24平日〜2〜
本当に面白いくらいに面白い人が集まってくるな。
僕は遠い目で思った。
「お兄ちゃん、どうかしたんですか?」
「うん、どうかしたんだよ」
「えー?なになにー?教えてほしいなー?」
「えっとね、ゲームを始めたと思ったら見た事もない人が突然大声でドッキリしかけたと思ったら、無表情でお兄ちゃん呼ばわりしてきたんだ。しかも、タッパはほぼ僕と同じ高さなのにだよ?」
「身長関係ないし!大事なのは血と心だよ!!」
「どっちも繋がってねえよ」
一体なんだっていうのか。
道路で青リンゴを持ち上げて下ろしただけで妹が出来たぞ。いくらなんでもロールプレイにしたって行き過ぎだろう。僕は、他人と違う事といえば高校生で一人暮らしを営んでいる事と、顔に傷がある事ぐらいで感性はごくごく一般的なありふれた高校男児なんだぞ。こんなラノベ展開受け入れられるか。
「というか!その仮面なんだ!!」
「その辺で買ったハロウィン用のお面です!」
「ハロウィンは半年も先だ」
「その位は知ってます。ただ、お兄ちゃんをびっくりさせたかっただけなんです!」
嘘つけ。僕は君と会う約束を一切した覚えがないぞ。
「まあ、その呪いのアイテムはどうでも良い。……それよりも僕がお兄ちゃんだって?」
「はい。違いましたか?」
「違います」
「うっそだぁ。確かに今のお兄ちゃんはフードを被ってますが、私にはバレバレですよ?だってお兄ちゃんのこと何年も見てきたし。その体型ですぐわかっちゃったし」
「いや、初対面ですから。初顔合わせとですから。体型で分かっちゃうってもう家族並みの付き合いじゃないか。ああ、いやここで『だからお兄ちゃんって言ってるじゃん!』みたいな台詞は求めてないから言うなよ?」
「凄いです!!以心伝心です!!やっぱりお兄ちゃんなんでふね!!」
しまった!裏目に出たか!あと噛んでるぞ。そんなに興奮してんのか。
……あれ?けどその割には微表情なんだけど。
「ふっふっふ。信じてないならお兄ちゃんの恥ずかしい秘密を言っちゃいますよ?」
「な、なんだと……?!そんなことが!」
僕の反応に満足したのか微表情系少女はニヤリとし、ズビシと僕を指差すと大声で言った。
「お兄ちゃんは変態です!」
「ちょっと待て!公衆の面前で何を口走りやがるでふか──!」
噛んじゃったよ!いやお前も、むふふん、じゃないくて!
なんて酷く、抉く、そして悍ましいことを言いやがるんだ!僕が変態だって?!言いがかりも良いところだ!!
「お兄ちゃんは変態です!」
「あ、このヤロ!二回も言いやがったな!!良い度胸だ!良いだろう!その良い胸を差し出せ!揉んでやる!!」
「あれ?なんでしょうか?突然『ハラスメントコード』と書かれたウィンドウが出てきました」
「すみませんでした!!」
前にもこんなことがあったような。あの時もハラスメントコード出てたのかな?あはは。
「全く、お兄ちゃんは昔から変態さんなんですから。『いつか僕が完全変態したらまず捕食してやるからな』って言ってたの今でも覚えてますよ?」
「えぇ?!僕そんなこと言ってたの?!えぇ?!マジで?!」
あまりに驚きすぎて?!がバカみたいに4回も続いてしまった。
「言ってました。えぇ言ってましたとも!私は全部覚えてますよ!だって私は妹だから!!」
大声でかまされる妹宣言。彼女のロールプレイに並ならぬ妹願望があるのは理解できたが、いかんせん余りにも印象が悪すぎる。僕からも、彼女からも。これで双方がロールプレイに乗ろうもんなら片や度を越した変態。片や度を越した変態《ブラコン》と昼ドラ、もしくはアメリカンホームドラマ一直線になってしまう。認めんぞ!僕はハードボイルド路線で行くんだ!
「まだ、認めませんか?」
「そもそも相手にしてないんだけどな」
「……むぅ。お兄ちゃんはお兄ちゃんなのに。……お兄ちゃん。お兄ちゃんは私のお兄ちゃんをやめちゃったの?」
お兄ちゃんがゲシュタルト崩壊だ。
しかし、きょとん。とした目でこちらを見られてもこればっかりは仕方がないのだ。なんせ僕は人形。製作者まで明記されている無機物である僕に妹ができるなど、可能性はゼロに近い。それこそ、彼女が姉妹機とかでない限り。
それから1分近く洗脳のように続くお兄ちゃん攻撃に無言を貫いていると彼女も不安になってきたのか段々オロオロしてきた。
「……え?嘘?私がお兄ちゃんを間違えちゃったの?」
そう言いながらふらふらとした足取りで僕に近づいてくる。怖っ。
僕がどうすべきか悩んでいるうちに彼女は目前に迫り、その距離はゼロ距離になる。
「顔見して」
ふわり。やんわりとフードを上げられる。燕脂のラインが入ったフードは彼女の細い指によって持ち上がり僕の顔は遂にお天道様の望む所へとさらけ出されてしまった。僕 は彼女の反応が気になり恐る恐る顔を上げる。
「あはっ」
うん、笑っている。落胆するどころか逆に安心したように笑っている。
「やっぱりお兄ちゃんじゃん!驚かせないでよね、まったくもぅ。そういうとこ相変わらずなんだから!」
「……いやいやいや!というか、よくこの顔を見てお兄ちゃんであると判断できたな、おい!」
困惑で顔の歯車が止まっちゃってるよ。
「うん!私が家族の顔を見間違えることなんてありえないもんね!青ちゃんも絶対お兄ちゃんだって言ってくれると思うよ!……ねぇ、青ちゃん?」
「……そうですな」
足元から声が聞こえる。
正確には、足元の青リンゴから声が聞こえる。
……なるほどね。今度はそうきたか。だんだん驚かなくなってきたよ。僕はもう突然妹ができたって、青リンゴが親しげに話し始めたって驚かないんだから!
「足元から失礼。……初めまして、とでも言いましょうか。私、青リンゴの『青リンゴ』と申します。お嬢には青ちゃんと呼ばれております」
「青ちゃんは私のアナザーワンさんなんだー!けど、何ていうか、『アナザーワン』って言いかたあんまり好きじゃないんだよねぇ。無機質な感じがしてさ」
「うんうん、そうだよね。けどもうちょっと待ってもらえない?まだ全然前の話題が終わってないからさ」
「そうですぞ、お嬢。そもそも名乗りもせず初対面の方にお兄ちゃん呼ばわりは失礼かと思いますぞ」
「初対面じゃないもん!何年も一緒に過ごしてたもん!」
うがー!と床に落ちたリンゴを睨みつける少女。少女といっても僕と同じ年齢分くらいの身長はあるので、何んだか複雑な気分になった。アニメのキャラを現実で見たような気分と言ったら分かりやすいだろうか?
「あー、もうそれでいいですから。とりあえず、落ち着いてもらえませんか?」
「いえ、その必要はございませんぞ?なにせ、このお嬢、お使いの途中なのでな。道中の挨拶程度ならまだしも、話し込む時間など本来ないのです」
「イベント途中だったのか……。まぁいいや。なら早く連れてってよ」
「ははははは!……失礼。しかし貴方、何か誤解していませんか?私はお嬢の執事でも何でもありませんぞ。ただの青リンゴに何ができましょうか?」
僕はそっと手元の青リンゴを拾い上げ、空高く投げ上げた。
「……ぅうううううわああああああああああ!!!……ですぞ」
そしたら割と余裕な感じで帰ってきた。
そりゃそうか。何千年も前から、それこそ人類の祖が生まれた頃から落とされ続けている果物だしな。落とされ慣れているというものか。
「その通りですぞ。なんせ、私はかの有名なアイザック・ニュートン氏のお役にも立った由緒正しきリンゴですからな」
「なら役目を果たした用無しリンゴさんは早くウィリアムに撃ち抜かれろ」
「ははは!私は歴史あるリンゴですぞ?洋梨なんかと一緒にしないでくれたまえ」
「ははは、ニュートンリンゴはかつて疫病に汚染されていたらしいけど?」
「一時の過ちだ。小さい事を気にしていると大成しないぞ?チェリーボーイ」
「うるせえ、青リンゴ」
思わず目の前の少女に投付けてげてしまった。わっと声を上げて上手いこと胸元でキャッチした少女はよしよしと言いながら青リンゴを服の裾で磨き始める。
「んじゃあ、青リンゴも渡したから僕はそろそろ行くよ。……自称妹さんも、あんまり行きすぎたロールプレイは避けなよー」
「……むぅ、ロールプレイじゃないですのに。私ですよー?奏ですよー!」
「お嬢、時間はまだまだありますぞ。今日のところは退散してまた話せば良いではありませんか」
「そうしてくれ」
僕はぷらぷらと手を振ってそう言った。
「諦めませんからねーー!!」
彼女はその後、なんと数分もの間僕の目の前で粘った挙句青リンゴに宥め、言いくるめられて去っていった。
しかし、奏、ね。うん、全然聞き覚えがないな。どうやら本当に他人だったようだ。なら気にしていてもしょうがない。先を急ごう。金だけは前のキャンピングで稼いだんだ。イベントのためになるべく良い武器を買わないとな。
僕は、最後に側にあった桜の木をもう一度見ると歩いて来た道の続きを歩み始めたのだった。
ー・ー・ー
奏と名乗る少女と別れてからしばらく、初めて1人でこのゲームを歩いていることに気付いた僕は少しの寂しさを抱いていた。
せっかく現実ではなかなか見られないような綺麗な景色や面白い景色が多くあるのにそれを語り合う仲間がいないからだ。
例えば、家を巻き込むようにして根っこが絡む桜の大木や根っこ同士がからまり合い階段を作り出している裏路地。例えば、道路の脇に構える『良いロリ焼き』と書かれたお煎餅・団子屋さんにオークのケバブ屋さん。
1つの目線をやれば10の面白いものが帰ってくる中でツッコリあったり笑い合ったりする友達が居ないのは寂しいものなのだと思ってしまうのだ。
僕はどうやら1人ではいられない寂しがりやなのかもしれないな。
はてさて、歩きながらそういえばギルド内に武器とか売ってるお店があったなーと朧気ながら思い出してきたので、シメイヨツノというドーナツ型の街の中心を目指して本格的に歩くことにする。
僕の考える1番ゲームの王道ストーリーとして、裏路地を通る途中にギルドにはない高品質尚且つ僕の才能を対価に武器を譲ってくれるような武器屋さんがあるというものあるが、前話に述べたようにそんなものはなく呆気なくギルド近くまで着いてしまう。
しょうがないと僕は先ほど脱がされたフードを被りギルドに入ることにした。




