25平日〜3〜
ギルド内では武器屋・防具屋・道具屋といった冒険に役立つものを扱う店が全て集中している。
それらは普通なら、露店やプレイヤーズショップとして街中に出ているものなのだがシメイヨツノにおいては領主様の『街中に殺伐としたものを置くと街の雰囲気そのものが殺伐としてしまう』という考えから街中での販売を禁止されていた。そのせいで、民の危機管理が他所に比べて杜撰だったり、財政が他所よりも複雑なものとなっておりその手の事を扱うこととなったプレイヤーは鬼畜難易度過ぎると頭をかかえるのだが、それは別の話。
そんな訳で僕はギルド内に多くある武器屋エリアの店の一つ、《彷徨ノ堕天使ノ翅寝》の隣のお店、《武器屋・微睡》に入ることにした。NPCと下手に関わりを持つことに忌避感があったためプレイヤーズショップで武器を選ぼうと思ったのだが、プレイヤーズショップの店名は店名の意味をなしていないようなものが多く、その中で唯一《武器屋・微睡》が店としての体裁を保つ名前のお店だったためだ。
具体的に言うと《彷徨ノ堕天使ノ翅寝》の隣の店名は《地雷原》、《武器屋・微睡》の反対隣は《乳世界》だった。セクハラやめぃ。
リリーのネーミングセンスがこの世界では良かった方であることに戦慄を覚えながら店に入って見ると、店内は名前に比べるとずっと普通の武器屋だった。
勿論普通、といってもリアル世界に武器屋が堂々と店を構えているわけがないので、僕のイメージ通りの店内であった、ということだ。
カウンターが奥にあり、店内は中心にガラス張りのショーケースとそこに入れられた何点かの武器。壁には乱雑に掛けられた剣や斧が並んでいる。そして、初心者用とみられる粗雑な武器は一まとめにして部屋の隅にある樽に突っ込まれていた。
「いらっしゃい」
奥のカウンターにいるプレイヤーが声を掛けてくれる。
人がいたことに気付かなかった僕は一瞬びくっと肩を震わせて奥の方に目をやった。
そして見えたプレイヤーは、なんというか、半透明だった。
顔も、手も、服さえも半透明だった。
「あ、はい。えっと、武器を探しに来たんですが」
「でしょうねぇ。どんな武器をお探しで?この店は主に近接職用の武器を扱っていますよ」
「相談に乗ってもらっていいですか?今度のイベントで使いたいので慎重に選びたいのですが」
「もちオーケーだよ。ウチのモノを使ってくれるなんて嬉しいねぇ。出来れば優勝して宣伝しておくれよ」
「あはは、頑張ります。で、相談なんですが」
と、カウンター越しに僕はここに来た理由を話した。新しい武器が欲しいこと、少し長い距離の間の攻撃に対応できるようにしたいことなどだ。
半透明のプレイヤーは、うーん、と顎に手をやり悩む動作をした後に口を開く。
「えーと、名前はなんだっけ?」
「ギアリアです」
「ギアリアくんね。僕は福 流。生産職一本でゲーム内時間3年やってます。いわゆる第一陣プレイヤーですね。主に扱う武器は初心者から中級者用のもの。あとは数回だけだけど、トッププレイヤーの武器も作ったことがあるよ」
「頼もしいっすね」
「いやぁ、それ程でも。さて、相談のことなんだけど……ギアリアくんってパーティメンバーはいる?」
「あっはい。刀と、支援系魔法と、あとは棒から灘位の範囲に対応出来る武器ですね」
「結構バランスいいじゃん。なんで新しい武器欲しいの?足りないのは遠距離や盾職業位のもので、中距離はもういらないと思うんだけど」
両肘をついてリラックスした様子の福流さんはニコニコとはにかみながら聞いてくる。
「えっと、僕の武器って、結構重いし、デカイし、その割には長さがないんですよね。言っちゃえば振り回せて切れ味のある盾みたいなものなんです。だから、みんなと同じように戦えるようになりたいなぁ、と思いまして」
「タンクの役割はできるの?」
「いえ、無理ですね」
「武器って見せてもらえる?……大丈夫、その武器ってアナザーワンなんでしょ?口外しないからさ」
「はあ。……いえ、分かりました」
僕はもう勝手知ったるといった調子で背中に手を伸ばして背中に開けたヒビの中から断罪の歯車を取り出した。背中に出したのは調節できるようになったとはいえまだ火花のエフェクトは小さいながら出るため、店主を驚かせないようにするためだ。我ながら粋な気遣いといってもいいと思った。
ゴトン、とカウンターに出した歯車を見て福流さんはビックリしたように目を見開いた。
「リング……トンファー……いや、双剣?」
「よく分かりましたね。流石武器屋さん」
「いやいや。……しかし何というか、また意外なものが出てきたね。確かにこの武器じゃあ、他の種類のものが欲しくなるかもしれないね。この武器じゃあ使える時が限定されすぎちゃうよ」
「そんなんですよ!当てれば強いんですが当てるまでが大変で!しょうがないから不意打ちばっか狙ってたら仲間にセコイとか言われる始末ですよ!」
補足すると、言ったのはシルルである。あの子、見た目と性格の割に口が元気過ぎんのよ。シルルに会った当初こそデレデレしていたリリーもシルルと過ごす時間が長くなるに連れて分かりやすく顔が引きつっていたもの。いやぁ、傑作でしたわぁ。ナイス!シルル!
「そりゃぁ、災難だったねえ。よし、そんな可哀想な初心者にお兄ちゃんがいっちょいい武器選んでやるだっちゃー。そうと決まれば所持スキルと所持金教えろにゃー」
ふんす!と意気込んでくれるのは嬉しいのだが、僕は知ってる。この人はこいつでしばらく暇つぶしをしてやろう、あわよくば高額な武器を押し付けてやろうと考えていることを。見ろ、その証拠に奴の左手はマネーの形に、右手は逃さんと強く僕の肩に食い込んでいるではないか。
思えば、こんなフリーダムな店達の中にある店が普通の接客をしてくれるわけがなかったのだ。
僕はふと頭をよぎった逃げるという選択肢を諦め、少し低めに見積もった予算を彼に告げるのだった。
ー・ー・ー
るんるんと武器屋内をスキップする福流さんに気怠げな声をかける。予算を告げてから実に10分近くが経っていた。僕は貸してもらった椅子に腰をかけている。
「あのー、まだですかー?」
「あとちょっとー」
「それ五分前にも聞いたんですけど。というか他のお客さん来たらどうすんですか?メッチャ散らかっちゃってますけど」
張り切って選んでくれるのはいいのだけれど、樽の中身をひっくり返したりしているから床に無数の武器が散乱してしまっている。
「他のお客さん?来るわけないよー。だってもうブーム過ぎちゃってるし。正直このゲーム、中級者から上級者に掛けてだけを言えば武器とか防具の自給自足がある程度できちゃうからねー。暇暇の暇なんだよ」
「……」
そう悲しいことを言われちゃうと何も言えなくなってまうじゃないか。僕は口をつぐむと、これまでの10分と同様に無意味に顔の歯車を回す作業に戻った。
「あっ、そういえば、ギアリアくんのスキルはリングのみだっけ?」
「あ、はい。一応【工学】と【魔力操作】がありますけど、使ったことはないですねー。本当はスキルの取得ができればいいんですけど、やり方がわかんなくて出来ないんですよ」
「あー、スキルの取得ねえ。新しく取れるのは転職の時と、イベントくらいだからね。それは諦めたほうがいいよ。けど、ふーん。魔力操作、工学ねえ……。リングはこの前のお客さんがそれなりに落としれくれたからあるけど、それじゃあギアリアくんの要望に合わないし。……予算もうちょっと増やせない?」
「……少しなら」
「どの位?」
「2割り増しで」
「4割」
「……。防具を諦めればなんとか」
「よし!!防具は僕が用意することは絶対にありえないけど、その分面白、もとい、高品質なものを提供しようジャマイカ!」
そう言って壁から取り、持っていた武器を僕に突きつける福流さん。普段なら『最悪だよ!』とか突っ込んでいるところだけれど、僕は何も言わず黙っていた。
何故かって?
それよりももっと驚くことがあったからだ。
何かって?
福流さんの頭から地面にかけて一本の槍が刺さっていたのだ。
「ちょ!福流さん!頭頭!!」
「ん?あぁ、また刺さっちゃったか。どうも僕は武器の扱いが下手でねえ。こういうことがある度にアナザーワンが武器型じゃなくて良かったと思うよ。自分の可能性で自分の可能性を殺してたら世話ないからねー。あははー」
「え、えェ……」
ズボッと頭から槍を取ると手に持っていた武器共々その辺にポイ捨てすると福流さんは僕のいるカウンターへと歩み寄る。その間も床に落ちた武器を遠慮なく踏んでくるもんだからとばっちりが僕に来ないかと座りながらも腰が引けてしまう。
「いやぁ、ギアリアくんはお金持ちだねえ。今の状況じゃどんなに頑張っても一週間はかかりそうな金額を予算に提示したと思えば更に4割も上乗せしてくれるんだから。これならもう1割くらい上乗せしても良かったかな?」
「……まぁ、ここ数日泊まり込みで狩りをしてましたから。ていうか、もうこれ以上は無理ですよ!」
あのキャンピングは思い出せば出すほど凄まじかった。キャンピングライフはともかく、修行パートが女子とやるもんじゃねえと何回思ったか分からないくらい集中力を要した。
シルルの修羅への道に付き合っていた時なんかは1対多数は当たり前のようにやってたしなぁ。格上相手に。あれに勝てたのはどう考えても、ウンディーネ大妖精さんによる戦闘操作のお陰。あの妖精、シルルが死ぬことを断じて許さなかったからな。
「さて、結構なお金も貰ったし、僕頑張っちゃおうかな」
「何するんですか?もしかして、新しい武器を作って貰えるとか?」
「あはは、やんないやんない。面倒くさいし」
……こいつ。
「まあ、当たらずとも遠からずってやつ?生産職ならまあ誰でも出来るようなことをやるだけだよ」
「?」
「あはは、合成さ」
福流さんはステータスウィンドウから何個かのアイテムを取り出した。
ゴトゴトゴトゴト!
木のカウンターに当たりそれらは大きな音を立てる。
「右からリング《晦》、リング《コミ・マスティギオ》、双剣の片割れ《怪刀・R》、首飾り《安定塊の首飾り》、籠手。そしてこいつが両手斧の《おもち4号》だ!」
「ちょ!何変なもん混ぜようとしてるんですか!!僕のお金をドブに捨てる気ですか?!」
「ノンノンノン。いいかい、ムッシュギアリア。そのお金は君のものではない。僕のものだ」
「げげげ、下衆ぅぅぅう!」
「それに、だ。このおもち4号はただの斧ではない!」
これまでにない気迫を(無駄に)だして福流さんは断言する。
「これは、僕の思い出だ!!!」
「は?」
「あれは忘れもしない初めて三ヶ月のことだった。なかなか売れない武器たちに嫌気がさして、クセの強い武器をひとまとめにして合成したところできたのだ。そう、こいつは僕の試行錯誤の結果の集大成なのだ!!」
「いやいやいや!」
僕は顔の前で手をいやいや振り振りと動かす。
「つまり、このおもち4号って言っちゃえば灰汁の集合体ってことっすよね?なんつーもん入れよーとしてくれてんすか!!」
「何を言う!この価値は実に数百万だぞ!」
「そりゃあ、試行錯誤全部詰め込んだらそうなりますよね。なに飽きたソシャゲの強キャラをスライムの強化に使うみたいなことしてるんですか。完全な自業自得じゃないですか」
「……まぁそうだよねー。けど、入れちゃっても良くない?正直名前も合間って売れる気配全くないし。見た目ただの斧だし。かといってスペックもそこまでいいわけじゃないし。正直二束三文なんだよね。いやぁ、合成って怖いわぁ」
ね?ね?お願い?とやけにしつこい福流さん。……。
「何か隠してますね?」
「へっ?!い、いや、なにも隠してないよ!」
「正直にいったら許してあげなくもないです」
「実はこの斧の詳細は鑑定すると『武器合成すると……?』って書いてありますのです!!」
「へい!ボーイ!却下だ!」
「えー!正直に言ったじゃんー。ダイジョーブだって!このゲームの武器や初めての利用者は必ず通る道なんだって!ほらこのスクショ見てよ!!」
……うわ、なんだこの呪われた写真群みたいの。福流さんの隣で武器を持つプレイヤーの写真の筈が、福流さんと目の死んだプレイヤーと馬鹿みたいな形をした武器のような何かの写真になってるし。
「……この伝統いらなくないですか?」
「え?なんでさ!楽しいじゃん」
いや、楽しいのはお前だけだよ。心の中でなけなしの金をはたいでゴミを買ったプレイヤーに合掌する。
「待って待って!それじゃあ、僕がゴミ押し付けているみたいじゃん」
それ以外になんと表現しろと?
「成功例だってあるんだよ!というかむしろその割合の方が大きいんだよ!」
そういったぐいーっと別のスクショを押し付けてくる。
そこには、やはり福流さんとプレイヤーと武器が写っていた。プレイヤーも写真に緊張しながらもそれなりに笑っており、武器もなかなかに立派だ。
手裏剣をシュシュシュと投げるように掌同士をこすりながらスクショを放出してくる福流さんを止めると、僕は質問してみる。
「このおもち4号を使った時にネタ武器にならない可能性をパーセンテージで表すとどのくらいになりますか?」
「100パーセント!!……引く75パーセント」
おおい!一気に半分切ったんだけど!
「……今回はやっぱり遠慮しときます。また今度来た時にそれを使ったもの注文しますから……」
「……えー、やっぱだめ?」
「はい」
「んー、分かったよ。じゃあ合成始めるね」
と、これまでと比べるとあっさり呆気なく諦めると合成のためと思われる詠唱を始めた。
「混ぜまーす。……【繋ぐ者ここにあり。繫ぐ物ここにあり。円環軌道に乗りし無数の粒子が交わる事なかれ。直線運動から降りし光子が跳ねる事なかれ。無数の理が混じる時、私の心は開かれん。対象《晦》《コミ・マスティギオ》《怪刀・R》《安定塊の首飾り》《ファンタヴァ》
………………《おもち4号》」
「ちょっとまてえええええええええいいぃ!!!」
「あはははははーー!!混ざれええええぇい!!】」
ペカー。輝かしいエフェクトと共に光り1つにまとまっていく武器たちを見ながら僕はうわあああああと叫びながら、在庫処分と好奇心を満たすという2つの目標を達成しホクホク顔であははははは!と声を高らかにあげる福流さんへと飛び掛った。
ギアリア・トゥカタリオは知らない。お隣のお店、『彷徨ノ堕天使ノ翅寝』と『乳世界』が「またやってるよー」と呆れ顔でそのやり取りを聞いていることを。
シメイヨツノのギルド内ショップの店名は店主の性格と反比例している。
このゲームをちょっとでも調べた者は全員知っている常識をギアリア・トゥカタリオは知らなかった。説明書を読んだという慢心から更なる情報収集を怠ったのがここに来て災いとなって降りかかったのだ。
オンラインゲームの恐ろしさは説明書には書いていない。
これは何時の時代でも同じである。




