32 イベント2日目2
結局シルルが起きたのはあれから15分ほど経った後だった。
「あ、おはよ。……えへへ」
テレテレと笑っているのはなぜかと聞いてみると、どうやら友達に朝イチで会う経験がなくなんとなく気恥ずかしかったから、らしい。
なんだよその理由、可愛いを通り越して愛しさすら感じるんだけど。
え、きもい?……えへへ。
そして、時間は少し加速して時計の長い針が半分ほど回転した後、僕らは屋台の立ち並ぶイベント会場へと繰り出した。
外に出た僕達の服装は久し振りに初期装備だけ。コノカもシルルも顔を曝け出してにこにこと笑っている。
コートや羽織物は忍び用なので今回はインベントリでお休みしてもらうことにした。ただし、僕は帽子は被らせてもらっているけどね。
「なんだかんだ言ってこの格好が一番楽ですね」
「コノカはもう完全に割り切ったな」
「はい、割り切りました。余りはなしです」
「……俺、余りじゃない?」
「突然どうした?」
「そんな訳ないじゃないですか!シルるんも合わせてきっちり2で割り切りましたからね!」
「おい、それは僕が余ってる……いやまて!さては貴様、はなから勘定に入れてないな?」
「あはは、いやだなー。そんなわけないじゃないですかー。計算し直したらちゃんと1余りましたよー」
いや、1余ったから嬉しいなんてことは決してないんだけどね。つまり余ってるってことだし。
「私とシルるんと、ウーロウにポン太。それにウンディーネちゃんを入れて2で割ればほら、1余るじゃないですか」
「……して、余った1は誰なんだ?」
「ギアリーです」
「ガッデム!!」
僕いなかったじゃん!勘定されてなかったじゃん!余ってすらなかったじゃん。
「まあ、そんなことよりもギアリーに聞きたいことがあったんですよ」
「僕としてはそんなことより仲間に入れて欲しいけどね」
「もう、さっきのは冗談ですよ。ちゃんとギアリーも仲間です。ゆーあー、ふれんど。あーんと、いっと?」
「……とも、だち。とも、だち!」
……みんな!
とはならない。だがしかし、噛みしめるように『友だち』というシルルに免じてここは許してしんぜよう。愛なぁ。
「して、聞きたかったことなんですが」
「はて、なんでしょう?」
「さっきの掲示板、紳士さん?のやつなんですけど。『消えた』ってありましたけど、ギアリー普通に歩いて去って行きましたよね?」
「あー、あれか」
僕が最高に輝いてたやつだな。
「ほら、僕って気遣いずっとしてたろ?」
「あの、ちょっと……もう一度お願いできますか?聞き取れなかったみたいで……」
「僕ってずっと気遣いしてたろ?」
「……はい、そうですね」
「おい。何を勘違いして、言いたいことは一杯あるけど気を遣って黙ってあげましょう、気遣いの話だけに。みたいな顔をしてるんだ。僕がしてるのは【気遣い】スキルの方の話だぞ」
「あ、納得しました」
納得いかない。というか釈然としない。シルルは『俺は分かっていたよ?』と言うが、それがなお一層モヤモヤとした気持ちを募らさる。
「で、それがどうしたのですか?」
「これを見て欲しい」
ウィンドウで自分のステータスを出して、その職業スキル欄をみせる。
ー・ー・ー
ー職業スキルー
《挨拶》《家事》《気遣い》《執事の心得(仮免)》
ー・ー・ー
「……なんですか、これ?」
「執事の、心得……?」
そう、執事の心得。残念ながらまだ仮免のようだがつい現実でいう3日前に新しく発現したスキルだ。
「スキル【執事の心得(仮免)】。スキル効果は『執事っぽいことをすると執事っぽくなれるよ』というなんとも言えないものだ。発現条件は気遣いスキルの使用時間が100時間を超えること。【気遣い】スキル自体、たまたまシルルとコノカがいたから周りの視線を逸らすためにずっと使ってたけど、まず普通に過ごしていれば使わないスキルだからこんな早くにこれが出たのは儲けもんだったな」
「随分とあやふやなスキルですね。だけどこれが一体どうしたというのですか?消えることとはなんの関係もないようですが」
「いや、執事といえば突然現れて突然消えるものだろ?そして意味深な笑みと雰囲気を常に纏っているものでもある」
「……ギーギー、それって?」
「そう、僕の中のイメージが『執事の去り際は消えるもの』だったから消えたんだ」
「えー、それってなんかずるくないですか?なんでもし放題じゃないですか」
「んー、どうだろうな。周りにいる人に【執事っぽい事』をしそうな執事であるというイメージを植え付けることが条件だからそうもいかないんじゃないか?」
「あー、だから私達の目から消えることは無かったのですね」
「多分そういうことかな」
他にも色々と条件があるのだが、仮免が取れた時にはその条件も消えることを期待しよう。
話していると、気付けばシルルが一つの屋台にふらふらと近づいていっていた。
「どうしたのですか?シルるん」
「これ、たべて、みたい……」
どれどれ。と屋台を見上げてみるとなんでことのないりんご飴のお店だった。
「りんご飴ですか。私はあんず飴が好きですね」
「これ系統の屋台はだいぶ迷走しつつあるよな。トマト飴とかいちご飴とか、取り敢えず飴まいとけばいいみたいな」
「流行とは往々にしてそういうものなのではないでしょうか」
「……たべないの?」
シルルは既にリンゴを加えていた。いつの間に買ったのか。
「食事前だぞ、いいのか?」
「……別腹?」
「ちょっと違うと思う、いや、あってるのか?シルルがいいならそれで良いんだけどな」
「私もあんず飴が食べたくなってきましたね。あんず飴屋さんがあったら食べたいです」
「2回目だが、まだ朝食前だからな?」
さて、そんなこんなで屋台を回ってご飯を食べてとしていると段々妙な違和感を感じるようになってきた。僕は時折感じるその感覚に首をかしげる程度だったが、コノカはどうしても気になるようでキョロキョロとよく周りを見渡していた。
人も増えてきて、そろそろ昨日のようなお祭り騒ぎが戻ってきたかなというところでコノカがあっ!と声をあげた。
「どうしたんだ?」
今の僕は右手にハンバーガー、左手はシルルの状態である。りんご飴の時のようにふらふらと何処かへ追ってしまうことがその後も多発したためこうして捕まえておくことになったのだ。シルルも同じくハンバーガーを食べているのでさながら兄弟のようだというのはコノカの評である。
「分かりました!私、違和感の謎が解けました!」
「それは良かったな。あとたこ焼きのソース頰についてるぞ」
ごしごしと袖で拭おうとするのでふきんで拭いてやる。癖なのかは分からないが目を閉じるのが可愛かったです。ふらふらとしそうになっているシルルを再び捕まえて、改めて違和感の正体を聞いてみた。
「それは、この屋台です!」
「あー、確かにこの西洋風の街並みにたこ焼きは合ってないかもしれないが、屋台自体は割と溶け込むように工夫してるぞ。そこを責めるのはなんとも可哀想な話じゃないのか?」
「いえ、問題はそこじゃないのですよ。違和感はこの食べ物です」
「だから、しょうがない話だといったじゃん」
「ちっちっちー。分かってないなー、ギアリーは。名探偵コノカさんの話にチャチャを入れるにはいささか状況把握が足りてないんじゃないの、ですよ?」
「む、そこまでいうのなら聞かせてもらおうではないか。名探偵さんよ」
「……あ、多分分かった」
「シルるん。ちょっと静かにしてて下さいねー。お願いですから。……こほん。正解は、CMの後でっ!」
「早く言え、子娘。くすぐるぞ」
「ひえっ。辛辣です。あまりにも辛辣ですよ。多分ギアリーも感じている違和感は私と一緒で、この食べ物だと思いますよ」
「だから……」
「ですか、この、食べ物です」
強い語調に思わず押し切られる。この食べ物って言ったって、何も変なことはないぞ。今食べてるものだってただのハンバーガーだし。確かに現実の物とは少し違うけど、そんなのVRゲームをやっていればいくらでも妥協できる範囲のことだ。VRゲーム内とっては現実の食べ物こそ邪道で、運営の想定したオリジナルの食べ物こそ王道だからな。
「……あ」
「ふふん。鈍いギアリーも気づきましたね?」
「そうか、ここの屋台にはこのゲーム特有の食べ物が一つもないんだ」
ハンバーガーやたこ焼きを始め、屋台で出せそうなものは一通り並んでいるのに一切このゲームのオリジナルの料理がない。シメイヨツノの宿屋で食べた中途半端なパンも、喫茶店で飲んだ怪しげな色をしたジュースもない。よく考えたら僕らにとってはとてもおかしな話だった。
「……けどなんでだ?」
「さあ?分かりませんね」
「……多分、宣伝」
シルルが食べ終わったハンバーガーをゴミ袋に入れながら呟く。
「宣伝?」
「……うん。さっきから、ここら辺の屋台。全部、自由国家連合……」
「なんでそんなことシルルがわかるんだ?」
「描いてあるよ?ここに」
試しにシルフが指した屋台の先には小さく描かれた何かしらのマークがあった。
「これ、自由国家連合の、商会マーク」
「へぇ……。そんなことシルるんがよく知ってましたね!」
「うん……書いてあった、から……」
書いてある?
「けど、いつの間に、てかどうやってここまでの店が出店できたのだろうな?」
出店に関する通知もイベント詳細には出ていなかったはず。だとしたらリリーとかの店を持つプレイヤー個人個人に出店依頼みたいなメールが行ったんかな?
「それは、自由国家連合がそれ一つで大きな商会を成しているからですよ、Mr.執事とお嬢さん方」
謎の人物が出ての引きをこの作品で何回やったんだって話ですよね。
しかし、今回の謎の人物はみんなも知っている人物なので見逃して下さい。
読了ありがとうございました。




