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20修行中

皆様に読みやすい文章目指して精進しますので今後ともよろしくお願いします。


 

 少々環境の変化の連続で思考がおざなりになってしまったが、つまるところ現在の僕らの現状は、『敵のレベルは分からないけど、人気のいないところに転移したからイベントに向けて特訓をしようぜ!あ、リリーは店番を諦めてね』ということだった。








 そして、時間はそれからゲーム時間で約2日ほど過ぎる。







 敵のレベルは12〜32レベルであり、十分対処可能であった。どうやらこれは、時子さんの魔法の副次効果で、転移先は転移前と同程度のエリアへ跳ぶというもののおかげらしい。人気の少ない理由はこのエリアと街までの道のりに隔絶された崖があるせいでこちらへ渡るのが低レベルプレイヤーには難しいから、とのことだ。



 ログイン4日目のゲーム時間午前10時。ジャー坊から預かった移動型簡易テントをしまい終えた僕は、採取とレベル上げに勤しむことにした。先輩3人は用事があるからとどっかへ行ってしまったので、今いるのは僕ら3人だけ。時子さんは『獅子は子の四肢をもいで師事をする』なんてとぼけたことを言っていたが、おそらくそれは獅子は子を崖に落とすという逸話で例えたかっただけだろうし、それにしたって意味を履き違えているとしか思えない使い方をしていると言いたかった。


「ギアリー、肉は取れましたかー?」

「まだテントをしまったばっかりだよ。……全く、イベントならいざ知らず、まさか通常プレイでキャンピングをするとは思わなかったよ」

「私は林間学校を思い出して楽しいですけどね。ただ淡々とレベル上げに勤しむなんてしたくないですし」


 近寄ってきたコノカの背中には地面に転がっていたであろう木の枝が紐でまとめて背負われている。この世界における落し物は、拾ったら一定時間後に復活するようにできているので薪拾いがコノカの担当と決まってからは、専ら定型化した散歩道のついでにこうしてとってくるようになった。


 ちなみにコノカは脚装備を歩き補正の入ったシューズに変えている。歩き補正ってなんだよとリリーに聞いてみると、こけにくくなると言っていた。


「シルるんはどこに行きました?」

「……彼女は、修羅になったよ」

「ああ……レベル上げですか……」


 後輩ズその3であるシルルは、自分のアナザーワンを発現させているからというものの、起きればレベル上げ、御飯を食べればスキル上げ、寝る前に自主練習という、高校野球男児もびっくりの生活を送るようになってしまった。イベントのレベル制限の関係から30よりレベルを上げることはしないと言っていたが、その代わり実力(プレイヤースキル)は僕とコノカを置き去って遠く彼方に行ってしまっている。




 なにがどうして儚系美少女のシルルがそうなってしまったのか。





 どれもこれも全てシルルのアナザーワンの所為だった。




 彼女のアナザーワンは前にも説明したように木の棒のようなものに水の刃を纏うというものだったのだが、その水というのが聞くところによると、シルルにしか聞こえない水妖精が宿っているらしいのだ。


 そしてその水妖精。とんでもない戦闘狂(バトルジャンキー)である。


 初めそれを知らなかった僕らは、泣きそうな顔で永遠と鍛錬を積むシルルを奇異の目で見ていたものだったが、事情を知った今ではそっと顔を逸らしながら差し入れを渡すまでに成長した。キャンプの生活の手伝いを一切しないシルルだが、僕とコノカは文句を言うことがなかった。いや、言えなかった。それ程までに水妖精はシルルに戦闘を強いたのである。



 今も目をこらすと、奥義を発動してピカピカと輝くシルルが見える。ダブルセイバーをポールのように回して湧いたモンスターを切り刻む様子は昨日よりもずっと綺麗な斬舞(フォーム)となっていた。


「僕らもレベル上げするか」

「そうですね。今日のお昼はなににしますか?」

「あー、そろそろジャー坊に貰った麺も尽きそうだし、サンドウィッチでも作って食べるか?」

「いいですね。昨日取ったお肉も全部使っちゃいましょう!焼いて、はさんで、パクッ、ですっ!」


 空気でハンバーガーに噛み付くコノカ。まきを下ろすのを待ち、くぐもった色合いの森の奥へと進むのだった。





 ー・ー・ー




 道中の話。


「で、結局アランの慰留ってどういう意味なんでしょうか?」

「分かんない。けど、こんな色彩の薄い森を慰留地に選ぶなんてよほどアランってやつはまいっていたんだろうな」

「仕事が大変だったのでしょうか?あー、嫌だ、嫌ですね。現在の日本はトップクラスに世界各国から保護されているので職に困らないですが、やはり仕事というのは聞くだけで嫌な音です」

「それを聞くと日本人が飼い殺されているみたいだな」

「まあ、実際にその認識はあながち間違いじゃないかもしれませんね。今だってこうやって電脳世界の実験をされているのかもしれませんし」

「うーん、VRMMOとは名ばかりで二つ目の世界と言われた方がしっくりくるのがまたなんとも否定しづらいよな。その噂は僕も聞いたことあるけど、やればやるほどそうかもしれないと思うようになってきたよ」

「いや、レベルとかある時点でおかしいでしょう。街に近いほどモンスターのレベルが低いなんてこのゲームがゲームである決定的な証拠ですよ」

「いや、まあそうなんだけどな」



 アラン慰留というエリアは慰留というだけあって敵対モブ(モンスター)があまりいない。だから、必然と会話しながら歩く時間が増えていくのだ。なお、水妖精がモンスターの位置を教えてくれるシルルは除く。


 コノカは胸に鼻提灯を出してねむりこけるタヌキを胸に抱きながら僕の隣をちょこちょこと歩く。女の子と並んで歩くことなど普段ない僕はなけなしの知識を振り絞って歩幅を縮めて彼女の歩幅に同調した。



「確かに、ここが完全なる異世界ってことはないだろうけど、毎回新しいVRMMOが出るたびに物理エンジンを利用して空高くに飛翔するプレイヤーもまだ僕は見てないぞ」

「ついでに言いますと、地面に埋まったプレイヤーも見てませんね。……あれはあれで見てて面白いのですが」



 VRMMOの様式美となっていたバグ発見を生業とする彼らもこのゲームでは大人しくしている。僕が中学の頃にやっていたタイトルでは、ログインすれば目の前に生首があるのが常識だったというのに。


「勿論ギアリーもやっていたんですよね?」

「最高記録は上空375メートルだった」


 ついでに言うと落下速度にビビってリアルでちびった。なんで空気抵抗が無いんだよ。お陰で終端速度が無い恐怖を身を以て味わったよ。


 そうこうする内に、目の前にモンスターが現れる。群れではなく、1匹のみの湧き(ポップ)だった。



「あ、肉だ」

「コノカ、モンスターと言いなさい」

「肉モンスターだ」



 終わらない重力加速を思いだして身震いする僕の先に、このエリアおなじみのモンスターはいた。そのモンスターの名前は文字通り『モンスター』といい、形は個体によってまちまちである。僕らを補足すると、威嚇するように足と思わしき部分をしならせた。


「レベルは?」

「20です」

「ギリいけるかな?僕は正面。タヌキは後方支援、狼刀(ろうとう)で敵の背後をとって!」

「了解です!」


 コノカと散開し、僕は前傾姿勢をとりながら敵正面へと駆け向け抜ける。走る勢いのまま投球姿勢をとり空間からギア・ギアを取り出したら勢いのまま的に投げつけた。


「【全円輸廻(ぜんえんゆかい)】!」


 奥義を発動させて、円型(タイプリング)のギア・ギアを投げつける。回転する歯車はモンスターに当たるその瞬間から加速していく。

 ザク、ザクザク、と一回転するかしないかのタイミングでギア・ギアに追いついた僕は、持ち手を握るとヤクザキックでモンスターを蹴飛ばした。グニョリ、と軟い感触とともに吹っ飛んだ先にいるのは狼刀を携えたコノカ。


「はあああああ、【狼刀ノ一・戦齮(そよぎ)】!」


 一線、というには荒々しい横一文字の振り抜きがモンスターに対して行われる。モンスター上に見えるHPバーを見ると僕の不意打ちと彼女の奥義によって4割弱削れていた。このダメージが多いのか少ないのかは判断つかないが、ゴブリンのHPバーが僕の一撃で吹っ飛ぶことを加味すればまあ、モンスターのタフさが伺えるというものだろう。


「コノカ、残り3.5!!」

「カウンターくらいました!!回復に離脱します!」


 コノカが苦悶の表情で離脱する。幸い視界全部が真っ赤になる程のダメージでは無買ったようだけれど、それでも見過ごせるレベルの傷ではなかったようだ。

 僕はリングから半円へとギア・ギアを分解させて、モンスターへと向き直った。

 顔もなく、ただ黒と藍色が入り混じった4本の肉塊をしならせるモンスター。初日こそコノカと僕揃ってビビり倒してしまった仇敵だが、今となっては食料にしか見えない。


 バシュッ!!


 奴が打ち出した一本の触手に沿うようにギア・ギアを滑らせる。触手が伸びきり戻る前に本体を叩く心算(こころづもり)だ。ガイドに沿うように右のギアを触手に這わせ、左のギアを奥義で包む。左右どちらかのみに奥義を発動させるのはここ二、三日の修行とも言えるレベリングの成果だった。


「【転廻(てんかい)】!!」


 僕のアナザーワンの超基本奥義であるそれは、ただ単にギア・ギアを振るうだけである。


 ただ、その速度と力を全力にして。



 ズガガガガガ!!


 じゃじゃ馬過ぎる速度上昇は今も健在で、この武器を途中で止めることはどんなに集中していても成功率は7割を下回る。2、3日1杯使って緩急のある攻撃をものしようとした僕は最終的にこう考えた。




 ───止めなれないのなら、止めなければいいじゃない、と。





「【半終(クルグ・ワン・クルム)】」



 左手のギアがモンスターにヒットしてから半秒も経たないうちに奥義を重ねると、最後にヒットすることとなる歯車の()がオーラに包まれ鎌の形を象る。持続時間が一秒に満たないその奥義は、モンスターを左下から右上へと刈り取った。


 的残りHP、約2割。


 鳴くための声帯すらないそいつは僕の攻撃による痛みを一切主張することなく触手を打ち出す。


 ドゴォォォ!!!


「ウ……ぐッ!!」


 それは僕のみぞうちに差さると、モンスターに食い込んでいたギア・ギアごとゆうに3メートルを超す距離を吹き飛ばされる。


 受け身?とれんな。


 無様に転げ落ちた僕は、遠くに飛んでいったギア・ギアをしまい直し手元に呼び出す。伏せていた体を腕を使って無理やり横に動かせば、元いた場所に触手が刺さった。


 ……容赦ねえ。


 たらり、と冷や汗が垂れた。が、もう戦闘も終わりだろう。ゆっくりと体を起き上がらせると、回復を終えたコノカがモンスターにとどめを刺すのが見えた。


 赤に染まっていく視界をポーションで戻すとコノカに近づいていく。



「……うっはー、辛かったぁ!!」

「お疲れ様でした。痛いところはないですか?」


 ペタペタと体を触るコノカ。ピコピコと揺れる垂れ耳を撫でると、僕はどこも異常がないことを伝えた。


「良かったです。ものすごい飛びましたからね!心配しましたよ」

「自分ながらにびっくりしたわ。本当にこいつ20レベルかよ。攻撃が余りにも容赦なくて死んだかと思ったぞ」

「私も喉元突かれましたからね。その代わり、ちゃんとお肉はドロップしましたよ!」

「そりゃ良かった。どの位したんだ?」

「お肉が2人分と、触手が一本です。ギアリーはどうでしたか?」


 ちょっと待ってろ、と僕はウィンドウを開くとドロップランを覗き込んだ。


「肉2つと、こっちは核だな」

「やりましたね!レアアイテムですよ!!」

「……まあ、魔術師用のだけどな」


 核系のアイテムは杖の強化などに使われるアイテムだ。シルルのアナザーワンは杖扱いなので、修羅がまた一段上へと駆け上がることになるのだろう。


「んじゃあ、帰るか。残りは採取で十分だろ?」

「そうですね。シルるんが、またポーションを切らして帰ってくるでしょうから薬草も取りたいですね」

「一体あいつはどこに向かってるんだか」

「正しくは向かわされている、ですね」


 南無南無、2人で適当に拝むと拠点を置く大木の元へと僕らは戻ったのだった。




 ー・ー・ー



【モンスターの肉】:アランの慰留産


 ・隠れた名肉。モンスターの見た目からは想像もできないほど色艶がよく。焼いてよし、煮てよし、揚げてよしの万能肉。


 ・市場値1つ2500円。(アランの慰留へいくことが困難なため)



 ー・ー・ー





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