6/154
ムスッとしてる男の子より重要なことに気づきました
さてさて。そんな現実逃避していたらだめだと、現実に戻ってきたわけですが。
目の前には夫婦とその息子さん。
ニコニコと私に微笑んでくれるのはその夫婦さんだけで、男の子はムスッとしている。
あれ、これは私の婚約者パターンですか。
白目を剥いて倒れそうになるのを我慢して、ちらりちらりと男の子を見る。
白い肌に黒色の髪と瞳。
うん。可愛い。
でもなぁ、ムスッとしているのがいただけない。
なんでムスッとしているのかわからない。
「花奈ちゃん、こちら二条之宮様よ」
挨拶ですね。
あい。
私はふわりとドレスの裾をつまむ。
「一樂花奈です」
よろしくなんて言わない。だって仲良くしたいと思わないから。
「あらあら、可愛いわね」
「小さなレディ。挨拶をありがとう」
この夫婦素敵だ!!
それに比べて、なんだこの息子。
いまだにムスッとしてる。
何が一体気に入らないんだ。
えぇ、こんなのが婚約者とかいやですよお母様。
ん?
あれ?
いまとっても重要なことに気がついた。
むしろなんでいままでこの5歳になるまで気づかなかったのか。
私って、今世の父親に会ったことがない。