うじむし88 ヒーロー16
なんで皆、そんなに冷静でいられるんだろう?
僕は怖くて怖くて仕方がないのに。
いつのまにか死んでいて、改造されて生き返って、生き返った場所は剣と魔法のファンタジーなのに、僕たちには力も訓練するだけの時間もなかった。
唯一手に入れた武器は、変身できるというベルト。
強すぎて制御できないかもしれない兵器だった。
本気の半分も出していないような攻撃の余波で仲間が半壊する程の威力を秘めた、殺すための道具。
黄瀬義人という臆病者には、過ぎたものだったんだ。
「じゃ、茶番はここまでってことで裁判は閉廷、此処からは少し真面目にお話させてもらうよ」
喚いていた頭の寂しいおじさんが学園の先生達に何処かに連行された後、金髪でおかっぱな学園長が笑ってそう言った。
裁判は終わったと言っても、場所は変わらず講堂だし、僕たちは見下ろされたまま、この構図が、僕たちの立場は低いのだ表している。
「自己紹介の必要はもう無いね? 一応、僕がこの『英雄学園』の責任者だよ、気軽に学園長と呼んでくれればいい」
「……茶番だと分かっていたのか」
「こちらにも色々事情があるってことだよ、テツオ君。気に入らないかな?」
「……いや、いい」
皆の様子を伺う。
雄大くんは僕と春彦くんの前に立っている。庇ってくれているつもりなのだと思う。
庇われている春彦くんは面白くなさそうだけど、交渉に向いていない自分の性格を理解しているのか、今のところは静かだった。
孝介くんはやっぱり考え事をしてる。頭のいい人の考えは僕には分からない。
鈴音ちゃんと彩華ちゃんは何かを話していた。きっとこの後、話し合いをどうするか相談しているんだと思う。
あの自滅しそうな貴族院所属とかいうおじさんが相手だったら怖くなかったんだけど、この学園長は怖い。
あの目が、まるでこっちの心を見透かしてくるみたいだ。
「単刀直入に聞こうか。君たちはそのベルトの危険性を理解しているかな?」
「……ッ!」
思わず体が震えた。
ベルトの危険性。異世界で体に植え付けられた力だけど、やっぱり危険なんだ。自分で考えるだけじゃなくて、人からそう言われると、そうなんだなって思える。
「学園長殿、それは先程も話に上がった『周囲の魔力を枯渇させる』という機能のことでいいのだろうか?」
「殿は付けなくていいよ、君はコウスケ君だね。『魔力枯渇』、うん、それで合ってるよ」
「やはりか……」
「ふむふむ、君はこの話のおかしい所に気付いているのかな? 話してみるかい?」
「許されるなら」
「うん、いいよ」
孝介くんが僕たちを振り返った。
何を言うつもりなのかは分からないけど、彼が僕たちに不利なことを言う筈がない。
黙って頷いた。
「ではお言葉に甘えさせていただきます。自分が疑問に思ったのは、なぜ周囲に魔力枯渇……今はそう呼ばせてもらいますが、そのような現象が起こったのか、ということです」
言われてみれば、そうだ。
なんで魔力枯渇なんて起こったんだろう? あの
ベルトは、僕たちの体の中にある本来なら放出できない魔力を変換するもので、周りをどうにかするものじゃない。
「皆様はこのベルトの機能をご存じなのでしょうか?」
孝介くんが自分の腰に巻かれていたベルト外し、講堂にいる全員に見えるように持ち上げた。
勝手に持ち出していることがバレちゃうけど、いいのかな? あ、でも学園長がベルトの危険性を知ってるかって言ってたんだから、持ち出したことはバレてるのか。
「そうだね、開発者からは君たちの体に中にある魔力の放出を補助する装備、と聞いているよ。今はそうとは思えないけど」
「はい、周囲の魔力を枯渇させる、という機能は俺たちも聞いていませんでした。おそらく、ただ枯渇させただけではありません。吸収と増幅、これが行われたのではないかと思います」
孝介くん僕をちらりと見た。
え? 何? 僕なにかした?
「ダンジョンという特殊な環境が機能をアンロックしたのか、それとも元々あったもので、今まで発動条件を満たしていなかったのか、そこは分かりません。ただ、ダンジョンで変身した俺たちの力は跳ね上がっていました」
あ、そういうことなのか。じゃあ、僕の攻撃が思った以上に威力が出たのも、その所為だったってこと?
「……たしかに、一度も負けなかったな。キノコ汁以外には」
「鉄男さぁ、そこでそういうこと言うの止めなって」
「……すまん」
学園長が難しい顔をして黙り込んだ。
あの人も頭がいいタイプの人なのか。何を考えているのか、僕には想像もできない。
「なるほど、コウスケ君の考えは理に敵っているね。残念だけど、確認はできない。開発者は行方不明中だから」
「あのクソジジィ、逃げたんだなァ」
春彦くんはあの博士のことになると途端に沸点が下がる。勝手に改造されたんだから、無理もないけど。
「あの人は、逃げたんですか」
「そうだね、今日の為に呼び出しにいったんだけど、彼の研究所はもぬけの殻だったそうだよ。この事からも彼が悪意を持って君たちにベルトを渡し、害意をもって変身を促したのは明白だ、と言えるだろうね」
このベルトは……、力を与えるだけで人を不幸にするものなんだろうか。
力はそれを使う人の心次第っていうけど、このベルトはやっぱり制御できないんだろうか?
孝介くんの言う『吸収と増幅』は怖い。間接的とはいえ学園長に負荷をかけ昏睡させ、僕は力の制御が出来ずに仲間を全滅に追い込む所だった。
でも、それは『吸収と増幅』の効果を知らなかっただけで、もっとよく知れば周りに迷惑をかけないで、力を上手く使えるようになるんじゃないだろうか。
物語の主人公だって、誰もが最初から最強な訳じゃない。特に最初から強い能力を持っている主人公は、その力を制御するために修行するパターンが多々ある。
僕たちのベルトもそういうものなのかもしれないじゃないか。
そう考えると、この学園長のいうことも少し怪しく思える。
倒れたって言うけど、僕たちはそれを見ていないし確認もしていない。それが僕たちを軟禁するための口実じゃないと誰が言える?
この世界では異世界人の立場は低い。魔力を使えず、放出もできず、弱くて利用価値も無い。そんな異世界人がこの世界の人間を遥かに凌駕する力を得てしまったとしたら?
もしも僕がこの世界の人間だとしたら、いままで見下してきた相手に急に凄まじい力が宿ったら危険だと思う。これ以上の力をつける前に排除したいと考えるだろう。もしくは上手く取り込んで利用するか。
なるほど、貴族院のおじさんも『英雄学園』側が僕たちを取り込むための生け贄だったのかもしれない。
それどころか彼も『英雄学園』側で、全てが自作自演かもしれないんだ。だって、あからさま過ぎたし。
僕は疑心暗鬼なのかもしれない。
でも、その可能性はゼロじゃない。僕たちが信じられるのは僕たちしかいないんだから。
「言い方はキツいけど、その『吸収と増幅』の効果はこの世界にとって害悪でしかない。魔力とは生命力そのものと言ってもいい。それを枯渇するまで吸い取るなんて、ただの殺す為だけの道具だ」
「それは分かります。ダンジョンで発動しただけで学園長負荷掛かるほどだったそうですから」
「あれは、まぁ、ダンジョンの管理者が僕だからね、いわば予備の魔力タンクみたいなものなんだ。君たちがダンジョンから魔力を根刮ぎ吸い上げてくれたもんだから、予備である僕にも負荷がかかったんだよ」
ダンジョンの管理者、ということはダンジョンマスター!
学園長はダンジョンマスターだったんだ!
そ、そうなると本当に倒れてたのかな……?
で、でもそれが嘘という可能性も……?
うーん、これ以上疑うとドツボ嵌まっちゃいそう。あとで皆に相談しよう。
バカの考え休むに似たりって言うし、考えるのは頭がいい孝介くんとか鈴音ちゃんに任せるべきだよね。
「幸い、と言ってはアレだけど、今回は被害が僕だけで済んだし、学園内部でのことだから大事にはしないでいられる。だけど、同じことが外で起こった場合、どうなるか分かるね?」
「はい、分かります。分かる……、つもりです」
学園長の言う魔力=生命力という話が本当なら、誰かを助けようと思って変身したことで誰かを傷つけてしまう可能性もあるんだ。
そういうことが言いたいんだと思う。
「あのよぉ、小難しい話ばっかで頭に上手く入ってこないんだけどよ、学園長サン、アンタつまりアレか? もう変身するなって言いたいのか?」
「ハルヒコ君、きみはせっかちだね。結論を急ぎすぎても良いこと無いよ? だけどまぁ、そうだね、少なくとも『吸収』機能について制御できる見通しが立つまでは、変身は自粛してもらいたい。自粛できそうにないならベルトをもう一度こちらで預かろうか?」
……そ、そうだよね、これ以上変身したって良いこと無いよね。
学園長の話を全面的に信じるなら、だけど……。
戦う力を手放して、僕たちが生きていけるんだろうか?
僕は、僕はまだベルトが怖い。でも、ベルトが無ければ戦えないのも事実なんだ。
「それは異世界人である自分達に戦う力を手放せ、と言っているのですね」
「戦う場に出なければ良いじゃないか。このまま『英雄学園』に在籍してもらっても構わないし、嫌なら街に宿を取らせるよ? 5年は生活を保証してあげよう。その間にベルトの解析が済めば、君達は再びその力を得られる訳だ」
「どうでしょう、正直に言って話が美味すぎて信用しきれません」
「ベルトを解析できれば充分な見返りだと思っているよ」




