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27覚えてるかな?

 深夜のギルドが物珍しいのか、普段よりも多くの人が溜まっているギルド受付広場をさらりと通り抜け、何事もなく僕らはイベント登録を終了させた。


 そのままイベント当日までスキップすると思われたその時、僕は懐かしい人と再会することとなった。



「おっ!久しぶりじゃーん。今週の一枚見たよ!!そっちもなかなか楽しいゲームライフを送っているようで何より何より」



 こんな口調聞いたことねえよという声が聞こえてくる。


 いや、あるはずだ。


 そう、詠拍ハバカリくんだ。




 そう、といってみたものの、覚えている人は果たしてどの位いるだろうか。


 覚えてない人は怒らないから『ギルド登録』を読み返してきなさい。


(しかしなぁ……)


 思わず思う。


 正直言うと、こんな早々に再登場を果たすとは思っていなかったので、僕は少々戸惑っていた。

 どもっても、いた。

 そんな中彼の名前が出てきたのは奇跡とも言えるだろう。


「詠拍。今その話題で僕はこってり絞られた後なんだよ」

「しっぽり?」

「……しっかり死ね」


 はっ、つい出会って5秒で暴言が出てしまった。というか、この人まだ二回目の対面なのにグイグイくるな。深夜だからか?


「誰ですかこの人?」


 今の一連の会話で引き気味になったコノカがさりげなく僕を盾にしながら聞いてくる。


 ……いや、シルルはともかく、コノカは知ってなきゃおかしいだろう。あの時も近くに居たんだからさ。


 そんな僕の思いとは逆に、忘れられていた詠拍はコノカの発言に顔色ひとつ変えることなく自己紹介をする。相変わらず女子と話すのは気がひけるらしく顔は端を向いていたが。


「俺?俺は詠拍ハバカリって言います。ギルドプレートはシルバーになったばっかり……というか、今その更新してたんだけどね。よろしく!」


 あ、シルバーランクになったんだ。


「艶風コノカです」

「シルル」

「シルルさんにコノカさんね。よろしくよろしくぅ!……コノカさんにシルルさんにギアリア……ギアリア、言いにくいな。ギアリーでいい?」

「ダメです」


 と、僕の腕の陰からコノカが言う。


「えー、じゃあギーギー」

「……ダメ」


 と、真似したくなったのか逆サイドの腕の陰からシルルが言う。


「んー……じゃあギアリアでいいっか」

「「良し(ベネ)」」


「いや、なんの話だよ」


 なんで僕の呼び方は被っちゃいけない決まりみたいになってるの?というか、ギアリアだとリリーあたりと被っちゃうと思うんだけど。




 などとくだらないことを話していると、しばらくして、いつの間にか話が一周して、ギルドプレートの話になった。


「そう言えば、俺はこうやって結構スローペースでクエストを進めた結果、シルバープレートに上がるのが今になったわけなんだけど……ギアリアはもうとっくにシルバーに上がっちゃったりしてた?」

「いや、ブロンズのままだよ」


 正確にはシルバーに上げようと思えば上げられるんだろうけど手続きがめんどくさいのでやっていない。今回のイベントにレベル30のレベルキャップがある以上シルバーランクの依頼は現状、難しいからな。


 それにレベル30到達者にはそんなことよりも優先的にしなきゃいけないことがあるし。詠拍はもう終わったのか?


 しかしそんな疑問は詠拍に通じなかったようで、僕の出遅れを知った詠拍は心底おかしいと言った様子で煽り始めた。


「え?!こんだけの時間があってまだブロンズっすか?いやぁ、兄さんの優秀な所は顔面だけっすね」


 ……ほほう?顔だけどな?それでは現実の僕がまるで良いとこなしのクズみたいではないか。


 いや、間違っていないしむしろ合っているけど、合っていると言わざるを得ないけど、まあ言っているがいいさ。





 こちらには切り札がある。





 見せてやろう。本物というやつを。





「コノカ」

「はい?……あー、はいはい。これを見せろってことですね?」



 ごそごそと着物の袂の中をかき回す。あぁ、そこに入れてるんですか。




「なっ!!それは!!マジっすか?!」




 間も無くして、詠拍が驚きの声をあげた。


 コノカが自身の袂から取り出したのはゴールドプレート。


 第一陣プレイヤーをして『取るの普通にめんどくさい』と言わしめるそれは、分かりやすく言うとネット小説50話更新する、もしくは200話越えの小説を20本以上読む位の苦労の末に手に入るような代物なのだ。驚かない道理がないといっても過言ではない。


 そんなゴールドプレートをこんな初期から持っている彼女は何者なのか?!コネか実力か、金か力か、一体何故ゴールドプレートを持っているんだ?!






 無論、コネである。


 よく言えば前世からの運命である。







「ふははははは!!見たかな?詠拍くん!これが格の違いというやつよなぁ!!」

「なん……だとっ!」



 がくっ。と跪いて打ちひしがれる感情を全身で表現する詠拍。高笑いをする僕に拳を床に叩きつけるしかない詠拍。

 虎の威を借る狐を地で行く僕はそんな姿につい高笑いを始める。わはははは。






 何故か、周りからノリだけで行われる意味不明な拍手が起こる。




 スクショの音がする。




 それを聞いてコノカがあわあわする。





 深夜もシメイヨツノは元気だった。






 ー・ー・ー






「そういえばギアリア達もイベントに参加するん?」


 場所を変えて通路のベンチ。コノカが今週の一枚はもう嫌ですぅ!とぽかぽかと叩いてうるさいので人影がそれほどない細い路地へと移ることにしたのだ。


「僕たちも、ってことは詠拍も参加するんだな」

「おうともさー。言っとくが俺たちのパーティは強いっすよ。なんてったって掲示板でも度々話題に上がるような第一線プレイヤーが居ますからね!」

「へえ、運良いんだな。第一線プレイヤーって誰?」


 あば良くばと軽い敵情視察程度のつもりで聞いてみる。詠拍は『ちょっと待っててくださいっすー』と言いながらステータスウィンドウ、恐らくはアイテム欄をいじり始めた。


「何探しているんだ?」

「いや、初めて会った時にその人ってば名詞をくれたからさ。それを見せようと思ってね。初めはゲームで名刺とか変な人だなぁとか思ってたんですけど……っとこの人です」



 なになに?






【夢喰い】

 ギルドマスター:集塵胎土

 種族/職業:夢喰い/調弦師

 累計レベル:349LV/268LV






 あれえ?ドッカデミタコトアルゾー?




「げ、この人、人工イケメンさんじゃないですか」

「あれ?コノカさんは胎土さんのこと知ってるんすか?課金アバターのことを知ってるとなるとリア友かなんかっすか?」


 詠拍は見てわからなかったのか。


 僕は今週の一枚の原因でもある集塵さんのことを話した。




「あー、了解了解。他の人ならそのくらいはしそうっすね。あの人は面白そうな人に目がないっすから」

「いや、僕はあの人よりも面白い人をそう知らないぞ」

「そりゃそうっすよ。課金アバターってだけでネタキャラ扱いのこのゲームで第一線プレイヤーになるなんて変態あの人以外俺は知らないっすね」


「ネタキャラ?」


「そう、ネタキャラ。このゲームは課金アバターを選ぶと容姿を操作できるかも、言っちゃえばそれだけのことなんだよな。変わらず種族はランダムだし、名前もランダムのまま。それなのに初期装備は課金アバター専用コスチューム、通称囚人服になっちまうし、アナザーワンも普通より明らかに弱っちい。運営曰く『自分の可能性と哲学を持たぬ者に未来なし』とかなんとか。つーわけで、必然的に課金アバターはネタキャラ扱いってわけ。胎土さんに聞いてみたらリアルの自分の顔は強い劣等感を抱く程悪い顔じゃないってんだから、もうなんであのキャラ使ってるのかわかんねえよ」


 そんな凄いやつには見えなかったけどな。


「そんなすごそうな人には見えませんでしたけどね……とギアリーが申しております」


 おい、つい口を滑らした!と言う顔をして僕になすりつけるんじゃない。そういうところも妙に強かになりやがってからに。



「あはは、けど面白いし面倒見もいいし、戦闘中も冷静沈着でオンラインの世界では稀に見る良い人だよ」

「いい……ひと……?」



 公然の面前で突然切れ始め叫ぶような人が、冷静沈着で良い人だと?!

 嘘だと言ってよマイケル。


「あ、見てくださいギアリー。集塵さん地味にレベルあの時よりも2つ上げてますよ」

「打倒ジャー坊に燃えてるんじゃない?」


 レベルキャップあるけど。


「そう言えば、詠拍のパーティメンバーは6人全員揃ってるの?」

「ハバカリでいいっすよ。うちのパーティは……そうですねぇ。 秘密ってことで。一応イベント前っすからね。どんな内容かもわからないのに身内の情報を喋るのはアホっす」






 そう言って詠拍は人差し指を口に当てておどけるのだった。











「あっ!!こんな所にいた!!!ハバカリってば探したんだからね!!全く青ちゃんがいなかったらどうしようかと思ったよ!!」

「ホントですぞ、ハバカリ殿。お嬢から目を話すからまた金をばらまく所でしたぞ」





「……奏?」

「およよ?お兄ちゃん?」




 僕らの座るベンチのすぐ後ろ。そこには不思議な妹キャラ(を押し売りする)系少女、奏がこてんと首を倒して佇んでいた。





 ー・ー・ー





「……奏?」

「およよ?お兄ちゃん?なんでこんなところにいるの?」

「いやそれはこっちのセリフだ……いや、そういうことか」


 どうやら、詠拍が黙秘したメンバーのうちの一人が奏だったらしい。見れば詠拍が少し悲しげな顔で固まっている。



「……ギーギー、妹、いた?」

「いえ、違いますよシルルン。この男は遂に見知らぬ女の子に妹呼びを強制させるようになったのですよ」


「違うわっ!」


 何を恐ろしいこと吹き込んでるんだ。失礼な。今回ばかりは冤罪を主張する!!


「しかし、本物の妹さんではないですよね?」

「まあ、確かにそうなんだが。……ってなんで分かったんだ?」

「……女の勘です」


 女の子ってすごい。


 ……そうじゃない。問題はそこじゃない。




「おい、詠拍。いつまで止まってるんだ。説明してくれ」

「……いや、説明も何もないっすよ。こいつが俺のパーティメンバーの一人で、集塵胎土さんの一番弟子さんです」

「どもー!一番弟子でーす!!」



 問題はリンゴを放り投げて嬉しそうに手を挙げる奏だ。深夜だと言うのに、相変わらずハイテンションだった。



「ギアリーが女の子の知り合いを1日一人ペースで作り始めているんじゃないかと思い始めた今日この頃ですが、今度はまた個性の強い子ですね」

「……眩しい」

「いや、いろいろつっこみたいところはあるのだけれど一つ言わせてもらえるならば、今回ばかりは向こうが一方的に関係を結んできたとだけ言わせてもらう」


 断じて僕は、リンゴを拾うことがこんなところにつながっているとは思ってなかったし、ここまでストーリーに食い込んでくるとも思ってなかった。全く回収が早い、もとい雑すぎる。


 ごにょごにょと詠拍から事情徴収を行い終えたのか奏は側に寄って言った詠拍から離れると今度はこちらにきた。


「お兄ちゃん。私たちの敵になるって本当?」

「……まずは、お兄ちゃんは止めてくれ。呼ぶ度に後ろにいるガールズ達の目が据わっていく」

「やーだ!で、敵になるの?なっちゃうのー?」

「分からん。四国対抗だから、もしかしたら協力プレイになるかもしれないし、ならないかもしれない。個人的には出来ないしたくないな」

「え!?なんでなんで!」

「いたいいたい!手を振り回すな地味にかすってるから!」

「え?!可愛い妹だからだって?」

「言ってねえよ!ただ単に女子を叩きたくないからだ!」


 ずびし。軽く奏での頭にチョップをかました。頭を抑えてうぅ……と唸っているが謝る気にはならなかった。


「ただ単にって言ってますけどそう変わらないですよね」

「そうか?」

「いや、まあだからなんだって話なんですけれど。……っとそろそろイベント前のメンテナンスが始まる時間ですよ。そろそろ宿に戻らないとまずいです」


 コノカが見せてくれた時計はメンテナンス予定時刻の10分前を指していた。


「ああ!もうこんな時間じゃん!ハバカリってばカード更新に時間かけすぎだよ!」

「そんなこと言っても初だったんだからしょうがないじゃないじゃん」

「私は1分もかけないでできるよ!」

「んなの当たり前だろうが!もっと同じ土俵に立てることで自慢しろや。ほらいくぞ!!……あ!じゃあ俺らも行くから、じゃあな」


 そういうと、詠拍は奏を促しつつ去って行った。


「なんといいましょうか。面白い人たちでしたね。奏さんとやらとは一切喋られません出したけど」

「また今度会えばしゃべる機会もなるんじゃねえの?」

「ですね。私たちも行きましょうか。強制ログアウトは生体ナノマシンが痛みますよ」

「そうだな。……あっ、そうだ。ベットは川の字で良いよな?コノカ、僕、シルルの順でさ」

「寝言は寝てから言ってください」

「……ウンディーネに、報告」






 ……ままならないものだな、人生。


 そんなわけで、イベント、始まります。





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