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3洞窟に響く猿声

 





 ……ん?




 おかしいな。目が開かない。





 それどころか、手も足も頭も動かない。





 認識できるのはのは遠くの方でカンカンと音がだけだ。






 バグか?いや、体が固まる系のバグは感知されるとすぐにログアウトされる、と説明書に書いてあったからそれはないはず。


 


 しょうがないので唯一の手がかりである音に耳をすませてみる。




 一定のリズムで聞こえるその音はどうやら右から左へ移っていくようだった。



 何なんだ、この状況。一体僕は何に生まれ変わったのだ?

 



 目が見えない種族何てあるのか?


 動けない種族なんであるのか?


 耳がある種族なんてあるのか?



 ……それはあるか。




 兎も角、僕の貴重な青春の一ページを消費するのだ。1分1秒が惜しい。

 



 ゲームスタートの為には何をすれば良いのか。それを考えるべきだ。……ふむ。





 ……ステータス。

 



 そうだ、ステータスがあった。



(よし、いでよ、ステータス!!)







 ……。






 ……でない。



 出ませんでした。

 なぜだ!なぜなんだ!

 新手のデスゲームか、これは。



 なんだか考えるのも面倒になってきましたなぁ。

 触覚みたいな不思議周り把握器官も無いため、もう状況把握についてはお手上げ状態だな。ログアウトしよう。たしか、ログアウトはどうやったかなぁ?




なになに?ステータス画面から行うこと……か。うん、できないな。



 ……ど畜生!!けど、予想通りだよ!!そう、予想通りなのだよ!



 故に、つまりはここで身動き取れなくなるのは僕にとっては予定調和なのだ。何の問題もない。んなわけあるか。



 くっそ、涙が出てきた。





 ……いや、アバターは涙を出してない。と言うことは、僕はヒト族でないということだ。いや、涙も出ないほどの何かが僕の身に起こっているというのか?





 ということは、ここは街ではない可能性もあるのか?真っ暗で身動き取れなくて音だけ聞こえる場所……。







 ……地面。もしくは壁の中か。







 五体が揃っているは神経を動かして確認済み。そしてその形は恐らくヒトの形。


 多分僕は壁に埋まった人型の何かになったのだ。



 そしてそれは恐らく、化石になった類人猿かなにか。だとすればたのカンカン音は発掘音だと推測(こじつけ)できる。



 ……涙が出そうだ。

 何が楽しくて古代猿人のロールプレイをしなければならないのか。いや、あの掲示板のねずみよりもマシと考えるべきだろうか。


 そう、哀しみ板の住民よりは、と考えるのだ。多分、いや絶対彼らも、今の僕と同じように考えているに違いない。『あいつらよりはまし』。……あぁ、僕は今、現代日本の闇にも似た物凄い不毛な仲間の増え方を実感しているよ。


 さて、推測ではあるが自分の状況は把握した。あとはこの動かない体と口を使ってここにいることをカンカン音を立てる人に伝えるのだ!


 頼むぞ!僕の運命力(ラック)!!

 できれば仲良くなれそうな優しい女性を頼む!もしくは親友になれそうな気のいい男子高校生でも可。







 頼んだぞ!











 ー・ー・ー









 そして、僕は考えるのをやめた。







 頭で数えた数字は7000を超えた。なるべく僕の脳が時間の経過を早く感じるように、ゆっくり数えていたがもう限界だ。つまり二時間近くたっているということだろう!?何を考えているのだここのゲームメイカーどもは!


 無駄に神経の隅々まで集中していたせいか、何かのスキルのレベルアップ音が自分から聞こえてきたよ。その音はドラゴンがラスボスじゃないのにその名前を冠したなんとかクエストと似てましたよ、ええ。


 くっそぅ、何だか教室の隅で友達が話しかけてくれるのを待ってる普段の僕みたいじゃないか。ゲームでは積極性をもって動こうと思っていたのに出鼻をくじかれたよ。くじかれたってレベルじゃない。もぎ取られたよ。天狗もサラリーマンに転職するレベルだね。


 もういっそ、魔法スキルが初期スキルで取れていたことを祈って魔力操作の練習でもしようかな。魔力なんて感じたことないけれど。


 魔法を打ってバナナを投げて、モンスターを追いかける古代猿人。かっこいいじゃない。




 あー、もう!





 いいのですか、運営さん!受付のマスターさんとも仲良くなれるような逸材が1人このままだと止めちゃいそうですよ!今なら経験値ブースト100日くらいで勘弁してあげますよ?嘘です!無料奉仕します!だから助けて!つーか、ゲームやらせろ。







 ……涙拭けよ、僕。涙出てないけど。






 もういいよ!もしも、後10秒以内にこの状況が改善したら、僕は一生このゲームについていくよ!そんでもって大学も超一流のところ入って『私の成長にはいつもこのゲームがあった』って言ってあげるよ!!




 カウントしますよ!



 1





 2




 3






 456789



 10!




 はーい、残念でした。僕がもうこのゲームのために一生を費やす必要はなくなりました。やーい、やー【バキバキ!!!】



 ……ん?何の音だ?



 バキバキ!!!ガキガキ!!!




 何かが猛烈な勢いで近づいてきている?




 ドガガガバギバギガギギキイイと物凄い音がこちらに近づいてきている。



 ちょっと待って。このままだと、この音の正体が僕に衝突するってことですか?


 ちょ、タイムです。唐突な状況変化についていけません。


 無理無理、受け止められないよ?何が来るのかは分からないけどさ。


 考えてみても欲しい。目隠しされて自動で人前で止まる車の機能が付いているかもしれない(、、、、、、)車に接近されている状況を。



 正直に言おう。恐らく、僕の幸運度(ラック)は1だ。




衝撃(インパクト)。そして振動(シバー)





 覚悟を決め、死んだっていいと思っていた僕にとってその瞬間の心境は、イギリス紳士のティータイムのように穏やかであったが、口からはその意に反したが漏れた。くしくもその声は本心が漏れたとも言える声だった。



「うげえええぇえええぇえぇええ!!!!うぉえっ!」



 その振動によって震える声はまた、僕がTSSに降り立ったことを証明する産ぶ声でもあった。




 つまり、僕のこの世界の一言目は『異世界、来たー!』でも『さて、やりますか。世界征服』でもなく、『うげえぇえ』であり、二言目は『うぉえ』という、汚過ぎる男子高校生のえずきだった、ということだった。



 あゝ、勇者よ、死んでしまうとはいと情けなし。


 ゴットブレスユー(神よ、死にたもうあれ)





 あ、のちにわかったことですが、振動の原因は腹に刺さった発掘用電動ドリルでした。つまり僕の推測はばっちしあってたのさ。やったぜ(ファック)





 ー・ー・ー






 ログインしました。


 というか、死に戻りました。


 まさか、一歩も動かないうちに死ぬことになるとは思わなかったけれど、まあいい体験ができたからいいとしましょう。幸いリスポーン地点が壁(もしくは地面)ということもなく無事に薄暗いものの洞窟内に出ることができたしね。


 周りが暗いせいで自分の姿が見えないし、ステータス画面も視認できないがまあいいか。

 取り敢えずは、壁に右手を添えて、迷路必勝法方でここを抜け出そう。


 と、思ったけれど中止。近くから例のドリル音が聞こえてくる。しかもこっちに向かって。



 いいだろう。そうもやすやすと僕を連続で殺せると思わないで欲しい。


 見よ、この構えを!


 これが日曜朝の公園の極意、『健康太陽拳』だ!



 暗がりの中で1人、太陽拳を見よう見まねで真似する(恐らく)猿がそこにはいた。



(さて、そろそろ真面目にドリル野郎に、会いに行かねばならない頃だな。そろそろお天道様が恋しい)


 僕はキルされたことを理由に街まで案内するよう強請る算段を立てる。そして暗い洞窟内をとぼとぼと歩く。背はリアルとそこまで変わっていないので、歩くことや体を動かすことに影響はない。

 そういえば顔ってどうなっているのかな?リアルの顔がばれない程度にリアルに似せた顔が基本らしいけど猿の場合ってどうなんだろう。猿の惑星みたいになるのかな?いや、まあ猿と僕を足して二で割った顔でも困るけれど。


  なんとなしに暗闇の中、自分の左右の頬を触ると、アシンメトリーなゴツゴツさと所々に感じる短毛の感触があった。


  アシンメトリー?……え?これって顔面崩壊(やばい)レベルで醜いゴリラなんとちゃう?トラウマ掘り起こされるんとちゃう?

 


 ん?遠くに何かが見える。明かりだ。そして、ヘルメットを被った人が1人。その人の手元に見覚えのドリルがあるので、僕を殺したのは彼で間違いがなさそうだ。


 ……ふむ。丁度僕に背を向けていることだし先程の恨みを晴らすべきか。よし、驚かそう。




 いち、に、の、さん、ほい!






「バナナよこせえええええええええ!!うぉえ!」



 大きい声出し過ぎて若干えずいたが大方問題ナッシング!!ノリが大事なのだ。

 相手からすれば飢えた背の高い猿が暗闇の中、日本語を喋りながら襲ってくるのだ。これは怖い!


 自分の高すぎるロールプレイング能力に身震いしながら俺はヘルメットの君へと突入した。目指すは脅迫(ゆすり)復讐(さかうらみ)の成功。


 その姿は未来へと翔ける美しい青年(ゴリラ)、のような気がする。





「……あ」



 ヘルメットの君が振り向きざまに声を出した。これは悲鳴が来るぞ。勝ったな!さぁ驚け!慄け!迷子だから助けて!




「バナナああああぁぁああッ!?ふごッ!!」





 唐突に体のバランスが崩れる。



「……そこ、掘った穴埋めてないから気をつけて」



 いや、遅いっす、ヘルメットの君。


 僕はその言葉を口から出すことなく顔面から地面に倒れ意識を失った。



 ゲームを始めて約3時間。発した言葉のうちの殆どがえずきと悲鳴ですが、僕は元気です。



 ー・ー・ー




 パチパチと音がする。

 拍手ではなく焚き火の音。去年作った焼き芋をふと思い出した。


「あ、起きた」

「……どうも」

「……さっきは刺してごめんね。まさかプレイヤーが埋まってるなんて思わなかったんだ」

「いえ、こっちもバカみたいなことをしてごめんなさい」


 相手は素直に謝れるモラルと良識のあるめっちゃいい人でした。少なくとも暗闇の中不意打ち気味に驚かすなんて外道なことをしないくらいには。


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