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うじむし78 ヒーロー12




「くそっ、何がどうなってんだ!」


 春彦君が乱暴にソファーに腰掛けながら吐き捨てました。

 いつも以上に荒れていますが、誰もそれを咎めません。

 いえ、咎める気力がありませんでした。

 心身ともに疲れ果てていたのです。


 ここは『英雄学園』で私たちに割り当てられた大部屋。

 私たちは、少なくとも一日以上、ここに軟禁されているのでした。


「鈴音、外の様子を探れないかな?」


 雄大くんが聞きますが、黙って首を横に振りました。出来ません。

 私たちが使っている能力が何に由来するものなのか、まだはっきりとは分かっていませんが、この部屋はどうやらそれ・・を阻害するようなのです。

 孝介くんが言うには、閉じ込める部屋には定番だとのことですが、定番ならば破り方も知っていて欲しいものです。


 いえ、今は愚痴を言っている時ではありませんね。


 ですが、嘆かずにはいられません。いったいどうしてこんなことになってしまったのでしょうか……。



 私たちは初めてダンジョンというものに挑み、そして手痛い失敗をして逃げ帰ってきました。

 義人くんが必殺技? で大きなキノコを蹴ったのですが、その破片から恐ろしい毒液が吹き出し、私たち全員に降りかかったのです。


 その時、私たちは、その……、恥ずかしいのですが、『変身』なるものをしておりまして、謎の鎧めいた装備に身を包まれていたので命に別状はありませんでした。


 ただ、初めての戦いからあまりにも呆気ない勝利が続いていたこともあり、慢心していたのでしょう。

 頼っていた装備がキノコの毒で溶解していく様に、全員が冷静さを失いました。

 装備が泡立ちながら溶け、皮膚を焼く痛みに、まともに考えることが出来なくなってしまったのです。


 このままでは死ぬかもしれない。そうでなくとも重傷、治せないかも、毒の後遺症、動けなくなるかもしれない。

 様々な想像が一瞬で頭の中を駆け巡りました。


 私は、自分は冷静な方だと思っていたのですが、それは平和な元の世界だけに限った話だったようです。


 毒液の被害は一番近くにいた義人くん、それに皆を庇おうとした孝介くんが多く、溶けた装備が動きを阻害し、一人で行動することが困難になっていました。

 これではもうダンジョン探索どころではありません。

 装備の機能が停止すれば、私たちに戦う術はないのです。


 入った時とは違い、僅かな物音や気配に怯えながら、這々ほうほうの体でダンジョンから逃げ帰った私たちを待っていたのは、学園の教師の方々でした。


 そこから有無を言わさず『変身ベルト』を取り上げられ、部屋に軟禁されたのです。


「チクショー、変身さえ出来れば、こんなドアぶち壊して逃げられるんだけどよぉ」

「止めておけ、どうやら俺たちは何か不味いことをしてしまったらしい。恐らく、事の次第が分かるまでは無茶な行動は控えるべきだ」

「チッ……、わぁーったよ」


 孝介くんの言葉に春彦くんはしぶしぶといった感じに頷きます。

 言葉や行動こそ乱暴ですが、春彦くんは仲間思いで責任感があるのです。まだ毒液の火傷痕が残る孝介くんを見て、強く出られなかったのでしょう。


 あの変態博士に改造された結果か、私たちの体にはある程度の傷なら治してしまう自己治癒能力が備わっているようなのです。

 孝介くんの火傷痕も、いずれ綺麗さっぱり無くなるはずです。


「みんな、本当にごめんね……、僕の所為で……」


 義人くんがもう何度目になるか分からない謝罪を口にしました。

 確かに彼の行動は軽率でしたが、あのキノコの特性など私たちの誰も知らなかったのです。

 『英雄学園』の『学園迷宮』ならば確実に資料があるでしょう。生徒を鍛える場所、という前情報はあったのですから、その確認を怠り、勢いだけで突っ込んだ私たち全員が同罪なのです。


 その証拠に、普段はからかったり皮肉を言う春彦くんや彩華さんも何も言いません。

 ただ、義人くんの気が済まないのでしょうね。


「義人くん、もう謝らなくても大丈夫ですよ。あの場にいた誰もが同じことをしてしまったと思います。私たち全員が慢心していた結果なのです」

「鈴音の言う通りだ。俺たちは『変身』という力を得て受かれていた。もっとこの世界の知識を身に付けないといけない」

「……雄大の言うことも最もだ……。そもそも、その為に『英雄学園こんなばしょ』に送り込まれたんだからな」


 幸いにして、この部屋からみだりに外出しないのであれば幾分かの自由は保証されているようです。

 図書館の本を貸し出して貰うことも可能でしょう。


 最低限、この世界の常識と文化、そしてダンジョンの知識を手に入れなくてはなりません。


「つかさぁ、ベルト持ってかれたの、不味くない? 分解でもされて壊されたら、アタシ等フツーの雑魚だよ?」


 彩華さんの言う通りですね……。

 私たちの腕力や反射神経は改造手術によって底上げされているようなのですが、それだけではこの世界にある『スキル』や『魔法』といった力に対抗できるとは思えませんから。


「確かに、帰ってくる保証ないな」

「だよねぇ、盗む?」

「言い方が悪い。自分達のものを手元に置いておきたいだけだ」


 雄大くんと彩華ちゃんが若干黒いです。腹黒です。

 能力が使えないのにどうするつもりなのか気になりますが。


「あの変態にコンタクト取れねぇかなぁ」

「体の中に通信機でも埋め込まれていたりして」

「あのマッド野郎ならそれくらいはしてそうだけどなぁ」

「ハハッ、冗談キツイよ!」


 春彦くんと義人くんが二人して笑う。


『しておるよ』


 そして凍りついた。


『ひゃひゃ! なんじゃい、困っているじゃろうとコンタクトを取ってやったのに挨拶もなしかい、これはあれか! 最近の若い奴はと言うところか! ひゃっひゃっひゃ!』

「てめッ、こんなことまでしてやがったのか! どれだけ俺たちの体を弄くり回してやがる!」


 最初に復活した春彦くんが虚空に向かって怒鳴ります。

 さすがに彼はタフですね。


『あぁん? その説明をぶった切ったのはお前じゃろ? それにそのお陰で連絡が取れたんじゃ、ガタガタ言うんじゃないわ!』

「それじゃあ、俺たちの状況は把握してるんですね?」

『その声は赤い髪の坊主か、そうじゃの、大体把握しておるわい、 この稀代の天才、悪魔の才能、機械魔工学の産みの親にして狂気の鬼才であるドクターマキシマがこの程度のことを―――― 』 

「俺たちにはこうなった原因がサッパリなんです。分かっている範囲で教えてもらえませんか?」

『――――想定していないと思ったか!?』


 途中で切られても続けるなんて、やはり天才を自称する人はどこかおかしいです。疲れます。

 しかしこれで私たちがどうしてこんなことになってしまったのか分かるのであれば、充分耐えられます。

 私が話している訳でもないですしね。


 この通信機能、どうやら私たち全員に一括で発動しているようです。

 変身やそれに類する機能が封じられている中で、この人はどうやって通信してきたのでしょう?


『まぁアレじゃろ、お前さん達が変身しまくったから魔力を根こそぎ吸い上げたんじゃろ、『変身ベルト』は起動に自分の魔力だけではなく周囲の魔力も使うからのぉ。スライムやレイスのような魔力で生きているような魔物なんぞ変身するだけで殺せるぞ? どうじゃ? どうじゃ!? 凄いじゃろ!? ワクワクせんか!?』

「俺たちには、そんな周囲の生き物を皆殺しにするような意思はありませんよ」

『はん、詰まらん! なんの為の変身じゃ!』


 以前会ったときからそうでしたが、この人はどこか狂っています。

 きっと異世界で一人無力なまま生きている中で、心が壊れてしまったのでしょう。

 自分が開発した『変身ベルト』の能力で、私たちが暴れたり殺したり、ということ望んでいるようなのです。

 神、と呼んだ存在に対する深い恨みのようなものも感じました。


 意識がないまま改造され、蘇らせてもらったとはいえ、私たちはこのまま彼の開発した力を使っていて良いものなのでしょうか?


「……取り合えず、この状況を打破したいんだが」

「うん、いざという時に変身できないのは落ち着かないよ」

『ハッ、安心せい、学園の馬鹿共がいくら突っつき回してもワシの『変身ベルト』は壊れやせんわい。解明所か、これが何なのかさえ分からんじゃろうな』


 だとしても、手元に戻ってくる保証は無いですね。

 私たちが変身する所は誰にも見られていないので、『変身ベルト』が解明されないのであれば、ただの装飾過多なベルトにしか見えないはずですが……。


「話がズレたけどさぁ、変身したから……あ~……魔力を吸っちゃったから、アタシ等は監禁されてるってことでオーケー?」

『ふん、黙ってりゃバレやせんわ!』

「だとしても状況的にはかなり怪しまれているということだろうな」

「……結局、向こうの出方を待つのが利口か」

『他に方法が無いでもないぞ! ……っと、いかん、誰か来たようじゃ』


 話し合いがようやく進展しそうな気配を出し始めた時、ノックが聞こえてきました。

 とはいえ、この部屋は私たちには開けられません。どうぞ、とだけ返事をしました。


「やぁ、不自由はさせてないかい?」


 入ってきたのはグロッセくんでした。

 私たちが食堂で恥ずかしくもマナー違反をした時に注意をしてくれた人です。

 私たち知り合ったことで迷惑をかけてしまってはいないでしょうか? 顔色が悪いです。


「一日中部屋に押し込められてる以外は自由だよ、クソッタレ」

「春彦くん、グロッセくんに当たっても意味はないですよ」

「あぁ、鈴音の言う通りだ、それに、なんだか具合が悪そうだ」

「……一日で色々あったんだよ、それで、君達には査問会に出てもらわなきゃならなくなったんだ」


 グロッセくんが苦しそうにそう言いました。

 査問会。良い予感はしません。私たちが弁明する余地などなく罪を着せられるか、最悪、もう結果は決まっていることも有り得ますね。


「……出なければどうなる?」

「罪を認めた、ということになってしまう」

「罪って、僕たちは何もしてないよ!」

「詳しく聞かせてくれ、俺たちに何の容疑がかかっているんだ?」

「それは……」


 グロッセくんの顔色がどんどん悪くなっていきます。それでも、表情だけは毅然としていました。

 まるで、命を捨てることを覚悟しているかのような……。


 何故ここでそんな顔を?


 ……あぁ、そうですか、彼は私たちに怯えているのですね。

 何の罪を着せられているかは分かりませんが、グロッセくんがそれを信じざるを得ないような証拠がある。それでも信じたくないから、彼はこの状況で自分の命を天秤に乗せるような真似をしている、といった所でしょうか。


 つまり、それほど大きく取り返しがつかないような罪。


 グロッセくんは意を決したように口を開きました。


「学園長暗殺容疑だ」



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