34イベント2日目4
正反対じゃなくて対照的というフレーズがポージングとあいまってこちらを泣かせにきたので投稿です。
おかしいな。僕は27ちゃん担当なのに。
広場はやはり、何倍もの人がいた。そして見たことのない種族も多くいた。ふとすれ違ったスライムマンには思わずなんじゃそりゃ、と思ってしまった。
「凄いですね。まさかここまでとは……」
「あぁ、休日とはいえイベント中はずっとインしてなきゃいけないからもっと参加者は少ないと思っていたけど、もしかしたらプレイヤーの8割は参加してるんじゃないのか?」
密集の規模で言ったらコミケを半分くらい削った感じか。少なく感じるか多く感じるかは人それぞれだと思うが、少なくともイベント以外では見られないくらいの人の多さだった。
「……手、離さない」
「私もお願いします。ここまで多いと本当にはぐれそうです」
ぎゅ。と両手が幸せで埋まる。
その瞬間周りにいる野郎からの殺気が高まった気がしたが、ザマアミロっていう話だ。
そうして、3人仲良く手を繋いで歩いていると見知った人たちが前の方に見えた。
「あ。あれって詠拍さんじゃないですか?」
「どれだ……って本当だ」
向こうも気づいたのか手を振ってくる。
邪魔しないで放っておいて欲しいのだが、なんてな。というかこの人混みの中よくもまあこんなに知り合いに会えたものだな。いや、帽子は別に知り合いじゃないけどさ。
「ういーっす。楽しんでるー?って聞くまでもないか。そんな美少女二人も侍らせちゃってよ。コノカさんとシルルさんがこんなに可愛いなんて知らなかったぞ、おい」
「そういえば、詠拍は俺らのフードの下見たことなかったっけ?よく分かったな」
「そうだぜ!服装でなんとか分かったけどよ。ギアリアもそんなイケメンだったとはな。うん、リア充爆発しろ」
「はっはー。哀れ詠拍、ひがんでいるうちはいつまでも報われないことを知れ」
「ぐ、ぐぅ。ぐうの音もでねえぜ」
出てるけどな。
「そういえば、詠拍は一人なのか?」
「いいや、奏さん達が屋台で買い物するからそれを待ってる所だ。……そういえば、ここの屋台が現実の食べ物ばっかの理由って知ってるか?」
「いや、さっき教えてもらい損なったんだ」
「噂話だが、自由国家連合のやつらの技術アピールらしいぞ」
つまり、私達の国では食文化がこんなに豊かですよー。移住しませんかー、という事らしい。イベントを利用したこういう試みはよくあることだがしかし……。
「けど、なんでそんなことする必要あるんだ?自由国家連合って過疎ってるのか?」
「さあな。そこまでは分からん。さっきそばを通った通行人がそんな話をしててそういえばゲーム独特の食べ物がねえなって思ったから話してみただけだ」
「そうなのか。まあ、ここの屋台が自由国家連合主体というのは本当らしいからな。もしかしたらその噂も本当かもな」
「国自体が商会なのが売りとはいえ、がめつい話だよなー。全く、シメイヨツノもなんかすればいいのにな」
「……あの国に売りがあるのかな?」
「……景色?」
「あとは、人柄とかですかね?」
「掲示板でのシメイヨツノの印象は雰囲気ゲーに似たなにかを感じるってモノらしいけどな。まあ、ギアリアも精々気をつけな」
「何をだ?」
「モテない男子からの怨恨だよ。そんな可愛い子を二人も連れてたらイベントではサンドバッグ決定だろ」
「そこは大丈夫。バレないようにするからな」
「あっ!お兄ちゃんだ」
とぉー!
飛びかかってきた奏でを抱きとめる。本当は避けようとも思ったのだが周りの人に当たることを考えると受け入れるしかなかったのだ。
「こんにちは、お兄ちゃん!」
「……こんにちは、奏」
よく大してあったこともない男に抱かれたままなんかに挨拶できるよな。向こうにハラスメントコードとか出てないのだろうか。
「何やってたのー?」
「会話をする前にまずは降りてくれ。周りの視線が痛いし怖いし殺気立ってるしで大変だ」
野郎からの殺気が特に酷い。ゲームだとパーティ組めるけどクリスマスはソロプレイです、みたいな奴らからの目線が釣り上がるのが露骨に感じられて怖いのだ。普通に舌打ちしてるのもいるしな。
「奏さんはもう買い物終わったんすか?」
「おっ、ハバカリもいたんだ。おわったよ。ハバカリの分も買った方から安心してね」
「え゛?俺なんも頼んでないっすけど……」
「ふふふ、楽しみにしててねー」
「だから、会話する前に抱きついてる腕を離して僕から降りてくれ!」
「しょうがないなー、お兄ちゃんは我儘なんだから」
奏はずるりと降りた。
「……全く、奏では黙ってれば可愛いのにな」
「喋ったらなお可愛いの?」
「面倒だ」
「ガーン!」
奏は分かりやすい凹んだ様子を見せた。いや、本当に黙っていれば可愛いのだ。パッチリとした目とさらりと流れる長髪が周りの目を引き付けないわけがない。事実、3人の美少女が集うこの場は凄い注目を現在進行形で集めている。(僕への殺気も比例して上がっている)
「でも、そっかぁ。お兄ちゃんフード外しちゃったんだ」
「まあな。いつまでもあんな格好で歩いていると不審者に思われかねないしな」
「あんな格好をさせててすみませんでした」
「あ、いや、コノカは別に悪くないぞ。僕の意思で付き合ってただけだしな」
「けど、お兄ちゃんってかっこいいじゃん?」
「突然どうした」
「いや、これからいっぱいナンパされちゃうんじゃないのかなあって思ってねー」
「……困る」
いや、ないと思うぞ。僕の性格は自分で言うのもなんだが、率直に言うとクソだしな。いくらゲームアバターがイケメンと言えども中身がこれだと近づく人も去っていくというものだ。
「さて、そろそろ行くっすよ」
「えー!まだ一緒にいるぅ!……いいでしょ?お兄ちゃん」
「いーや、ダメっす。俺らは罰ゲームできたんすよ?待ってるあいつらに怒られちゃうっす」
なんだ、罰ゲームで買い出しをしてたのか。それは災難だったな。特に、奏と二人で出かけることになったあたり。
「……むぅ。じゃあ、我慢するけど……」
沈み込んだ表情でこちらをみていた奏はコノカをしルルを見て何かを思い出したのかあっと声を出すと手を引っ張るハバカリを止めた。
「……なんすか?」
「ちょっと待って。言い忘れてた。……えっと、コノカちゃんにシルルちゃん、だっけ?」
「はい?」
「……」
どうやらシルル達に用事があったようだ。そういえばこの3人は言葉を交わしたことなかったな。
「あのさ。お兄ちゃんと仲良くしてくれるのは嬉しいけど、それが当然と思わないでね」
「……えっと、どういうことでしょうか?」
「分からない?分からないよね。私は分かるけど」
奏はちらりと僕を見る。泣きそうな顔で僕を見る。どうしたのだろうか?
「私はね、本当はコノカちゃんとシルルちゃんの位置にいるはずだったんだよ。……本当は」
まあ、分からないよね。
そういうと彼女はハバカリを置いて去っていった。ハバカリはそれを追おうとこちらに会釈してかけ去って行く。
分からないよね。
その言葉が自分に言い聞かせるように聞こえたのは何故なのか。
何故なのか。彼女が泣きそうな顔をしていたのは。
「ギアリー。私達、嫌われてしまったのでしょうか?」
「……どうだろうな。けど、僕は当たり前のようにコノカとシルルがいて欲しいと思ってるぞ」
「……俺も、いて欲しい」
彼女の去った道路に出来た小さなしみ。そして、僕の心に不明に浮かぶ小さなもやもや。
その理由をいつか知ることができるのだろうかと僕はふと考えるのだった。
ー・ー・ー
「もう流石に知り合いと会うことはないな」
「そもそも知り合いなんてそんなにいませんしね」
「寂しいこと言うなよ……。ほら、飴あげるから」
「いりませんよ」
奏達と分かれてぶらぶらと歩いている時のこと。ただの人混みならまだしも、人も亞人も人外もごちゃまぜなので目がチカチカとしてきた僕はどこか店の中に入ることを提案した。心の内には二人へのプレゼントを探すことも狙いとしてあったが。
「……あ」
「どうしたシルル。いい店あったか?」
「ん。俺、あそこ行きたい」
シルルの示す先にある店の看板には《はてはて雑貨店》と書いてある。
「……今、アイテムない。明日、本戦だし」
「あ、そういえばそうでしたね」
そういえば、アイテムは金とアナザーワン以外使えないんだっけ?そうか。アイテムはここで買えってことだったのか。
「よく気づいたな、シルル」
「ん。……えへへ」
金はまだまだある。
備えあれば憂いなし。僕達は《はてはて雑貨店》に入ることにした。




