うじむし72
ほぎゃおぅううッ!?
現実逃避気味に眠った私を叩き起こしたのは、全身を打ち据える強烈な痛み。
『瑠璃様、大丈夫ですか?』
柔らかい地面を転がりながら、痺れるような痛みに悶える私に、システムさんの焦ったような声が聞こえた。
いったい何事?
私はシステムさんに世界の知識を詰め込まれてオーバーヒートした頭のクールダウンの為に眠ったはず。
まさか寝相が悪すぎて3階層を動き回り、ちょっとした段差から落ちた、とか?
それにしては衝撃が大きかったような……。
「全身痛い……けど、すぐ治る範囲だから平気だよ」
伊達に何度も死ぬ目に会ってないからね、大丈夫なラインの見極めは上手くなっていると思う。
『ですが、厄介なことになりましたね』
システムさんが不穏なことを言う。
厄介なことって何さ? モンスターのいない3階層で厄介なことなんてほぼ起こり得ないでしょ。
『瑠璃様、ここが3階層に見えるのですか?』
ほぇ?
言われてみれば、見慣れた岩肌がまったく視界に入ってこないね。
それどころか、地面は柔らかで背の低い草で覆われている。
天井は……って、太陽!?
そんな阿呆な、ここはダンジョンでしょうに!
2階層だって森林タイプだったけど、太陽までは無かったよ!?
『ここは『学園迷宮』の4階層、草原タイプの階層ですね』
は?
4階層?
いや、ここが洞窟タイプだった3階層じゃないってことは分かるんだけど、下層に通じる階段に寄生したカタツムリのせいで降りられなかった筈だよね?
『ダイオウナナイロヒカリダケから漏出した魔力性溶解毒がダンジョンの床を溶かし、脆くなった地盤を瑠璃様が崩してしまったようです』
そんなことで……。
確かに巨大毒キノコからは毒液がバンバン噴き出してたけど、まさかダンジョンの床を溶かすまで出てたのか。
統合強化された『腐蝕耐性』さんが仕事し過ぎて全く気付かなかったわ。
むしろ、とろける地面がウジムシボディを包み込むようで心地よかった覚えさえあるわ。
『あの者達の影響でダンジョンにも少なからず負担がかかっていたようですので、そのこともあったのでしょうね』
元顔見知りのコスプレイヤー達にも原因の一端があるのか。
変身するだけでダンジョンを弱体化させるとか、どんな能力だよ、チートか!
ていうかどうしよう。
階段が無いんだから上階に戻れない。戻れないということは、行動の選択肢が狭まるということだ。
コスプレイヤーや他の人間と戦闘になる危険はあるけども、慣れ親しんだ場所にいるというのはそれだけで安心なのだ。
「あ、そうだ、脆くなったんだったら、そのまま天井から戻ればいいじゃん」
『氷寒魔法』に『建築』を合わせれば、あっという間に氷で階段が作れます。
フッフッ、今の私はウジな雪の女王。意思とMPさえあれば階段などオチャノコサイサイよ!
と思ったんだけど、天井……ってか上空、太陽の輝く青空のどこが上階と繋がっている天井なんだ?
上には目に染みるような爽やかな青空が広がるばかりで、3階層の洞窟と繋がっているとはとても思えないんだけど。
『この空はダンジョンに投影されただけの幻影ですが、瑠璃様が落ちてきた穴は既に修復されきってしまったようです』
なん……だと……?
ということは、弱体化したダンジョンは既にその機能を復活させつつあるということ。
つまり、私が氷で階段をつくって天井にたどり着いた所で、上階に通じる穴は掘れない。
そして元々の上階に通じる階段は消失中。
あれ、これ詰んでない?
ゲームのバグでオブジェクトの隙間に挟まって身動きが取れなくなる、建物の隙間から裏世界に落ちて進行できなくなる。
それに近い状況に陥ってない?
当然、ロードなんてこの世界にはない。
ファンタジー色が強い世界だけど、ゲームではなく現実、やり直しの効かない世界だからだ。
えーっと、つまり、これ、終わったってこと?
『諦めないで下さい。上階に戻れずとも、下層に向かう階段ならば存在している筈です。ダンジョンイーターは3階層と4階層を繋ぐ階段に寄生していました。それ以外の階段は無事でしょう』
なるほど、押して駄目なら引いてみろ的な発想ね。
登るのが駄目なら降ってみろってことか。
でもそれって、根本的な解決にはなりませんよね?
結局ダンジョンからは出られない訳で。
こんなんじゃ私、階段を降りたくなくなっちまうよ……。
『ダンジョンから出る予定が御有りだったのですか?』
そりゃまぁね、せっかく異世界に来た以上は、もっと広く世界を見ていきたいってのが人情でしょう。
世界を滅ぼしかねない顔見知りが不安だけど。
せめてコミュニケーションが取れれば何とかなるかもしれないのに。
『それならば尚のこと、下層を目指すべきでしょう。最下層のボスを倒せば、地上に転移できる魔方陣が使用可能になる筈ですから』
システムさん曰く、最下層のボスを倒すことで地上に戻れる、というのはどのダンジョンにも設定されている機能らしい。
ふむふむ、では当面、それを目指すってことで良いかな。
元々の私の目標は、私をウジムシとしてこの世界に突き落としてくれた存在に御礼参りしてやること。
ダンジョンに隠っていたのは、外の世界でもやっていけるだけの実力と自信を付けたかったという所が大きい。
御誂え向きにここは『学園迷宮』という初心者訓練用ダンジョン。
ならば、ここをクリアできれば最低限の実力は付いたということになるだろう。
私をウジムシにしたヤツをブッ飛ばすついでに、顔見知りの特撮ヒーローたちを張っ倒してもいいだろう。
というか、特撮ヒーローくらい張っ倒せなければ、私の仇には太刀打ちできないだろうな。
うん、なんだか目標が明確になってきたじゃない。
システムさんの希望にも沿える形になるし、素晴らしい!
それじゃ早速、この階層のモンスター達を狩ってみるとしましょうか。
レベル上げに戦闘訓練、思いっきりやっちゃうよ!




