10閑話
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その後、店を出て少し歩いたところで、コノカが、少し待ってて、と言い残して走って行ってしまった。僕は今までは僕の都合に散々付き合わせてきたので、束縛するようにどこに行くのかを聞くのも悪いと思い、何も言わずに見送った。残された僕は道路の真ん中で立ち尽くすと迷惑だろうとと考え道の脇へとずれる。
「はぁ、やっとここまで来れたな……」
壁に寄りかかりつぶやいた。
全く、チュートリアルもなくただ壁の中に放置されるとは思ってもみなかったな。何回も言っているが、もしあそこでジャー坊に拾われてなかったらと思うと本当にぞっとするな。
手持ち無沙汰だったので、しばらく上がったステータスを見てニヤニヤしているとあることに気がついた。
「あれ?防御力ってどこに記載してあるのかな?よく見るとHPとかMPもねえし」
ステータスの項目には頑丈さを表すVITの項目はない。代わりに健康さを表すCONがあるのでそこに含まれるのかとも思ったが、健康度が高いから体が硬いってどういうことだよ、と思い直す。他二つに関しては嫌がらせにしか思えないな。
ああでもない、こうでもないと思っていると金髪の美少女が手を振りながらこっちに向かって走ってくる。
僕の憧れのシチュエーションの1つに突然出くわしたもんだから、一瞬僕の妄想があまりにも強すぎてVRで再現されたのかと思ったが、何てことはない。帰ってきたコノカだった。
「はあ。はあ……。お待たせ、しました……」
「ああ、良いよ。全然待ってないし。どこに行ってたの?」
「あ……っと、えっと……と、トイレです!」
その言葉はコノカの視線が右、左と視線が動いた後に、顔をそっと僕からそらしながら放たれていた。
つまり、明らかな嘘だった。
「あー、言いたくないのはわかったから、そんなに大声でその単語を叫ばないで」
「あぅ……」
あぅ?!あざと!?と思ったが、失礼なので口には出さない。あざといは、褒め言葉。これ世の中の常識だから。
コノカの息が整うのを待って、いま考えていたことをおくびに出さずに僕は言った。
「まあ、用事は無事に済んだってことで良いんだよね?……じゃあ冒険者ギルドに行こっか」
「はいっ!」
ー・ー・ー
冒険者ギルドへの道中である。
雅蘭桜町シメイヨツノは緩やかな丘陵に建てられた町だ。
そして、この町では、町を統治する領主様の家の次に冒険者ギルドが大事だと考えられているらしく、どこからでもなるべく同じ時間で来られるように町の中央に立地している。
やたら多いこの町の階段も、町の入り口から冒険者ギルドまでの主要な大通りである道には例外的に一本もない。多分、物資の運搬の関係でそう設計されているのだろうが、段差を取り除くためにわざわざ町の中央を窪ませるのはやり過ぎだとは思う。そのお陰で、この町は形が歪で所々の高さが変則的な、ドーナツのようになっている。
僕たちは今、段差のない道ではなく生活道路とでもいうのか、車二つ入るかという位の幅の道路を歩いていた。この道には例に漏れず、緩やかな階段が盛り込まれている。
そんな道を歩いている途中、僕は心に燻ってしょうがない言葉に耐え切れず口を開く。
「本当にごめんなさい」
「突然どうしたのですか、ギアリー。会話の導入で謝るのは興味を引くという意味では効果的ですが、女子と話すときにはそこまで評価できませんよ」
辛辣なコノカさんだった。……そうじゃなくて。
「いや、結構な時間を縛っちゃったからさ。本当だったらもう一戦闘終えているくらいだったろうし」
「なんだ、そんなことですか。話しかけたときにも言った通り、私が話し掛けられたのはギアリーだったからであって、もしあそこにぼーっとしたボロボロの人形さんがいなかったら私はまだウロチョロしてたと思いますよ。だから謝る必要はナッシングです」
むしろ、ナンセンスです。と何がむしろなのかよくわからないことをコノカはドヤ顔で言った。
「けど、コノカは可愛いし、すぐに高レベルプレイヤーが色々教えてくれてたと思うし」
「その後私は、下心が見え透いた扱われ方に嫌気がさしてゲームを辞めていたと思いますけどね。まあ、ギアリーはその点いっそ清々しい程に姫プレイヤーと決めつけてきましたからね。逆に安心しましたよ」
「う……ばれてのか。その事もごめん。僕にそんな可愛い子がなんの打算もなく来ると思わなかったんだよ」
「いや、私は情報が欲しくて近づいたんですよ?」
「その程度だろ?しかもその後はそれこそ打算なしに付いて来てくれたじゃないか」
「まあ、このゲームって何をすれば良いか分からないですし。ギアリーのビフォーアフターは見てて楽しかったからいいですよ。……といいますか、本当に突然どうしたんですか?」
コノカは立ち止った僕の前にカランコロンと下駄を鳴らし回り込んだ。そして、僕の目をじっと見る。吸い付けられるように僕は彼女の目を見た。ぽつり、言葉が漏れる。
「……ここまで来るのに時間がかかったなあって思ったら、急にコノカの時間を奪っていたことに気がついたんだ。そしたら、ムシがいいのはわかってるけど、謝らなきゃ気が済まなくなって……ごめん。こんなことうじうじ言ってごめん」
「……。はぁああああぁぁ」
コノカは深くため息をついた。
「いいですか、ちょっと目をつむって下を向きなさい。……くれぐれもキスをするとか思わないでくださいね?」
「えっ?じゃあなんで下向くの?」
「えっ?じゃない!です!もう、結構余裕あるじゃないですか」
「下向きました?目はつむりました?」
「うん。これ以上ないくらいには」
叩かれるのか、撫でられるのか。いずれにしても僕は甘んじて受け入れるだけだと、自分ながらに調子のいいことを考えているなと思いながら目を一層力強く閉じる。
しばらくじっとしていても、何も起きない。
何をされるのかがわからないよりも、コノカが目の前にいるかの方が気になり始めた頃。
フサッと頭に何かが乗っかった。
目を開ける。
「……えっ?」
「プレゼントです。本当はギルド登録したらあげようと思ってたんですけれど、思ってた以上にギアリーが優しかったので今あげちゃいます」
触ってみれば、それは帽子だった。
「ボーラーって知ってますか?シルクハットを丸くしたような帽子なんですけど。中世のヨーロッパ、今でいうIROS大連合で流行った帽子なんですが、個人的に燕尾服にはよく似合うと思うんですよね」
「いや、ヨーロッパ位知ってるわ。……けど、なんで?」
「さっき折半したお金で買ったのです。……ね?私は姫プレイヤーなんかじゃなかったでしょう?」
姫プレイヤー。今更説明など要らないと思うが、自分のアバターの容姿を利用して男に貢がせるプレイヤーのことだ。勿論コノカは姫プレイヤーとは違う。けどそれは……
「それは、私が更に失っているだけだと言いたいのですか?時間も、お金も。仕返しにならないと言いたいのですか?」
「……うん」
コノカはいよいよ呆れ果てたといった感じで嘆息した。そして、顔をぐっと上げて僕をキッと見つめると目力に反してとても優しい声色で言う。
「いーい?よく聞いててね?私は何も失ってるわけじゃないの。ギアリーは私一杯良くしてくれたわ。だからこそこうやってプレゼントもあげたの。ギアリーが私のことを仕返しするべきだ思うのは勝手だけど、それを私に押し付けるのはお門違いだよ。見当違いでもあるね。私は、お礼がしたかったのよ?」
コノカはしたり顔で優しく微笑んだ。
僕は、コミュニケーションが──特に、女性との──が、うまくできない。だから極力相手のことを考えていようと思っていた。
けど、それも、ケース・バイ・ケースだったのだ。
僕だって自分のアバターのスタートを煩わしく思うことはあったけど、それをとやかく言われるのは大きなお世話だと思うだろう。
大きなお世話。
そうか、僕は押し付けていたのか。
「……ごめん、コノカ」
「それはどっち?」
「いや、そんなことを言う暇があればもっとやることがあったなと思ってね」
「へー?例えば?」
試すように、というかいじるようにコノカが目を向けてくる。
「コノカが困るほどに貢ぎまくって困る顔見るとか」
「悪趣味!!これ以上ないほど悪趣味だ!」
「……ありがとね、この帽子」
「どういたしまして。というか、こんな説教の為じゃなくて普通にお礼のために買ったんですけどね」
お礼、か。
「じゃあ、そのお礼は大きなお世話ということで」
「な!なにお〜」
返せーとコノカが頭に手を伸ばしてくるので、コノカのおでこに手を押し当てて防ぐ。
「これは僕のものだから、だめ。その代わりまた今度、コノカの分を買うから」
「お礼で?」
「プレゼントで」
「なら許す!」
にぱっと笑う彼女の顔を見て、僕は言い方こそ失敗したかもしれないけれど、この話をコノカにしてみてよかったと考える。この笑顔にはそれほどの破壊力があったのだ。思えば、女子の笑顔を見たのはいつぶりだろうか。
「じゃあ、いこっか、コノカ」
「止まったのは自分じゃないですか、ギアリー」
歩き出せば元通り横二列になる。現実では通行の邪魔とされるこの位置が、なんだか嬉しい。
コミュニケーションは難しい。嫌だ、わずらわしいと思っていたそれだけど、こうして二人で歩く今は、このゲームを通じて少しでも楽しいものにしたいなと思えた。
ギルドはもう僕たちの目と鼻の先だった。
ピコン!
「ん?……あはは!」
「どうしました、ギアリー?」
「みてよ、これ」
メッセージウィンドウをコノカの方へ弾いてみせる。
ー・ー・ー
【プレイヤー《コノカ》からボーラーが送られました】
【ボーラーが[古代の礼装]に統合されました】
【ボーラーの名前が《繋がりの帽子》へと変化しました。効果は以下の通りです】
【繋がりの帽子:コノカ印】
・《古代の礼装》のサブ装備。
・着用時にギアリア・トゥカタリオのステータスに補正。
・コノカとパーティを組んでいる時に、コノカへステータス補正。
・仲良くなった証。仲違いを防止する、仲良しの帽子。
ー・ー・ー
「まあ、私とギアリーの仲ですからね!当たり前ですよ」
「こりゃあ、僕も早くプレゼントしなきゃなぁ」
「ギアリー印、期待大ですからね!」
どやどや?とコノカが得意げに近づいてくるので僕はプレッシャーから冷や汗を垂らしていたが、気がつけば2人して笑いあっていた。
打算もお礼も遠慮もなし。言葉にこそしなかったが言外に約束した僕たちは今度こそ歩き出した。




