うじむし84
罠があるっぽい所に氷の礫を打ち込むだけで、5階層の難易度はイージーに成り下がった。
いやー、本当、さっさとこれをやっとくべきだったね。
たまに全く気付けない罠が仕込まれてたりもするんだけど、即死さえしなければ『再生』で回復できるので、気合い解除と思ってむしろぶつかりに行く。
さっきも何の前触れもなく丸ノコみたいなのが地面を走ってきたけど、体当たりしながら『氷寒魔法』で動きを止めて、へし折ってやりましたよ。
『再生』を多用したお陰か、何となく受けるダメージが分かってきたのも大きい。
罠の形状や速度から、HPが何ポイント減りそう、と予測が立てられるようになったのだ。
すぐに治ると思えば痛いのも我慢できる。死なない程度のダメージだと判断できれば多少の無茶も出来る。
より積極的な行動ができる、ということだね。
これは回復や罠発見をシステムさんに任せてたら出来なかったことだわ。
スキルに頼らない判断能力。5階層にて私の真の力が開眼してしまったようだ……ふふふ……。
『建築』ショートカットを使わずに進むと、やはりダンジョンは広いと感じる。
イージーな場所から二時間ほどで、ダンジョンの雰囲気も変わってきた。
奥に進むに連れて罠の種類、というか隠し方もパターンが増えてきて、対応が難しくなってくるし。
スイッチの手前に目視が困難なワイヤートラップがあったり、クールタイムが異様に短い罠があったり、ただ発動させるだけでは解除にならない罠が増えてきているのだ。
そりゃイージーモードは続かないよね。これじゃ訓練にならないし、難易度は進むに連れて上がるに決まってますわ。
難易度の上がり方は徐々にって感じで、急に難しくなることは無いから大丈夫なんだけど、罠の種類の増え方がスゴい。
ダンジョントラップカタログというものがあるとしたら、片っ端から突っ込んでるって感じ。
もしも侵入者ブッコロダンジョンがあったら、入り口で罠祭りするだけで無双出来そうなくらい罠が多様。
ギミックが多い分、壊しやすそうだったりするんだけどね。
私だったらギミックの多い罠よりも、『氷寒魔法』を利用して、RPGお決まりの一直線に滑る床のパズルとか作るかな。
2回乗ると割れちゃって通行不可になる床なんてのもいい。
あれって、ゲーム画面で見ているから分かりやすいけど、実際のダンジョンでパズルタイプの迷路があったらかなり難しいよね。エリア移動で配置が元に戻るなんてことも無いだろうし。
でも楽しそう。私、遊園地とかでも迷路が好きだったのよ。左手法で同じ場所をぐるぐる回ったのはいい思い出。
嫌いなのは絶叫系。だからトロッコも嫌いです。
『いつか瑠璃様もダンジョンマスターになる日が来るかもしれませんね』
ダンジョンマスターねぇ……。なろうと思ってなれるものなのかしら。
管理とか面倒くさいのやーよ。
楽しいイベントは作るより消費する側でいたいのです。
『普通のダンジョンは楽しいイベントとは呼べませんね』
うん、それよね。
此処がダンジョンとしては異質っていうのは何となく分かる。
外のダンジョンは罠とモンスターの巣窟で、半端な気持ちで入ったらすぐに命を落とすような危険地帯なんだよね?
そんな場所がどうして存在してるんだろ?
此処のダンジョンマスターの金髪おかっぱちゃんみたいに、ダンジョンってのは作り手が居て、その人の意思に沿った物を作れるんだよね。
外のダンジョンマスターはみんな血に飢えているの? 世紀末並みに殺伐とした世界なの?
ヒャッハー! って叫ぶモヒカンが跳梁跋扈してる世界だったら、私はずっとダンジョンに引き込もってたいなぁ。
『外がどのような世界なのか、私には答える権利がありません。なので否定も肯定もできません』
自分で知りなさいってことだね。
一度は絶対観光に行くつもりだし、その時になったらで良いか。
教えて貰わなくてちょうどいいのよ、私、旅行前にパンフレットとか読まないタイプだし。
なんかパンフレット読んじゃうと、パンフレットの内容を確認しに旅行する気がしてきちゃうんだよね。
まぁ、私に一緒に行く奴なんて、家族も含めていなかったんだけど。
修学旅行くらいだよねぇ、行ったことあるの。
『今度からは私が一緒ですよ』
ありがとうシステムさん。
でも、なんだろう、取り合えず慰めた感がスゴいです……。
喋りながらも5階層をサクサク進む。
やっぱアレだねぇ、罠があるって分かってるし、パターンが増えている言っても今までの物が難しくなってるだけだし、結局イージーになっちゃうねぇ。
もうこの階層は極めてない? トラップマスターになっちゃってない?
『ダンジョンによってトラップは応用されていることが多いですが、ここは基本に忠実ですからね。慣れてしまえば簡単に思えてしまうでしょう。ですが瑠璃様、お忘れ無きように、ここは初心者訓練用ダンジョンなのです』
あー、うん、これも練習だから反復するのも仕様ですってことだよね。
分かってるんだけど面倒なんだよねぇ。
『慣れてきて気が緩んだ時こそ最も危ない時である、というのもダンジョンの基礎です』
ん?
そうなると、罠に慣れてきて油断しやすい今が危ないよってこと?
『ここのダンジョンマスターはそういうのが好きですね』
……何かが起こるらしい。何が起こってもいいように身構えとこ。
通路を進んで突き当たりの角を曲がると、やけに広い部屋になっていた。
いかにもボス部屋って雰囲気なんだけど、ここ罠階層だよね? モンスターは今まで出てこなかったし、ここも生き物の気配は感じないから、広いだけの罠部屋なんだろうか?
あ、入り口の床にスイッチ隠してある。
ここまで来れる奴なら、もう引っ掛かんないよね。で、それを見越してちょっと手前とちょっと奥にはワイヤーが仕掛けてある、と。
ワイヤーを氷結させて固定。
スイッチを調べると僅かに沈み込む。
ふむ、これは重量感知式か。私の体は思いので、100%発動しちゃうタイプだわ。
ここは先に発動させてクーリング中に渡るのが良いですね。もしもクーリングが短いタイプだったら危ないから一度は様子を見て、安全を確認したら進む。
これがベスト!
フッ、どうよシステムさん、私もかなり出来るようになったでしょ?
『えぇ、降りたばかりの姿とはまるで別人の様です』
うふふ、もっと誉めて、私は誉められれば伸びる子だから。
『流石です、この大部屋の仕掛けもきっと直ぐに全部解いてしまわれると確信しております』
んー、大丈夫かな? プレッシャーには弱いんですけども。
では気を取り直して、スイッチぃォオンんんぬ! ポチッとな。
ばぅんっ、と私が退避していた足元が跳ねる。
なるほど、仕掛け床ですね。入り口にスイッチ有ったから部屋の中で何か起こると思っていたら、これは罠を見破られること前提で、仕掛けてあるのか。
通路に退避していた奴を強制的に大部屋に突っ込むための罠である、と。
だが甘い。何が起こっても大丈夫なように気を張っていた私にこの程度の罠などヌルいぜ!
事前にセットした『氷寒魔法』を即座に発動、氷を蜘蛛の巣のように展開し、私の体を固定する。
ふはは! ここの学生とは違うのだよ、学生とは!
金髪おかっぱの悪意など見抜いておったわ!
これで罠は無効化、安心して部屋に入れるね。
この考えが油断でした。
跳ねる床。それに対応して避ける、もしくは体を固定化させた奴用なのだろう。今度は天井が跳ねた。
床と同じく、大部屋に押し込もうとするコースだ。
床の発動よりもタイムラグがあるのがイヤらしい。絶対に逃がさんと躍起になる金髪おかっぱの姿が見えるかのようだ。
天井罠の威力は床よりも高く、固定化に使用した氷があっという間に砕かれる。
不味いことに、余波でワイヤーを固定していた氷まで砕けた。
更に発動する罠。
通路後ろで岩のシャッターが降り、こちらに迫ってくる。
なんか、トコロテン押し出すヤツみたい。ぐにぃーっとね。
どんだけ部屋に入れたいんだ。
私が積極的に入りたいなと思っている部屋はシステムさんの私室と寝室だけだぞ!
それ以外の強引なお誘いはお断り申し上げる。
っていってる場合じゃないね、薄い氷じゃ砕かれてしまうのは実証済み、分厚い氷を作る暇もなし。
仕方がない。実に不本意だけども大部屋にお呼ばれしようか。
これだけ広いということは、罠が満載のピタゴラスなスイッチのトラップルームだと思われる。
だったら初動を潰せば良い。幸い、罠尽くしなこの階層のお陰で、最初に動く罠の雰囲気と動作が何となく分かってきている。
出鼻を氷で潰して全部台無しにしてやる!
迫る壁に引っ付いて、そのまま大部屋の中に。
入った瞬間、右側の壁からカチリという音が聞こえた。
散々聞きなれた音だ、逃さない。それが最初の罠か! だけど潰します、ハイ! いきなり『氷結魔法』!
ガギィ、と激しくぶつかる音。罠を動かす歯車か何かに氷でも詰まったかな?
残念だったね、この罠の大部屋は今ただの休憩ゾーンに成り下がったよ。
いやぁ、本当に私って成長したなぁ。




