うじむし73
以前、魔法使いっぽい女の子と、剣士っぽい男の人を撃退した時、モンスターを狩った時とは比べ物にならない経験値を手に入れることが出来た。
だから、コスプレイヤーズを撃退したことで経験値がたっぷり入っているだろうと私は期待していました。
えぇ、期待していたんです。過去形です。
今は現実を知りました。
システムさん曰く、コスプレイヤー共はこの世界の理の外に在る存在であり、それを強引な手段でこの世界に介入しているのだという。
具体的には、膨大な経験値やカルマ値を吸い上げて、無理矢理スキルや魔法に似た現象を引き起こしているらしい。
何が言いたいかというと、元々経験値やカルマ値と関係ない奴等だから、倒そうが撃退しようが、1ポイントの経験値も入らないってこと。
最悪に旨味の無い相手だということ。
個人個人がボスクラスよりも手強くて厄介な能力持ち、その上集団で出現するとかいう無理ゲー使用なのに、経験値もドロップも期待できないとか何なの? 馬鹿なの?
誰が好き好んでそんな奴等相手にするのかって話。
ホントね、損しかないわ。
これで世界滅亡の可能性に関わっているとかいうふざけた設定が無ければ全力で無視してるわ。
最初はシステムさんの声が聞こえなかったから、まだ不調なんだ、とか戦闘継続扱いなのかな、とか思ったけど、まさかの経験値ゼロですよ奥さま!
白氏瑠璃、現在やる気が地擦っております。
『瑠璃様、御機嫌を直してください。ダイオウナナイロヒカリダケの経験値は入っていたではありませんか』
まぁね、私が倒した訳じゃないのに、ちょっと最後に食べただけで経験値が貰えるとか美味しかったです。
でも、コスプレイヤーズの経験値も期待してた分、精神的なダメージが大きいのよ。
巨大毒キノコだけじゃレベルアップしなかったし。
『レベルアップに時間がかかるということは、それだけ瑠璃様が強くなっているということですよ』
そっか、そういう考えもあるよね。
とにかく、コスプレイヤーズとの戦闘は旨味がほぼ無い。これは覚えておこう。
戦うときは決着をつける時。そういう気持ちで臨もう。
でないと経験値もドロップも無いってことにばっかり意識が行っちゃう。
よし、気持ちを入れ換えて頑張っていこうか。
『その意気です瑠璃様。タイミングよく、モンスターが現れたようですよ』
ほむほむ、キノコを食べてすっかり回復した私に挑むと申すか。
落下ダメージ? SPを犠牲に回復しましたよ。すぐ『再生』に頼っちゃうんだね、仕方ないね。
この階層は草原、地平線の向こうまで見えるようなだだっ広い空間なんだけど、生えている草の高さは一律じゃない。
如何にも姿を隠す用ですよって感じに、所々低木が生えていたり、逆にほぼ地面が露出して枯れ草だけの場所があったり、水源なのか沼地が見えてたり……。
うん、これサバンナだわ。
洞窟を抜け落ちたらそこはアフリカでした。
ダンジョンは何でも有りかよ、と今更ながらに思うけど、ここがサバンナっぽいなら少し有利かもしれない。
2階層、3階層の出現モンスターから鑑みるに、その階層のタイプに合ったモンスターが出現している。
ならば話は簡単、ここで出現するのはライオンやチーター、シマウマ、キリン、ゾウ、カバ、そういった動物系のモンスターに違いない。
モンスター潜んでいるらしき、僅かに揺れる低木を油断なく見つめる。
明らかに場違いなウジムシ姿の私、その容姿は青白い寸胴体型。爪も牙もなく、顔らしき顔も無い。
パッと見攻撃能力ゼロ。
モンスターからすれば絶好のカモだろう。
きっと、すぐに飛びかかってくる。
私はそこを逃さず『氷寒魔法』を撃ち込んでやればいい。
ガサリ、と低木が大きく揺れた。
来る!
先手必勝。『氷寒魔法』で鉛筆大の氷の釘を数十本作り出し、モンスターが潜んでいるであろう低木に向かって撃ち出した。
空気の乾燥しているステップ気候な4階層だけど、1回2回『氷寒魔法』を使うのには何の問題もない。
空気を裂いて勢いよく殺到する氷の釘は、頑丈な低木を吹き飛ばし、その後ろに潜んでいたモンスターごと……。
あれ?
モンスターいなくね?
『瑠璃様!』
システムさんの鋭い警告の声。
咄嗟に全方位の氷の盾を張った。
ガキッ、と氷が削れる音。そして背後から獣の唸り声。
素早く反転すると、そこには異様に細長い尾を持った豹がいた。
その長い尾の先は、私が薙ぎ倒した低木に結び付いている。
こ……ッの野郎、獣のくせして私を嵌めたのか。敵ながら天晴れじゃないか。
2階層にも3階層にも、罠を張ったり搦め手を使ったりするようなモンスターはいなかった。
4階層からはそうもいかない、ということなのだろう。
動物のような外見に騙されちゃダメだ、こっちは初見、相手の動きに集中しろ。
奇襲が成功しなかったことに戸惑っていた様子の尾長豹だったが、私が魔法で攻撃を防いだことで認識を改めたらしい。
こいつは手強い獲物である、と。
生粋の狩人らしく、今度は唸り声一つ上げず跳びかかってくる。
速い、そして低い!
さながら銃弾。だけど、対応できない速さじゃない。
尾長豹にどれだけ勢いが有ろうとも、手足のように使い込んだ『氷寒魔法』の発動速度には及ばない。
尾長豹の攻撃が速かろうとも、いや、むしろ速ければ速いほど、私には有利なのだ。
「氷壁」
乾燥地帯で作り出せる氷なんてたかが知れている。
『氷寒魔法』で出来ることは、基本的には冷やすだけ。
だけど、カチカチに冷やして固められた氷の壁に突っ込んだらどうなる?
攻撃が速ければ速いほど、割れた氷の破片は深く鋭く相手に体を切り刻む。
2階層で、3階層で、氷にできる水分が減少し『氷寒魔法』を充分に使えない状況に陥ることが何度もあった。
その度に狼狽えていた私だけど、進歩しない訳じゃない。なにも考えていない訳じゃないのだ。
強くなるために、死なないために、考えて実践するだけなら幾らでもする。
そして実用に至った技術の一つがこれ。
少ない水分でもガッチガチに固めれば大ダメージ狙えるんじゃね? 作戦。
魔法に何より優先されるのは、その場にあるものを変換するという大原則。そしてイメージを心の底から信じさえすれば、物理法則さえ無視できるというルール。
本来ならば敵の攻撃の勢いに吹き飛ばされるであろう氷の破片が、不自然に止まり尾長豹を切り裂いたのも、私がそういう現象が起こるのだと強く自分に言い聞かせた結果だ。
「フッ、また強くなってしまったかしら」
奇襲にはビビったけど、真正面から挑まれたら魔法一発で片付いたら事実。
ちょっと嬉しい。
これは最近無かった大勝利ですよ? 喜んでもいいよね?
ふへへへ。




