかった
さっさと行くフレックの後を追いながら、レイドはあることを思い出した
「朝食は?」
「あ、まだ」