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9うさぎさんの経営する服屋さん

ブクマも100件超えました。感涙です。





 

 現実世界の博物館だと、横にスライドするドアや奥に押す形のドアがよく展示されているが、よもやVR世界とはいえ、実際に自分が使うことになろうとは。


 WHERE?WEARHEREとかいうトンチキな名前の店に入る時にふとそう思う。コノカもその思いは同じようで『ほほぉ……』と声を漏らしながら僕がスライドさせたドアを見つめて感心していた。僕も面白くて開けたり閉めたりを繰り返してしまう。


 現代日本ではドアは既になくなり、バリアのようなスモークがかった着色された薄い膜が入り口に覆ってあるだけになったしな。ぬるんとそこ出入りする時に冷えたこんにゃくに突っ込むような感覚がたまらなく気持ちよくて、近所を歩けば幼稚園から小学生までのガキンチョが嬉々としてドアを行ったり来たりしてるのは、最早夏の風物詩となっている。


 チリンチリンと涼しげな音が店内に聞こえる。


「お邪魔しまーす……」

「しますー……」


 店内に入る時に自然と小声になってしまう2人。なんだろうね、この感覚。


 店内は静かで誰もいない。本日オープンなのだから客がもっといても良さそうなものなのに。これが噂に聞く不況というやつなのだろうか。あな恐ろしや21世紀日本。


 店内は、伽藍調の和風な外面からは考えられないほど洋風、というかシックな感じだった。暗く深い色の木の板が壁全体に張り巡らされていて、広い店内にある服の乗ったテーブルも、会計用のカウンターも全て同じ色で統一されている。

 さりげなく壁にかかった帽子やリュックなどもオシャレな演出となっていた。


「ギアリー、暖色のライトが秘密基地のようないい雰囲気を醸し出してるということもちゃんと言ってください」

「いや、窓からもれる光も適度にあるから秘密基地、というよりはセンスのいい喫茶店って感じだろう?……って口に出してた?」

「うん」


……。気を付けよう。

冷やかし半分、見極め半分で店内を見回って騒いでいると、カウンターの奥から声が聞こえてきた。



「おう、随分と嬉しいこと言ってくれんじゃねえかよ。俺も頑張って内装の改装を頑張ったってもんだな!いらっしゃい!」



 渋い声につられて、カウンターに背を向けて店内の批評をしていた僕たちは揃って後ろを振り返り────揃って固まった。


「ん?随分ボロボロの客だって思ってたらこれまたえらいベッピンな顔を持つコンビじゃねえかよ。羨ましいなぁおい!」

「……ありがとう、ございます。そういう店長さんは何というか……」



「うさぎさんだ!!!!」



 うさぎっぽいっすね。と、コノカに盗られたセリフを心で呟いた。

 そう、店長の顔はうさぎだった。ファンシーな感じでなく、まんまのリアルなうさぎ。ピーター何某と似た雰囲気を感じる。背丈は170位の俺よりもでかく、ガタイも鍛えているのが分かるほど良いのに、顔がうさぎだった。顔以外、例えば手とかは普通の人間の手をしているのに。


「おう!うさぎさんだぜ!好きなだけもふってくれ」


 当の店長はコノカにもふられて嬉しそうにしている。


「こら、コノカ。ばっちいもんに触っちゃダメでしょ!」

「おいこら、坊主。誰が汚ねえだ。服作ってやんねえぞ」

「客は神様だ!つまり、下賤な店主は汚いという寸法よ!」

「こら、ギアリー。もふもふは汚くありません。可愛いのです」

「すみませんでした、店長」

「やーいやーい、こんな女の子に尻にひかれてやんのー」


 くそっ!うさぎフェイスのせいで年齢が分かりにくいからいまいちキレにくい!年下か?年上なのか?


いや、こんなガタイのいい中学生とか嫌だけどさ。


 しばし、ドヤ顔のうさぎヅラを睨んでいたが、あまりにも不毛なのでやめた。コノカのモフリもやめさせた。


「まあ、俺が可愛くて聖なるもので、美しく気高く清潔なものであることは自明の理となった訳だが。坊主たちは客で良いんだよな」

「……。……ああ。服を買いに来た。……と言っても服の相場がわかんないから所持金は初期のままだけどな。本日オープンにも関わらず、閑古鳥の鳴いていそうな店内を見る限り……もしかして服って高いのか?」

「バカ、そんな訳ないだろバカが。さっきまではチョー一杯いたわ。それこそ行列ができてたわ。むしろお前に売る服なんてなかったぐらいだわ」

「なんで、そんなにケンカ腰なんだよ」


 どうやら、服に買いに来た客は本当に沢山いたらしいが、先程コノカが見つけた公式イベントの詳細が出たせいで客が準備や何やらと店からログアウトしていったらしい。

 そう話す店長は話しながら泣くふりをして、物欲しそうにチラチラとコノカを見ていた。コノカは不思議そうに見つめ返していた。


 多分そのおっさん、もふって欲しいんだと思うよ。とは死んでも言いたくなかったので代わりにボソッと「見苦しいぞ。ピーター」と一言いっておいた。


「つまり、どういうことなんですか?」

「つまりな、このうさぎは不幸にも運営に客を取られた悲しい畜生なんだよ」

「畜生とは、さっきから大人しく聞いてれば言ってくれるじゃねえか、クソ坊主」

「このイケてる顔に免じて許してください」

「ぶっ殺すぞ」

「じゃあ、コノカの顔で」

「許そうじゃないか」


 畜生と言うと怒るくせに随分と本能正直な店長だった。というより、ノリがいい人だった。


「そんで、お前らは坊主の服を買いに来たって訳か?予算は幾らだ?」

「最大で3500円。足りなかったら稼いでくるけど」

「全然足らんな。……と言いたいところだが、お前さんのその服の型を取らせてくれるというなら考えんでもないな」


 ほう、型ね。確かに燕尾服の型というのはなかなか取れるものじゃないかも知れないな。そもそも初期装備───僕の場合は服だけども───は一人一人違うらしいからな。レア度も高いだろう。今や一万を超えるプレイヤー一人一人(課金者除く)に1点ものを与えるとは、どこまでドM(ほんき)なんだ、この運営は。


「つまり、プライスレスな一点物の服を売らなければならない程このゲームの服の相場は高いってことなのか」

「いんや、別にそんなことはないぞ。ただ、新品を買うとなるとただの服でも上下合わせて10000は下らねえな。ここの服は俺が一つ一つ作ってるし」

「……ちょっとまて、うさぎ」

「……なんだよ坊主」

「いま、『新品は(、、、)』って言ったな?……じゃあ、中古、いや、修繕ってのは幾らかかるんだ?」

「……チッ!」


 おい、今舌打ちしたぞこいつ。


「……修理は100万だな」

「客舐めすぎだろ」

「ああ?価格設定はこっちの勝手だろうが。嫌ならどっか行けや」


 これは相当、初期装備の型紙は高く売れると見た。


「いや、別に型紙を売りたくないって言ってる訳じゃあないんだ、名も無きうさぎよ」

「……リリーだ。蔵鉄(くらがね)リリー。……じゃあ何が目的だよ?この際だから隠し事なしに言っとくが、初期装備の型紙はプレミアがつくから高く買ってやるぞ?」

「幾らだ?」

「お前の場合、ジャケットが30万円、下が15万円、ベストが2万円、ワイシャツが3万円でどうだ?」


 型を写すだけでこれだけ払えるということは、デザイン権は俺に残らない感じだな。つまり、この服が修復されたらそれほどの価値があるということだ。


「……僕はギアリア・トゥカタリオだ。売値はそれで良い。けど、とりあえず型を売るのはインナーのワイシャツだけだ。……どうせ、このワイシャツを型紙に写すだけでもスキルレベルがじゃんじゃん上がるとか、あるんだろう?」

「……お前も知ってる口か?」


 身をもってな。実は魔導具館での修理中、自分の体磨いて、分解された腹を覗いていただなのに工学のレベルが3つも上がっていた。

 仮説も仮説だが、恐らくレア度の高いものをいじればいじったほど経験値が貰えるのだろう。つまり、一点もののレアものである初期装備を扱えば、じゃんじゃん職業レベルも上がるかもしれないということだ。


「まあな。そこで、相談があるんだ」

「なんだ?」

「こんなボロボロの初期装備でも一応愛着はあるんだ。それに、この装備が僕専用であるという身勝手な独占欲すらある。……だから、もしもその型紙を使わないと約束できるなら、燕尾服の方の型紙も取ってもらって構わない」

「……本当か!開店早々運が良いな!ついてるぜ!」


この服を作っても売るな、といったも同然なのにこの喜びよう。


「つまらないこと聞くが、そんなに経験値が入るのか?」

「おう!恐らくおめえさんの装備を写して、自分の手で作るだけでも相当レベルが上がるはずだ。それこそ、ここの売りもん全部作るよりも多くの経験値がな。約束する!作ってもぜってえ売らねえ。いや、お前にやる!予備として使ってくれ!」

「まじで?くれるなら欲しい。……あ、作ったのくれるなら型代はさっき言ってたやつの半分で良いぞ」

「マジかよ!」


「あのぅ……」


 とここで、ずっと黙っていたコノカが小声で参加する。


「どうした?コノカ」

「あ、いえ。その型?を売るのって私でもできますか?」

「嬢ちゃんも売ってくれるのか?!やりい。今まで頼んでも他人が自分と同じ服を着るのを見たくねえって断られてたんだよな。そんな方法があったか。くっそ、なんで今まで思いつかなかったんだ?」


 小躍りするマッチョなうさぎを傍目に僕はこっそりコノカに話しかける。


「いいのか、コノカ?所詮口約束だから売られるかも知んないんだぞ?」

「いえ、そうしないと私のお金は0円ですし」

「割るって言ってたじゃん」

「申し訳ないですよ!?」


 確かに今のままだと万単位の金を彼女にあげることになるのか。


「……あ、じゃあ後で僕の頼み聞いてくれない?それでチャラってことで」

「……へ?いやいや、無理ですって。どんなお願いするつもりですか!」


 特には決めていない。とはさすがに言えなかった。そう言ったら受け取ってもらえそうにないし。僕の燕尾服はどこにでも売ってそうなもんだから、もし、リリーが約束を打ったとしても、大してダメージはない。けど、コノカの装備は有り体にいって、格が違う。

 和服をアレンジした赤いその衣装は見ただけで特別だと分かるのだ。リリーは見たところ約束を守りそうなので、杞憂になりそうではあるが、そういうのとは関係なしに売るのがもったいなかった。


 まあ、彼女がそうしたいというならさせるべきなのだろうけど。これはただの僕のわがままだしな。


「あー、喜んでいるところ申し訳ない。コノカの装備の話は無しになった」

「ちょっと、ギアリー?!」

「……ま、しょうがねえか。もし俺がギアリアの立場だったら同じこと言うしな。お嬢ちゃん。悪いことは言わねえから止めときな」

「……むぅ」


 多少不機嫌になってしまったコノカだったが、お願いを聞いてもらうということと、コノカのお金が貯まったら何かを買ってもらうということでなんとか落ち着いてくれた。


 その後は、代金はどうするか、修復にするか、新品にするかどうかの話をした。

 結果、僕はこの服の修理をしてもらうことにして、代金は型紙の差し引きでこっちが合計で5万円もららうことに。その代わりリリーの持つ最高級の材料で修理してもらうことになった。


 店内にあった椅子で、コノカともふもふ談義をしたり、コノカに服をプレゼントしようと服選びを一緒にすること1時間後。リリーが顔を艶々の毛並みをして帰ってきた。これを見るに、相当経験値がもらえたようだ。


「いやいや!ギアリア様!お待ちいただきありがとうございます!」

「楽しい1時間だったみたいだな」

「いやぁ、やばい。これはクセになるわ。レベルアップ音をオンにしたら、数分毎になりやがる。まだ耳に残ってるぜ」


 ピョコピョコ、と後ろに垂れた耳が動く。


「ほら、これが今できる最高級品だ。……ったく、数十万の装備を使った初期装備なんて他のゲームじゃ考えられねえな」

 そういって、リリーは僕に修復された燕尾服を手渡した。





ー・ー・ー


古代の礼装(アンティーク・タイ)】《初期装備》

 《上下インナーのうち、2つ装備で①の効果が、全て装備で全ての効果が発動》

 ①[ギアリア・トゥカタリオス]が装備時に職業ボーナスに補正がかかる。

 ②ハウスキーパー(男)が装備時に職業ボーナスに補正がかかる。

 ③職業スキル【献身】が追加。


ー・ー・ー




 前までは行えなかった装備詳細が見ることができた。

 リリーとコノカに聞いてみると普通は最初から見ることができるものらしい。……ちょっと、ステータスといい装備といい、不遇すぎやしませんかねえ。顔がこれじゃなかったら、やめてるレベルですよ?


 けどまあ、これで見た目は完璧になった。というか、本来あるべき姿に戻った。

 日もそろそろ上りきりそうだ。


 コノカと一緒に早く冒険者登録をしなければ。


 僕はリリーとフレコを交換すると店を出た。リリーは見えなくなるまで見送ってくれた。現金だけど、いい奴だなと思いました。


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