36イベント2日目6
お待たせしました。3日目最終日です。
そして申し訳ないのですが、今週は友人の別荘の大掃除に付き合わなくてはならないので更新が難しいです。
代わりに、土曜日のあいだ中に活動報告の方にこの話の没話を投稿しますので、暇な方は来てください。ただし、没話なので内容と文章はひどいです。
夜の祭りというのはなかなかに乙なものである。美少女二人侍らせて、周りの羨望と憎悪の視線を一身に浴びながら歩く僕の心は優越感と幸福感でいっぱいだ。割合にしてコノカとシルルと一緒に居られる幸福感が8割だ。
夜、そして祭り。二つのワクワクに美少女が加わればそれはもう、つまらないわけがない。綿あめを口いっぱいに付けたシルルを甲斐甲斐しく拭いてあげるコノカはイラストとして子々孫々と受け継いでいきたいレベルのほのぼのさだし、コノカが周りの視線を気にする様子なく満面の笑みをこちらに浮かべてくれる時などたまらなく悶えたくなる。
要するに、僕は今、最高に幸せだった。
そして、その幸せ絶頂の中、食べて食べて話して歩いてとイベントを心から楽しんでいるうちに僕らはいつの間にか食い倒れ通り(つまり食べ物を売っている屋台が立ち並ぶ通り)を抜けて、アミューズメントなエリアに着いていた。
そこでは、金魚掬いならぬアイテム掬い、水風船釣りならぬアイテム釣りなどの意匠を凝らした屋台が立ち並んでいた。プレイヤー人口もやや低年齢で小さな子供が走り回っているのも見受けられる。
横でもさもさとお好み焼きを頬張っていたコノカが呟いた。
「どうやら、食べ物の屋台は通り過ぎたよつですね。戻りましょう」
「いつから食いしん坊キャラになったんだよ。そんなにお腹空いてるのか」
散々食べただろうに。僕のお金で。
「まだまだギアリーのお金を削りきってません!」
「おい、ちょっと待ちたまえ小娘」
すこし懐が寂しくなってきたなー、気を使えるはずのコノカさんは中々気づいてくれないなー。とか思ってたのに故意ですか、確信犯ですか。
「冗談です」
「おう。けど、よく食べるよなぁ、二人とも」
「アイス食べたい」
「……シルルは自分の金使ってるから好きにしてくれ」
というか、まだ食べるのか。
「……む。なんですか、その言い方。まるで私が穀潰しの悪女みたいじゃないですか」
「なんだ、違かったっけ?」
冗談めかしてそう返す。
するとコノカはむむむ、と唸ると大きな声で宣言した。
「いいでしょう!見てて下さい!祭り嵐の女とおじさん達に恐れ戦かれ続けた私の実力を見せてあげます!」
なんのこっちや、と思ったが要するにアイテム掬いなどでたくさんの戦利品を得て僕にあっと合わせてやる、ということだった。
それじゃあせっかくだから、とみんなでそれ系の屋台を見回ることにする。シルルはいつの間にかちゃっかりアイスを片手にしていた。
アイテム掬い。屋台の奥で座る麦わら帽を被った肩まで腕まくりしたおじさんに和紙のような薄い紙の貼られた掬いを借りてプールに浮かぶアイテム群の前に立つ。アイテムは水に浮かぶ指輪やスーパーボールのような球の二種類だった。
「その球には当たり外れが書いてあるんだ。当たれば店内にある取って置きをプレゼントってね」
なるほど取れるかわからないガチャみたいなものか。全てハズレでも指摘できないいやらしいシステムだ。口には出さないけどね。
「コノカはどれを狙うんだ?」
「スーパーボールに決まってるでしょ。ギアリーは何にするか決めたの?」
「僕はシルルとまったり指輪を掬うとにするよ」
敬語を忘れるくらいに集中するコノカのことだ。挑戦中は話しかけても無駄だろう。
混雑を避けるために用意されただろう三つのプールの一つをシルルと選び二人で屈みプールを覗き込んだ。
「どれが狙い目だろうな」
「……あれは?」
「どれどれ?……ありゃダメだ」
シルルが指した先には一つの指輪が浮かんでいたが却下する。悪趣味すぎたのだ。鉄線の輪っかに髑髏の指輪なんて今時気合の入った中学生もつけねえよ。いくら取りやすくても欲しくもないものに費やすのは、ねえ。
「……似合うと思ったのに」
「よし取ろう!」
「いいの?」
勿論だとも。彼女が欲しいものならそれはつまり、シルルに似合うということであることは言うまでもない。良いじゃないか、メタルヘヴィ系儚可愛美少女。一人称の俺も生きてくると言うものだ。嗚呼!僕も欲しいなあ!
茶番はさておき、幸いにも、というか仕様なのかどの指輪もどこかしら掬いに引っかかりやすいようにできている。錆びやすい貴金属を水に浮かべるところから見てこの屋台は在庫処分の色合いが強いのだろう。ゼロ円が百円になるなら儲けもんということだ。
コノカみたいに祭り荒らしの鎌ちゃんとは呼ばれたことはないが、それでも人並みにこの遊びが得意だった僕はいいとこを見せようと水面に顔を近づけた。
そお、と水の流れに触らないように和紙を水面と平行に着水させ、髑髏の指輪に近づける。鉄線部分で和紙を引っかけないように掬いのヘリを使って引っかかる。これが指輪でなく金魚であればヘリを跳ね上がるようにして掬い上げるところだが、そうは行かないのでアドリブを効かせてフラフラと不安定な状態ながらなんとか空中まで浮かべる。結構ふらつくな。
「……おっ、おっぉぁ」
フラフラする指輪の調子に合わせてシルルも目をふらふらと動かし声を上げる。その様子に可笑しくなった僕はわざとシルルの前に指輪を持ってきてフラフラと動かしてみることにした。
「お〜、お〜」
フラフラふらふら、フラフラふらふら。
面白いように釣れる。もうすでに取れていることにも気付かないようだ。面白かったのでもう少しやりたかったが、オカンなAOが後で怒りそうだったので、ぺちんと軽く額を叩き目を覚まさせてシルルの手のひらに髑髏の指輪を落としてやる。
「あうっ。……?」
なんで手に乗っけたのか分からないようだ。
「欲しいんじゃなかったのか?」
「……なん、で?」
「だって似合うって言ってたし」
「……おー、あれはギーギーが、似合いそう、と、思ったから、言った」
「僕に?……に、似合うかぁ?」
シルルの手のひらに乗る髑髏の目を見る。虚ろな瞳の奥が何かを伝えるように怪しく煌めいた。なになに?
───付けちまえよ、ユー。ユー、やっちゃいなよ、ユー。へいへいへい。ユー、オゥイェ、ユー。
ふむ。
ふむふむ。
ふむふむふむ。
なるほど、そういうことか。
……。
「……コノカにあげたらどうだ?」
丸投げした。心なしかシュンとした髑髏から目を離すついでにコノカの挑戦中のプールを見たら物凄い水しぶきが上がっていた。何やってんだよ。
同じようにコノカの様子をぼぉっと見たシルルは何をどう思ったのか「いけてる」と呟くとコクリとうなづいた。
いけてない。水しぶきがいけているのか、それとも髑髏をつけたコノカがいけているのかは判別つかないけど、どちらにせよいけていないことは間違いないだろう。
そんなことを言いながら掬っていると、3回目のトライでついに紙が破けてしまった。掬いを屋台のおじさんに返し、未だ熱中するコノカを待ちながらシルルと屋台の隅で話す。
「シルルはこのイベントでやりたいこととかってあるのか?」
「……?明日の、本戦?」
「それはやるべきことだろう。……ああ、いや、確かに出たくてでるわけだからやりたいことといえばそうだけど、そうじゃない。他には?」
「……二人と、遊ぶ。……だめ?」
そう言って小首を傾げるシルル。
「んー、言い方が悪かったな。僕達と遊ぶとしたら何して遊びたい?まだ屋台以外に何があるのか分からないけど明日はまた別の街に転移するわけだからさ、なんか提案とかあったら聞いて見たいと思ったわけよ」
「……んー、分かんない。……ごめん」
どうやら、主体性が薄いシルルにとってこれらの質問はまだ早かったようだ。無意識だろうけど、僕の質問は儚げな微笑みでことごとくかわされてしまった。
「そういえば、シルルの口調だいぶ滑らかになってきたな。初めてあった時は現実でもこの口調だったら色々大変だろうなぁ、なんて勝手ながら思ったもんだけど、本来の口調が滑らかなようで安心したよ」
「……滑らか?」
「ん?違うのか?」
「……多分、ギーギーのこと、知ったからだと思う」
「打ち解けてきたってことか?嬉しいこと言ってくれるな」
「逆」
「逆!?」
「俺、本音はうまく出てこない、けど、おべっかは上手い……らしい、から」
あー、成る程ね。先生や上司と話す時はさらっと話せるけど、友達とはうまく話せない人っているよな。納得納得。そりゃあいけるわ。
「……え?!嘘でしょ?」
「けど、滑らかになってきたなら……そう」
ギーギー、テラショック。打ち解けた?ガチガチに凍っちゃってるじゃん。
「……僕、もしかしてウザかった?」
「ギーギーはかっこいいよ?」
「おべっか!!」
天に向かって叫んでしまった。シルルはボソッと一言、「いけてる」。
いや、いけてないから。
この後めちゃくちゃ距離を縮めようとした。逆効果になっている気しかしてないが、反省はせず後悔しようと思う。
ー・ー・ー
「……お二人は何をやっているのです?」
コノカは両手一杯に戦利品を抱きながら呆れたように笑っていた。と、いうのも有意義であったアイテム掬いから帰ってきた先に見た光景がおろおろと慌てふためくギアリアとシルルというなんともいつも通りで、けれども可笑しいものだったからだ。
「いや、だって……シルルが」
「えと、あの……そういうつもり、じゃ……」
互いに謝ってわたわたしてまた謝って。コノカからしてみれば掬って得たアイテムを持ち、得意げに戻ってきてみれば何だ何だ?というわけである。
「取り敢えず落ち着いてください。シルるんにもギアリーにもいい戦利品があるんです」
「あぁ、それだったら僕も……ある、よ?」
「なんで疑問形なんですか?」
いや、だって、ねえ?プレゼントって言ったって髑髏の指輪だし。正直引かれること前提のプレゼントだ。上げなければいいのに、だって?面白そうじゃん。
「まあ、今の話はおいおいと、な?」
「う、うん。なんか……ごめん」
「いや、僕の方こそ……ごめん」
「何があったんですか、全く」
その後も、シルルが見事な射撃を見せたり、僕が輪っか投げを制覇したら色々やったのだが、軽く語るにも1時間は必要なので割愛。
夜の街を散々堪能して、夜ご飯も済ませた僕らは借りた宿屋に戻ってきた。
今は女子二人はお風呂に入り僕は一人インベントリ、つまりアイテムを整理している。お風呂と聞いてワクワクした紳士諸君には申し訳ないが、浴槽までの扉はガラスでなく木で出来ているし、システム上開くことも音を聞くことを叶わないので残念かな、何も起こることはなかった。ちくせう。
改めて、先ほど輪っか投げで得たアイテムを見てみると駄菓子が多く、どこでどうやって作っているんだよと突っ込みたくなるようなものばかり。現実では今日日見ないような懐かし系のものが多いことから一から手作りしたんだろうなぁと思うと、いい大人が沢山取ってしまったことを少し後悔。
ガチャリ、風呂の扉が開く。どうやら二人が上がったようだ───!!??
「ギアリー、お風呂いいですよ」
「その格好……」
「格好?……ただのパジャマですよ?」
ただのパジャマだと!?
それは確かにパジャマだった。しかし、それは同時にウブな男子を殺しにかかっていた。
コノカのパジャマはパジャマでも、だぼだぼの猫の着ぐるみだったのだ。
祭りを楽しんでご機嫌なのか、にゃーん、とポーズをとるコノカに思わず体が硬直する。硬直の原因はいたって単純。
かわ、かわわ、かわわわわわわ。
可愛いい。
とどのつまり、思考放棄だった。
「……ギーギー、驚いた?」
驚いた驚いた。馬を敬うと書いて驚いた。それを伝えようにも口は言うことを聞いてくれない。
にゅっと扉から顔を出すシルルも目を瞑る猫のフードを被っている。なるほど、お揃いのパジャマなのだろう。かわ、かわわわ。
「バッチリです。驚きのあまり体が固まってます」
「……にゃー」
ぱふ。着ぐるみの装脱可能なシルルの肉球が僕の胸元に当たる。ぽふぽふ。動かない僕を不思議に思ったのかそれこそ好奇心旺盛な猫のように様々なところを叩いてくる。胸元に始まり腹、背中、顔面まで。そうなると自然と顔と顔が近くなるわけで。
「……動かないね」
余計固まる僕である。
「いえ、さっきの雑貨屋さんに売っていたんですよ。面積を取るためかネームプレートだけの店頭表示だったのですがタップしたらこのとおり、可愛かったので買っちゃいました。おそろです」
「おそろー」
「ギアリーにはないです」
「……」
別にそれはどうでもいい。猫なんぞ似合わないだろうしな。
未だ固まる僕をよそにコノカはお湯に濡れてしっとりとした狐耳があるからフードをつけると居心地が悪いという、割とどうでもいい話をし始める。
シルルはベットに座ったコノカにじゃれつく。
僕は固まり続ける。
しばらく続いたその光景が崩れるのはシルルが僕の手に持っていたお菓子に興味を示す、実に十分以上も経った後であった。
ー・ー・ー
そうして、イベントの2日目は更けていく。
そして、日付は変わり、3日目の朝が来る。
僕はまだ、知らない。
3日目、という日の内容を。
その意味を。
可能性の領域を。
過去を、彼女を。
───私を。




