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うじむし89 ヒーロー17




 ベルトの解析……、やはりそうきたか。

 懸念していたことが当たってしまい、俺は少し考えた。

 さっきから頭を使いっぱなしだ。もう脳みそが過剰労働で火を吹きそうなんだが。


 まぁ、それが青山孝介という男に求められた仕事だ。他の誰もできない以上、黙って完遂するさ。


 学園長が提案したことは、俺たちの生活と安全を『英雄学園』で五年間保証する。その代わりに異世界人の魔力を引き出すベルトを研究材料として差し出せ、ということだった。

 俺たちの身柄を拘束しない分、貴族院所属といっていた先程のハゲオヤジよりはマシだろうが、結局のところ飼い殺しという点においては何も変わらない。


 だが、このベルトは望まぬうちに植え付けられた物。いくら未知の技術と驚異の能力があろうとも、俺たちにとっては異物でしかない。

 ならば、差し出すことには抵抗はない……筈だ。


 だが、ここで了承してもいいものか。

 相手が欲しがっているのなら、その価値を更に上げるのが交渉と言うものだ。引き際を間違えなければ学園長からはもっと搾り取れる。俺の勘がそう囁いている。


 ここで仲間を振り返る。

 学園長の提案に対してどう思っているのか把握してなければ、話を進めることができないからな。


「雄大、鈴音。学園長の提案についてはどう思う?」

「俺は乗っても良いんじゃないかと思う。ただ、それで元の世界に戻れるのかっていったら、分からないな、としか言いようがない」

「訳も分からず取り付けられた力を頑なに保持するよりかは、安全の保証の方が大事だと思います」


 雄大は少し不安がありそうだが、鈴音は乗り気か。

 順当な所だろう。この二人は常に地に足のついた考えをする。


「鉄男、彩華はどうだ? この話は乗るべきか?」

「……俺は最終的に帰れるなら、何だって良い。ここで飼い殺しにされるのでも、ベルトを使って逃亡生活を始めるでもな」

「あたしはぁ、この条件じゃ飲めないかなぁ。だって学園長、もっと出せるでしょ? あたしらにはベルト分しか交渉材料が無いじゃん。だったらもっと払ってもらわないとさ、フェアじゃないよねぇ」


 鉄男は考えがやや危ういな。元の世界に変えれることを交渉材料にされれば、どちらにでも転がってしまいそうだ。最悪、俺たちだけで元の世界に帰る方法を探す必要がありそうだ。

 鉄男を利用するためだけに『元の世界へ帰る方法』をちらつかされる訳にはいかない。


 彩華は俺と考えが似ているか。意外だ。前の世界では享楽主義のような所が目立ったが、本質はこっちなのかもしれない。

 今後、相談できる相手が増えるのはいいことだ。


「春彦はどうだ? ベルトをどうしいたいと思う?」

「そうだなぁ、なにも俺たちのベルトを全部差し出さなくてもいいんだよな? それとも、ベルトを差し出した奴しか保護しねぇつもりか?」

「それはこれからの交渉次第だろう。だが、出来れば最低限の出費で最高のリターンを求めたいと思っている」

「ハッ、そりゃそうだな」


 春彦はベルトを手放すつもりは無さそうだな……。

 だが、それも正しい。

 学園長も100%信用できるかどうかは分からない。いや、腹に逸物あるのは当然だと思うべきだな。

 見方の少ない場所で自衛手段を失うわけにはいかない。

 とはいえ、いざとなれば手元に呼び出せるんだがな。


「義人はどうだ? 学園長の言い分を信じるか?」

「ぼ、僕は……、悪いけど、信じられない。いや、信じた方がいいのは分かるんだけど、今は疑った方が安全だと思うんだ、だから、ベルトは渡したくない」

「おっ! スゲェぜ義人、よく言ったじゃねぇか!」


 義人は、言い方は悪いが臆病だ。その臆病さ故にまず人を疑って掛かろうとする。

 あのマキシマのじいさんの時のように、エサを目の前にぶら下げられれば分からないが、今のような状況では悩みつつも学園長を疑おうとするだろう。

 貴重な意見だ。真っ向からベルトを渡したくないと宣言したことで、雄大、鉄男にも迷いが生じているようだった。


 特に雄大は人を疑うことを知らない。というか、疑おうととしない。奴には改めてこの話の怪しさに気づいてほしいものだな。


 これでベルトの提出に関する意見は、賛成2(雄大、鈴音)。反対3(彩華、春彦、義人)どちらでもいい1(鉄男)

 となった訳だ。

 ちなみに俺は反対だ。


 解析されることもそうだが、何より怖いのは解析されたあと量産されることだ。

 もしもこのベルトの使い勝手がよくなり、改造された異世界人だけでなく一般の兵士が使えるようになったら?

 調整されたベルトは俺たちのものよりも遥かに強くなると予想できる。

 いち組織がそんな力を持ってしまったらどうなるか?

 遅かれ早かれ戦争だ。

 味方はベルトの力を使い、敵はベルトの力を求め争いが起こることは想像に難くない。


 俺たちだけの問題じゃない、自分自身ベルトを守る

ことは、この世界の安全にも繋がるんじゃないか?

 この技術は、日の目を見させてはいけない。隠し通さなけれいけないものだと思うのだ。


「悩んでいるようだけど、結論は出たかい? 僕もこれでも学園長なんてやってて忙しくてさ、時間の引き延ばしをされちゃうと、雑用を押し付けてきたグロッセ君が倒れてしまうかもしれないんだ。だから早く決めてくれると嬉しいな」


 出来れば返答は先伸ばしにしておきたいが……。


「孝介君、ここは一つ、ベルトを渡しましょう」

「鈴音さん? 何を言ってるんだ?」

「孝介君の考えていること、少しは分かるつもりです。ここは私のベルトのみ学園側に提出するのではどうでしょうか?」


 ベルト一本ならば管理も容易かもしれない。

 いざとなればベルトを呼び出すことも出来るし、呼び出す前に取り押さえられようとも、他のメンバーでカバーできる。

 問題は向こうがそれで納得するか、だが。


「いいよ、それで。まずは一本、こちらで調べさせて貰うよ。それが終わったら別に人のを見せてもらう。ベルトごとの違いを確認したいからね」

「良いのか、鈴音さん?」

「えぇ、学園長さんも此処が落とし所だと思うでしょう。ベルト一本で五年の生活と安全の保証。これなら対価としては充分では?」


 そうだな、全員のベルトを持っていかれる恐れもあった。そう考えれば、鈴音さんのベルト一本で最初の条件を勝ち取ったのはいい結果と言ってもいいかもしれない。


 いや、負け惜しみだな。

 悔しいが、俺にはこれ以上の対価を引き出せそうにない。最善は研究に協力するとか上手く誤魔化して、こちらの出費をゼロにして相手に吐き出させることだったんだが……、そう上手くはいかないか。


「孝介君、私のベルトの分を無駄にしないで下さいね」

「すまない、鈴音さん」

「おうコラ、勝手にベルト渡して勝手に納得してんじゃねぇ、誰のベルトも渡さねぇのが最善に決まってんじゃねぇか」


 春彦め、こんな時にでしゃばってくるんじゃない。

 話し合いには参加しようとしなかった癖に。


「やっぱこうウダウダ喋くってんのは性に合わねぇ、コイツら全員ブッ飛ばしゃあ解決なんじゃねぇのか?」

「バカ彦、それが出来ないから孝介っちや鈴音ちんが頑張ってんでしょ。敵を知らないまま突っ込んで痛い目見たばっかじゃん、少しは抑えてよ」

「んだとぉ……?」


「ハイハイ! そこで勝手に喧嘩しない! やるなら自分達の部屋でやってね。今日のお話はベルト一本で五年の生活保証、これで決まったわけだけど、ハルヒコ君以外は依存無いかな?」


 改めて仲間を見る。

 雄大と鉄男は黙って頷いた。

 彩華はは気にするなと手を振り、鈴音は小さく頭を下げた。俺に任せた、ということか。

 ベルト解析反対派の春彦は不満が有るようだったが、一人では動かないだろう。

 不安そうに成り行きを見ている義人が春彦に同調するとも思えない。もしも脅しをかけて言うことを聞かせようとするなら、その時は春彦と戦うまでだ。


「分かりました。その条件でお受けします」

「うんうん、実に円満に話が着いたね……。信用は出来ないかもしれないけどさ、僕は、いや、『英雄学園』は君たちの味方であるつもりだよ?」

「えぇ、こちらもそうでありたいと願っています」

「ベルトも危険な機能と君達への悪影響が無いかどうか確認できたら返すから。間違ってもこちらで悪用はしない。誓うよ」


 これは、信じてもいいのだろうか?

 ……雄大は信じるだろうな。雄大が信じて行動すれば鈴音がフォローに回り、なんだかんだと春彦も手伝い始め、彩華が巻き込まれ、義人が着いていく。

 俺の役目は変わらない。

 危険を予測して頭を回すだけだ。


「こちらもベルトの乱用はしないつもりですよ。少なくとも自分は、ですが」

「出来ればハルヒコ君には約束して貰いたいねぇ」

「それは、同感です」


 俺と学園長は顔を見合わせて苦笑した。


 さぁ、俺たちも俺たちで、ベルトの真実を知らないとな。



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