33イベント2日目3
イベント2日目書ききったら32話と統合しようかなと思ってます。……変でしょうか?
「あ、あたなは?!」
「そう、私だよ」
振り向けばそこには誰もいなかった。視界に映るのは石畳の道と屋台と、通行人。当たり前だが、誰も僕らに話しかけるような雰囲気はない。
「ほっほ、ここじゃここ」
声のする方へ、つまり僕の少し上辺りを見上げる。
「ようやく見てくれたな、ほっほっ」
振り向けば確かにそこには誰もいなかった。
そう、人型のものは誰もいなかった。
見上げた先には、シルクハット。黒いシルクハットがフヨフヨと浮かんでいた。
「私の名前はシルクハット・プレイヤー。祈願の紳士帽と気軽に呼んでくれよな」
気軽に呼びたくない名前を自己申告した、シルクハットは、ほっほっと笑うと僕の帽子の周りをくるくると飛び回り、固まる僕らに構う様子なく物を言う。
「うん、いい帽子だな。ナイスハット!」
「な、ナイスハット……」
突然の出来事に奇妙な挨拶を返せた僕を、誰か褒めて下さい。
聞けば、彼(?)は自由国家連合の国民(?)だという。愛すべき国とまで言っていたので嘘はついていないだろう。まあ、シルクハット・プレイヤーさんは格好も何もない格好なので自己申告を信じるしかないのだが。
そして、言葉を発すればそれがそのまま疑問に変わるような見た目をした彼であったが、話してみれば実に紳士的な奴(?)であった。
「分かってもらえたかな?ミスター」
「……何にも分かりませんでした、サー」
「むむ、実に簡単なことだよ。私がシルクハットの形をもらったプレイヤーで職業が商人だというだけの話だ」
確かに、実に簡単だ。しかしそれはまた実に難解だった。
短文な問題こそ解きにくい。これは学生諸君や社会人諸君が常に思う事柄ではあるが、ゲームに入ってまでこんな難問にぶち当たるとは思っても見なかった。
帽子で、商人。
奇を衒う二次審査落選のラノベみたいなタイトルだな。
「まぁ、自由国家連合の自由とは姿形も自由の自由だと言うことは理解した」
「おう、我が祖国への熱い風評被害は止めたまえ」
「で、シルクハット・プレイヤー何某はなんの用事で僕達に話しかけたのですか?」
「うむ、私の本名全て言っているぞ。全て言っているぞ、私の本名。そして、私が話しかけたのは君達が鋭い疑問を浮かべていたからだ、ほっほ」
疑問っていうと、さっきのアレだよな?
「あの〜、立ち聞きはなんですし、取り敢えずあそこの樽にでも座りませんか?」
「俺、疲れた……」
「ほっほ!オレっ娘とな!」
実に紳士なそいつは、やはり紳士でもあったようだ。取り敢えずシルクハット氏に女子2人に被さるのを厳格に禁止して、僕は少し離れた道路の隅、空の樽が数個放置されている場所へと移動することにした。あと、その前に、とお嬢さん方が屋台で購入した食べ物の量は半端なかったことも追加しておく。
ー・ー・ー
「呼び止めたのには目的があったのだよ」
「二人の紹介はしませんよ?」
「帰ってもいいだろうか?」
なんだこの紳士(爆)。欲望に忠実すぎるだろう。
現在時刻はもうすぐお昼。コノカへのプレゼントもまだ決めていないのに結局屋台を回っているだけで午前中が終わりそうだな。あぐあぐと天使のような笑顔でたい焼きを頬張る二人を見る通行人も増えてきたし、すっかりお祭り騒ぎも戻った。2日目というのに凄い盛況だ。
「君の名はなんというのかな?」
「呼声太郎」
「いい名前だ。ドブのようないい香りすらしてくるよ。で、本当は?」
「ギアリア」
「ふむ、歯車か。なんとも率直な名前だな。ほっほっ」
「いや、お前に言われたくねえよ!」
「そちらのお嬢さん方のお名前は何かな?」
「ギアリー、ゲームマスターにコールしていいですか?」
「ほっほっほ。名前を聞くだけでセクハラ扱いか。息苦しい世の中になったものだなぁ」
「どうでもいいけど、こいつらが食い終わったら問答無用でどっか行くから話したいことあったら早く言ってね。あと、紳士スレ関連のことだったら沈めるからな」
あと、道端であった女子に突然名前を聞くのはセクハラでは無いけど、ナンパではあるからGMコールされても文句は言えないんだよなぁ。しつこく迫ったら、の話だけど。
「分かった分かった。私が何故話しかけたかの話だな」
「おう」
「ニュービーっぽかったから少し教えてやろうと思っただけだよ。このイベントのことをな。ミスターギアリア。君ってこのイベントをただのイベントだと思っているだろう?」
ほっほ。と彼は楽しげに笑った。
「違うのか?」
「違くない。ただのイベントだ。ただ、そこに潜む意味は途轍もなく大きい。このゲームのこれからを大きく動かすくらいには、な」
……これからを、動かす?初心者応援イベントであるこのイベントが?
コノカとシルルも少し気になってきたのかこちらをちらちらと伺っている。僕も、ぜひ知っておきたいと思い、シルクハットの言葉を小さく反芻した。
「……動かす、と言いますと?」
「それはな……」
シルクハットは小さく震えるように動かす。
震えるほど恐ろしいことなのか?……まさか、イベントに突発介入で魔王が降臨とかするのか?!
「それは……と、教えようと思ったがやっぱり止めた」
「はあ?」
「だって、ミスターギアリアったら、私にそちらの美少女を紹介してくれないんだもん!ズルっ子だゾ!」
「ギアリー……」
コノカが心配そうにこちらを見てくる。僕は分かっているよと伝わるように静かに頷くとおもむろにシルクハットを鷲掴みした。
「あっ!コラ!!ミスター!何をするのかな?」
「いや、うん。まあまあ」
「まあまあ?!えっ?嘘だろ?何されちゃうんだよぉ!」
何しちゃうって、投げちゃうんだよ。
「屋台に帰りなさい。空飛ぶ帽子屋さん」
「お主!あのサイトを見ていたな!」
「グッバイマジックハット。自由に生きてくれ。ナイスハット」
「ナイスハットォォォォ!!!」
軽く投げたはずなのにシルクハットは綺麗に等速直線運動をして屋台の中へと飛び込んで行った。抵抗する様子もなかったところを見るに、恐らくあそこが彼の屋台なのだろう。よく見れば屋台に帽子のマークがあしらわれているし。
「ったく、結局ナンパじゃねえか」
「……あの?」
「どうした、コノカ。お望み通り投げたぞ」
「いえ、教えてもいいよという視線だったのですが。……いえ、結果的には嬉しかったですけど。紳士ってことは、そういうことですよね?」
「そういうことだ」
紳士ということだ。
「しかし、時間の無駄だったな。午前中が終わっちゃったよ」
「お昼も食べ終わりましたし、いろいろ見て回りましょうか?男性の方はショッピングが苦手と聞きますが、ギアリーはついてこれますか?」
「あたぼうよ。美少女がいれば、例え火の中水の中って奴だ。GMコールされようともついて行くぜ!」
「……ギアリーも黙っていればイケメンなんですけどねえ。この視線の全てが私達だけに向いていると本当に思っているのでしょうか?」
「……多分、思ってる」
「ですね」
ん?なんかコソコソ喋ってるな。
二人とも買ったものは食べ終わってるし……まさかまだ食べるものの相談をしてるのか。
「いや、してませんよ」
「ギーギー、俺、昨日の広場のとこ行きたい」
「おし、中央広場だな。確かに店は集まってそうだし、ショッピングには適してるかもな。迷子にならないように捕まってろよ?」
「……うん」
「混んできたら私もお願いしますね」
両手に花か。やったぜ。
広場が混んでいることを切に願いながら僕たちは中央広場へ向かう事にした。




