うじむし91
罠階層の入り口なう。
システムさんがボス部屋からここまでほぼ全自動で運んでくれました。
以前から感じていたことだけど、『システムと相思相愛』の熟練度らしきものが上がる度にシステムさんは色んな事が出来るようになる。
『建築』みたいに私のスキルをシステムさんが使うなんてことは以前はやらなかったし、そもそも自主的な行動だって出来なかったんだから。
だけど今は出来る。
多分だけど、やろうと思えば『建築』以外のスキルだって自由に使えるんじゃないかな?
戦闘中に『再生』とかドンピシャなタイミングで使ってくれたら凄いよね。
自分でオンオフするよりも、システムさんに任せてしまったほうが良いんじゃないかって思っちゃいそうだよ、はっはっは。
まぁ、システムさんが色んな事が出来るようになることに否やはない。
むしろ私としてはすごく嬉しい。
システムさんがどんどん魅力的になっちゃうから、その内私の好感度メーターが振り切れるんじゃないかなぁ?
……はぁ。
……一人で強がってどうすんだ、私。
少し嘘をついた。
私の意思が全く関係しないところでの『建築』の発動。私のためだったとはいえ、怖かった。
システムさんが私の頭の中に聞こえる声で、ただそれだけの存在なのか、それとも本体は別のどこかにいて、私にテレパシーを送っているような人なのか、未だに分からない。
私はただ、システムさんの優しさが嬉しくて、低音ボイスが直球で、甘えられるのが楽しくて、システムさんが何なのか、ということまでは考えないようにしていた。
自分の持つスキルを勝手に使われるという事態に遭ってから漸く、私は“頭の中に誰かが居る”ということを実感したのかもしれない。
もしもこのまま『相思相愛』の成長が進んだとする。
今は『スキル』だけ。
だけど、今度は体が、次は思考が乗っ取られないとは誰にも言えない。
その時私は『システムと相思相愛』で居られるんだろうか?
いや、こうやって疑って怖がっている時点で、もう相思相愛とも言えないんじゃないだろうか?
私は……、私はどうしたい?
道は二つある。
一つはシステムさんをこのまま信じ、頼る道。
一つはシステムさんとは縁を切り、一人で進む道。
どちらか一つしか選べない。
どちらか一つだけなら、私は……。
システムさんを信じたい。だけど、これからのことを何も考えずに盲目に信頼するのは、信じるんじゃなくてすがり付いているだけだ。
信じるためには、私はシステムさんを知らなきゃならない。
地球でも異世界でも、互いのことを話し合って知らなければ人間関係が上手くいかないのは常識だろう。
実に残念ながら、私はそこらへんを疎かにして生きてきた。
父も母もろくすっぽ帰ってこない家庭だったし、学校では徹夜ゲームの影響で寝てるかうつらうつらしてるか。
誰も近寄って来なかったしね。自分から歩み寄るのもしんどいし、拒絶されるのも怖い。私は一人で都合が良かった。
だけど、このままじゃいけないんだ。
システムさんは、家にいない両親とも近寄ってこない同級生とも違う。
私が自分から歩み寄りたいと感じる初めての人なんだ。
だから、信じる為にシステムさんに触れたい。
ねぇ、システムさん。私の意思が聞こえているんでしょ?
私はシステムさんのことが怖いよ。もしかしたら今までの言葉や優しさが全部嘘で、最終的に私を乗っ取ろうとしているのかもしれないって妄想するくらいには怖がって疑ってる。
でも、やっぱり、好きなんだよ。
異世界にただ一人だった私に優しく声をかけてくれた初めての人だったから、好意が刷り込まれているのかもしれない。
男に慣れてないイモ女がコロッと騙されているだけかもしれない。
そこまで考えても私はシステムさんが好きだ。
私の全てをかけて好きだと言える。
私は、貴方が知りたい。
『…………』
私を罠部屋から逃がしてから、システムさんは沈黙を貫いてる。
話すのが恐いの? それとも話せないくらい消耗しているの?
顔色一つ伺えない私には、話してもらうことでしかシステムさんと関われない。
初めて、そんな関係がもどかしいと思った。
もしも、私からシステムさんに近付くことができれば。
そう願わずにはいられない。
願う……?
また私は受け身なことを考えてるな。
近付きたいと願う暇があれば、方法について考えて実践したほうがマシだ。遥かにマシだ。
じゃあやろう、今すぐ、あず・すーん・あず・ぽっしぶる!
システムさん、もっかい確認するけど聞こえているんだよね?
悪いけど気配で分かるからね。居留守使っても無駄だよ。
今日から私は肉食系女子だ。システムさんが降参して私と話すまで追いかける。そして話をする。
すべてはそこからだ!
幸い、ここは罠階層でモンスターはいない。安全に試す時間はある。
ならばたっぷりと時間をかけてやる。
私の持つチートスキルの一つ『経験則』で。
重ねた経験をスキルに昇華できる能力を持つこのスキルなら、システムさんにアクセスする挑戦を重ねることで、それ専用のスキルを獲得する可能性がある。
その方法が正しくなければ習得には至らないというルールはあるけど、やれる筈、いや、やる。
愛は全てを救うのだ!
システムさん、私の執念を見るが良い!
◆◆◆
彼は混乱の渦中にいた。
自分のしたことが信じられない、と驚愕し、自分を自分という個として認識していたことにまた驚く。
システムとは世界の経験値、ステータス、カルマ値、それらの集合意識の一片でしかない。
故にシステムとは個ではあり得ない。世界という群体生物を形作る一つの細胞なのだ。
そんな彼がしたことは、システムとして枠を超えた、一つの生物への寵愛と言えるまでの干渉だった。
自分が干渉を行ったことについて、なんどスキャンをかけてみても理由は分からなかった。
システムの一片として故障した様子もない。
どこから見ても正常であるのに、異常な行動を起こしてしまっている。
だというのに、自分では干渉が問題であったとは少しも思えないのだ。
自分は世界の異物となってしまった。
直ぐにでも修復しなければ。
前例が無いわけではない。
自分がまだ誰の担当でも無かった時、一人の生物の担当を行ったシステムが動作不良を起こし群体から削除されたことがあった。
そのシステムは担当していた生物の死をねじ曲げ、寿命を大幅に増やしてしまったのだ。
自分がやったことも同じだ。
白氏瑠璃の死の運命が垣間見えたから、咄嗟に瑠璃のスキルを強制発動させて死の運命をねじ曲げた。
前例が少ない訳でもない。
こうしてシステムが担当の生物に関わり異常をきたすことは数十年に一度の頻度で起こっていることで、その都度異常なシステムは切り取られ新しくすげ替えられてきた。
問題を起こした段階では一片はシステム全体と繋がっている。
だから、必ず露見する。
自分にこれから起こることも同じだ。
異常をきたした一片と判断され、システムから切り取られる。
本体から切り離されたシステムはゆっくりと溶けるように消滅し、空いた穴を埋めるようにいつの間にか新しい一片が誕生することだろう。
本体と一片の繋がりが切れていくことが分かる。
自分というものが出来てしまったからこそ感じてしまう喪失感、混乱、恐れ。
今まで切り離されていった数多の一片もこの感覚を味わっていたのだろう。
その時、彼らは何を想ったのか。
彼は、自分として最後に想う。
ただ最後にもう一言づつ、言葉を交わすことができれば……。
『瑠璃様……』
繋がりの最後の一本が切れる。
彼の全てがこれで終わる。
白氏瑠璃にシステムと呼ばれた存在は、こうして消え――――……
「システムさん今私のこと呼んだァああああッ!?」
◆◆◆
……――――させるはずがないでしょうがッ!




