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12アナザーワンデビュー

ブクマ500を超えました!

ありがとうございます!


 


 ビリッ


 コノカはいつにもなくアクティブかつ迅速に動いていた。その表情(かお)は名前に違わず、(つや)やかで、その動きは風のようであった。


 具体的には、僕にゴブリン退治を宣言してから1分もしない内にゴブリン討伐依頼を見つけ出し、壁からクエスト依頼書を引き剥がし持ってきたのだ。


 ビリッと音を立てて壁から千切れ、破けた紙片は淡く光り、光粒子となりコノカに吸い込まれていく。

 そしてそれから間もなくしてピコンというメッセージ受信音とともにパーティ加入依頼が届いた。僕はそんなにゴブリン退治がしたかったのかと、コノカの新しい一面にやや驚きながらもパーティ依頼を承諾した。


「さあ!いきますよ!ギアリー!ゴブリンは私たちを待ってはくれません!」

「まあ、未対面だしな。待つも何も……つーか、ちょい待って」

「なんですか?私のゴブリンロードを邪魔するなら例えギアリーであってもキルしますよ?」

「こえーよ!なんだよそのゴブリンに対する執着心。そうじゃなくて、まだ確認してないことがあるだろう!」

「……なんですか?」


 まだ確認していないこと。それは正直ここまで引っ張ることになるとは夢にも思わなかった確認だ。


「僕のアナザーワンだよ。もしこいつが武器型、もしくは攻撃スキル型じゃなかったら僕は武器を買わなきゃいけないだろ。……そういや、コノカのはどんなんだったっけ?」

「私のモフモフを忘れるとは……見下げた根性ですよ、ギアリー。丁度いいです、ギアリーのアナザーワンと私のアナザーワンの確認をしに行きましょう。正直私も自分のアナザーワンの事をモフモフ要因以外に見たことがありませんでしたし」


 コノカは二振りの刀をそっと撫でるとそういった。そういえばコノカのアナザーワンは刀の獣化だったな。うん、その説明からしてばり強そうだわ。と言いますかコノカさん、よくその認識でゴブリンロードとか言えましたね?


 冒険者ギルドには訓練施設があるので今回はここを借りることにした。説明書によると、訓練所入り口の扉に指定人数と、名前、広さを記入するとそれに相応の訓練所に転移されると書いてあった。


 僕らは視線から、好奇から逃げるようにそそくさと移動したのでありました。

 冒険者ギルドの構造は一階こそ、柱以外何もなく全部ぶち抜かれてエントランスになっているが、二階、三階とその上階は細かく部屋ごとに区切られている。例えば二階は訓練施設となっており、訓練所への転移門となる扉が多く置かれている。

 三階は武器屋や防具屋、アイテム屋に未開店も含む多くのショップがずらりと並んでいる。その様子はまるで現実のショッピングモールを一階層丸ごとくりぬいたような光景だった。


 さて、そんな冒険者ギルドの二階に位置する訓練所入り口に来たわけだが。


「思ったより閑散としてるね。皆僕たちみたいに来るもんだと思ってたけど」

「転移門の使用状況を見るに使用率は大体7.5割って所ですかね?まあ、今更アナザーワンを確かめるような鈍足プレイヤーはいないってことですよ」

「悪かったな鈍足で」

「まあ、下の者に合わせるのは上に立つものの宿命ですからね、ブロンズプレートさん」


 こいつ……!どんだけゴールドプレートが嬉しかったんだよ。そりゃ嬉しいだろうよ!なんか特別感凄いし!僕も欲しいっす!!パイセン!


「まあ、一過性の優位で調子にのる子供を諌めるのはいつも決まって、アダルティでダンディズムに溢れるイケメンに限るって言うしな。さっさと行こうぜ」

「ははは、笑える冗談ですね。マイケルジョーダンよりもジョークが上手いんじゃないんですか?」

「おい、偉大なる偉人に変な誤解を向けるのは止めなさい。あと僕の言葉がジョークだったらコノカの言葉は冗句極まりねえよ」


 口の減らない美少女だ。ただそれを言うと美少女だけピックアップされるのは目に見えていたので僕の口は噤まれた。


「さぁ、いい加減行きますよ、ギアリー」

「了解であります、コノカ一等兵」


 登録人数2人。訓練所の広さは小でいいか。扉をタップすると出てきた選択ウィンドウを操作すると、ゆっくりと回転する魔法陣のようなものが足元に現れる。

 魔法陣は段々回転が速くなっていき、それに伴って徐々に上へ上がってきた。魔法陣は僕の体を貫くように這い上がり、魔法陣の下を見れば、魔法陣以下の部位はどこかへ消えている。


「ギアリー凄いですよ!私、今転移されていますよ!」


 きゃっきゃと騒ぐコノカ。ふざけて僕を押してくるが、魔法陣から出てしまって中途半端に体が転移されるなど溜まったものではないので、無抵抗ながら内心はひやひやだ。

 ついに首から下がなくなり僕の全てが転移されると思ったその瞬間、無いはずの下腹部が突然鋭い痛みを発する。痛む場所はつまり、良い子のみんなは絶対に蹴っちゃいけないあの場所だ。


「ッ───!!」

「あっごめん。転移されたら神経繋がってるのか気になって脚を思いっきり振り上げちゃいました」


 しゅん、とこれ以上無いくらいに申し訳なさそうにするコノカ。その慌て具合からわざとではないという事は伝わってきたので僕はこれ以上ないくらいの寛容さと内股で彼女に言葉を返したのだった。


「キサマ、モフリ、尽クス」

「ひっ」


 コノカの口から悲鳴が漏れた瞬間視界がブラックアウトした。




 ー・ー・ー





「ひどいです……もう、お嫁に行けないです」


 シクシクと耳を押さえて涙を垂らす少女。

 静かに側に立つ僕は、慰めるように、慈しむように優しく彼女の頭に手を置いた。


 ────大丈夫、君は一人じゃない。


「だああ!もう!誰のせいだと思っているんですか!ギアリーの鬼畜!ばか!モフリ王子!イケメン!」

「最後のは悪口なのか……?」


 いや、最後から二番目も色々おかしかったけれど。


 さて、僕たちが今いるのは冒険者ギルド直属地『訓練所』の中の第38訓練所である。15メートル四方で囲まれたこの空間は、自然をそのまま切り取ったような場所だった。事実、周りは荒野だが、所々に短草が生えている。

 現在は転移後から10分と少し経った後。そして彼女への仕返しを終えた後でもあった。


「さあ、お互い辛い過去は水に流してアナザーワンの練習だ」

「……ちょっと待ってください」

「どうした、コノカ」

「ギアリーは人形ですよね?……どうして人形が痛覚を持っているのですか?修理時には痛がる様子もなかったですよね……?」


 コノカは耳をモフられたせいかハイライトの消えた目をギギギと僕へと向けた。……ばれたか。


僕はふっとため息を吐くと、そよぐ風に合わせるように静かに言葉を漏らした。


「うん、まあ、痛かったっちゃあ痛かったけど、実はそんなに痛くはなかった」


 ごめんね、てへ。


コノカは僕にグーパンでぽかぽかと叩き始めた。別にいいじゃないか、減るものじゃないし。

 その後、彼女の可愛らしい仕返しに10分ほど費やすこととなったが、コノカが満足したので良しとする。僕も大満足だ。



「【幼児刀(おさなごのかたな) :眠狸(ねむりたぬき)慈狼(いつくしみおおかみ)】!」


 コノカは与えられたアナザーワンを解放する。腰に差した二本の刀は破られたクエスト紙のように淡く光り、狸の刀は薄茶色に、狼の刀は濃灰色にその光はやんわりと膨らむ。まるで魔法少女の変身シーンのようだが、当の本体は全く光らずに今か今かとモフれるその時を待っていた。魔法少女コノカか。……今度リリーに相談しよう。


 パァっと光が一際膨らむと次の瞬間刀はなく、コノカの足元には2匹の小動物がいた。


 眠狸のポン太と、慈狼のウーロウである。


「あはははははー」


 コノカはこれでもかという満面の笑みでモフっていた。うわっ、かわいい。僕はそっとスクリーンショットを押した。

 カシャ、と盗撮防止なのか知らないがやたら大きな音がなる。


「カシャゲフンゲフン!カシャゲフンゲフン!」


 盗撮じゃねーから!これ盗撮じゃねーから!


「ギアリー……」


 ジト目の美少女、か。


「カシャゲフン!カシャゲフン!」


 最早、誤魔化す気もなかった。


 その後、ジト目に押されて、代わりに、僕の写真をいつとってもいいことになりました。僕は美少女の日常を撮れて、彼女はイケメン(アバター)の日常が撮れる。うん、Win-Winの関係だね。


「ギアリーはなんてアナザーワンなのですか?」

「えーっと、『展開、断罪の歯車』ってやつだね。見た感じは武器系のアナザーワンな感じがするけどどうなんだろう。早速出すからちょっと離れてて」

「相分かった」


 そう言うとコノカは2匹を抱きかかえ僕の後ろへと離れていく。2匹はゲーセンで取られたぬいぐるみのようにプラーンとコノカの腕から垂れている。……それでいいのか、野生。


「じゃあ、いくぞ。【展開:断罪の歯車(ギア・ギア)】」


 さっきとは違い、使う意識を込めてスキル名を言う。初めてアクティブスキル、つまり自分からスキルを使ったわけだが、その感覚は不思議なものだった。スキル名を唱えた瞬間に頭のどこからか、カチッと音がして、スゥっと冷静になる。今なら、早口言葉で10回クイズを行った上で正解できそうだ。


 と、その時である。


 まず、空間が歪んだ。


 次に歪みから黒色のヒビが二箇所からヴァン!と音を立てて、入るのではなく現れる。


 何が起こっているんだ?と混乱しかけると


 バチィッッ!!


 とそのヒビが白い電撃を走らせた。電気ネズミのほっぺの帯電のアレである。



「何でしょう?それは」



 コノカがひょっこりと僕の背中から姿を表す。2匹はするりと僕の両肩に乗っかってくる。


「分からない。配置型の攻撃スキルか?」

「歯車要素ゼロですね。触ってみてはどうでしょうか?」


 触るってあれにか?バチバチ言ってて怖いんだけど。触ったら感電しそう。故障したらどうするんだ?そう考えている内にコノカは既に空間に現れたヒビまで寄っていて、果敢にも放電を触っていた。


「ギアリー。なんか変です!」

「何がだよ。つーか危ないから離れろ。僕が触るから」

「あ、いえ。これなんか私が触ろうとすると通し抜けちゃうんですよ」


 コノカはブンブンと手をヒビに行ったり来たりさせて実演してくれる。通り抜けるたびにバチッ!バチッ!と弾ける音がするので、こっちはその危なっかしさにハラハラしすぎて口に手を突っ込みたい気分だった。

 しかし、そうまで言うなら僕にも無害なものだろう。術者だけが被害を受けるスキルって何やねん、という話だしな。


 バチイィ!!


 僕がヒビに触れると手の先に電気が集まる。

 と、同時に奥向きに磁力が働いたのか知らないが、ヒビの方へと手が引っ張られた。


「ギアリーの手が!!」


 ヒビから先、僕の手はなくなってしまう。


「落ち着け、コノカ。感覚はある。多分これ転移魔法陣みたいなものでどこかに繋がってるんだと思う」


 そう言いつつもう片方の手も余ったもう1つのヒビにつっこむ。やはり放電が僕の手に絡まり引っ張られる。入れたヒビから先は見えなくなっていた。


 しばらく入れたての先を右へ左へと動かして中を探る。しばらくは空を切るだけだったが、ついに何かに触れた。


「そおおおおい!」


 右手と左手どちらも何かを握りこんだのを確認するとヒビから引っ張り上げる。


 バチバチバチイイィッッ!!


 今までで一番の大きな放電音をたてると、雷は僕が抜いた何かに絡まり、弾ける。

 ドンッ!と何かに押される感覚に襲われるとそこにはヒビはもうなくなっており、僕は手に二つの大きな何かを携えていた。



「これが、僕の可能性の(Another)(One)域……」

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