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うじむし92



 『経験則』まじで有能。

 これは正真正銘のチートですわ。熊と鳥が世界中に散らばってる本のページ集めてゲットできるチートよりチートですわ。

 あれ、落下ダメージ無効とか水中酸素無限とかあったよね。よく崖から飛び降りてショートカットしたもんだよ。


 まぁ、『経験則』チートは正解ルートを発見しないとスキル取得に至らないという制限はあるんだけど。

 システムさんの補助がついている私にはその制限は有って無いようなものだった。


 今はシステムさんの所に行きたいから『経験則』を使っているのであって、システムさんの補助は無い。

 だけど、私はこの世界に生まれ落ちてからずっとシステムさんと一緒に過ごしてきた。

 最早ソウルパートナーと言っても過言ではない。


 そんな私がシステムさんの補助の癖を知らないとでも思うかね?

 システムさん個人については悲しいくらい何もしらない私だけど、何をしてくれたかは忘れずに覚えているのさ!


 基本はシステムさんはまず私を肯定し励ます。そうすると私は奮起してやる気をだす。ちょっとすると冷静になり、今まで考えが向かなかった場所に気付く、とそういう具合だ。


 つまり現状で私が見落としていること、すぐに考え付く以外のことに答えが眠っていることが多い。

 誰しも考えの癖というものがある。癖が付いてしまうとどうしても一定の範囲でものを考えてしまう。

 システムさんは私にもっと頭を柔軟に使えと促してくれていたんだ。


 よし、まずはリラックス……。落ち着いて、レイクサイドのコテージで風と木々の音をBGMに寛ぐようにスローな気分になるんだ……。


 んぁ~……、良いッスねぇ……。良い感じで脳が解れてる感じがしますねぇ。



『『経験則』が発動しました。今までの経験から熟練度が一定に達し、Nスキル:『回復促進』を獲得しました』



Nスキル

『回復促進』

 行動を起こさず体を休めることによりHP・MP・SPの回復速度を向上させる。戦闘中は効果を発揮しない



 ンァッ!?

 今の声、システムさんじゃ無かったぞ!? 誰だ貴様! システムさんはもっと耳朶を震わす甘く切ない低音ボイス、貴様のような腑抜けた軟弱ボイスではないわ!


『『システムと相思相愛』の称号により返答させて戴きます。前担当はシステムとしての総意に反した行いの為、切除処分となりました。これ以降『システムと相思相愛』の称号及び効果を停止、また新たな――――』


 黙っててもらえるかな?

 システムさんが話さなくなった後に現れた今担当とかいうボイス、システムの総意に反した行いという言葉……、そして切除処分。

 直前に起きたことはシステムさんが私のスキルで私を助けたこと。


 つまり全部、私の所為か……ッ!!


「新しい担当とやらサン、私のシステムさんは切除処分というのをされた訳?」

『これ以降の返答の必要性を確認できません。よって『システムと相思相愛』の効果を停止します』


 声が聞こえなくなった。

 言葉通り『相思相愛』の効果を切りやがったんだろう。

 なるほどなるほど。私からシステムさんを奪う、と。あの新担当? システムの総意とやらはそう言いたいわけだ。

 おーけー、大体わかった。

 つまりそれはアレだね? 全員私にブチ殺されたいと。そういうことで良いんだね?


 はっはっは、そうかそうか。

 私がシステムさんに送ったと思っていた言葉はもしかして新担当さんが聞いていたのかな?

 人様の魂の叫びを、愛の告白をしれっと聞き流しておいて、切除処分とか抜かす訳ね……。

 どういうジョークだ? こっちの口が裂けるまで笑わせるつもりか?


 体の奥底でどろどろとしたモノが煮立ち、泡立つような感覚。

 この感覚を私は知っている。

 私を食おうとした虫の群れを蹴散らしたあの時と同じだ。

 私を、私たちを害そうとする奴等への怒り。非力な自分への怒り。絶え間ない破壊衝動。



 『所得“カルマ”が一定の値を越えました。これより“限定神化アンリミテッド”を開始します』


 システムさんの声じゃない、好きになれない軟弱で粘っこいボイスがそう告げる。

 仕事はきっちりこなすらしい。


『“限定神化アンリミテッド行程プロセス”第一……第二……コンプリート。第三行程……』


 最初の時は失敗した。

 私の想いが足りなかったから。

 だけど、今回は失敗しない。失敗するわけがない。煮えたぎる怒り、情熱、私の想いの丈。全部燃やす!


 いらない。他の全て、何もいらない。

 システムさんとまた会えるなら、システムさんの力になれるなら、もう何もいらない!

 


『――――コンプリート。白氏 瑠璃の“限定神化アンリミテッド”を完了しました』



 力が、光が、溢れていく。

 体の内側から、どんどん膨れ上がっていく。

 

 忘れかけていた……。これが、力か。


「うあ"ぁ"ああッ!!」


 全身が溶けながら組み換えられていくような感覚に思わず叫ぶ。


 鈍重なウジムシボディの背中が割れ、羽化するように私の人間の体が現れた。


 視線が小さい。まだウジムシ年齢的には子供だから仕方がないのか。

 だけど、成った。また成れた。限定神化アンリミテッドとかいう時間制原付の人間形態に。


 虚空に手を伸ばす。

 何もない、だけどそこに居る。

 分かるぞ、新担当! そこから見ているな!

 ベイビーでレッサーだったころの限定神化モードとは違い、ミュータントなウジムシの限定神化は一味も二味も違うらしい。


 慌てて逃げようとする気配を鷲掴み、地面に向かって叩き付けた。


『――――!!?』


 ダメージを受けた様子はない。だけど余程衝撃的だったのだろう、新担当は逃げることも忘れているようだった。


 コイツがさっき言っていた通りなら、システムさん達とシステムの総意は繋がっているはず。恐らく巨大な組織とその構成員みたいな感じなのかな?

 コイツ等は一方的に私たちに干渉してくる。

 だけど裏を返せば、私たちに干渉するルートがあるということだ。


『彼方側に居る筈の私を掴んだ……!?』


 朗報だ、私の体は彼方側とやらに行けるらしい。

 可能性でしかない。だけど迷っている暇もない。だったら迷う前に突っ込んでやる!

 新担当の気配から伸びる紐のようなもの、その先はぷっつりと途切れている。けど、今の私の視界には更に先に繋がっているのが見えるのだ。

 紐を掴んで引っ張れば、此方と彼方の境目がガラスを引っ掻くような音を起てて軋んだ。

 じわじわと境目に傷が入り、広がっていく。


 これで入りやすくなるね。


『や、止めなさい、そんなことをすれば世界を維持する経験値やカルマ値が漏れだして大変なことになりますよ! 貴女が怒りに任せて動いたところで、もう間に合うはずが――――』

「知ったことか!」


 世界を助ける云々と言われたこともあったけど、あれはシステムさんが言ったからやると答えたのだ。

 システムさんがいないなら、私のためにシステムさんが処分される世界であると言うなら、私が世界を壊す。

 悪いが、今の私はそれくらいキレてる。

 そうさせたのはお前達だろうが。



『『経験則』が発動しました。今までの経験から熟練度が一定に達し、EXRスキル:『システムとの接触』を獲得しました。』



EXRスキル

『システムとの接触』

 世界を構成する経験値やカルマ値といった要素を管理する世界の裏側への接触を可能にする。自在に出入りすることが可能だが、その度に世界は出血を強いられる。



 スキルの習得で傷を広げるのが随分楽になった。

 傷口に手を突っ込み、飴細工を壊すかのようにバリバリと穴を広げていく。


『ぎゃあああああああ!』


 背後から新担当とか抜かしたヤツの悲鳴が聞こえて、その後すぐに気配が消滅した。どうやら私がシステム側に踏み込む為のコストになったらしい。

 僅かに罪悪感が芽生えるけども、システムさんと比べたらヤツの命など小指の甘皮ほども重要ではない。


 普通の目には見えないけども、神化の視界には私の体くらいなら十分に潜り込めるほどに広がった亀裂が見える。

 ふふん、行ってみてやろうじゃないの、システムさんの故郷とやらに。


 ……システムさんの故郷?

 あれ、ちょっと待って、そうだよね、今からシステムさんの故郷に行くんだよね。


 あらやだ、もしかしてシステムさんのお義父さんやお義母さんもいらっしゃるのかしら?

 私ったらこんな格好で手土産もなくそれどころか同胞一人ぶっ殺して行く訳なんだけども大丈夫かしら? まずは花嫁修行からかな? 味噌汁の味付けから習うの?


 えぇ、ちょっと、もしもあちらのご両親がいたらと思うと決心が鈍るわぁ。

 こんなことなら結婚に関するハウツー本でも読んでおけば良かった……ッ!


 挨拶……、挨拶ってどうすればいいの? 服装は……真っ白な着物な感じだけどいける? 失礼に当たらない? ちょっとひねくれた見方をしたら、挨拶しに来た息子の彼女がもう白無垢でしたって見えないかしら?

 なにそれこわい。



『瑠璃様……』


 私が亀裂に半歩踏み込んだまま悶えていると、システムさんの声が聞こえてきた。


「システムさん今私のこと呼んだァああああッ!?」


 えぇい、私のバカ! 今はシステムさんの救出が一番でしょうが!

 亀裂の中に飛び込んだ瞬間、強烈な酩酊感に襲われた。

 まるで思いを煮詰めた濃厚なスープの中に溶け込んだかのような錯覚。

 私のものじゃない考えが、言葉が、想いが、問答無用で私の中に侵食してくる。

 ひっどい場所だ。これがシステムさんの居る場所なのか。


 その思いの中には、システムさんのものも溶け込んでいた。

 新しいからなのか、その想いや言葉はとても鮮明に私に聞こえてくる。


 何でよシステムさん。なんでそんな消えることを受け入れちゃってるのよ。

 そうか、私は罠階層のボスで死ぬかもしれなかったんだ……。システムさんの予測ではそれが確かなものに見えたから、強引に助けてくれたんだ。


 そのために消えるなら良いって?

 白氏瑠璃にシステムと呼ばれた存在はそうして消える、だって!?

 馬鹿馬鹿しい。

 そんなこと……、させるはずがないでしょうがッ!


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