23平日〜1〜
第1章始まりという事で、所謂導入話です。
ですので少し短めですがご了承ください。
そうして、廿と壱の勇者は王となった。
彼等はコドク故に独りであり、コドク故に王となったのだ。
1人は、魔の理を掴む魔女となった。
1人は、創造の掟を破りし者となった。
1人は、体の万象を定義し概念となった。
1人は、時空の心情を解せし事象となった。
1人は、壱と零の狭間を知る孤独となった。
1人は、1人は、1人は、1人は、1人は、
1人は、凡百の勇を知る勇者となった。
物語のエピローグは、無血無常の物であり、
世界のプロローグは、有限有罪の象であった。
かくて私は謳い、所詮彼等は人間で、
だから彼は諦めず、所謂あの子は朽ち果てた。
私の役は私であったのだ───
「なーるほど、ねえ」
ベンチに座る彼女は手に持つ到底『手帳』とは言えない厚さの本をパタンと閉じると微かに口端を上げた。
ランダムというからどれだけ恐ろしいキャラクターを操ることになるのかと思っていたから、この姿は拍子抜けだったが、そういうことなら納得だ。
彼女は自分の幸運を噛み締めながら、しかしそれでも漏れてしまう喜びを押さえつけるように足をバタバタと動かした。
ステータスと手帳を見比べてはニヨニヨと笑う彼女は周りからの奇異の目など気にはせず、やはりニヨニヨと笑い続けるのだった。
これは、春のある日のこと。
鎌方 虚の初ログインからそう遠くない日付の黄昏時のベンチでの出来事であった。
ー・ー・ー
今日は、学校で数少ない友人にゲーム内での容姿を散々自慢して帰ってきた月曜日である。
僕は生体ナノマシンに送られてきた課題を終えるや否や、夕御飯、風呂、トイレ歯磨きを終えるや否やベッドに潜り込んだ。現在時刻は午後9時半。起床時間が朝5時半であることを考えれば実に4日以上遊べる計算となる。
僕は今日やりたいことを反芻しながらワクワクドキドキのログインをした。
【ปรัชญาworld'sδημιουργίαオンライン】が選択されました。
セーブデータを確認。バックアップの再適合をします。
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バックアップの確認をしました。
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安全機能確認、生体ナノマシンの異常なし。
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マザーへ接続しました。
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魂核表層及びコモンマインド波の転送完了。
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生体反応転写完了。視界表示異常なし。
・
それでは、哲学と世界の創造を、再開します。
『ログインしました』
簡素で端的なログウィンドウによる確認を了承しながら僕は体を起き上がらせる。そして、見慣れた宿屋のベッドの上からよいしょと降りる。横のベッドを見ればシルルとコノカが2人揃って寝ている。ログアウト状態のオートモーションなのかは分からないが、もぞもぞと動く彼女たちに対し軽く悪戯な気持ちが湧き上がってきたが、それもまあいつものことなのでその気持ちに封をすると特に何かをすることなく部屋を立ち去った。
今日は平日ということで彼女たちとは別行動の日なのである。
今僕がしたいことと言えば、ギア・ギア以外の装備を整えることと、レベリングだ。レベルが20を超えたあたりで急に上がりにくくなってしまったので、未だイベントのレベル参加上限であるレベル30まで届いてないのだ。リリーの情報によると、このゲームのレベルは2日3日に一回上がれば儲けもんくらいのもので、意図してあげる者ではないらしい。ゴブリンを1000匹狩ろうが、10000匹狩ろうが同じ事だから、とのこと。
すると、レベリングには多くのエリアを転々として多様な種のモンスターを倒す必要があるというわけだ。
つまり、必要なのは、どんな敵でも対応できるような装備。少なくともギア・ギアの有効範囲外を補える武器が1つ欲しいところだった。
そんな訳でVRモノ特有のガバガバ好感度を利用した武器屋でのガバ値切りとその武器のガバ性能によるガバガバ無双を妄想しながらシメイヨツノの階段街道を歩いてると、道路脇に不自然に木の実が落ちているのが見えた。
近寄ってみると、それは青リンゴによく似た何かだった。
街路樹の中にはリンゴの木はないので誰かが落としたものとみられるが、買った者をアイテムストレージに入れないプレイヤーがいるとは思えないので、おそらくこれはわざと落とした物と思われる。だとしたらこれは放置安定か?
取り敢えず拾うか。
合理的判断よりも好奇心。これは可愛いは正義に次ぐ世の中の真理である。
ひょい。と手に取ってみると、何の特殊アナウンスもなく取得表示となる。どうやらただの木の実のようだ。つまらん。流石に罠ではないと思っていたけれど、こうも端的にアイテム化されてしまっては釈然としないものがある。
……よし、元に戻しておこう。
ほかの誰かも同じ気持ちを味わうがいいさ。この厨二心をバカにしたような罠の味をさ!!
所有権を僕から外し、そっと街路樹の下に置き直した。
「これでよし」
パンパンと埃を落とすように手を叩き、僕は立ち上がる。
さて、先を急がねば。武器屋とかってどこにあるんだろうか?冒険者ギルドにでも行ってみるか?
「あーあーーあーーあああ!!!!」
うるさっ!
「お気付きになられましたか?」
そっと囁かれる。
声の発信源は僕の真後ろ。ビクッと思わずいからせてしまった肩をゆっくりと下ろすと、僕はこれまたゆっくりと後ろを振り返る。
清○義範先生的思考をしながら。余計なことをするなとか言わない。大事な事なのだから。
僕の予想だと、声のトーンからすると明らかに女子、もしくは男の娘。そして、第一声とそれに次ぐ声の落差からしてはっちゃけ系のパッション女子ではなく、一筋縄ではいかないミステリアス系女子だと予測される。近い性格としてはコノカだろうか。ゲームという事を加味して髪の色は緑系か、顔は無表情だろうか。いや、そうするとあの叫び声には違和感が残るな。いやいや、だからこその良さを主張させてもらうとしよう。僕との関係性は……考えなくていいか。
この思考、振り向くまでの0.3秒のものである。
清水大先生のようにパーフェクトに背景まで想像する事は叶わなかったが、僕の予想はたった!拝ませてもらうぜ!貴様の尊顔をよォ!!
振り向けば、髑髏。
「うひゃう!?」
「あははははははは!!」
カタカタカタカタカタ!と高速で下顎が動く髑髏を前にぼくは固まるしかなかった。
「あはははは。……びっくりしましたか?」
「……」
腰が抜けてしまった。ぼくを責める事はなかれ。だってまさかこんな街中にスケルトンがいるとは思わないだろ。驚かすにしたって悪趣味すぎる!!
「にひひー。ただの仮面ですよ」
そう言うと、ミステリアス系女子改めスケルトン女子は髑髏の顔面を手でむしり取るようにして剥いだ。
べりべりべり。めりめり。べり。
明らかに剥いじゃいけない何かを剥いだ音がするんですが。
「あ、ちょっと待って!皮膚が少し剥げたからポーションかける」
「あっ、はい」
後ろを向いて仮面の間にポーションを流す女性プレイヤーを前に僕はどうすればいいのか全くわからなかった。逃げたくても抜けた腰がそれを許してくれないのだ。
くそっ!なんなんだよ!青リンゴ1つにここまで期待した覚えがないぞ!
「……あー、染みるー。うわっ、グチュグチュしてきたー」
実況すんな。
「うわあぁ。ここがこんな風にくっ付いちゃうんだー。グロすぎ」
だから、言わなくていいって!
その後、数分にわたる細胞再生実況というどこに需要があるんだかわからない事態の末、仮面を取り外し終えた彼女は僕と対面してくれた。
しかし、そこから放たれた言葉は強烈に強烈を重ねたテニヌのようにインフレされたもので、僕は清水先生がここまで物語を予知できるかが気になるところだった。
「どーも、お兄ちゃん。元気にしてた?」
僕は一人っ子だ。




