26ギャップ萌え
「ギアリー、どうやら私達はやっちまったらしいです」
「なに、やっちまったのか?」
「はい」
現実時間で金曜日の深夜12時位。
待ち合わせしたカフェの中で声を潜めて話し合っている。
本来はイベント当日に待ち合わせをするはずだったのだが訳あって急遽僕たちは集合していた。
「なにをやっちまったんだ?」
「これを見て下さい」
コノカが弾いて見せてくれたウィンドウには、イベント関連の情報を見るのに何度も開いた運営のサイトページが映し出されていた。
「これがどうしたんだ?」
「ここをタップして見て下さい。私の驚きを共有したいので」
ん?なんだこれ。サイトの隅の方に他とは違う色で象られたリンクがある。……『今週の一枚』?
よく分からないが言われた通りにタップして見る。
フォン、と軽快な音を立てて新しいウィンドウに表示されたのは一枚の写真。
写っているのは、僕がギルド前の人だかりから出るために大きなヒビを出しているあの時の光景だった。
大きなヒビを出すために大きく右腕を払っている僕の顔はフードを被っているせいで右眼の部分以外は影になっていて見えない。そして、唯一見える右眼、つまり歯車が犇くそこは右手の先から空間を割くようにして現れるヒビのスパークを反射して怪しげに光っている。
……わーお。
「……これは、一体なんでありんすか?コノカはん」
「これは、『今週の一枚』と言って運営がユーザーから集めたSSやムービーの切り抜きから選んだベストショットです」
「……」
「つまり、お前が1番や、ということです」
な、なんということだ。こんなサイトがあったなんて。
「……このページの認知度は?」
「まあ、それなりに高いですね。ここに載った写真がゲーム宣伝に使われることもありますので」
そうか、と言うことは僕の子の写真もテレビかなんかでみる時が来るといるのか?……おいおい、それじゃあよぉ。
「おいおい、それじゃあ、僕のファンが増えちゃうじゃないか!」
「おっと、そうくるとは……予想してましたね。ギアリーのクズみたいな性格の一部を知った時、そのファンからリスキル食らうとかまで想像できました……けど、ギアリー。私が言いたいのはこんなどうでもいいセンターに映るナルシストのことじゃないのです。見て欲しいのはここですよ!」
でしでしとテーブルをたたいてい一点を指すコノカ。指された先には小さく写るコノカとシルル。
「私たちも写っちゃってるじゃないですか!!しかもギアリーと違って若干顔見えちゃってますし!!」
「別にいいだろ?どうせあの時いたやつはもう知っているんだし」
「ギアリーは呑気すぎます!いいですか?このサイトは全都市共通サイトです。つまり私達は全国デビューしちゃったのですよ。シルルも私も目立つのはごめんです!」
「そうだけどさぁ……」
そうは言っても僕にはどうすることもできない。このゲームは一部用途に限りフレンド登録していないプレイヤーのSSが許可されている。こうやって堂々と運営サイトに載っているということはこれも許可された事の一つなんだろう。
だとしたら、そのことも承知の上でプレイしている僕らには何も言うことができないことになってしまう。
「運営に取り消してほしいとか言ってみた?」
「いえ、利用規約に同意したのでクレームはお門違いと思い言ってません。けど、だからこそなんです!」
「クレームと要望は別物だろう?そりゃ行きすぎたら同じ迷惑行為だけど、お願いするのはタダなんだから言っみるだけ言ってみたらどうだ?まぁ、あんだけ小さいなら見るやつなんてあんまりいないと思うけどな」
ふむ、とコノカは小さい手をあごに当てる。
「……そうですね。ならシルルにも聞いて見て判断します。けど、この羽織物も換えないとダメでしょうか?好きだったんですけ、随分と多くの人に見られちゃいましたし」
「……いや、別に変える必要はないんじゃないか?変に周りを意識しすぎてもそれ自体が目立つ原因になっちゃうし、なによりもそんなに他人を気にして好きなもの捨ててたらゲームが楽しくないだろ?」
「む、確かに一理ありますです。それに今回のイベントで、先輩方が有名である以上、注目されることは必至。……んむぅ、苦渋の選択ですがここはギアリーに捕まった私が悪かったと思うことにしましょう!」
「おい、さらっと僕のせいにするな」
「ふふふ」
口に余らせた若草色の袖を当てて微笑むコノカ。ふにゃりと目尻が下がり頰が染まったその表情は心の奥底をくすぐるような破壊力があった。
……頰を染める?笑顔にしてはふにゃっとしすぎな気がするな。
……ん?いやまて。これは相好を崩した、と言うよりかは寝起きと寝る前によくみる寝顔のような笑顔のような判別つかない表情に近いぞ?
もしかしてコノカ、眠いのか?いや、まあ可愛いのには変わらないけど。
僕は萌え心から顔を緩めたり合わせた目を背けるのは男の名折れと思い、そんなコノカ目を見つつ踏ん張って声を出す。本来の目的について話し出す。
「……で、イベントの参加登録にはいつ行くんだ?」
「そうですね、シルルが来たら……ってなんでそうんなに苦悶の表情を浮かべているのです?お腹でも壊しましたか?」
踏ん張っているからです。
「……なんでもない」
「そうですか?ならいいのですが。……それにしても前日までイベント登録をしてないって中々ないぽかミスですよね」
「まぁ、ミスって言っても不幸中の幸いというかなんと言うか、ジャー坊達が仮登録はしてあるから本人認証をしに行くだけだけどな」
「ミスはミスですよ。……それにしても、シルるん遅いですね」
待ち合わせは深夜11時50分。もう既にゲーム内で2時間は待っていることになる。よく見ればコノカもしきりにあくびを噛み殺しているし、もう眠そうだ。
「眠いなら寝てていいよ。シルルが来たら起こすから」
「……そうはいきせん。私たちの友情をなめないでください!シルるんのためなら火の中風の中吹雪の中どこにだって行ってみせますよー……ふわぁ」
いや、何しに行くんだよ。とか突っ込む前にあくびしちゃってるし。まぁ、イベント申し込みまでまだ時間はあるし止めようとは思わないけどね。……念のためいつ寝てもいいようにコノカの前から食器は片付けておくか。
僕は会話がやんですることがなくなり本格的に睡魔と戦いに挑み始めたコノカを横目に店員さんを呼ぶのだった。
ー・ー・ー
結局シルルがやって来たのはコノカが夢の中へ行ってからさらに1時間が経った頃だった。
……やっぱりゲーム内時間12倍ってのはやりすぎじゃないか?よく考えたら、うっかり1時間間違えてたなんてよくある事も、ことこのゲームに関して言えば待たされている方は実に半日も待ちぼうけを食らうことになるぞ。
この方色違い、というか素材違いの羽織物のフード被った少女はこちらを見つけると、とたたたたーっと駆け寄って来て腰を90度に曲げた。
「……ごめん、まった、よね?」
「3時間くらいな」
「……」
「いや、そんなに目に見えて落ち込まなくても。……今思えば全員揃ったところでカフェに集合すればよかっただけの話だけだしな。今度からは気を付ければいいよ、お互いな。……ほらコノカ。シルルが来たぞ」
ゆさゆさ、アイアンクローのように頭を揺らす。意外と毛量あるな。
「あ、ああ〜ギアリーの頭が禿げますー」
「ちょっと待て!なんで僕の頭皮が犠牲にならなければいけないんだ!」
まさかコノカの頭皮のダメージは僕が自動的に負うことになるのか?!なんだその嫌すぎる局所的盾職。
「……ついでにブサイクにもなりますー……むにゃむにゃ」
「ダウト。もう起きてんだろ……てへっ、じゃない!」
コノカが珍しくボケかますからシルルが戸惑ってるじゃないか。これが文字通り寝ぼけと言うやつか。
「シルるん、随分と遅かったですね。お陰でギアリーと2時間も話してしまいました」
「……本当に、ごめん」
「ちょっと待って下さいません?お二人さん。なんでコノカは僕との会話が罰ゲームみたいな言い方したの?シルルもここに来て『本当に』ってつけたのってなんで?」
おかしくない?僕の扱いおかしくない?段々雑になるは待遇。僕、渾身の短歌。
「冗談です」
「……」
いや、冗談なのはわかっているけどさ。男に貶されても本気かどうかはすぐに判別つくけど、どうも女性にこういう類の冗談を言われると困る。
僕は冗談の奥に隠した本音まで疑って気になっちゃうタチなのだ。
コノカが僕のそんな葛藤など知る訳もなく、ごしごしとつい落ちてくるまぶたを擦り上げる。
「揃いましたし行きますか?それともまだ休みます?」
「あー、シルルはどうする?少し休んで行く?」
「……ううん。早く行こう。今なら空いてると思うし」
カフェの指す時間は深夜1時と少しを過ぎたあたり。イベント前でなかったらギルドはもうとっくに閉まってる時間だ。
「なんというか、夜のギルドというのはワクワクしますね。早く行きましょう」
「夜のギルドか。ホラー系のハプリングが起きたら遠慮なく頼りにしてくれよ」
「怖いのは、だい、じょーぶ」
「いえシルル。ギアリーはそんな純粋な心配なんてこれっぽっちも……はふぅ」
「……ねむい、の?」
「ええ、少し。今日はリアルの方が色々立て込んでしまいまして。疲れていますね」
「俺の胸で寝てくれてもいいんだぜ、ハニー」
「あーはいはい。疲れたらよろしくお願いしますねー。あ、お会計お願いしまーす」
「……」
あらやだ、冷たい。
あっ、そうだ。冷たいと言えば最近急に冷え込んだからみんなは風邪ひかないように気をつけるんだぞ。お兄さんとの約束だからな!
「なに、隅に固まっていじけてるんですか。本来ならセクハラでGMコールものの発言を不問にしてあげたんですからむしろ感謝して下さい」
「シルルえもーん!コノカが冷たいー!」
「暑い、気持ち悪い」
「酷いっ!」
分かってるよ!自分でも気持ち悪いと思ってるよ!けどしょうがないじゃん!テンションがばり上がってるんだから!
「なんでそんなにテンション高いんですか?もう深夜なのに」
「深夜だからこそだ。……あと、……………だし」
「ん?なんですか?」
「ん゛ん゛っ!なんでもないっす!」
僕が小声で呟いたのは『女の子と話せるから』なんて言わせんなよ恥ずかしい!って言葉。そんな、青臭くて実に思春期らしいうじうじとした理由なんて二度と言いたくないわ!
「俺たちに、会えたから、だって」
「ちょちょーい!シルルさん!?」
なんでバラしちゃうの?!そっとしまっといてよそこは……。
そして案の定シルルの言葉を聞いた瞬間ニヤニヤし始めるコノカ。
くそぅ。やめろぉ!そんな目で見るなぁ!……あー、くそ。僕はどうせ女の子との付き合いなんてここ以外ないような人間ですよ!そんなしょうもない理由ですみませんね。
マジで、生暖かく見守るなぁ……!
「さて、そろそろ行きますか。……それにしてもそんなに私たちと会えて嬉しいなんて友達冥利につきますね」
「……お腹痛い?コノカの顔、苦し、そう」
「いえ、なんでもないです……ぷふぅ」
知ってるよ!踏ん張ってんだろ?!そのくだりもうやったから!つーか、堪えきれてない!
「ほらもう行くぞ!先行ってるからな!!」
遂に2人の顔を見ることすらできなくなった僕は捨て台詞のようにそう言って早歩きで店を出た。
ー・ー・ー
「……どうして、苦し、そう?」
「ギャップ萌えですよ。肉食系ヘタレなんてそうそう見られるものじゃないですからね」
「……顔、赤い」
「……踏ん張っているんだよ」
「……?」




