うじむし85 ヒーロー14
桃園彩華、人生最大のピンチってやつだよねぇ。
学園長暗殺容疑?
いや意味わかんないから。
さっきまで男連中に付き合ってダンジョンに入って汗まみれになってさ、しかもデッカいキノコの毒で嫌な思いまでしたっていうのに、やっと帰ってきてコレ?
正直さ、ふざけんなよって思うわ。
「グロッセの話では、公判は明日からだと言うが……、みんな、どうする?」
いつもリーダー気取りの雄大の勢いも、今は弱い。
ま、ここで少しは学べば良いんじゃん? そろそろ落ち着いて考えることを学んだほうがいいと切実に思うな、あたしは。
あ、グロッセは一旦帰ったよ。揃えなきゃならない書類があるんだとさ。
アイツは敵なのかね、味方なのかね。
「……疑い、と言っていたが、裁判は明日行うという……。恐らく出来レースだな」
「そ、それってどういうこと?」
鉄男が呟き、義人が過敏に反応する。
頭の足りないショタくんも、少しは考えるべき。頭は使わないとマジで衰える一方だよ。
「義人くん、裁判とは普通、証拠や証言を集めてから行うものです。そしてそれは一朝一夕で集まるものではありません」
「つまり……、俺たちは疑いを通り越して、もう犯人確定と思われてるってことなんだ」
鈴音ちんの言葉を孝介が引き継ぐ。
まぁ、そうなるよねー。あたしら完全に犯人だよねー。
使いたくないけど押し付けられたベルト、使いたい時に限って没収されてるし。はぁ、本当に役に立たないわ。
「だが、いきなり処刑! ということ無いと思う。みんなは以前のマキシマさんの話を覚えているか? 異世界人は自分では使用できない魔力を持っている、という話さ。それがあるから、安易に殺そうという話にはならないはずだと思うんだ」
「雄大、それってよぉ、俺らをいきなり犯人扱いしてベルトまでパクっていった奴等に命乞いするってことだよなぁ?」
「春彦、俺はそう言ってる。俺たちは好き好んでこんあ世界に来たんじゃない。特別な力? 変身ベルト? そんなものくれてやればいい。俺たちは元の世界に帰ることが一番の目標だろ」
段々とヒートアップしてきた雄大と春彦は放っておこう。
雄大は最初っから帰るために行動しているみたいだし、そこはブレてない。春彦はいきなり強い力が手に入ったから浮かれっぱなし。そりゃベルトは手放せないよね。あれがあれば自分の欲望が満たされるもん。
ま、あたしはいつもの通り、楽しそうな方を優先してればいいや。
あたしが見た限りだと、何をしてでも帰りたい、と思っている奴は雄大と鉄男。
残りたいと思っている奴は春彦と義人。
孝介は、帰るのは無理だなって諦めちゃってる感じだな。
鈴音は……、よく分かんない。あたし、あの子苦手なんだよねぇ。いつもお高く止まっちゃって癖に、芯は不気味というか、なんというか。
このままだとグループが二つに分かれちゃうね。
帰る組と帰らない組で。まーあたしはどっちでもいいんだけど。
「おい彩華、俺は今夜のうちにここを脱走するぜ。義人も来るだろ、誘えば孝介も来るかもしれねぇ。雄大はダメだ、状況が見えてねぇ、だからお前も俺と一緒に来い」
「あ、あたし?」
参ったなぁ、今は返事したくないなぁ。
出来れば、学園長暗殺未遂の容疑が何ですぐにウチらに回ってきたのか、暗殺が未遂で終わった理由。最低限その二つが分かってないと、今後も同じ失敗をしかねないと思うのよ、あたし。
「おい、不満かよ?」
あー、やだやだ、もう機嫌が悪くなってきてる。
それと、あたしの見立てでは孝介は春彦に付いていかない。帰れないと諦めていると言ったって、明らかに国とかと繋がってそうな馬鹿でかい場所に喧嘩売るほど彼は馬鹿じゃない。というか、そんなバカは春彦しかいない。
孝介も動かなければ、義人も尻込みして春彦から離れる。
つまり今春彦はボッチ確定なんだよねぇ。
「あー……そうだね、あたし、明日まで待っても良いって思ってるよ」
「あぁ!? おめぇ怖じ気付いてんのか? それとも日和ってんのかよ?」
面倒くさいなぁもう。誰かそろそろ春彦担当変わってよ。
こいつだって頭悪い訳じゃないのに、なんでこう直ぐに感情を優先するんだろう?
「まぁまぁ、なんで絶対にやってないと言い切れるあたしたちに容疑がかかってんのかぁ、興味あるじゃん。これ絶対真犯人いるよ? 探偵もの、面白そうじゃん?」
「お、おぉ、そう言われてみれば、そうだな」
鈴音がちらりとこちらを見た。
なに考えてんだろ、本当に。正直、この世界にきてから特に、あの子の目的が分かんないんだよね。
目的が分からないから行動が読めない。
あたしって、楽しく過ごすために情報は先に集めて不安を先に潰しておきたいタイプだからさぁ、不確定要素って嫌いなんだよなぁ。
「では、全員明日の裁判を待つということで宜しいですよね」
「あぁ、春彦も納得してくれたようだし、義人、彩華、それでいいかな?」
何故か雄大と鈴音が話を閉め出した。
まてまて、まだ問題が中に浮いたままじゃん。
期待を込めて孝介を見ると、彼は何か考え込んでいるようだった。
「孝介ぇ、言いたいことがあるなら言っちゃえばぁ?」
このままだとあたしにその仕事が来るから、マジ勘弁。自慢の頭でっかちを使用してなんとか疑問をひねり出してよ。
あたしの感じている疑問と一緒なら、なお良い。
「すまない、問題点の洗い出しをしていたんだ。ノートやペンがないと、こういうとき不便だね」
「……一番の疑問は、学園長の暗殺方法と、なぜ未遂で終わったか、だな」
鉄男もさ、分かってんなら口開いていけよ。第三者みたいな位置でみんなを見てるあたしに言えた台詞じゃないけど。
「いきなり僕たちが犯人だって言ったんだから、ただ状況が疑わしいだけじゃないよね。もっと明確な証拠があったんだよ、きっと」
「だからよぉ、それはなんだよ?」
「え、そ、それは分かんないけど……、でもそうとしか考えられないかなって……」
「春彦くん、義人くんに凄まないで下さいな。義人くん、その考えは的を射ていると思いますよ」
明確な証拠ねぇ。ダイイングメッセージでもあったとか? あ、死んでないんだけ、そりゃ失礼ケッケッケ。
「死んでないならさ、本人から聞いたんじゃなぁい?」
結局それが一番単純みたいな?
何気なく言った一言だったけど、全員の顔が一気にこちらへ向いた。
え、ちょっと何よ?
ビビるからやめてよね、そういうの。
「……そうか、学園長は死んでいない。意識があってもおかしくない……。特徴を伝えれば犯人の絞り込みは簡単、か」
「鉄男、だけどさ、俺たちがその犯行時間にダンジョンに潜っていたことは証明されているはずだろ」
「……雄大、その考えは甘い……。向こうだってそれを折り込み済みで容疑をかけてきているはずだ」
「鉄男くんの意見も筋が通っていますね。だとすると、この推論が示していることは一つ、学園長とダンジョンには密接な繋がりがあり、私たちが変身したことによって発生した不可を受けた、ということでしょうね。それにより命の危機が脅かされるほどに衰弱してしまったのでしょう」
さすが学園で一、二を争う成績優秀者の緑屋鈴音お嬢様。言っていることに説得力があるよねー。
あたしも少ない脳みそ回して考えてみたけど、その予測に矛盾は感じない。
「なるほどなぁ、それならダンジョンにいても学園長に攻撃出来る上に、俺たちに身に覚えがないってのも納得だわ。事故じゃねぇかよ」
「春彦さぁ、これ多分あれだよ、過失致死ってやつだよ、その気がなくても結果がヤバイからアウトなんだよ」
「おぅ、彩華、難しい言葉知ってんな」
これで疑われている理由ははっきりしたと。
結果的にこうなっちゃったって話だよねー。
あのマッドじーさんも、危険性についてしっかり教えてくれればいいのにさ。
こちとら現代っ子だよ? 教えてもらわないと分からないっつうの。
「それで結局、僕たちはどうするの?」
「……そうだな、まずはベルトは取り返しておくべきだ」
「裁判を待つ身で兵器を持つのか?」
「自衛のためだし、いんじゃね?」
「部屋から出られないのですが」
「……どうにかするしかない」
これがゲームとだったら『鍵開け』スキルとかもあったんだろうけどね。
あたしたちにはスキルが使えないから仕方がない。あーあ、思い出したらまた魔法が使いたくなってきちゃったぜぃ。
『仕方がない。ここで一つ、奥義をしんぜよう出はないか、若人どもよ!』
「うわっ、ビ……ックリしたぁ、マキシマさん、いきなり大声出さないでよ」
『その声は黄色じゃな! 安心せい、お前ら以外には聞こえんわい、多分な!』
全然安心できないねー。
でも、この状況を打開できるんだったらもうなんでもいいや。
飽きてきたし。はやく次の変化が欲しいよね。
『方法は簡単じゃ! 原理もな! お手軽便利なわしの超発明の超機能! さすがわし! この稀代の天才、悪魔の才能、機械魔工学の産みの親にして狂気の鬼才である――――』
「早く、教えてくださいな?」
『むっ、分かったわい、近頃の若いもんは堪え性が無いのう、いたいけな年寄りを脅すとは……、あぁ、分かった分かった、さっさと教えるわい。簡単じゃ、自分のベルトをしっかりイメージして、“来い”と念じよ。それだけじゃ』
「あ、ホントだ」
さっそく雄大が成功させた。
……なにそのお手軽機能。しかもここで発動できるってことは魔法やスキル由来じゃないんだよね。意味わかんないわぁ。キモイわぁ。




