28イベント初日
イベント当日。澄み渡るような晴れた空の下、イベント会場に着いたプレイヤー達は思い思いの叫びを上げていた。
『運営チームイベント部門広報担当【愛上 額】と!!』
『同じく広報担当長【尾下 窪】!!』
『『ここに第一回!運営主催長期イベントを開催いたします!!!!』』
イベント会場の空にはホログラムが浮かび上がり、中では2人の運営公認のプレイヤーがイベントのインフォを知らせている。2人はイメージビデオや宣伝ラジオで度々お目にかかる美人さん達だ。
そんな有名人の登場にもかかわらず僕達プレイヤーは彼女達の話を聞くこともなく叫んでいる。走り回り、叫び回っている。
歓声ではなく、怒号に近い大声を。
『さてさて始まりましたねー』
『そうですねー、イベント初日の今日は、聖骸都市アテネからお送りします!!アテネ在住の皆さんは物足りないかもしれませんが明日は自由国家連合ですからね!お楽しみにしててください!!』
『あれ?私達のこの番組、イベント会場で行うと書いていたのですが。ということはプレイヤーさん達もアテネにいるってことですかよね。私はてっきりイベント特別会場みたいのを用意すると思ってたんですが……あれ?もしかしてこのイベント、手抜きだったりします?』
『ちょっ!ヒタイちゃん!変なこと言わないですよ、ほら、カンペも怒っちゃったじゃない!!』
『えっと……なになに、【ここは特別に用意したアテネです】。あ、ここ、あのアテネとちがうとこなの?』
『当たり前じゃない、ヒタイちゃん。元のとこだったら人が多すぎてパンクしちゃうよ。ここはNPCを抜いて、土地そのものの規模も大きくしたなんちゃってアテネなのです!』
『へぇー、無駄だねー。普通に特別会場用意しとけばいいのに』
『あれれ?もしかして今日のヒタイちゃんは黒いちゃんなの?イベントなのに運営ディスが止まんないよー?一応これには訳があるんだからそんなこと言っちゃだたらまずいよ!ヤバイヤバイ』
『訳?』
『うむ!そこのとこもこれからの注目だね!……じゃあ一旦CM挟みます!!といっても、このイベント告知なんだけどね』
画面の中と地上の様子はまるで天国と地獄といわんばかりの空気の違いがある。
ホログラムは2人が座って小突きあう画から勇ましくプレイヤー同士が激し合うものへと変わる。よくテレビで見るCMだ。ただし勇敢なBGMのバックではヒタイとクボミの可愛いガヤがきこえてくるけど。
「ギーギー、何してるの?早く、いくよ?」
「あ、ごめんごめん。早くしないと、だったな」
そう。早くしないと、僕達は予選敗退となってしまうのだ。
ー・ー・ー
時を戻そう。
それはメンテ明けの午後のこと。メンテ後は一回ログアウトするともう入れないこともあってたくさんの人々が街をうろついていた。
普段なら金欠になったプレイヤーがコモンアイテムを露店売りくる場所となっている広場も今ばかりは本来の役割を果たしているようで、ベンチも床もプレイヤーばかりである。
そんな中、
そんなイベント会場への転移までもう30分を切った期待と興奮の渦の中、僕は喫茶店にいた。
どこの喫茶店と聞かれれば答えてしんぜよう。当たり前のようにリーブ・スリープスである。
ここ連日でお世話になっているものだから店員さんに『ギアリアさんいらっしゃいましたー!』と入店時に言われてしまったのは内緒の話だゾ。
「さて、こうして集まってもらったワケだけど」
窓から見える景色から目の前のテーブルの向こう側、つまりジャー坊の顔に目を戻す。
ジャー坊はいつになく真剣な表情だ。心なしか場の雰囲気も張り詰めている気がする。
「ギアリー!イベント記念スイーツ食べていいですか!?」
「……」
気のせいだった。
目で訴えてくるシルルの分も合わせて注文した僕は『どうぞ』とジャー坊に合図する。
「……えー、と。今日、集まってもらったワケなんだけど……」
「ギアくん!私も食べたい!!」
「いや、あなたは自分で注文してくださいよ」
あとあんたらのギルド長涙目になったんぞ。
「……あつまって、もらった……ワケなんだけど……」
ああ!ほら見たことか。いじけ始めてしまったじゃないか!
「……ジャー坊」
「ギーくん……!」
「……まあ、なんだ。その……一時休題しとこうぜ。悪気があるワケじゃないんだ。彼女達に罪はない。罪は期間限定、ついてはこの店が悪いんだから」
「……そうだね、そうさせてもらうよ。すみません、僕にも限定スイーツください」
「お前も買うのかよ。……じゃあ僕ももらおうかな?」
「店長が店を貶す奴に商品やを出す義理はないとおっしゃっていました」
振り向けば1人の店員さんがすぐ後ろにいた。驚いた僕は思わず声を上げる。
「そんなバカな!!」
対して、店員さん。
「はい、冗談でございます。では、限定スイーツ四つお持ちいたしました。ごゆっくり」
つかみどころのない店員さんだった。あと店が罪とか言ってすんませんした。マジうまいっす。
「で、何話だったっけ?」
「集まってもらった理由を話そうと思ったんだよ。本当ならイベント会場の現地集合の予定だったけど……ちょっと気になることがあってね」
「気になること……?」
イベント記念のスイーツはスイートポテトだった。女性3人ははぐはぐと無言で食べている。よほど味覚にあったようだ。
「……あ、そういえばリリーがいないな」
「そういえばそうですね」
「コノカ、食べながら喋るな。あと口に付いちゃってるじゃないか」
口というよりも頰に近い位置についたかけらをひょいととる。コノカはくすぐったそうに身じろぐと、少し頬を赤らめてお礼を言う。
うむうむ、可愛いな。
前を向けばジャー坊もわざとらしく頰にかけらをくっつけてこちらを見てくるが、無性に腹が立ったので無言の圧力で押し切った。10秒も睨むと流石に堪えたのかぐちぐちと文句を言いながらも話し出す。
かけらを付けたままで。いや、諦めろよ。
「……仕立て屋には工芸家を入れた三人で話し合ってひとつ仕事を頼んだのさ」
「イベント用の衣装作りか?」
冗談まじり笑いまじりで聞き返す。
「その通り」
本気と書いてマジに返答される。
ジャー坊は話を続けた。
「そして、それこそが集まってもらった理由となることなんだ
「……僕たちは、目立ちたいと思っている
「イベントで顔を売り、自らを宣伝し、このゲーム全員に僕たちの存在を知ってもらいたいと思っているんだ」
あ、わかりやすくコノカが顔をしかめた。今週の一枚の件からコノカにとって『写真』『目立つ』『今週の一枚』は一時禁句となっている。
「コノカさんは今週の一枚が相当効いたようだね。……うん、掲示板を見た限りシルルさん含めそんなに話には上がってなかったからその辺の厄介ごとはギーくんに一任していいと思うよ。だから、そう聞かず嫌いせずに効いてくれないかい?」
「……元より、そのつもりです。一応リーダーさんですから。目立ちたい理由はよくわかりませんが、その辺の考慮もしてくれているのでしょう?」
「勿論さ。僕たちが目立ちたい理由はただ単純に、蓮団の為なんだから」
ぱくり。残っていたタルトを口に入れ込んだジャー坊は前の会合で行ったように空中に文字を書き出す。
「蓮団にはある程度の人数が必要となることはまず間違い無い。だって、10人やそこらならパーティを分けて組めばいいだけだしね。それにアジトやホームだって宿を借りればなんとでもなる。そこそこ値ははるけど家だって買えるんだ
「じゃあ、なぜ蓮団なんて制度ができたのか
「僕たちは無い頭をひねって考えたよ。……そうだな。例えばギーくんだったらこの制度にどんな狙いがあると思う?」
「ただのゲームの新システムだろ?プレイヤーが増えたから管理しやすいようにとかじゃないのか?」
「それもあるかもね。もっと深いところとギーくんの予測はつながっていると思うよ。コノカさんはどうかな?」
「……わかりません」
「シルルさんは?」
「……ギルドとは、別の組織……」
シルルがそう答えると、ジャー坊はニヤリと笑い拍手を送った。
「大当たり。多分ね。……そう、そこがカギになると僕らは踏んだ。ギルドでもパーティでも無い何かしらの組織を僕らが自主的に組む必要があるのではないか」
「随分もったいぶるじゃないか、ジャー坊。もっと簡単に言えや」
あ、ジャー坊が嫌な笑いを浮かべた。これは僕の頭に血管が浮くパターンのやつだ。
「ここから先はギーくんの蓮団入団後になりまーす」
「……」
「どうどう、ですよ」
「……どうどう」
……。
ひひーん!!
僕は馬となった。
自由という草原を駆ける一頭の馬となったのだ。
歴史を刻み、文化を食らうそう小動物に。
猛者を踏み殺し、患者を蹴り殺す魔物に。
僕は一頭の馬であった。
然れども、1人の人であった。
心を捨てきれぬ中途半端なケンタウロスであった。
誇りを盾に、掟を矛とし他者を刺し殺す化け物であった。
そこに一切の矛盾はなく、ただひたすらに怒りが蔓延る。
僕は思想家となりつつあった。
考える馬であった。
友とは何か、正義とは何か。
男とは、女とは、
人とは何か。
愚直に自問するだけの馬鹿であった。
そう、僕は鹿でもあったのである。
「おい、店ン中で四つ這いとかやべえ趣味してんな」
「あ、リリーじゃん。お仕事頼まれてたんだって?」
「……お、おう。先ずはちゃんと席につけ、話はそこからだ」
いよいよ山月記じみてきたところでリリーがタイミング良く入店してきたようだ。助かった。正直やめどきを見失ってたからな。
「見切り発車は良くないですよ」
「そんなこと言ったらこの小説自体なくなっちゃうよ」
「いいからはよ座れや。店員さんが困惑してんだろ」
すんません。
ー・ー
「さて、ジャー坊のせいで僕が馬になりかけたわけだけど」
「はじめに戻ったようで戻ってないセリフをありがとう。蔵やんが遅れて来た理由を説明しようか」
ジャー坊はニヤリと笑いを浮かべ続けている。リリーはウィンドウを操作した。
ドサドサ!
先程まで限定スイーツのあったテーブルに何かしらの山ができる。どうやらリリーはアイテムをテーブルの上に出したようだった。
「……これはどうしたんですか?」
「コノカさんと僕たちの目的の妥協点さ。つまり、いかに目立たずして目立つかの解決策だね」
「はあ……?」
こてんと首をかしげるコノカ。そしてこのままこっちを見てくるコノカだったが、残念。僕にはそれがなんだかもう分かってしまっていた。だって男の子だもん。こういうことに関しては敏感でなくちゃね。
「あ、エロいことじゃないからな」
「当たり前です。というかなんでギアリーが知った風なんですか?」
「そりゃ分かったからさー。まぁ考えてみれば妥当かつ嬉しい策だよな、これ。だって男の子の誰もが一度は夢見るもんじゃん?」
「……?」
「これ、あれだろ?秘密組織的な奴だろ?」
テーブルの上に置かれた山の様な布。それは統一感出された新しいローブだった。
「ふふ、こんなのも作って見たわ」
そう言って時子さんがテーブルの上に置いたのはお揃いのデザインのマスク。
先輩方は揃いも揃ってまだ中二から抜け出せていない様だった。
「なる程。確かにこれなら私達の正体はバレませんし、ここまで徹底した如何にもなかっこうなら注目も浴びることができますね」
「どうだい?一応装備にもレベル制限があるからたいしたスキルは付けられなかったけど、たまたま面白いスキルが二つほどついてくれたんだよね」
ほら、そう言ってジャー坊はローブをタップした。
浮かび上がるウィンドウ。
【詐称する私は彼方】
・黒に近い青の生地に同色の金属で刺繍を施したフード付きのローブ。刺繍は製作者が一人一人の象徴を手縫いした。
・一枚の原典と5枚の偽物から成る6枚で一つの装備。
・着用時に着用者達のステータスを統一する。ただし、原典を装備するものが倒された場合、効果は無効となる。
・フード着用時に目から上の描写を黒にする。ただし、原典を装備するものがフードを外す時、効果は無効となる。
・レベル制限……LV.30〜。
・加重……体重の25分の1
「ちなみに仮面の方はこんな感じね」
【好奇心の貌】
・工芸家を目指す人外の一品。表面に一切の掘りなく、裏面は存在を忘れる程の微調整が施されている。
・仮面に自身のAPPの半分を付与する。
・人並みの優しさを受けて育った少女の好奇心は、止まらない。
・レベル制限……LV.15〜
色々言いたいことはあるけど。
「生産組ってすげえなぁおい!」
「当たり前でしょ?私達からすれば戦闘職の方が凄いわよ」
「そうだな。服制作一本に絞ってることも多少あるかもしれないけどな。ほいよ、そういやギアリアの執事服を試し作ってみたからやるよ」
渡される新しい執事服。今着ているものとの違いはネクタイが紐ネクタイであることと、裏地が臙脂色ではなくて深い紺が使われていることだった。
「ローブにあっていいんじゃないの?」
「かもしれないな。サンキューな、リリー」
「おう」
さて、問題はテーブルの上にあるローブと仮面だ。
「レベル制限とかの兼ね合いで重さとかのバッドステータスも付いちゃったけど着てくれるよね?」
「ここまで世話になっちゃったら着るしかないしな。コノカ達もいいよな?」
「はい、随分気を使ってもらった様で、ありがとうございます」
「……ありがと」
「こちらこそ。あ、そうだ。このローブの原典の一枚なんだけど、コノカさんに着てもらおうと思っているからよろしく」
「わ、私ですか?!」
コノカは突然の指名にワタワタとする。みると用意周到なことに原典の一枚だというローブには狼と狐と狸の三つ巴が刺繍されていた。
「うん、顔バレしても構わない僕らが着るとどうしてもフードを外し気味になっちゃうからね。その点原典以外はフードを外そうが他の人には影響ないからさ」
「でも……そんな理由で、悪くないですか?」
「あはは!そんな気負わなくてもいいよ。スキルもたいしたことなかったでしょ?戦闘にも影響ないしさ。この装備はあくまでも雰囲気づくりのためのものだから」
「そういうことでしたら……」
「うん、じゃあよろしくね」
そのあとは、各自ローブを取り装備する。
僕はついでに執事服も変更する。最近、コノカにもらった帽子もつけていなかったのでそれも被る。うん、前よりもコートからローブに変わった分落ち着いた印象になったな。因みに刺繍は歯車でした。まぁそうだよね。
「あれ?コノカは着ないのか?」
みんなが黒のローブと仮面をつけている中、珍しくコノカは初期装備だけとなっていた。
「原典の一枚にするにはまだ少し刺繍する必要があるそうなので、ついでにシルるんとお揃いのローブも修繕してもらおうと預けちゃいました」
「ふーん」
「ギアくんもいらっしゃい。今、仮面のおもて面が寂しいから絵を描いてあげてるの」
寂しいも何ものっぺらぼうだしな。みれば既に僕とコノカ以外は描いてもらったようで、各々個性が出ている仮面となっていた。一番凝っているのはシルルの仮面で輪郭に沿うように曲木が描かれている。逆に一番悲惨なのはリリーでただミッフィーの絵が書いてあるだけだ。それを見て辞めようと思ったのだが、なんでか時子さんはこんなところでやる気を出しているらしく、妙な圧力を放っているので逆らうわけにもいかず、おとなしく、渋々と近づく。
「そんな変な模様にしないってー!あいつは私のことバカにしたからああなっただけ!」
「だってよ!聞いてくれよギアリア!こいつ俺のことネタキャラって言うんだぜ!」
「事実じゃん」
ミッフィーのお面の下はシルバニアファミリーって笑いを狙っているとしか思えん。
「どちくしょう!てめーの顔が今ほどにくいと思ったことはねえぜ!」
「どんまいピーター」
「リリーだ!!」
そなわけで描いてもらった。
「どうよ!私の画力も捨てたもんじゃないだろ?」
「……んまぁ、はい」
つけていた仮面を外すとそこには2時15分を指す懐中時計が描かれていた。右目に時計が描かれていてそこから鎖が顔を這うように描かれている。
「あの、これ」
「時計」
「いや、そうっすけど。右目に時計置いたのって」
「歯車がいつもあるから」
「そもそも時計がモチーフなのは」
「時計がいつもあるから」
……バレませんか?これ。いや、どう頑張っても仮面を見られたら容易に僕にたどり着く気がするんですけど。
「ザマァねえぜ!」
「うるせえ生きる著作権侵害者」
「皮肉乙」
どうしよっかなー、これ。コノカがフードつけている間は僕もフードを被っとけば顔面が黒になるからいいけど、なんやかんやで外れました、がシャレになんないぞ。僕は別にバレてもいいけどそれでコノカとシルルに避けられたら引くくらい落ち込む自信があるぞ。
まぁ、描かれちゃったものは仕方がない。元々貰い物だし、いざとなったらその時はその時だ。ありがたく頂戴しておこう。
そうこうしている間に、転送まで五分を切る時間となった。
「そういや、ギアリー達は全員レベル30まであがったんだな」
「僕はキャンプ中には届かなかったから平日必死にあげたよ」
「私は時子さんに手伝ってもらいました」
「な、なにィ?!」
「言ってくれればギアくんのも手伝ったのに。てっきりもう上げきったのかと思ってたわ」
「そんな二、三日で上がるわけないでしょうが」
あの戦闘狂に師事したシルルだって寝るかレベル上げかの4日の末にレベル30にしたんだぞ。むしろこのイベントの中にレベルキャップまであげきった第二陣プレイヤーがどれだけいたのか。
「狩場も混雑してたしそうはいないと思うよ」
「だといいんだけどな。つーか、リリーはまだ刺繍してんのかよ。さっき仮面に絵描いてもらってたらもう終わったのかと思ってたよ」
「あと2分で終わらせる」
「あの……そのローブないと外套が一切ないままイベント会場に行くというとんでとないことが起きるので、頑張って下さいね」
「おうとも」
ずずず。とコップの中身をストローで吸いきった時子さんがふと思い出したように言った。
「ギアくん達がレベル30になったってことは、もうあの時期になるってことね」
「あの時期?」
「……ギーギー、攻略サイト、見なよ」
「いや、なるべく見るようにはしてるんだけど……30って、なんか特別なことありましたっけ?」
ドロップするいくつかの装備品のレベル制限が解けるレベルだけど、そんなのレベル5刻みくらいだしなあ。
「勿論コノカちゃんとシルルちゃんは終えてきたわよね?」
「ええ、なんとか」
「俺は……AOがあれ、だから……」
「あっ!シルるんそれずるいよ!」
「あぅあぅ」
ほっぺをぐにぐにされるシルルを横目に考える。終える?アナザーワン?……。
……!
「あっ!そうか!30ってし────」
そのセリフを言うことは叶わなかった。
叶うことなく、僕らは散り散りとなってしまうこととなる。
やけに無機質なアナウンスとともに。
【緊急クエスト『イベント予選』が発令されました】
ー・ー・ー
で、冒頭に戻るわけだ。
正確には冒頭より2分くらい前の状態に戻るわけだ。
気がつけばアテネを模した都市にいて、後ろには僕のローブの裾を掴むシルルがいたあの状況に。
周りはパーティメンバーを集めるべく怒号が飛び交っている。
「なんにせよ、皆と合流しないとだな」
手を振ってウィンドウをだしてクエストの確認をする。
ー・ー
【緊急クエスト『イベント予選』】
依頼者・運営開発
・ぬわーっ!思ったよりもイベント参加人数が多いのじゃ!このままだとサーバーよりもスタッフの体力が死んでしまうぞい!こうなったら突発予選をつくるのじゃ!!ええい!止めるでないぞ、チーフディレクターはこのわしじゃあああ!!
クエスト内容
・バラバラに転移したパーティメンバー全員で再びイベント申し込みを行うこと。アテネのギルドもしくは広場の時計塔から半径50メートル以内の場所申し込むことが可能です。申し込みは前回申し込んだリーダーのウィンドウから行って下さい。
・人数の変更は受け入れられません。
・定員は先着500組です。
クエスト報酬
・本戦参加権
クエスト失敗条件
・定員から漏れる。
・なんらかの事情でメンバーが揃うことが不可能になる。
・明らかな不正行為を働く。
備考
・フレンドメッセージ・ウィスパーの使用不可。
・公式掲示板の使用不可。
・プレイヤーキルなどの他パーティへの妨害は不正行為とみなします。
ー・ー
チーフディレクターへのヘイトが凄いことになってそうだな。
「……コノカ……初期、装備……」
ついついと引っ張りつつ焦った様子のシルル。そういえば新しいローブは刺繍途中で、もともと持ってた方は修繕のために預けたって言ってたなぁ。なんとも運のないことで。
なんとなく頭の中でコノカに合掌しておく。
「早く……早く」
「まあ待ちたまえ、シルルくん」
「……?」
「折角一緒の場所に転移してきたんだ。これを生かさない手はないだろう?」
「どういう?こと?」
「コノカには悪いが少しの間目立ってもらうことにしよう。どうせ英雄だか英霊だか忘れたけど、なんか凄い職業を持ってるんだ。いつかは目立つことになってただろうしな。ちょっとそれが早くなっただけだよ」
「ギーギー、それは下衆」
「直接的なのは意外と来るからやめてくれ。大丈夫だって、見つけたら迅速に保護するから」
「じゃあ、コノカに、なに、するの?」
「旗」
シルルにその後説明したことは以下の通りのことだ。
コノカが初期装備であること、目立つことを極度に嫌がっていたことは皆の共通認識である。だからまず真っ先に否が応でも目立ってしまう金髪の少女を探しに行くことが容易に想像できる。
しかも、それはジャー坊たちもそう考えている可能性が高い。
つまり、コナカのいる場所を合流地点にしてしまおう、というわけだ。
「……それって、やること、変わらなくない?」
「第一にコノカを見つけるのは一緒のことだ。ただ、コノカになにかない限り少し見守ろうと思う」
「……下衆」
「だからやめろって!」
分かってるんだよ!そんなこと。ただ、僕はパーティのことを考えて……。
「……もう半分は?」
「コノカの慌てる姿を写真に収めたい……はっ!」
無言で叩かれた。ぐーで顎の下あたりを撃つ感じで殴られた。
「……探すよ」
「はい。見つけ次第、即保護します」
当たり前だよなぁ!
仲間のピンチを眺めるクズなんてこの世にはいねえからな!
「遊んでいる暇、探す」
「マム、イエス、マム」
コノカにあったら、シルルにいじめられたと泣き付こうと決心して、僕はスキル【気遣い】でコノカの気配を探し始めるのだった。




