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うじむし86 ヒーロー15



 ついにこの日が来てしまった。

 学園長暗殺未遂だとかいう容疑で裁判にかけられるこの日が。


 疑われるだけの状況は充分だったし、推論ではあるが、こうなってしまった理由も予想がついている。


 俺たちに悪意は無かった。全てはベルトを俺たちに渡し、間接的に破壊活動をさせたあのマッドなジイさんが悪い。

 だがそれを学園側がどこまで信じてくれるものか……。


 あのジイさんはこの国ではそれなりに有名らしいし、そもそも俺たちはジイさんの口利きで『英雄学園』に転入できたのだから、仲間と見なされてもおかしくはない。


 仲間たちの様子を窺う。


 雄大はそわそわと落ち着かない。自分達に非はないと信じる気持ちと疑う気持ちがぶつかり合っているんだろう。正義感の塊のようなヤツだから、疑われていることに怒って短慮に走らないか心配だ。


 鈴音と孝介、あと以外だが彩華は落ち着いているようだ。あの三人はベルトが没収されようとも黙って従うだろう。あのマッドなジイさんに味方するよりも、学園側ついた方が安全なのは確かだ。


 義人は……、見ていて哀れになるほど憔悴している。この一件には自分に責任があると思いすぎているのだ。あれでは例えベルトが返還されようとも、変身できることはないだろう。


 全く変わらないのは春彦だな。ヤツはある意味マイペースだ。自由なヤツだからな。厄介ではあるが、このような事態では少し頼りがいがあるのも事実だ。

 暴れださないようにだけは注意が必要だが……。


 俺は……、俺はどう見えているだろうか?

 黒岩鉄男という男は、この状況を正しく把握し、行動できているか?

 客観的に考えて、出来ていないな。行き当たりばったりになりそうだ。


 せめて学園側と敵対だけはしたくないが、難しいだろう、

 今の俺たちの手元には学園長に害を与えたとおぼしき例のベルトがある。

 ベルトは危険物だということで強制的に没収されたはずで、軟禁状態だった俺たちが取り戻すことなど不可能なのに、ベルトは今俺たちの手元……正確には腰元にあるのだ。

 まさか持ち主が念じるだけでワープしてくるとは誰も思わないよな。


 不味いとは思うが……、俺たちが悪意ある犯罪者なのだと確信している奴等の所へ丸腰で行くのは流石に躊躇われたからな。

 これだけは必要な措置なのだ、と全員ベルトを手元に戻していた。


 腰に装着された真っ黒なベルトに触れる。

 勝手に改造されて取り付けられた異物だというのに、こうして装着していると安心するから不思議だ。


 最悪、その場で死刑や終身刑が言い渡されることも考えておかなければならないだろう。

 そうなれば黙って従うことは出来ない。

 俺には、妹が待つ家に帰るという使命があるのだ。

 それ邪魔するならば俺は手段を選ばすに抗う。幸いなことに適した手段は既にあるしな。


「容疑者達よ、前に進むがよい」


 長いヤギひげを生やした学園の先生に促され、俺たちはデカい講堂に入った。


 中はすり鉢状になっており、一番下の真ん中中央、開いた場所に俺たち七人は並ばされた。

 ベルトが手元にあることはバレていないはずだが、警備は厳重。兵士らしき人が左右に控え、いつでも抜剣できるように柄に手が添えられている。


 上座には頭が禿げ上がったオッサン。学園で見たことが無いから、外部のお偉いさんか。

 よく見ればあのちっちゃい学園長もいるな。なんだ、動けるようになったのか。

 まぁ、学園長いるからと言って、有利な証言が出てくるとは思えないのだが。

 あのマッドの姿はない。そうだろうよ。


 ここが臨時の裁判所というわけだ。

 普段はただの講義堂だっていうのにな、俺たちのためにわざわざ国の重鎮まで出張ってきて裁判をするらしい。ご苦労なことだ。

 ヤギひげ先生は俺たちを同情的な目で見ていた。大人たちの中では、俺たちがこれからどんな目に会わされるのか、もう決まっているってことか……。嫌になるな。


「被告……


 ユウダイ・アカイ

 コウスケ・アオヤマ

 ヨシト・キセ

 スズネ・ミドリヤ

 アヤカ・モモゾノ

 テツオ・クロイワ

 ハルヒコ・カナヤ


 以上七名、相違ないか?」


「はい、ありませぬ」


 俺たちに入るよう促したヤギひげ先生が答える。

 情報もある程度伝わってしまっているか……、当然だな。


 雄大と春彦は、まだ耐えているようだ。義人は顔が真っ青だが……。


「君たちには学園長を暗殺しようとした容疑がかかっている、が……この場に連れてこられた以上、容疑は確定したも同然。裁判とはただの確認の場でしかない。動機、凶器、その使用方法、および開発者の居場所を答えよ。真摯に答えればこちらも応えよう」


 凄まじく上から目線だな。立場的にも座席的にもそうなんだが、面白くはない。


「動機なんざねぇよ、そもそもなんで学園長サンの暗殺容疑なんて物騒なモンが俺たちに掛かってんのか、そこんところ教えてくれや」


 春彦のぞんざいな口の聞き方に、上座のハゲが分かりやすく不機嫌を露にした。


「そんなことを聞いているのではない。動機、凶器、使用法、開発者の居場所、その答えでないなら発言は許さぬ」


 なるほど、これは裁判という名目の尋問か。

 大勢の前で行って威圧感でもかけるつもりだったのか? いや、それでは効率が悪いし、不利な証言が万が一にでも飛び出た場合、火消しに苦労する。

 では大勢の前で尋問するメリットは?

 自分達が正しいのだというアピールか? 馬鹿馬鹿しいが、それが一番あり得るように思える。


 いやまて、こいつらは俺たちが変身することを知らない。

 凶器と使用法を聞き出そうとしていることからもそれは明らかだ。

 恐らく、俺たちが何らかの方法でダンジョン及び学園長ダメージを与えたということしか知らないのだろう。


 マッドジイさんが言っていたが、異世界人とは使用できない魔力の塊のようなもの。

 それが使用されたのではないかと恐れている訳か。

 そしてあわよくば異世界人の力を解明し、利用する、というところまで考えているかもしれない。


 ……底の浅そうなヤツだ。


「だからよぉ、俺たちだって何が起こってるのか分からねぇっての。まずは俺たちが学園長を暗殺しようとしたって根拠はなんだよ? 言ってみろコラ、それが分からなけりゃ言いようがねぇだろうがハゲ」

「き、貴様、言うに事欠いてハゲだと!?」


 あぁ、気にしてたのか。

 だがちょうどいい、コイツは底の浅い小物だ。怒らせれば情報を吐き出しそうだな。

 ちらりと仲間を見る。

 鈴音、孝介、彩華は俺の意図に気づいたようだ。

 いや、雄大もか。だが役割は俺たちに譲るようだ。雄大はこっそりと春彦と義人に近づき、いつでも庇えるように位置取った。


「……春彦、言ってやるな。彼はオデコが広いだけだ」

「そうそう、ちょっと頭全体にオデコが侵食してるだけだよねー、ププッ」

「鉄男くんも彩華ちゃんも言い過ぎですよ、髪の毛が無いことは悪いことではない……、と、思いますよ?」


 ハゲを確認すると、茹でたタコのように真っ赤になっていた。だが残念なことに頭髪においてハゲの味方はいなかったようだった。誰もフォローを入れない。

 酷いのは学園長だ。盛大に吹き出したあと、顔を背けている。あれはバレバレだろう。


「その反抗的な態度! 貴族院に席を置く私への暴言! 許さんぞ! ただの魔力タンクでしかない異世界人ごときが、邪法によって動き出したリビングデッドめが!」


 異世界人、というだけでなく、もともと死んでいたこともバレているのか。

 俺たちをジイさんの所に持っていったのは、確かこの国のお偉いさんだったはずだ。バレていて当然の情報か。


「なるほど、魔力タンクと呼べるほど魔力を内蔵している俺たちをどうにかして手元に置きたいがために、狂言じみた裁判を起こした訳か」


 孝介が氷のように冷たい目でハゲを睨み付けた。

 天才は思考の過程をブッ飛ばして結論から話し出すことがあるが、今のは、まぁ分かりやすい部類か。


 春彦と雄大は分からなかったようだが……、どうせ後で説明しても分からないだろうな。


「何を言うかとおもえばそんなことか! 何を言おうとも貴様らがダンジョン内で何かをした、それが原因で学園長殿が倒れ昏睡状態に陥った、これは紛れもない事実なのだ! お前たちが居た地点では魔力が異常なほど枯渇していたという報告もある! どうだ、言い逃れできまい!」

「なるほどなぁ、それが原因かよ。いやサンキューなハゲのオッサン。それが分からなかったんだよ」

「……訳も分からない内に此処に引きずり出されたからな」


 俺たちの言葉に、咎めるような視線がハゲに向く。


「ピルスナー卿、事の顛末については自身が説明すると言っていた筈じゃあ無かったかい?」


 ハゲの横に――といっても3席ほど間を開けて――座っていた学園長、金髪おかっぱの年齢不定幼女が、じろりとハゲを睨み付けた。

 途端にハゲから玉のような冷や汗がふつふつと吹き出す。

 見ていて不快なので目を反らした。


「い、いや、そうですな、したはずです。この異世界人どもが忘れていだけでしょう、全く、人に似た形をしておきながら知能の程は我らとは大違いらしいですな」

「はぁ? 毛根と一緒に脳細胞まで死滅してんのぉ? アンタみたいなハゲは一度だって監禁部屋に来なかったじゃん」

「黙れ異界のクソガキ! 貴様らのような無知な輩にこの俺が懇切丁寧に教えた所で記憶の片隅に止めておくことも出来んだろうが!」


 怒鳴れば萎縮するとでも?

 驚愕なんだが、この男はわざわざ人を集めて墓穴を掘る趣味でもあるのだろうか?

 それともこれは罠か? あからさまな挑発要員をぶつけてこちらの反応を試そうというのだろうか?

 ハゲ自身は無自覚でやっていそうだから性質が悪いな。


 俺たちの雰囲気が徐々に変わっていく。

 戦闘するということではない。

 裁判という名の茶番が下らなさすぎて、付き合う気が失せたのだ。

 期待していた映画が予想を超えて遥かに詰まらなかった時のような怒りと虚脱感さえ感じる。


 ハゲの低脳っぷりを見て笑顔になったのは義人だけだ。ハゲがあまりにもテンプレバカなので安心できたのだろう。


「話はそれだけか? だったらこんな裁判意味無いだろ、俺たちを犯人扱いしたのも、状況がそれっぽいってことと、あとは異世界人に対する差別感情? そんなとこだろ? 悪いけど付き合ってられないよ」


 雄大は盛大にため息を吐いて、さっさと講堂を出ようとしていた。


「ちょーっと待ってよ、ごめんね、頼むよ」


 が、そこに待ったをかけた人物がいた。

 この声、学園長だ。

 まともに話が進むのであれば、こちらとしても願ったり叶ったり。断る理由はない。

 義人だけまた顔色が悪くなってきているが……。


「いやぁ悪いねー、このハゲ……じゃなくてピルスナー卿がさ、どうしても罪を暴かなくちゃいけないって騒いでさー、形だけでも裁判させてやったんだよ、迷惑かけてホントごめんねー?」

「いえ、こちらとしてもこの一件は疑いがかかった時点で他人事じゃありません、是非話をしたいと思ってました」


 この裁判は……、裁判じゃなくなってしまったのだが、とにかくこの話し合いはここからが本番ということか。



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