8コノカさんと一緒
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ありがとうございます。
店から少し歩いた先に、和風の大きな日傘が立ったベンチを見つけた。リアルの季節は春真っ盛りなので日本の蒸し暑さが遺憾なく発揮されているけれど、VRでは、秋春の涼やかで雅な景色と気温なので、蒸し暑さもなく、ぬくぬくと気持ちがいい。
穏やかな日差しが石畳に反射して微かにこちらを照らす光景を日陰の涼しさの中で見られるこの場所は、少しゆったりとしたかった僕にとって、最高の場所だった。
ベンチに着いて少し話した後、パーティを組むということでステータスの見せ合いっこをした。
ー・ー・ー
名前:艶風 コノカ
所持金:100
種族:半半狐獣人LV.1
状態:(健康)(期待)(喜び)
職業
英霊【????】LV.1
STR 14【+2】
DEX 18(+1)【−3】
CON 14(−2)【+1】
INT 14(+3)
POW 14(−2)【+1】
APP 14(+2)【+1】
LUK 14
スキル
ー種族スキルー
《隠蔽》《狐火》《妖児刀 :眠狸・慈狼》
ー職業スキルー
《ブースト》《滅霊絶妖》《瞬刀》
一般スキルー
《看破LV1》《二刀流LV1》《綱渡LV1》
名前:ギアリア・トゥカタリオ
製作者:マキナ・アルカイド
所持金:3500
種族:古代人形(プロトタイプ)
状態:(修理明け)(基礎体)(期待)(喜び)
職業
ハウスキーパー
STR 5(+10)【+2】
DEX 4(+5)【−2】
CON 10【+1】
INT 1
POW ー
APP 17
LUK 18【+1】
スキル
ー種族スキルー
《自己回復・微》《空腹無効》《展開:断罪の歯車》
ー職業スキルー
《挨拶》《家事》《気遣い》
一般スキルー
《魔力操作LV2》《工学LV5》《リングLV1》
ー・ー・ー
「なんかごめん」
「へ?なにがですか?」
ステータスをざっと見て一息ついた時、僕は気づけばコノカに謝っていた。
何がって、いや、だって、ねえ?
ステータスが雲泥の差過ぎて。いや、月とスッポンと言い換えてもいいかもしれない。
さっきまでVRゲームの先輩ぶって、しょうがねえ可愛い子ちゃんだぜ。いっちょ組んでやるかぁ、とか思っていた自分を殴りたい。僕は馬鹿か、と。
確かに僕も故障中の時よりは強くなったよ。ただ、余りにも補って余りある差がありすぎる!!
……あっ、ステータスの隣に軽くプラスマイナスは左から種族・職業ボーナスと、招待ボーナスだそうです。
つまり、それら込み込みでコノカより誇れるのが、筋力とカリスマとそして、運命力だけという哀しみが僕を襲っていたのだ。
せめて、実際に役に立ちそうなステータスでもうちょっと誇りたかったよ……。
目に見えて落ち込む僕を不思議そうに見ていたコノカは、あれ? と何かが気がついたように声を出した。
「ギアリーのPOWはいったいどういうことなんでしょうか?ハイフンということは、無効とかですか?」
「あぁ、どうなんだろうね。そういうことなのかな?人形に精神は関係ねえってことかな?……まあ、この運営に限ってそんな雑な理由を貼っつけることはないだろうしなぁ。……あ、けど、このPOW って、状態異常になるかならないかの判断数値だろ?てことは、これが無かろうがあろうが、あんまり有利なアドバンテージにはならないんだよね」
「確かに、言われてみればそうだったような気もしますね。……あ、そういえばギアリーの服!!ボロボロじゃないですか!」
そうだよコノカちゃん。僕の服は傷みまくった燕尾服なんだよ。ほつれて切れてもう中古でも買い取ってくれないくらいにね。ただね、どうせ僕のこの幸運度詐欺なキャラクターのことだ。服なんて高価なものを買うお金はおろか、そもそも所持金なんてゼロに等しい…………って、あれ?
「アイエエエエエ?!ナンデ?!ナンデ?!3500エンモ!!」
「一体どうしたんですか。何かの真似ですか?」
「いや、分からない。突然言わなきゃいけないような気がしたんだ。……と、そんなことはどうでも良い!朗報だ、コノカ!どうやら俺は金運だけはあったようだ!!」
3500円。このゲームの通貨単位はないため、便宜上《円》が使われている。海外プレイヤーはドルとか言ってるのかも知れんが、そんなことは知らん。
そして、3500円というこの数値。例によって、初期所持金額もランダムで決まるのだが、平均の初期所持金が1000円であることを考えると中々のものなのだ。
思わず舞い上がってしまうのも無理はないだろう。
いや、しかし、油断はまだできない。そもそも初期所持金で服を買おうとするプレイヤーはほぼゼロなはず。つまり所持金は全て回復アイテムなどに使えるのだ。それに比べて僕は服をまずは調達しなければならない。しかも、この世界の服の平均値段がオシャレなショップよろしく15000円は降らないということもありえない話ではないだ。もしくは、服屋さんがまだないとかね。
……え?ということは最悪僕は裸鎧で外に出ることになるの?流石にここの僕がイケメン(風)だったとしても魅力だだ下がりだよ。
「あの、ギアリー……」
「どうした、コノカ。僕は今、先にありそうな不運イベントを予め考えておくことで相殺する、という高等的な運命操作テクニックを行使しているので忙しい」
「私の所持金……100円しかないです」
おおっと、そんな所に落とし穴があったかーー。
考えてくるジャマイカ(誤字にあらず)、運営。これだからやめられなインダス(誤字にあらず)。
……まあ、しょうがあるまインドネシア(誤字にあらず)
「んじゃあ、俺の装備、というか服が整ってそれでも僕のお金が余ったら山分けしようか」
「ごめんなさいぃ……」
「いや良いって。どうせこの後の戦闘では僕がごめんなさいぃ、ってすることになるんだから」
「そんなことないです!ギアリーは強そうですから!ステータスは弱っこいけど!!」
「おっほぉ、中々良いよるな。この狐娘」
僕は煽られたお返しをするため、コノカの頭に垂れる二つの耳を無心でもふもふした。もふもふした。もふもふしたのだ。
ついでに髪も撫でた。
「ふゅあぁああぁぁぁ」
情けない音でコノカがベンチに沈む。ふははは。もふりマスター相坂を友達に持つこの僕には、死角などなかったようだな。1分も続けていると、コノカはベンチに沈み込んで満足げな顔をしていた。
……ふう。またつまらぬ物をもふってしまった。
……。
あ、嘘です。結構なお手前でした。
「……ふわぁ」
と、コノカが戻ってきたようだ。
「もふりって今まで舐めてましたけど、やばいですね。これからはポチにも、ちゃんともふってあげることにします」
「そうか。なら、コノカへのモフリは毎日俺にやらせてくれないか?」
「な、なに言ってるんですか?!そんな告白みたいなこと!告白どころじゃない!それは、もうプロポーズですよ!」
「いや、お前がなに言ってんだよ」
予想以上にアバターに引っ張られているコノカさんでした。というか、モフリに対する意識が変わりすぎなコノカさんだった。
ー・ー・ー
時間も大分経った頃、ようやく僕たちはベンチから立ち上がる。思いの外居心地が良かったため、予想以上に話し込んでしまったようだ。何もかも、照りつける幸福の光にも似たぬくぬくする日光が悪い。
話し込んだ結果、この後の予定は僕の服を買いに行った後、冒険者ギルドに登録しに行くことになった。
冒険者ギルドとは、このゲームにおけるクエストを受ける手段となりうる1つの場所で、ここに登録しておくと、身分証明書となるギルドカードが発行してもらえる。これがないと街から街への移動に余計な手続きが掛かるらしいので、プレイヤーにとって最も大切な場所の1つとなっている。
「あどっこいせー」
「ギアリーおじさんくさい」
「うるへー」
さっきまでとは打って変わって滑らかに動く体に感動しながら立ち上がる。
目の端に、いつの間にか出したアナザーワンをしまい、立ち上がろうとするコノカをとらえた瞬間、僕は無意識に動き出した。
「戻ってー、ウーロウ。ポン太……ってええええええ!」
そう、僕はコノカが刀に戻った二匹を腰に差し立ち上がろうとした、そのベストタイミングで抱きあげるようにコノカが経つのを補助していた。片手でコノカの手をつなぎ、片手で腰を持ち上げる風にして。
コノカは「な、なんですか〜??」と顔を赤くさせ、目をぐるぐると回している。
なんですか、だと?僕も知りたいわ。
コノカを抱きかかえたままステータスを見てみると、【気遣い】が、点滅している。どうやら、職業スキルの暴走のようだった。……ならしょうがない、うん今もなお抱きかかえているのもしょうがない。なんもかも【気遣い】が悪い。……って天丼はだめか。
一生に二度とないであろうラッキースケベを堪能した僕は、何食わぬ顔で「すまん。スキルが自動的に発動したようだ」と告げる。そう、僕は何も悪くない。なんもかも……いや、なんでもありません。
「い、いえ……気にしないでくだしゃい……」と頬を赤らめたまま下を見て人差し指同士をツンツンするコノカ。かわいい。将来悪い男に引っかからないか心配になってくる。
まあ、将来って言っても、もしかしたら20歳越えで、僕よりも年上なのかもしれないけれど……いや、それはないか。こんな可愛い大人がいるわけないし。……いないよね?
ともあれ、慣れない男児との接触のせいでスリップしたコノカを起こすために軽く引っ張り、「行くぞ!」というと、「ひゃっ!ひゃい」とコノカは駆け足で後ろを付いて来きた。このままだと、僕が思春期の性欲を持て余す変態のクズみたいなので、名誉のために言うが、やましい気持ちは全くなかった。
だが、やましい気持ちがなかったことを残念に思う気持ちがあったことは否定できない。
先の話し合いの結果、僕の服を買いに行くことなったわけだけど、コノカも僕も大して変わらない初心者であるため、どこに店があるかが全くわからない。なのでイベントの話をしながら僕らはキョロキョロと服屋を探すことになった。
人通りの多い大通りを探す。
「そういえば、さっき言ってたイベントってなんだったの?」
「ああ、あれのことですか?確か第二陣プレイヤー応援企画らしくて、タイトルが、【4国対抗!陣取りゲーム、ならぬ陣殺りゲーム!!】だった気がします」
なんだ、その殺伐とした応援イベントは。普通に経験値2倍イベで良いだろ。良くあるVRMMOみたいにさ。
「そんなこと思っていても、本心では他のゲームとは違うイベントを起こす運営まじ神。とか考えているんでしょ?」
「あたぼうよ。……けど、そのタイトルから察するに、バトルコロシアム的な何かだと思うんだけど。どこが初心者応援キャンペーンなんだ?」
イベントの光景が、第一陣による大虐殺しか浮かばないんだけど。
「あっ、それはですね───」
コノカが言いかけた時だった。
石畳の隅を歩いていた僕らの目の前に三人組のプレイヤーが現れる。……パーティ勧誘かな?
どうでもいいが、左からヒョロイ樹人、四つん這いの犬、中肉中背のトナカイの角が生えた人である。
「ちょっと良いですか?お二人さん」
「はい、なんでしょう?」
「俺らと一緒にパーティ組まね?」
「ああ〜、すみません。見ての通り、僕の服がくっそボロいんで新調しに行くところなんですよ」
「うわっ!まじだ。……えっ?これ初期装備?」
「はい」
三人が苦労してるんだな……と同情の視線をよこしてくる。いや、やかましいわ。見たところ中堅プレイヤーくらいには金持ってそうなんだから、同情するなら金よこせよ。こちらときちゃ、いくらするかも分からない服を買うために歩き回って疲れているんじゃ。じゃじゃじゃ。
僕が何度断っても、リアルじゃ絶対見せないだろうガッツを三人は無駄に発揮して食い下がってくるので、服を買うからパーティは組めないと再度言うと、三人は円陣を組むようにして僕たちに背を見せた。
(……おいどうするよ。美少女とイケメン捕まえて、他の高APPキャラ釣ろう大作戦が失敗しそうだぞ)
(まて、諦めるのはまだ早い。とりあえずフレコを交換して、あの男の用事が終わったら呼んでもらうのはどうだ?あと、サイ。下を向くな。お前の長い角が刺さって痛い)
(だべ。一回しつこくしないで去ることで好感度アップも期待できる。完璧な作戦じゃねえか。……おいおいウィリー、お前犬になってから冴えてんな。ま、まさか!!頭良い動物だからってリアルIQも上がってんのか?!)
いやいや、残念。聞こえてるんだよなぁ。
コノカは目の前で行われるあまりにも堂々としたゲスい下心に対して引いた気持ちを隠すことなく、体全体で表現している。具体的にはさっきまでは僕の隣にいたが今は後ろに隠れている。後ろから中指だけを立てる気配すらある。
僕はコノカの手を引き、頭を寄せ合ってこそこそと大声で話す3人に静かに会釈をしてさっさと抜け出した。3人は話すことに夢中で見向きもしなかった。
ふぅ、愛せるバカだっただけまだマシか。三人が見えなくなるまでやや早足で歩く。
「コノカ、歩きのスピード上げても良いか?」
「は、はい。ありがとうございます!」
いえいえ。パーティですからね。角を曲がって曲がって数分後、先程までいた市場のような大通りから少し外れた小道に出た。
遠くの方から、「あれ!居なくなってる!」と聞こえてきたのでコノカと思わず吹き出す。まだ気付いてなかったのか。
クスクスと笑いあい、あーあ、と仰ぎ見た先には、なんと運の良いことか、《WHERE?WEAR.HERE!》と書かれた店の看板と、本日オープン!の文字。
そんな偶然が可笑しく、また2人で笑うと僕たちは入店した。