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43本戦④



次回、4/3更新

 

 惨状。


 あちこちから煙は上がりシンボルであろう世界樹も所々黒く煤こけている。独特な二重発声で叫びあげながら逃げ惑う住民達とは逆走して僕らがたどり着いたのはウタウタさんの家から3分ほど走った先にあるやや大きめの広さを持つ広場だった。広場内にちらほらと見られた住民は怪我は見られないものの不自然なほどにお腹を抱えてうずくまっている。彼らの顔は血の気がなく真っ青だったがしかし奇妙なことに、漏れなく全員が口角を引きつらせていた。



「何があったの!?」


 ウタウタさんが広場に着いた途端に叫ぶ。それもそのはず実は彼女自体、緊急襲撃警報が回ってきただけで現状を把握しているわけではなかった。寧ろ、本来の彼女の立場なら現状の把握などせずに逃げるのが当然なはずだった。


 ここにいる理由はただ一つ、僕らを案内するためだった。



 自分から自らを非力だと言っていたウタウタさんに何かがあっては事だと、緑の髪を振りながら広場に入って行く彼女を僕もまた、急いで追って行く。


 しかし、今から思えばこの選択こそが間違いだったのだ。


 僕が急いで追って行くことも、ウタウタさんを急いだことも、何もかもがバッドルートに向かう選択だった。僕はここまでのコメディチックな雰囲気によってどこかしらが緩んでいたのかもしれない、否、緩んでいたのだ。


 とても大切などこかしら、が。


 そう、とどのつまり失念していたのだ。

 僕はプレイヤーであれこそすれ、最強でと最凶でも最狂でもない。ただの始めたてで30レベルの第二陣勢(ニュービー)でしかないことを。


 そして、このイベントは単純明解で、理不尽極まりない【弱肉強食】がまかり通ってしまうものだということを。


 故に、僕は。




「あぁーっと……初めまして顔見えなき諸君と、耳長な原住民さん。そして可愛らしいお嬢さん。どうもよろしく、貴方の敵です」




 広場から20メートル先にある木の上からなんてことのない冒険者然とした服装をした、さして特徴もない茶髪のプレイヤーがなんてことのないように挨拶をする。


 一言目に、こんにちは、初めまして、と。

 二言目に、よろしくね、と。


 そして、最後に、



「さようなら」



 すぐ後ろ、僕の耳元から(、、、、)聞こえたさようならは、あまりにも自然な言葉を吐いた彼の振るうなんてことのないナイフと共に僕の耳へと届いた。


 そうか、僕は斬られ───












 ー・ー・ー

『あれあれまあまあのーそのそ。なんて懐かしいフレーズかしらね?』


『しかれども、随分とあれあれまあまあな状況じゃないの』


『残念だけれど私は助けない。私の出番はまだ先だから』


『───だから、早く会いにきなさい。私の可愛い可愛い人形さん』


『いえ、もう違うのだっけ?()私の人形さんっ』

 ー・ー・ー






「随分な挨拶ね」

「……おっと、第一陣も混じっていたか。して、改めて聞くがその怪しげな服装から考えるに君達はシメイヨツノ民だな?」

「返して貴方の粗暴から見るにウィンヤーニ民ね」

「正解だ」



 いつの間にか20メートルの距離を移動した奴のいつの間にか振るわれていたナイフが音を立てる前にいつの間にか僕の後ろに立っていた時子さんがいつの間にかナイフの刃を握ることで止めていた。

 時子さんが振り向くことなく僕らに忠告する。


「逃げろ、なんて無茶なことは言わないわ。ただ、ギアくんが村民の盾になりなさい。死んでも生き返るのだから」

「随分と噂通りの性格らしいな、シメイヨツノ民は」

「ブーメラン、って知ってるかしら?」


 どちらも好戦的な目で睨み合っていた。

 悔しいが僕にできることはそれほどなさそうだ。とりあえずあかちゃんとウタウタさんを自分の背中に押し込みウィンヤーニ民だという彼から離れる。20メートルを刹那に移動していたからさして距離を取ることに意味はなさそうだが、戦闘の余波を防ぐ、という意味では気休め程度にはあるだろう。


「奏、手分けして倒れている住民をあいつから離すぞ」

「よしきた!」

「……随分と余裕そうだね」

「お兄ちゃんがいるからね!愛のなせる技だよ!」


 通常運転の奏に不覚にもほっこりとしつつ、自分の慢心の結果が現状であることに意識を向け適度な緊張感を課す。

 大丈夫、いつも通りやれば問題ない。


「【断罪の歯車(ギア・ギア)】」


 ローブ内に穴を作り円環状の刃車を取り出す。半分に離して片方をウタウタさん、もう片方を側にいた男の村民に渡す。僕はあかちゃんに決してひとりでに行動することがないよう念押しして広場を見渡した。


 円形に踏み固められてできた広場。時子さんと奴がいるのが世界樹だという大木の麓、僕らがいるのはその正反対、さっき入って来た入り口の側だ。

 倒れている村民は幸いにも入り口のそばに多い。足早に幼子を優先的に抱え込み入り口に固める。走れるようならば逃し、動かないようなら屋根の下などあいつの目から見えない場所に移動させる。


 そうして、粗方の村民を奏と一緒に移動させ終わって気づく。


 時子さんがいる向こうの状況はよく見えないが二人とも止まって動こうとしないのだ。



「……何やってんだ?」

「トッキーの魔法じゃないの?」

「にしたって動かなすぎじゃないか?」


 奏は静かに首を振る。


「───ほら、動き出す」


 一瞬の出来事だった。

 激しい金属音が鳴り響いたと思ったら時子さんが僕らの直ぐ傍に、奴が世界樹の上に移動していた。


「……てめぇ、時計屋(クロッカー)か!!」


 何故か激昂する茶髪の男。

 時子さんはローブのフードを深く被り直す。答える気がないようだ。


「まぁいいや。お前が時計屋だろうがなんだろうが知ったこっちゃねえ。なんて言ったって俺は戯心(あそびごころ)が分かる男だからな」

「来るわ」




「おう、来たぜ?」




 時子さんが呟き、茶髪は僕の後ろに現れる。

 奴はナイフを振るう。


 一戦交える、というよりは一閃交える。目の端で鈍色の輝きが煌めいたと思ったら、目の前で同様の光が瞬く。

 その光が時子さんと茶髪によるものだと分かっていても、僕には認識することができなかった。


「……これが、レベル差」

「こうも極端な高速戦闘は珍しいけどね」


 そんなに怯えないで。と奏はいつの間にか震えだした右手をぎゅっと抱え込んだ。


「多分どっちもスキルを併用してるんだと思う。特殊エフェクトが見られないから奥義を使ってるってことはないと思うけどね」

「……よく分かるな」

「私にはお兄ちゃんがいるからね。冷静に観察できるもん」


 僕は冷静じゃなかったのか。いつも通りであろうと思っていてもそれを体現するのはなかなか難しいということか。


「もぅ!そんなに目に力入れないの。お兄ちゃんがそんなに不安になると私たちまで不安になっちゃうよぉ」

「けど、時子さんが……」

「それはしょうがないの。今はどうやって乗り切るかを考えるべきでしょ」

「……そう、だな」


 できないことをできないと言うのはこのゲームだと許されない甘えらしい。厳しくて、厳しくて、それでいて哲学的な教育が捗りそうな話だった。


「くそっ!茶番劇団員供が!!」

「それを言ったら貴方はチンパンジーね」


 互いに悪態をつく声と聞こえる金属音と光は激しさを増していく。

 下手に動くと時子さんの邪魔をしそうで立ち竦む僕はなんとも歯がゆい気分を味わっていた。運営の課したレベルキャップがあってもこの差なのだ。実際の強さの差を論じることは無意味だと言うのは百も承知だが、己の無力さを嘆かずにはいられない。

 ともすれば、僕の腕の震えは羞恥からくるものだったのかもしれない。



 さくり。




 そんな震えと共に幾許の時間が経っただろうか。唐突に止んだ戦闘音の先には、決着の光景が見えた。




 即ち、茶髪の男が、時子さんを、刺した、光景だっ、た。




「時子さん!!!」

「【時子】っつうと、やっぱりこいつは時計屋で間違いなさそうだな」

「離せこのモブ顔が!!」

「俺の顔は童顔だ」


 ニタニタと嫌な笑みを浮かべた男は時子さんのお腹に突き立てられたナイフを躊躇いなく抜く。

 プシュッ。嫌な音を立てて赤色の体液を出しながら時子さんは崩れ出した。



「こいつが地面に着く間にいいことを教えてやる」



 茶髪男はナイフを逆手に持ち替えしゃがんだ。



「俺の」



 目の前。



絶対殺害領域(キリリングエリア)は」



 世界樹。



「50メートルだ」


 真後ろ。




 流れるように紡がれた言葉は、ドップラー効果によって歪んで聞こえていた。



「【影踏】」



 ピシリ、と奴の声と同時に僕の身体が硬直した次の瞬間にはナイフが眼前に見えた。ナイフの向こうに見える時子さんは、動かない。



「遊び死ね」










 僕は、動けない。





読了ありがとうございました。


やだっ…私の主人公弱すぎ……?



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