うじむし82
システムさんに手伝ってもらいながら4階層の床を掘り進めているウジムシこと白氏瑠璃です。
残り25分と聞いてた割には全く5階層に辿り着かないのですが、これはどういうことでしょう、システムさん?
『25分とは安全圏に辿り着くまでの時間です。現在、地面を掘り進めるタイプのモンスターでも進めない地層にまで降りております』
へぇー、じゃあ結構潜ってるんだね。
言われてみれば、モグラが地面に向かって掘りまくったら下の階層に着いちゃいましたってなったら、ダンジョン攻略ってなんだっけ? ってなるよね。
『基本的には、階層を移動するには階段を使うしかありません。『建築』というスキルが破格過ぎるのです』
じゃあそれを溶かしたオバケキノコは相当だね……。
あの液体で階下まで落ちたんだよ、私。
『普通はあれで降りられることはありませんからね。ダイオウナナイロヒカリダケの分泌物に耐えられる者があの階層で手こずる訳が有りませんので』
私って、異例のショートカットしまくりってことなんだね。
楽っちゃあ楽なんだけど、その分痛い目見たり、ガス欠になったりしてるんだから、良いんだか悪いんだかって感じだわ。
のたのた這い回る時間が削減されてると考えれば、プラスなのかな?
それで結局、次の5階層までは後どれくらいかかりそうなの?
『あと一時間も掘り進めば着くでしょう』
長いねー、5階層まで、そんなに分厚い岩盤で覆われてるのかぁ。
『いえ、本来行き来できない場所を強引に『建築』で通っているので、時間がかかっているのです』
光も音も無いし、空気も尽きそうで怖いわ、私が閉所恐怖症だったら発狂してたよ、きっと。
幸い、暗くて狭い所が落ち着くタイプだし、上の穴は開きっぱなしだから酸素の心配も無い。
4階層のモンスター達が穴に飛び込んで来るかな、と思って少し警戒してたけど、そんな様子もないしね。とても安全な作業現場となっております。
そういえば、このダンジョンには各階層ごとに決まったテーマがあったよね。
えーっと、1階が雰囲気を知る、2階が基礎知識、3階がマッピング、4階がスニーク訓練。
5階層はどんな感じになってるの?
『5階層は罠ですね。罠の発見や解除の訓練です』
えー……、ということは戦闘無し?
4階層でやるはずだった戦闘訓練やレベル上げが私の凡ミスで出来なかったから、 5階層でこそ輝こうと思ったのに。
『『経験則』がありますから、新しい経験が新たなスキルになるかもしれませんよ?』
うーん、それを目指すしかないかぁ。
でも、罠の発見に解除ねぇ……、気乗りしないというか、向いてないというか……。
発見は出来るかもしれないけど、解除ってどうやるんだろう?
細かい作業だよね? ウジムシボディでどうやって?
全部凍らせたら解除ってことにならないかな?
『ならないでしょうね』
ならないですよねぇ。
そんな感じでシステムさんとお話していたら、ようやく5階層に到達したようです。
土の感触が無くなり、急に岩の壁にぶつかったような感じ。
とは言え、『建築』にかかるMPは同じなので感触の違い程度、大したことじゃないんだけど。
到着した、というのが大事なのです!
『瑠璃様、先程も言いましたが、5階層は罠の階層です。降りた先に罠が設置されていることも充分あり得ます。気を付けて降りてください』
罠か……。
ダンジョンの罠というと、落とし穴、飛び出す針、落ちてくる天井、毒の矢、毒ガス、爆発する床、噴出する酸、私が思い付くだけでも色々あるね。
見分ける基準みたいなのも有るんだろうけど、いきなりじゃ難しいと思う。
気合い受けして体で覚えるしかないかな?
5階層の天井に穴を開け、そーっと下を見下ろす。
小さい部屋だ、奥には通路が見える。5階層は部屋と通路で構成されてる様だね。ここは丁度行き止まりみたいだ。
うわ……、あからさまなスイッチが床にある……。
あれ、囮かなぁ。さすがにニセモノだと思うんだけど、実はニセモノに見せ掛けた本物というパターンも……。いやいや逆にそう考えることを見越してやっぱりニセモノ?
うーん、訳が分からないよ!
『この階層では私はなるべく口出ししないように致しますね』
えぇっ!? なんで? システムサン、ナンデ!?
『性能の都合上、私には罠の位置や効果が分かってしまいますので、教えてしまったら瑠璃様の経験になりません』
ぬぐぅ……、ヒントとヘルプとサポートを併用すれば罠の9割くらいまでならバラして貰えるかな、と期待してたのに、早々上手くはいかないか。
『成長なさることを瑠璃様自身が望んでおられたので、私も微力ながらそれをお手伝いする所存です』
……助けてもらう気満々でしたよ。
私は物理的に強くなりたいというか、継戦能力と攻撃力の向上を目指していたのであって、罠の見分け方や解除方法を学ぼうとは思ってなかったんだけど……。
しかし、しかしだ白氏瑠璃!
システムさんが助言を控えるということは即ち私の成長を信じ期待しているということ。
それを、学ぶつもりがありませんでしたの一言で台無しにする訳にはいかない。
期待されているなら応えるのが女というものさ!
それに、システムさんにはさっきまで『建築』で助けて貰いまくった。
これ以上はチートというか、ただのズルになってしまう気がする。
いつまでもシステムさんにおんぶに抱っこは止めようって決めたのは、確かに自分だしね。
よし、勢い任せではあるけど、この5階層をシステムさんのお助け無しで踏破してみせようじゃないの。
まずは眼下のスイッチから。
あからさま過ぎると言ったけど、忘れちゃならぬのがこのダンジョンのコンセプト。
冒険者として通用するように鍛える、ということ。
練習用じゃない、ガチで殺しに来ているダンジョンであからさまなスイッチがある訳がない。もし有るとしたら、それ自体が罠。
此処はそういうこと教えるダンジョンであった筈。
ならばあのスイッチはダミーで、避けた先に罠があるというパターンだな!
つまり、あのスイッチの上こそが安全圏!
見切ったァ! 白氏瑠璃、行きまーす!
『あ』
私が天井の穴から飛び降りた瞬間、システムさんが思わず、といった風に声を上げた。
あ、って何? あ、って!?
その意味は身を持って知ることになりました。
私の体がスイッチに乗り、カチリ、と音が鳴る。
ヒュヒュヒュン! と風切り音が連続で響き、壁に開いた穴から飛び出した何本もの矢が私のプニプニボディに突き突き刺さる。
「あイッタァ!?」
痛みを堪えかねて、ぐねっと動いた先で更にカチッと嫌な音。
天井の一部に設置してあったのだろう鉄球が振り子のように弧を描き、私の横っ腹を打ち据えた。
「ぐっふぇ!」
これアレだわ、ビルの解体とかで使われる重機でこんなの有ったわ。
人、っていうか生き物に使うもんじゃない。
衝撃にすっ飛んだ先は通路。
なんだけど、罠階層の通路が普通の通路である訳がなかったでござる。
私が床に落ちると三度あの音。カチリ。
床が斜めに下がり、鉄球の勢いを殺しきれていなかった私はそのまま滑っていく。
坂道を石のように転がり落ちる中、私は見てしまった。
私が降りたあの行き止まりの部屋の入り口。その上にまるで看板のように掛けられた石板に、こんな文字が彫られていた。
『ワナコラ☆スイッチ↓』
あぁ、これしばらく止まらんヤツだ。




