13ゴブリンの欠片
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ギアリア・トゥカタリオのアナザーワンは一言で言うなら、歯車だった。
直径が指先から肩まである歯車を真っ二つに割り、"歯"の部分を"刃"にした物。それを2振り。左右の手に収まるそれは、くっつけば綺麗な歯車になるのだろう綺麗な半円形だった。実際、そのような用途を想定しているらしく、真っ二つになった歯車の断面は互い違いに凸凹になっている。持ち手はなく、半円の歯車の中身が歯車の中心と半円の弧の中央を結ぶ1本を残し、くりぬかれており、その一本を持てるようになっていた。
スモークがかった鈍色の歯車はシンプルながらも格好良さ、機能美を備える一品だった。
「いや、かっこいいですけれど、その武器を出す時のエフェクトかっこよすぎて、本体が地味に見えますね」
「てめえ……この歯車の錆にしてやろうか?」
「決め台詞を決めるのが早すぎますよ、ギアリー……。あ、最後の台詞は『錆にもなりゃしねえ……』ですか?」
やだこの子、中二病入ってる……。僕と全く同じこと考えてるんですけれど。
ちょっと嬉しくなる僕だった。
「あ、武器の詳細でも見せ合いませんか?前衛後衛を決めたいですし」
「よしきた」
僕らは隣合わせに座り、それぞれのアナザーワンをタップして詳細ウィンドウを表示する。鑑定持ちでなくても自分の装備は見ることができるのだ。
ー・ー・ー
【断罪の歯車】─武器系統・大器晩成─
[リング・双剣]
・STR+5
・DEX+1
・APP+1
《特殊効果》
・カルマ値が高い敵ほどクリティカルが出やすい。
・3連続ヒット以上でDEXが1ずつ増加[最大+10]
【幼児刀 :眠狸】─妖刀・輪廻─
[刀]
・STR+7
・INT+2
・APP+1
《特殊効果》
・妖魔に追加ダメージ
・極稀に睡眠状態にする。
[妖魔]
・INT+7
・DEX+2
《特殊効果》
・【幻術】を覚えた狸姿へなる。
・睡眠効果を付属する魔法・スキルへ補正
【幼児刀 :慈狼】─妖刀・輪廻─
[刀]
・STR+5
・DEX+1
・INT+1
《特殊効果》
・妖魔に追加ダメージ
・極稀に相手へのダメージ時に、自分を回復する
[妖魔]
・DEX+4
・INT+4
《特殊効果》
・【聖魔法】を覚えた狼姿へなる。
・回復効果を付随する魔法・スキルへ補正。
ー・ー・ー
分かっていたことだが、僕は所謂、脳筋ステというやつだった。INTがそもそも1な時点で魔法使いは諦めていたけれど、自分の可能性の領域を見て改めて実感する。
対して、コノカはどうだ。チートだ。可愛いからクチ○トだ。もうお前一人でいいんじゃね? を地で行っている。というか、彼女に勝っている部分が登場エフェクトの格好良さくらいしかない気がする。……ん?いや、ま、まあ僕のアナザーワンは大器晩成型らしいし?その内、多分、きっと、恐らく釣り合うステータスになってくれるだろうから大丈夫かもしれないし?
「ギアリーの能力は面白いですね。あと、このゲームにもカルマ値ってあるんですね。HPとMPと同じように違う見方なのでしょうか?」
「ん?HPとかって見られたの?」
「知らないのですか?ダメージを受けると視界が暗くなっていくのですよ?」
ほら、と言って眠狸で浅く切りつける。
切りつけられた途端に視界が若干薄暗くなる。聞けばブラックアウトするとゲームオーバー、最後に寝た場所へ戻らなくてはいけないらしい。僕の場合、リスポーン地点は壁の中なので、どこかで寝るまで絶対に死ねないということだ。
「本当だ。じゃあMPは?」
「消費すると手が指先から黒くなっていきます。手首まで黒くなったらMPがゼロになった証ですね」
おもしれえ!何それ!と思ったが、僕はそもそも魔法スキルを1属性も持ってないし、さらに言えば、死にスキルとなっている魔力操作のせいで大切な初期スキルの一つを潰されている。縁もゆかりもない話だった。
「んじゃあ、僕が前衛で、コノカが遊撃って感じだな」
「ですね」
僕はギア・ギアを軽く振るう。ヴヴゥヴゥンと音を立てて刃の一つ一つが空を切り裂くのがわかった。連続して空気から手応えが得られる感覚が気持ちよくて何回も振るう。
「新しいオモチャを見つけた赤ちゃんみたいですね」
「いや、楽しいんだもん」
「もん、じゃないですよ。第二次性徴を迎えた大人が言う言葉じゃないですよ」
「……僕は第二次性徴を迎えた女性が言ってたら嬉しいけどな」
「……もん」
悶々とした。
その後は個人的に確かめたいことを行うことにした。
コノカは二刀流を試したり、片方を妖魔にして連携の確かめなどを行っている。見ていると、眠狸を振るうと淡い水色、慈狼を振るうと黄色の残像が出るようだ。その光景はコノカの服装もあって、平安かそこらの時代に生きていたという陰陽師みたいだった。
僕は僕でアナザーワンで色々確かめたいことがあった。
手放せばどうなるのか。強度はどの位か、などなど。
やってみてわかったことは、手放すと3秒後位で、自動的に元の空間へ戻ること。それによってロストペナルティなどはなく、直ぐに黒色の電撃ヒビから取り出せること。つまり、手元に戻るブーメランのような扱いができることが分かった。
強度は地面に思い切り叩きつけてもピンピンしている位には頑丈だった。そうして実験をしている内に、なんとなくギア・ギアの使い方が見えてきたところでコノカが声をかける。
「まだかかりそう?」
「あー、まあいいかな。取り敢えず実戦で使ってみて初見でビビりそうなこいつの特性は全部わかったと思うし。ゴブリン退治にいくか?」
「うん!早く行こう!」
垂れた耳がピコピコと動きご機嫌度がマックスの様子。嬉しさを体全体で表現するコノカはとても可愛かったが、ただ、もしプレイヤーの中にゴブリン族がいたとしたら絶対に合わせられないなと思った。
ー・ー・ー
街から出て直ぐの森の中、普段なら悪事を働くゴブリンが多発するそこには1匹も現れる様子がない。
コノカも目の前の光景が思ったのと違ったせいでしょんぼりとしていた。
「まぁ、第二陣がログインしてまだ1日2日だしな、そりゃあこうなるってもんか」
「……むぅ。予想していたとはいえ、これは酷いですよ」
通称ゴブリンの森は、今やプレイヤーの森となっていた。
どこもかしこもプレイヤーがおり、皆一心に採取をしたり小動物を狩ったりしている。
VRMMOの初期ではありふれた光景で、ある種恒例行事となっているそれなのだが、今まで多くの場面を良い意味で裏切り続けたTSSの運営ならもしかしたら……と淡い期待を持っていた僕たちに手痛い精神的ダメージを与えていた。
「……どうする?」
「どうするって言われましても……どうしようもありません。……PKでもしますか?」
「発想が乱暴だよ。こうなったら、諦めて他の狩場に行こう。どこかはきっと空いているでしょ。それか今日は諦めて町に帰るか」
「いや、ギアリー。私に提案があります」
コノカは森に対して後ろを向いた僕の背をつかんだ。
「……なに?PKだったら僕はやらないよ」
「あれは冗談です。提案と言うのは、行き先の話です」
「行き先?」
「私は、このまま森を直進することを提案します」
コノカの提案は何とも無茶なものだった。日が暮れるまでもう時間が3時間もないだろうというのに更に奥へ進む。それは、行き帰りを考えるとたいして行ける距離も望めなく、夜の暗闇を帰ってくることを考えると、とてもじゃないけど賛成できない意見だった。なんせ、僕の場合、死ねば壁の中へ逆戻りだ。次の発掘が何時になるか分かったものでない。
「うーん、やっぱりもうすぐ日が沈むだろうし、明日にしようよ。この森にいる人数が到底町の宿に全員入れるとは思えない。これは早い者勝ちになると思うよ」
「それでしたら問題ないです。私の泊まっている宿がありますので」
こいつ……宿屋スタートか!
「それに私のスタートした部屋は2人部屋で、確認すると三日間分のお金が払われているようでした。つまり、私たちはこの人たちよりも遅くまで狩場にいられるということです。ですから、奥に行きましょう」
余程奥に行きたいのかゴブリンを狩りたいのか、自分と同室で男性プレイヤーが自らと寝食を共にすることを許すコノカ。僕としては嬉しいのだが、ゴブリンを目の前にして正気を失っている可能性が大であるコノカが後に後悔しないか心配だ。
……ん?いや、まてよ、逆に考えるんだ。後悔に悶えるコノカが観られる、と。
出会って間もない女性プレイヤーに対してなんて考えを抱いているのだ、と思わないでもなかったが、そんな理性には、これはゲームだから、と言い聞かせて納得させる。
僕は再び壁の中にリスポーンする可能性をベットして、同じ空間でベットインする、を手に入れることにした。
「……多分なんの心算もなくただ奥に行きたいだけなんだろうけど……その考え、嫌いじゃないぜ!」
「ギアリー……!」
「ただ、ゲーム内時間で6時には切り上げよう。今は3時。つまり3時間分奥に行ける。これでどうだ?」
「最高です!グッドネスです!」
そのグッドな心境がバットもしくはリグレットに変わる未来を僕は知っていながら、にこやかな笑みでコノカを眺めていた。最低?なんとでも言いなさい。神は全てを許してくれるはずです。
ー・ー・ー
日が沈みかけて、森の葉が赤く染めあがってきたころ、ようやく僕らは周りにプレイヤーのいないところまで来れた。森を歩くというのに僕らが履いているものは前歯・後歯が高い下駄と黒く光る革靴だが、不思議と靴擦れや足に過度に負担がかかると言うことはなかった。『靴擦れ実装!』なんて非難殺到だから当然なのかもしれないが、不思議な感覚である。
「ギアリー!ギアリー!ゴブリンがいました!」
「お、おう。倒してきな」
「うん!」
コノカは幼子刀を日本携えてゴブリンへ駆け寄っていく。
とたとた、と歩く様子は可愛いものだが、次の瞬間コノカの体は文字通り『ブレる』。
コノカの上半身と垂直に構えられた二本の日本刀が、物凄い円運動を伴いゴブリンへと迫る。勿論、呑気に森を闊歩するゴブリンにそれを避ける術はなく、
ズバァン!!
混じり合う水色と黄色の残像。散り舞う緑色の欠片。クリティカルダメージが出たのか知らないが、物凄い斬音が辺りに響く。あっという間にゴブリンを3つにぶつ切りにしたコノカは一回転でピタッと体を止め、脂肪と血を落とすように刀を左右に振ると直ぐに腰に収め、ニコニコと歩いて戻ってきた。
「たおしたー!」
「おめでとー!!」
あまりにも容赦のないキルに僕は引き気味であった。
絶対に逆らうまいと思った。
「なんかあっけなかったね!」
「……そりゃあ不意打ち気味に背中から三枚下ろしにすれば死ぬだろうよ。あれで死ななかったらジャンルがホラーになっちゃうよ」
「次はギアリーの番ね!頑張って!」
「委細承知しました」
ヴァン!と音を立て、手元に出現したヒビに手を突っ込む。中にあるギア・ギアを取り出すまでにかかる時間は2秒。さっきまで出し入ればっかり練習した甲斐があったな。
片方のギア・ギアについた刃の数は13本。二つをくっつけて[リング]状態にし、右手に構えると、僕はちょうど見えたゴブリンへと全力で駆け寄った。
当たり前のように不意打ちです。え?正々堂々?知らんな。どのゲームでも不意打ちは推奨されているのだよ。
呑気に歩くゴブリンの背中と首の間を狙って振り下ろす。
第一の刃が当たる。1連撃
第二の刃が当たる。2連撃
第三の刃が当たる。3連撃
第四の刃が当たる。4連、第五の刃があた、第六の刃、第七、だい、だ、
だだ、
だだだだだだだダダダダダダダダ!!!
第二十六の刃が当たる、26連撃。
断罪の歯車一週連撃、終了。
ギア・ギアの特性、【3連続ヒット以上でDEX上昇】。
それは何も一回の振り下ろしのことではない。
一つの刃につき、1連撃だった。
片振り13歯、二つ合わせて26歯。故に26連撃。
断罪の歯車。
「……ふぅ、まあまあか?」
不意打ち武器としては最高に相性がいい。なんせ一般的に慣れるとされている4コンボ以降の攻撃が初見殺し的に変化していくのだから。その速度上昇が指数関数的に上がるのか、一次関数的に上がるのかは検証不足だけどギア・ギアが他のプレイヤーに負けずに劣らない性能があることは分かった。
「ギアリーの武器、エグくないですか?」
「まあ、断罪っていう位だしな。それに今のままだと速度上昇がじゃじゃ馬過ぎて、俺が付いていけん。敏捷性上昇も極わずかな時間だしな。それこそ一回の攻撃中位しか継続しないんだ。まあ、それはおいおい練習していけばいいけどね。……で、ゴブリン退治はクリアでいいのか?」
暗くなりつつある空を見てコノカに確認をする。
「え?あと18体分残っているよ?」
コノカはあっけらかんとそう言い、朗らかに笑った。僕の勘違いを笑ったのか、まだゴブリンを狩れる嬉しさを表現したのか。過ごす時間が増える毎に守ってあげたい雰囲気が薄れる彼女だったが、その強かさは見習いたいと思った。
その後、めちゃくちゃゴブリンを狩った。




