うじむし94
よし、冷静になった。
私の目的はシステムさんの救出。それを忘れちゃいけない。私とシステムさんの生殺与奪は虹色単眼シャボン玉が握っている。
気まぐれで殺されかねないけども、気まぐれで助かるとも言える。
私がすることは怒りに任せて喧嘩を売ることでも、虚勢を張って挑発することでもない。
自分の感情を抑え込んで、シャボン玉の御機嫌を取らなきゃいけないんだ。
「システムさんを助けてくれるなら、何でもする。どんな命令だって聞く。だからシステムさんを助ける方法を教えて下さい。どうすればシステムさんを助けられるんですか?」
『無知ではあるが、その好奇心の高さが補っているな、虫よ。お前がシステムと呼ぶものは我が一部。故に、それを救うには我が内に還すことが最も適切なのだ』
それはさっきも聞いたが、そうなった後システムさんが無事に戻ってこれる気がしないんだよ。
この場所が経験値やカルマ値を集積する場所なら、目の前のシャボン玉の集合体みたいな奴は経験値・カルマ値の塊だ。
それらが集まって知性を得てシャボン玉になったのか、シャボン玉にそれらが集まってこうなったのかは分からないが、とにかく、コイツの体はおかしい。
エネルギーの激流、大渦巻きみたいなものだ。弱ったシステムさんが取り込まれたらあっという間に粉々になっちゃうよ。
そしてシャボン玉がシステムさんの安否を気遣うとは思えない。
体が無事でも心が壊れたなら意味がない。全部揃ってシステムさんなんだから。
『システムとは定命の世界よりエネルギーを取り込む手足に過ぎぬ。お前たちが心と呼ぶ精神の働きを有することが間違いなのだ』
それは間違ってる。
システムさんだけじゃない、もう消滅した新担当だって心があるっぽかった。
でなきゃ、あんなに感情のこもった悲鳴は上がらないだろう。
つまりシステムとは単なるアンタの手足じゃない。言われた通りの動きをする部品じゃなくて、自分で考えて行動する一個の命なんだ!
『お前がそう言うことは分かっていたぞ、虫よ。だが、この次元の現界において、お前の結末はまだ決定してはおらぬ』
言っていることの意味は殆ど分からないけど、つまりまだシステムさんをシステムさんとして救う余地はあるってことだよね。
『システムは領分を越えた行動により罰を受けねばならぬ。存在を取り込み修正をするのだ。だがお前はそれを止めたいと言う。ならば、道は一つしかあるまい』
……システムさんを助けるために私が何のリスクも負わないなんて都合の良い話が有るわけが無いって思ってたよ。
システムさんが救えないなら世界を滅ぼす覚悟までしてたんだ。助けられるなら世界を救う覚悟だって決める。
『簡単な事だ。我は手足の一本が不自由となる。ならば代わりの手足としてお前が我に仕えよ』
手足なんて元々存在しないウジムシですが何か? 手足どころか頭と胴体の境目すら判明してないんですけど。あ、今はあるか。
とまぁ冗談はさておき、システムさん達の役割は経験値を集めてシャボン玉に献上すること。つまり、私は経験値を集めれば良いってことかな?
それなら今までと殆ど変わりがない。
生き残るために強くなる。そうやって生きてきたんだ。
システムさんを助けられるなら、シャボン玉の手足にでも何でもなってやる。
『ならば言葉にして誓うが良い。お前が我が手足として定命の世界で経験値を集めることを』
「私は……」
あー、えっと、誓いたいけど、誓いの言葉で“アンタの手足”とか“シャボン玉の手足”って言い方はダメじゃないの?
世界の裏側的な場所の親玉なんだから、名前があると思うんですけど……?
『我に呼ばれる名は無い。だが、我が手足と関わった洞察鋭き者に“名無しの神”“彼方なるもの”と称されることがあったな。好きに称するといい』
私の中では虹色単眼シャボン玉で固定なんだけど、システムさんのボスをそんな名前で呼ぶのも不味いよね。長いし。
かと言って私が名前を付けるというのも恐れ多い。というかメンドイ。私、これから手足に、つまり配下になるんですよね? 配下に名前付けられるボスとかいないでしょ。
無難に“名無しの神”と呼ばせてもらいましょ。
「私は名無しの神の手足として定命の世界で経験値を集めて献上することを誓います」
宣言した瞬間、私の体の中に何かが入り込んでくるのを感じた。物理的に。延髄あたりに、どすッと。
これは、名無しの神の紐か。皮膚突き破ってるんですけども……。
痛くないけども、物凄い異物感。
だけどそのお陰か、上下左右も分からない謎空間なこの場所で、体勢を保てるようになった。
多分、名無しの神の手足になったことで、この場所への適正が出来たんだろうな。
更に素晴らしいことに、システムさんを視認できるようになった!
ふむふむ、名無しの神と同じく虹色の玉ですな。連結はしていなくて、一個だけの玉だ。
システムさんは名無しの神の手足というか、まんま肉体の一部なんだね。
正直、これは嬉しすぎる誤算です。まさかシステムさんをこの目で見られる日が来るとは!
ありがとう名無しの神!
……ハッ!
今とんでもないことに気付いた。気付いてしまった!
システムさんは名無しの神の一部で、名無しの神が生み出した存在。
つまり名無しの神はシステムさんの親。
そして今の私はシステムさんと同じく名無しの神の手足。名無しの神の義理の子供のようなもの。
私はシステムさんのご両親に義理の娘として受け入れられた……。
これって結婚だよね?
『これでお前は我が手足となった。我は寛大だ。役目を果たす限り、お前は我の寵愛を受けることだろう』
「ありがとうございます、お義父さん」
『…………』
なんだか名無しの神に対して凄く信仰心が湧いてきた。
もしかして名無しの神じゃなく縁結びの神だったのかしら?
『やはり此処のお前は他所のお前よりも面白い。今までも差異はあったが、此処が一番歪みが大きい』
また理解の及ばないことを。此処とか他所とか私には分からないわ。
何処だろうと何だろうと、私がいて、システムさんがいる。私はそれで満足だ。かなり満足だ。
『興が乗った。我も歪みを後押ししてみるとしよう』
私が握る名無しの神側の紐から虹色の光が流れ、システムさんの方へと伝わっていく。
何してんですかお義父さん。さすがに今更システムさんに悪いことするとは思えないけど、意図が分からなくて不気味ですよ。
『こやつから我の手足としての制限を外したのだ。手足ではなく、落とし子として再定義した』
やっぱり名無しの神の言ってることは意味が分からないけども、つまりシステムさんがパワーアップしたってことで良いのかな?
システムさんから伝わってきていた力無い感覚は消え、源泉から涌き出る湯水のようにエネルギーが溢れてきているのが分かる。
まだ意識はないみたいだけども、システムさんは大丈夫だ。きっとすぐに目を覚ます。
システムさんを諦めなくて本当に良かった。諦めるなんて選択肢は最初から無かったけども、少しの躊躇でシステムさんを助けられるという結果は掴めなかったように思える。
もうシステムさんの紐を繋ぎ止めておかなくても、システムさんが消えることはない。
でも折角だからもう少し握っておこう。
あ、名無しの神側のはポイで。
『お前には期待している。定命の世で足掻き、決められた未来を僅かにでも変えて見せるがいい。それが、我が娯楽となる』
名無しの神がそれを求めてるって言うなら、やってやりますよ。
システムさんの恩人であるし、今や私のボスでありお義父さんでもあるのだから。
『ではお前の生きる領域に帰るがいい。いずれ、また会うこともあるだろう』
新しく手に入った『システムとの接触』もあるしね。来ようと思ったらいつでも来れる。
まぁ、次に会うときは是非システムさんも一緒に、改めて結婚の御挨拶に伺いたいもんだね。
私の目の前の空間に亀裂が走る。ここを通り抜ければ元いた場所に帰ることができるのだろう。
亀裂をくぐろうとして、最後にもう一度虹色単眼シャボン玉を振り返った。
「次はしっかりお土産を持って来ます。お義父さん」
単眼は閉じてしまい反応は無かったけど、しっかり聞いていることは何となく分かった。
さて、元の世界に戻ったら、さっそく罠ゴーレムにリベンジして経験値を献上するとしようかな。




