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うじむし83




 カチリ。

 この忌まわしい音がする度に私を嘲笑うような悪意に満ちたトラップが動き出す。

 私は激流に流される木の葉のように、罠に翻弄され、ダンジョンの何処かへ運ばれていく。



 滑り台化した通路は唐突に途切れ、勢いを殺せないままに自由落下。

 受け身をとる暇もなくべしゃりと落ちて強かに体を打ち付けた。

 

 あぅ、痛い……。でも罠は止まったかな?

 また何かスイッチを入れないようにそっと辺りを伺う。

 どうやら私は何か箱のようなものの中に落ちたようだった。

 箱の下には二本の鉄の棒……? いや、これはレール? レールの上に箱、ということは、私が入っているのはトロッコか。


 トロッコ? ピタ○ラスイッチばりに罠が連続している流れで、トロッコですと!?


 やばい降りなきゃ、と思った矢先にトロッコはアホみたいな速度で走り出した。

 だと思ったわ!


「ひ、ひぇええええ!」


 私の体大きいから! トロッコからはみ出てるから!

 この速度で壁に擦ったら紅葉おろしになっちゃうから止まってぇ!

 死因:紅葉おろし、とかシャレにならんわ!


 ヘルプ、システムさん、ヘルプー!


『瑠璃様なら切り抜けられると信じておりますよ』


 くっそぉ! システムさんの信頼が嬉しいぃい!

 でもシステムさんが本気で焦ってないってことは、命の危険が無いってことかもだし、少し余裕出来たかな?

 ふふっ、トロッコ程度、某ゴリラなアクションゲームを極めた私にはクリアなど容易いッ!

 それに私にはゴリラには無い強みがある!

 それが魔法、『氷寒魔法』は伊達じゃないっ!

 必殺、即興思い付き『氷寒魔法』!


粗晶停速アイスブレーキ!」


 説明しよう! 粗晶停速アイスブレーキとは、わざとギザギザで粗めの氷で先のレールとトロッコを

覆うことにより減速をかけるという素敵な魔法なのだ!

 実際のアイスブレーキという言葉は初対面同士の緊張をほぐす手法のことだゾ。ウジちゃん豆知識。


 ほーら、こうしている間にもどんどんトロッコの速度が上がって……。

 上がって……? 何でぇ!?


『粗い氷の目に溶けた部分が流入することで、摩擦係数が下がったようですね』


 あー……、スケートリンクとかそうだよね。

 氷の上に水の膜が張ってあって、それで滑れる、みたいな、そもそも氷が滑る原理ってそれらしいよね。

 結論として私はまた余計なことをしたみたい。

 生半可な知識で知ったかぶりして行動するからこうなるんだっていい加減学べよ私! うわぁあん!


『危険です。車体にしっかり掴まっていて下さい』


 げ、システムさんが助言しないって宣言を翻して助言してきた。

 つまり命の危険がある訳ですね。私が余計なことをしたばっかりに!


 次の瞬間、路面凍結で空転した車輪がレールから外れ、トロッコが凄まじいスピードで宙を舞った。

 なにこのダイナミックスリップ。


 デカい体をトロッコの中にできる限り押し込んで、それでもはみ出る部分には氷を纏った。

 シートベルト代わりに氷でガッチリと自分とトロッコを固定したので、弾き出されることは無いんだけど、トロッコがぐるんぐるん回転するのに巻き込まれるのがおぼぼぼぼ!

 目が、目が回る、うぇえ、酔う、酔っちゃう! 気持ち悪いぃぅおえええ。


 最悪のトラップとは自分で作ることだ!

 高速回転トロッコトラップ、なんて恐ろしい罠なんだ……!


 しかも吹き飛びながら壁という壁にぶつかってる。

 その度にカチッ、カチッっと音が聞こえてるんですすけど。


 後方で罠が発動する音が聞こえてる……。これ解除したことになるのか?

 ある意味気合い解除? 男解除みたいな?


 ガツン! と体の芯に響く衝撃の後、高速回転トロッコトラップはようやく停止した。


 もう周囲の安全を確認する余裕もない。

 氷を解除し、よろよろとトロッコから這い出る。

 もう金輪際トロッコなんか乗らない。トロッコとは悪魔の乗り物だ、そうに違いない。


 ぐで、っと倒れ込む。

 ちょっと休憩。怒濤のトラップ祭りも止まった? 切り抜けた? みたいだし、休まないと心と体と三半規管が保たないよ。


 酷い……、酷いトラップだった。あと少しで乙女の尊厳が口から出ちゃうところだった。訴訟も辞さない。


『瑠璃様の尊厳は未消化物なのですか』


 違う、そういうことじゃないんだ。

 乙女には好きな人に見せていい姿とそうじゃない姿があるんだ。

 それが出ちゃう姿は見せちゃあいけない姿なんだ。少なくとも、私にとっては。


『瑠璃様の姿でしたら、どんな姿でも見たいと思います』


 え……、システムさん……。システムさんがそう言うなら、じゃあ……。

 って、いやいや、さすがにそれは見せるものじゃありません。私がいかにシステムさんに盲目でも、線を引くとこは引きます。最低限。

 |吐き出される乙女の尊厳オウトカノンは許されないんだ。


 氷で頭を冷やす。

 あー……気持ちえぇ……。酔って茹だった頭がシャッキリしますな。

 少し気分が持ち直した所で、改めて周囲を確認。

 もう罠には引っ掛からない。

 罠のパターンは大体読めた。傾向と対策さえしっかりしていれば罠など何するものぞ、恐るるに足らず。


 あれだけ引っ掛かれば何となく罠の配置も覚えるというものよ。

 あの床と、少し先の壁、怪しいね。


 トロッコもそうだけど、罠は連動するタイプが多いみたいだ。

 一般的なダンジョンの罠がそうなのか、ここが敢えてそうしているのかは分からないけど。

 このダンジョンのコンセプト的に考えて多分前者、一般的にそうなんだろう。


 怪しい所に『氷寒魔法』で氷のつぶてをぶつけてみる。

 予想通り、罠が発動した。

 床のスイッチで煙幕、壁のスイッチで檻が落ちてきた。


 煙幕の中、手探りで進もうとすると捕まっちゃう訳ね。うわ、バチっていった、電流が流れてるのか。これはエグい。


 ちょっとすると檻は天井に回収されていき、煙幕も晴れた。

 他の場所にもつぶてを放ってみるけど、動きは無し。


 うん、最初っからこうして進めば良かったね。

 罠を解除する、とか見つける、気合い解除、とか考えてたからいけなかったのです。

 もっと単純に、発動させてしまえば丸分かりな訳で。


 罠の性質上、連続発動は出来ないようなので、クールタイムの内に罠のある場所を渡ってしまえば安心安全。

 ……この程度の答えに辿り着くまでに、私はどれだけの回り道を重ねたのだろう。

 というか何回転したのだろう。


 痛い目を見なければ学ばぬ女、白氏瑠璃。


 なりませぬ、なりませぬ。

 そんな二つ名はなりませぬ。


 ここは、これ以降のトラップをあっさり乗り越えて、不名誉な過去は無かったことにするしかない。


 え? 罠? 最初っから楽勝でしたけど? トロッコ? 知りませんね。


 よし、これだ。


 その為には残りのトラップを華麗に切り抜けないとね。ふほほ、サックリと終わらせてやるわ。



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