21再開
登場人物が増えてきたことにともない、呼び方がややこしくなってきたので、先輩ズ→後輩ズと同期組の呼び方を書きました。
見方です。
呼ぶ人
→呼ぶ相手・呼び方
時子
→ギアリア・『ギアくん』
→コノカ・『コノカちゃん』
→シルル・『シルルちゃん』
→リリー・『仕立て屋』
→リメタナ・『考古学者』
リリー
→ギアリア・『ギアリア』
→コノカ・『コノカちゃん』
→シルル・『シルルちゃん』
→時子・『工芸家』
→リメタナ・『リメたん』
リメタナ
→ギアリア・『ギーくん』
→コノカ・『コノカさん』
→シルル・『シルルさん』
→時子・『工芸家』
→リリー・『蔵やん』
「ギーギー、コノカちゃん、お帰りなさい……」
大木の下へと戻ると申し訳なさそうにバーベキューセットを用意するシルルがいた。水妖精から与えられた休憩時間を使って用意してくれていたのだろう。
「ただいまー」
「ただいまです」
僕とコノカは戦利品をアイテム欄から取り出すと、金網の上に乗せる。火が点き熱せられた金網は音を立てて肉を焼いていく。弾ける油の音を聞きながら僕はふと浮かんだ疑問をコノカに尋ねてみた。
「このゲームって料理スキルあったっけ?VRといえばの定番スキルだから、ないってことはないと思うんだけど……」
「ありますよ。ただ、別になくても料理はできますけど」
「へぇ、じゃあ死にスキルってこと?」
「いえ、決して有用性のないスキルということではありません。あのスキルを持っていると、料理が一段昇華してバフ・デバフがつくようになります」
ドーピングか!確かに強化系アイテムはまだ見たことないなぁ。
「勿論調薬スキルや錬金スキルでも似たようなことができるらしいですが、空腹を同時に満たすことができるものとなると、やはり料理スキルが推奨されていますね」
「成る程なぁ。前やってたゲームだとさ、料理スキルを持ってないとそもそも食材アイテムに触れなかったから、こうして目の前で料理するのは新鮮なんだよな」
「そうですね。シルるんはお腹の空き具合はどうですか?そろそろリアルの方もお腹を空かせる頃合いだと思うんですけれど」
あれ?今ってリアルだと何時ぐらいだ?軽く暗算してみる。ログインから今は大体4日間が経っている。現実の14倍の速度で1日が過ぎるから今は現実時間に直して約7時間のプレイをしたことになる。始めたのが夜10時だから今は恐らく朝5時。
「……コノカ、お前婆さんみたいな生活してんな」
「怒りますよ?朝は5時に起床、夜は11時に就寝。6時間睡眠は生活の基本です」
「厳格な家庭なんだな。シルルはどうなんだ?」
「俺んちは……分かんない」
「へ?」
「……俺、独り……暮らしだか、ら」
独り暮らしかあ。大学以上の年だとまあ普通のことだしな。多分シルルもそうなんだろう。
「んじゃあ、あと半日したら一回ログアウトするか。コノカは朝ごはんが待ってんだろ?」
「そうしてもらえるとありがたいです」
「じゃあ、俺も……」
「おけおけ、僕も一回落ちて家のことやるから」
まさか、ゲームをしているのにこんなにも健康的な起床を果たすとは思わなかったが、あまりずるずるとプレイしていても脳の負担から生体ナノマシンさんにゲームをぶっちされてしまうので諦める。
今度遊ぶ時はどこかで待ち合わせようという話になり、次は現実の夜9時に先日も行った喫茶店『リーブ・スリープス』に待ち合わせることとなった。
「ついでに話すと、平日とかってゲームできるのか?コノカの家は今の話を聞くと、厳格そうなイメージがあるから厳しそうだけど」
「……あの、この生活リズムは私だけの物ですから、別に家族が厳しいとかはないですよ?誤解してそうだから言っておきますが」
「あ、そうなのか」
「……俺は、バイトある……」
バイト?!なんだろう、超失礼なのは承知で言うけど、工場で化粧水がポタポタ落ちるのを見るバイトをしているイメージしかない!
「バイトですか!凄いですね!ちなみに内容は聞いてもいい感じのやつですか?」
「……大丈夫、ただの喫茶店だから。注文とったり、してる」
まさかの接客業。3日間近く一緒にいるが、まさかそんなアクティビティなことをしているとは思いもしなかった。いや、しどろもどろとした喋り方はロールプレイの可能性は大いにあるんだけどさ。
「凄いですね!!もしリアルで会ったら声かけて下さいね!」
「リアルでとなると宝くじレベルの凄い確率だぞ」
「いいんです!言っておくことでフラグが立って会えるんですから!」
「フラグって……。まあいいや。じゃあ、平日はバラバラの行動でいい?」
「……ありがとう」
「いえいえ、無理してゲームはするものじゃないですからね!まあ、フレンドリストインしているとに載っていたら突撃しますけど」
「いつでもこいや!」
「あ、ギアリーじゃないです」
そんなー。
ということで、僕らは深く関わらない程度にリアルの話に花を咲かせて、焼けた肉を美味い美味いと頬張るのだった。
ー・ー・ー
「やっほー」
「ういーっす」
「やあやあ、久し振りだね」
昼ご飯を終え、バーベキューセットをしまった時、2日前、僕らを置き去りにして帰って行った先輩ズが3人揃ってひょっこり顔を出した。
「どーも、久し振りです」
久し振り、を若干強調して挨拶を返す。こんなところに放り込んで去って行った恨み、忘れたとは言わせないぞ。がるる。
「うん、元気そうで何よりだよ。死に戻りなんてされたら心が痛んだからね。安心したよ」
「おかげさまで楽しくやってましたよ」
「おいおい、そんなに怒んなって、ギアリア。何も、俺らは面倒くさくなってお前らをほっぽり出したわけじゃねえんだからよ」
「うるせえ、耳ひきちぎんぞ」
「怖っ!2日前より大分野生に還ったな」
「野生はお前の顔だよ。ミスター兎」
俺は1日目の苦労を忘れない。初心者だけで行うキャンピングはなんとまあ苦労したか。夜間にうろつくモンスターに対する見張りはどうするかといった悩みだけなら、まだいい。こっちとら火の起こし方とテントの張り方を探るところから始めたんだぞ。シルルは既に取り憑かれたように自らのバトルセンスを磨く果てしない旅へと足を踏み込んでいたから手伝ってなんて言える雰囲気じゃないしさ。こんな色素も明度も薄暗い森に初心者3人きりで取り残される気持ちを考えたことがあるのかって話だ。
「荒れてるね、ギーくん」
「まあ、苦労しましたからね。ギアリーだけじゃなく私もですが」
「俺、役に立たなかったし……」
どうどうと、頭をコノカとシルルに撫でられる。いかんな、こんなことで俺の怒りは和らがんぞ!!
「……ふわぁ……」
「男のトロけ顔ってどこに需要あるんだよ……」
「リリーさん!やっと落ち着いたんですから余計なことを言わないでください!」
「わりいわりい。んで、キャンピングに精を出してもらった後輩たちを迎えに来たわけなんだが」
「その前に、やっておこうと思うことがあってね。……工芸家、準備できた?」
がるる。僕達を獅子に例えて消えていった先輩こと時子さんは後ろの方で何かスモークがかったガラス瓶のようなものなどを弄っていた。
「オッケーだよ。久し振りだね!コノカちゃん!シルルちゃん!」
「……僕は?」
「……えっと、ギアくん!」
「今、名前忘れてませんでした?」
両手に抱えてきたのは大きな瓶とそこに付いたホースのような長いが管通った栓。時子さんはどさり、とシルルの足元に置いた。そして、シルルへと話しかける。
「元気にしてた?」
「……えっと、はい」
「うんうん、元気なのは良いことだな。んじゃあ突然なんだけど、ちょっくらアナザーワンを出しておくれよ。水は纏わなくて良いからさ」
戸惑いながらもシルルは例の木の棒を背中から取り外した。僕のAOとは違い一回出したらしまうことが出来なかったので、暫定的にシルルはそれを背中にツタを使って括り付けてている。ただ、棒が長く背負って歩くのが大変だからしまい方も考えなきゃな、と言っていた。
それはともかく、突然始まった一連の行動が飲み込めない僕は、何をしているのかジャー坊とリリーに聞いてみる。が、しかし『まあ、見てろって』で済まされてしまった。
男2人に習い、座って見ていると時子さんはペタペタと木の棒に一通り触った後、今度は水をなるべく一箇所に固まらせて出してくれとシルルにお願いする。出さなくて良いと言ったり出してくれと言ったりよく分からないな、とシルルも思ったようで、首をかしげながらも棒の片方の先に水球を出した。キャンピング2日目の午後に使っていたメイスタイプの形状だ。名前は忘れたけど。シルルのAOは名前が難しいんだよな。
時子さんは棒の先に集まるそれを見るや否や手に持ったホースを突き刺した。
「収集!」
すると、次の瞬間水球の水がホースをに吸い取られ大きな瓶へと入り始めた。
「コノカ……何やってるかわかるか?」
「わかるわけないじゃないですか。喉でも渇いたんじゃないですか」
「それだとホースを掲げて叫んだ時子さんがものすごい滑稽に見えてくるからやめて差し上げて」
「まあ、見ていろと言われたからには見ていましょう。時子さんの表情からしてなにやら腹に一物抱え込んでいるようですし」
「その言い回しといい、もしかしてコノカさん、時子さんを煽ってる?」
「いえ、ただ私も先日の時子さんの置きゼリフには思うところがあっただけです」
なるほどなぁ、といったところで水が全て瓶に閉じ込められた。シルルはえっ?えっ?とオロオロしている。時子さんは満足気に頷くと、ホースをしまい、瓶にちゃんとした栓をした。
「んじゃ、あとはよろしく」
「ありがとね、工芸家。次はボクの番だよ。……【生きよ】」
にゅ。とジャー坊の胸元からライズが顔を出す。ふりふりとぷっくりとして小さなおててをこちらに向かって振るライズにコノカは顔を緩めていた。どっちもかわいい。
「んじゃあ、頼んだよ、ライズ」
こくん。と頷くとライズはガラス瓶の前に立つとなみなみと揺れる水をガラス越しに触る。
『─────、───!」
小さな口を開いて何かを言ったが、それを聞き取ることはできない。その声色も、発音も、何もかも聞き取れずただ喋ったことだけがわかった。
「ライズの声はボクか、レベルが高い人か、聞くためのスキルを持つ人しか聞き取れないんだよ」
ジャー坊が注釈を付け加える。
しばらく聞き取ることのできないライズの声が辺りに響くと、突然瓶が震えだした。ジャー坊はそれを静観し、リリーと時子さんは悪そうな顔でニヤニヤとしている。シルルはコノカと僕のそばでオロオロとしていた。
「何でしょうか?あれ」
「……水妖精……」
震える水はだんだんと体積を減らし、纏まり、蠢き、何かの形を型作り、また崩れ、纏まりと繰り返している。
『──!───。』
そこから1分も経たない頃だろうか。固まっては崩れを繰り返した水塊は収まり、瓶の中には、1匹の小人形が鎮座していた。
……は?
「……ふう、うまくいったようね」
「だな。なかなか治んねえからヒヤヒヤしたぜ」
「まあ、これで第一関門は突破、といったところかな?」
それを見た先輩ズは物知り顔で頷きあっていた。……え?なにこの状況。
ー・ー・ー
「この瓶は、『奴隷瓶』という」
その後先輩ズから教えてもらった話は、2日前消えていった時から今に至るまでの行動だった。
何でも、シルルのAOが余りにもプレイヤーの行動を制限しているから、何かあるのではないかと思ったのがきっかけだという。シルルのAOが発現して暴走を始めてから1時間後、先輩ズは話し合い、どうにかしようという結論に至ったという。
「そこで、どうしようかとなった時に出た案がこれだったのさ」
「奴隷瓶に水妖精──でいいんですよね?──を閉じ込めて出荷ですか……。リリーさんもあくどい事考えますね」
「コノカちゃん?!何で俺だけなんですかねえ!」
「いや、リリーはあくどいんじゃない。悪なんだ」
「おいギアリー、ぶっ飛ばすぞ」
「落ち着いてくれよ、蔵やん」
「リメたん、お前もか」
奴隷云々は冗談として、一回話し合うために閉じ込めて実体化させようとしたとのこと。
「この奴隷瓶というのはね、いろいろ種類はあるんだけど、今回用意したのは中でも妖精と精霊の収集に特化したもので、強制的に実体化させる優れものなんだよ。この2日で作るのは苦労したよ」
「いや、作ったのは私だかんな」
「素材提供も7割は俺だしな」
「いいじゃん。レア素材は僕が刈ってきたんだから」
誰が作ったとかはどうでもいいけど、奴隷瓶って、ひどいネーミングだな。はじめからゲーム内に存在していたアイテムとはいえ、奴隷制度が横行していることはない筈なのでその存在は意外と衝撃だった。
自分のAOが閉じ込められたこともあって、動揺が治らないシルルをコノカが慰める光景を横目に僕は口を開く。
「つまり、お三方はこれを作るために僕らを置いていったということですか?」
「「「イグザクトリー」」」
「時子さんの煽りは?」
「師匠っぽいって言ってよ」
「街に僕らを一旦返すという発想は?」
「どうせゲームだし楽しめよ」
「本音は?」
「その発想がなかった」
このおっちょこちょいさんめ!!
申し開きもせず、むしろ開き直るような図太い態度にがくり、と肩が下がってしまう。シルルが頭を撫でてくれるけれど、なんだか取り敢えずなでときゃいいとか思ってそうで素直に喜べない。くそ、なんか弄ばれているぞ!僕は弄びたい派なのに。
「少年、私は嘘はいけないと思うぞ」
「めっちゃ嬉しいです。喜怒哀楽の4分の3が今の僕からは抜け落ちていると言っても過言ではないですね。つーか、もっと弄べ」
もう、現実に戻れないかも。
「まあ、先輩方にはこれからは私たちの意見もちゃんと聞いてもらうことを肝に銘じてもらいましょう」
「ごめんねー!コノカちゃん!!私が悪かったわシルルちゃんだけじゃなくてコノカちゃんにもお土産あるから許してー」
「もう起こってませんよ。キャンピングもなんだかんだ楽しかったですし」
「コノカちゃん!」
「おい、ギアリア。コノカちゃんの器を見習えよ」
「いや、コノカは女神で大天使だから」
僕はスクラム組もうぜと言わんばかりに肩を抱き寄せる筋肉兎を押しのけた。悔しいが、顔にもふもふがあたって気持ちが良かった。
「……じゃ、そろそろ対話に入るよ。ライズ、よろしく」
『─────!』
ライズはガラス瓶の中の防音を解く。
読了、ありがとうございます。




