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11ギルド登録

 周りと比べるとやや低い高度に立地するシメイヨツノの冒険者ギルドではあるが、その規模とでかさは他の建物とは一線を画して大きいものであった。


「はぁ〜おおきいねぇ」

「もっとエロく言ってくれないか、コノカ」

「通報しますよ?」

「繋がりの帽子バリア!」

「あ、運営さんですか?」

「本当に申し訳ございませんでした」


 小気味のいい会話をする彼らも内心では舌を巻いている。


(これひとつ作るのに何ヶ月かかったんだか……)

(まさかここでセクハラを突っ込んでくるとは……)


 人形の少年はその労力に、狐の少女は意外性に驚いていた。……ツッコミ待ちである。


 因みに周りのプレイヤーたちの目も2人の少年少女の美麗さに驚いていたのだが、それはまだ後の話題だった。






 ー・ー・ー






 僕は思わず出たセクハラ発言に後悔しつつも、ギルドの大きさに圧倒されていたコノカを引っ張りながらギルドへ入る。プレイヤーが多くなるにつれて如実に向けられる目線の量が多くなってきたのが分かったからだ。


 先の会話から察するに、コノカはこういった目立ち方をするのが好きではない。だから、僕はなるべく影に追いやるようにしてコノカを隠す。幸いにも僕の職業はハウスキーパーだ。スキルを使えば主、いや人に役立つことなら大抵人並み以上にできる。今もスキル【気遣い】で、コノカを視線から守るためにはどうすればいいのかがそれとなく分かるようになっていた。

 まさかこのスキルがラッキースケベとその言い訳以外にも役に立つとは。やるじゃないか。

 しかし、ギルドに入ってしまえばコノカを視線から隠すことはできなくなってしまう。なので、僕はギルド入り口からエントランスへの道を歩きつつコノカへ話しかけた。


「コノカ、覚悟はいい?」

「ギアリーこそちゃんとできてるのですか?なんの話かよくわかりませんが」

「視線のことだ。これは思い上がりからではなく第三者の目線で言うが、僕とコノカはおそらく他の人よりも顔面のAPPが高い。だから、絶対に他の人よりは注目されるだろう。コノカは特に、男には」

「なんです?そんなことですか。それなら本当にギアリーこそ、ですよ。一言いっときます」


 コノカは一旦口をつぐむと、左右に人がいないことを確認すると世にも恐ろしいことを言った。


「見抜きは、何も男だけのものじゃないんですよ?」



 ……SANチェックです。1d10/1d100です。あなたの正気度は0になりました。



 突然の正気度ダイスロールはさておき、まさか見抜きの文化が、VR、それも女性プレイヤーにまで及んでいるとは。ログアウトのできない状態でなにをどうするというのか。ナニをどうするのか。


「嘘だと言ってよ」

「嘘です」

「嘘だっ!」

「はい、嘘です」


 と、僕が混乱ロールをしていると、エントランスについた。

 エントランスも大きく、僕程度なら100人いたって何ともない広さだった。しかしその内装は残念ながら待合室としての機能に特化しているようで、酒場などはなく、エントランスを横断する長い受付カウンターと待っているプレイヤーが座るためのテーブルと椅子が置いてあるだけの、極めてシンプルなものとなっていた。病院や市役所の待合室のようだった。



 ざわっ



 予想通り僕とコノカへ多くの視線が向かう。ただ、注目する人の中にはリリーのように首から上が異形の者も多く、やはり中身は人間なんだなと思わされた。

 よくもまぁこんな広いエントランスの中からたった2人を見つけられるものだ、と考えながら僕は受付案内の窓口へ移動する。コノカはすでに人気の少ない僕の左側へ移動していた。つまり、僕の右顔面の歯車たちが多くのプレイヤーにさらされたわけだ。



 最高だろ?この厨ニ臭さ(かっこよさ)



 案の定、受付は第二陣プレイヤーで溢れかえっている。もしもここで待ち時間に耐えられなくて癇癪を起こすプレイヤーがいれば、(コノカが)ぶっ倒してギルド長に直接通されて……なんて王道展開もあったのかもしれないが誰もそんな粗相を起こすことはなく静かに待っていた。むしろ嬉々として待っている節さえある。

この行列大好き人間どもが!

僕がオンラインゲームでやってみたい夢のシチュエーション第3位に立ち会えなかったことにしょげり返っていると、コノカが視線に慣れてきたのかこちらを向いて口を開いた。



「見抜きショックから立ち直りました?」

「女の子がそんなこと言わないでください」

「ギアリーのその時々発揮される乙女への幻想はなんですか。……しかし、こんなに列が長いのに誰も苛立ってないのでしょうか?」


 コノカはキョロキョロと周りを見渡す。あまり動かれて余計視線を集めるのもなんなので、せっかくもらったボーラーではあるが、それを彼女に被せる。ぱす、と頭に収めた少女は突然何するんですか、とこちらを上目遣いで見てくる。


「さあな。出直すか?」

「うーん、列の動き方を見たところ何もなければ30分位で私たちの番ですからね、少し長いかもですが並んでおきましょう」

「おう」


 そうは言ったものの暇である。いつまでもこちらを見てくるプレイヤーを視線で牽制しつつ僕はどうしたもんかなあと考え始めた。



 と、その時だった。前でうんうんと唸っていた1人のプレイヤーが突然振り返り話しかけてきたのである。



「おい、少年達。知らないのか?」

「……何をですか?」

「ギルドカードのことだよ」


 いきなりの言葉に不信感を隠さず言葉を返すが、目の前のプレイヤーは何てことないように会話を続ける。


「……コノカは知ってるか?」

「知らないですね」


 どうやら、コノカも知らないらしい。そう言うと、プレイヤーはやけに嬉しそうに教えてくれた。


「おっ!知らねえのな!じゃあ不肖俺、詠拍(ながうち)ハバカリが教えやろうじゃないの。……へへ、名乗りたい名前っていいよな」

「めっちゃわかる」

「お!お前もか、少年。名乗ってくれてもいいんだぞ。……っと、ギルドカードの話だったな。このゲームのギルドカードはちょっと変わっててよ。オモテ面は名前、種族、職業、ランクなどとまあ、普通に個人情報が記載されているんだがウラ面にあるものが彫られるんだ」

「あるもの……何でしょうか、自己紹介文ですかね?」

「あぁー、僕そこにアスキーアート描くの好きだったなあ。コノカは何を描く派だった?」

「初期文章一択ですね」


「ちがーう!!」


 詠拍が大袈裟にツッコむ。そして、俺は初期文章をタメ口にする派だ、と言うと続きを教えてくれた。気にしないようにしていたが、彼の特徴的な目はコノカを直視できないらしく、僕をずっと見ている。意外と初心だな、こいつ。



「ギルドカードに彫るのは、【哲学】だ」



 哲学。このゲームのタイトルにも入っている単語で、タイ語で書かれているからてっきり東洋哲学のことかと思っていたが、どういうことだろうか?僕は土間のような床につま先を何回か叩きつつ彼に詳細を促す。


「哲学と言われても良くわかんねえだろうが、受付の話にもただ、本当にただ哲学と言われるだけらしい。この話は第一陣の頃から結構有名だったから、ここにいる奴は大体何を書くか考えているだろうぜ。なんせギルドカードはNPCに証明できる唯一の味方の材料にして、何かと晒されることの多い物だからな。適当に書いちまえばそれでいいと言われちゃあ、話はそこでお終いだが、なんせ哲学って言やぁこのゲームタイトルの一部だ。ここは真面目に考える一択だっつう専らの話よ」

「成る程な。……ありがとうな、詠拍。ちょっと考えてみるわ」

「おうよ!……できれば隣のお嬢さんにもよろしく伝えてくれよな」

「それはできない話だな。せめてお嬢さんに目を向けられるようになってから出直してこい」

「そんな殺生な!」


 詠拍は大きく空を仰ぐと撃沈した。こいつ面白いなと思いつつ、僕はコノカに相談しようと隣を見ると、隣ではボーラーの収まりが悪いのか手で帽子を右に左にと回してるコノカがいた。萌えを感じた。

僕が女子に飢えているのか知らないが、なんか最近は両手で何かをする女子を見るだけで最近は悶えられるな。童貞思考?好きに言え。


「コノカ、聞いてたか今の話?」

「哲学ですか?聞いてましたよ。面白いですね、まあてっきりタイトルを見た限りだと『哲学』はタイ語で書かれていたので、東洋哲学関係だと踏んでいたので、ちょっと拍子抜けではありましたけど」

「お、コノカもか。結構そっち関係詳しいのか?コノカも両親がそっち関係の仕事してるとか?」

「リアル情報が語るに落ちていますので気をつけてください、ギアリー」

「コノカも語るに落ちるの使い方が微妙に違うから気をつけろよ」


 げし、とスネにいいのを一発もらう。ボーラーをより深くかぶったところを見ると、照れ隠しのようだ。前を見るとまだ列は長いけれどそれでも確実前へ前へと進んでいる。詠拍のお陰で早く知ることのできたこの情報を生かすために僕も自分の哲学を考えなきゃな。


 哲学・世界の創造・ランダムで決められたキャラ・可能性の領域(アナザーワン)。さらに手がかりになりそうなのは設定手帳の存在。ここら辺から推測していけば間違いにはならないはず。ただのギルドカードの自己紹介文みたいなものだと彼は言ったが、僕にはなんだか、そこに大事なものがあるように見えてならなかった。




 ー・ー・ー




「次の方、どうぞ」


 僕は一歩前に出る。カウンターは大体130センチくらいで、長いカウンターに受付さんがざっと数えるても2、30人は居る。カウンターとカウンターの間隔はそれなりにあるので話が聞かれることはなさそうだった。


「本日はなんのご用件でしょうか?」

「ギルドカードの登録をお願いしに参りました」

「はい、ではこちらの紙に記入をお願いします」


 渡された白い紙には種族・職業・アナザーワンの名前、そして、製作者の名前の記入欄があった。


「あ、あの。この製作者ってなんですか?」

「はい、一定の種族の方にはステータスに製作者の欄がありますのでそれを記入して頂ければ結構です」

「任意ですか?」

「はい、任意ですが責任の所在がないため、『はぐれ』として各地で扱われることになります」

「ありがとう」


 勝手に書いておこう。なんかあったらごめんなさい、マキナ何某さん。ステータスとにらめっこして奮闘すること1分と少々。誤字のないことを確認すると受付さんに提出をする。受付さんは目を通すとはい、と受け取ってくれた。


「確認をしました。では、この紙とあなたの情報が合っているのかのチェックをするので、こちらに触れてください」


 って、そんな便利なものがあるなら書かせんなよ!と心の内で思わないでもなかったが、これも信頼度の見極め材料になるのかと思い直し、出された水晶玉に軽く触れる。


「……はい、全て合っています。ありがとうございました。申し訳ありません、試すようなことをして」

「ああ、いいよ。それで後は何するの?」

「はい、ギルドカード裏面に記載する文書の設定ですね」


 来たか。一応考えてはいるものの、なんだか身構えてしまう。


「この文章は二度と書き換えることはできませんのでご承知おきをお願いします。書いていただくことは、貴方の哲学です。では、こちらの紙に書いてください」


 すっと、出された紙は真っ黒だった。受付さんに問いかけてみると、個人情報の漏洩の防止だという。表面とは重要度の違う扱いに、僕は先ほど考えたもので本当に良いのかと一瞬考えたが、その迷いもまた哲学だと手に取ったペンの先を真っ黒い紙に付けた。





「はい、確認しました。出来上がるまでに30秒ほどお待ち下さい」

「あのーギルドの説明とかってあるのでしょうか?」

「はい、説明を要望でしたら、チュートリアルクエストを取ってください。クエストの受注は、NPCからの依頼時にステータス画面で行うか、ギルドエントランスの壁にかかる紙を破るかで行えます。チュートリアルクエストの受注は受付で依頼してください。ただし、もう一回お並びの上でお願いします。混雑時に1人様に多くの時間を取ることは禁止されていますので」

「了解しました」

「では、ギルドカードができましたのでどうぞ」


 渡されたのはブロンズのプレート。聞けばランクが上がれば色も変わるという。他人と違うのは裏面の文章と、表面の文字の背景にうっすらと歯車をあしらった幾何学模様が書かれていることだった。僕はありがとう、と受付に一言かけて直ぐに退き、横の受付でギルドカード設定を行うコノカを待つ。コノカも数分遅れで、出来上がったギルドカードを持って駆け寄ってきた。


 表面だけ見ると、そこには豪華絢爛なゴールドのプレートが。おい、なんでやねん。


「なんか、種族が英霊だからって、ゴールドになった。……あれ?ギアリーのプレートは随分とくすんだ色をしてますねえ?」

「うっせ。これは心が汚れている奴にはそう見える仕組みになってるんだよ」

「はっはー」

「終いにゃ泣くぞ、僕」


 ゴールドプレートか。大体のRPGに則って考えればコノカはブロンズ・シルバーを飛ばした2階級、いや3階級特進を決めたことになる。運営さんって、なんでこう、極端なんですかね?


「ま、まあコノカがメッキゴールドプレートなのは分かった」

「いや、何もわかっていませんよ。メッキゴールドじゃないですよ、ゴールドですよ。見えないんですか、この輝きが。目が曇っていますねえ」


 とことん、、煽ってくるコノカ。ここぞというときにはアピールしてくるやつである。


「僕のプレートだって、磨けば輝くわ!」


 それは最早何も言ってもドツボにはまっていく感覚しかなかった。何言ってんだこいつ、と言わんばかりの視線をやり過ごし、コノカに聞いてみる。


「これからどうする?」


 コノカは自慢げに言う。




「決まっているでしょう、ゴブリン退治です」


 ───やっぱり、王道は外せませんよね。



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