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うじむし70


 英雄学園学園長にして、そのダンジョンマスターであるロリバb……少女は、豪奢な自分のベッドに沈み込んでいた。

 その愛らしい顔には、外見に似合わない深い疲労が滲んでいる。


 自分の管理するダンジョン、学園の生徒を鍛え上げる為に作り上げた学園迷宮で立て続けに発生したイレギュラー。


 本来ならば有り得ない特異体ミミック “ダンジョンイーター” に加え、この世の管理運営を行う “システム” に異様に寵愛されているウジムシ型モンスターの女の子。あのタイプのモンスターが意思疏通できるレベルまで意識を持つことなど出来るはずが無いのに、あのウジムシはまるで年頃の少女のように喧しかった。

 更には、同じく意識を明確にもった甲虫タイプのモンスターまで居たのだ。


 学園長の疲労も当然だった。


 ダンジョンというのは、ダンジョンマスターが作り上げた異空間。体内と言っても過言ではないほど密接に繋がりあっている。

 いわば、学園長は体内に毒素を撒き散らす寄生虫が存在しているような状態だったのだ。


 その大本であるミミックは外へ吐き出すことができた。

 だが、ミミックが残した影響は大きく、いまだ残るダメージは決して浅くない。


 ダンジョンの維持に必要なのは、ダンジョン内での戦いによって放出された魔力と生命、そしてダンジョンマスター自身の魔力と生命である。

 システム的に言えば、戦いの中で消費されたHPとMPがダンジョンのエネルギーになる、とも言える。


 基本的にはダンジョン内で発生するものだけで賄えるのだが、それが不足したとき、ダンジョンマスターんである学園長に急激に負担がかかるのだ。


 特異体ミミックであるダンジョンイーターは、ダンジョンそのものに寄生し食い荒らしていた為、ダンジョンの維持に必要なエネルギーが全く回復しなかった。大赤字である。


 今、学園迷宮は学園長の魔力と生命でなんとか保っている。

 これ以上イレギュラーな事態が起きれば、本当に死んでしまうかもしれないな、と金髪おかっぱの少女はベッドの中で歪んだ笑みを浮かべた。

 痛みを堪え、強がっただけの笑みだった。


 だが、そんな彼女を更に追い詰めるような事態が襲う。


 辛うじてダンジョンを維持していた学園長から、更に強引に魔力と生命が引きずり出されたのだ。


 この時、学園迷宮の中では七人の異世界人が、狂気の天才が作り上げた変身機能マキシマムシステムを使い、ダンジョンから魔力を吸い上げて変身したのである。


「…………ッ!!」


 学園長は声になら無い悲鳴を上げた。

 全身を襲う激しい痛み、体温を失っていく体。目の前が真っ暗になっていく。


「学園長? どうしました学園長!?」


 ちょうどダンジョンについての伝達を終えて報告に戻っていたグロッセが、声になら無い悲鳴を聞き付けて学園長の寝室に飛び込む、そこには生気の無い顔でぴくりとも動かない少女が倒れていた。


「な……ッ!? だ、誰か! 学園長が!」


 通常のダンジョンマスターならば私利私欲のためにダンジョンを産み出し、周囲に被害を与えるものが多い。だが、学園長は後進の育成のためにダンジョンを産み出した稀有な人物だ。

 英雄学園が存続できているのはひとえに学園長の尽力による。

 そんな人物を死なせるわけにはいかない、とグロッセは声を張り上げた。


 悔しいことに彼の専攻は魔法戦士。治癒魔法にも薬学にも明るいとは言えない。


 誰か、誰か助けてくれ!

 そう願いながらグロッセは叫び続けるのだった。 




◆◆◆




 このままコスプレイヤー達が仲違いして乱闘に発展、同士討ちとかしてくれないかなーと期待してたんだけど、やっぱりそう上手くはいかないみたい。


 黄色い蛇鎧がぎゃいぎゃい喚き、周囲がそれに折れる形で決着したみたいだった。


「ふっふ、待たせたねモンスター、僕の力できっちりとやっつけてやる!」


 半分は自爆とはいえ、ボロボロの私に随分強気だよね。もっと優しくしてくれてもいいのよ? 一寸の虫にも五分の魂があるんですよ?


 やれ打つな 蛆が手を擦る 足を擦る


 という名台詞を知らないのか……って、私には手足が無かったか。蠅になってからじゃないと通用しないな。


 さっきからコスプレイヤー達と『念話』で話せないか試しているんだけど、まったく応答がない。

 アイツ等、七人もいる癖に一人も『念話』使えないのかよ。せめて私に人間に準ずる意識があるのだと分かって貰えれば、見逃してくれるかもしれないっておもったのに。

 筆談してたくても、この世界の言葉が分からないし、今さら命乞いも厳しいよね……。


 いや、まだコミュニケーションツールはある。

 白くぬらつく我がボディ、ボディラングエージこそ人類に残された最後の希望!


 くぃっくぃっと体をうねらせてアピール。 

 ぐねぐね、私、悪いウジムシじゃないよ?


 システムさんの敵! といきり立った私だが、完全に勝ち目ゼロの状態で奮闘できるほどアマゾネスにはなれない。

 アイツ等、森の中を結構なスピードで滑り抜けたというのにアッサリ追い付いてきてるし、私のヒルコウモリ一斉攻撃大作戦を簡単に踏み潰して平気な顔してるんですよ?

 ちょっと地力が違いすぎる。


 モンスターとしてそれなりに力が付いてきているから分かる。

 コスプレイヤー達ならばあのヤマタノカタツムリでさえ倒すことが出来ただろう、ということが。


 つまり、実力は私より遥か上、戦闘力がインフレ起こしているのです。

 ドラゴン○ールの後半かよって感じ。


 ごめん、システムさん。私逃げます。

 でも、諦めた訳じゃないから。今は雌伏の時。ここは恥を捨ててでも命を取って、次の機会を待つ。

 これが異世界スタイルなんだ。


「うわー、急に動き出した、キモッ」

「あれじゃね、身の危険を感じて威嚇してるんじゃね?」


 うるせーこちとら必死なんじゃい!

 強い力持ってる奴に、爪弾きにされるだけで死ぬような虫の気持ちが分かるか!


「うわぁ……、まぁ、苦しまないように一発で決めてあげるよ。ハァッ!」


 蛇鎧はそう言って跳び上がった。

 何だろう、姿が特撮ヒーローめいているから、跳躍がやけに似合うな。


「アイツ、技を考えてやがったな」

「……俺たちはこの世界のスキルを使えないらしいからな、しかし、干渉は出来る。ならば自分で編み出すしかないだろう」

「お前もか!?」

「……考えただけだ」


 獅子鎧と狼鎧のコントめいたやり取りが聞こえてくるけど、そっちに意識を割いている余裕がない。


 ていうか、蛇鎧の運動神経が凄いな。トリプルアクセルなんて目じゃないくらい回転している。

 命が危ないっていうのに、思わず見とれてしまった。

 う、美しい……ハッ!? ってやつだ。


「必殺ゥ!」


 ダンジョンの壁が削れ、蛇鎧の回転に巻き込まれていく。

 なんじゃそりゃ!? お前は削岩機か!


岩蛇鞭尾撃ロックンロール!」


 掛け声と共に振り抜かれた足。纏っていた鋭い岩片が帯状になり、私の隠れる場所へと炸裂した。


 それはさながら殺到する砂嵐。しかも鋭く削られた岩の混じった凶悪な砂嵐だ。

 打撃というよりも、圧倒的なヒット数で削り殺すタイプの技か。


 これが格闘ゲームだったら100Hit程度、完璧なブロッキングでノーダメージで凌いでみせるんだけど、HP、MP、SP共にギリギリの私には対処する手段がない。


 ここはもうキノコの防御力を信じて身を隠し続けるしか無い。

 くそぉ、つくづくシステムさんに頼りきってしまっていた過去の自分が恨めしい。

 システムさんのサポートがないと、こんなにも後手に回る羽目になるなんて。


「そんなキノコに隠れたところで、僕の攻撃が防げるわけがない! このまま削りきってやる!」


 いやホントやばい。

 キノコには大して防御力はなかったはず。このまま削岩機攻撃を受け続ければ、あっというまにズタズタに……。


 あれ? なんか私、忘れてない?

 このキノコ、ダイオウナナイロヒカリダケって、なんか厄介な特性があったよね?


 たしか、私が一口かじった時に、酷い目に遭ったアレ。


 おいおい、キノコが切り刻まれて削られているじゃん。

 これ、私の予想通りなら、とんでもないことが起こるぞ!


「もう身を守るものはないぞ、モンスターめ、僕の初白星になってもらうよ!」


 蛇鎧が私に向かって飛び出してきた。

 だが、私は慌てない。

 この後の展開が読めているから。


 私も酷い目に遭ったダイオウナナイロヒカリダケの特性。

 それは、傷口から魔力性の青黒い猛毒を吹き出すこと。

 削岩砂嵐に曝されて傷だらけになったダイオウナナイロヒカリダケが、当時の私の『腐食耐性』を貫いて口の中を爛れさせた猛毒をスプリンクラーのように噴き出した。


 360゜隙間なく覆い尽くす毒液は、離れて観戦していた他のコスプレイヤー達にも降り注ぐ。


 当然私にもじゃぶじゃぶかかっているけど、強化された『腐食耐性』の前にはただの臭い粘液でしかない。


「ぐぅああああ!」

「何だこりゃ!? ちくしょう、鎧が溶けちまう!」

「あぁぁああ! 目が、目がぁあああ!」

「……毒液、だと、あのモンスター、ここまでが罠だったのか!」


 対して、コスプレ鎧チームの被害は甚大だった。

 特に酷いのは至近距離でモロに被った蛇鎧だ。黄色い鎧が溶けだし、露出した皮膚が焼け爛れている。


「うぁ、あぁあああ! 僕の腕が! 顔が!」

「く、ぅう、彩華さん、孝介さん、回復を!」


 風で僅かに毒液を逸らし、直撃を避けた鳥鎧が、兎鎧と鯨鎧に声をかけるが、その二人もダメージは決して浅くなく、痛みにもんぜつしていた。

 どうやら回復役はまだ動けない様子。


 ここは一気に……。




 回復させてもらいましょ!


 『腐食耐性』によりダイオウナナイロヒカリダケの魔法毒に耐性を持つ私にとって、この巨大な毒キノコはただの餌になり下がったようだった。

 毒液も随分排出したあとだし、毒の濃度も多少下がっただろう。


 コスプレチームがあたふたしている間に、いざ、実食!


 キノコのお味は……


 食感は、分厚いエリンギが一番近いかな?

 洞窟育ちのせいか、妙に味がボケているわりにはエグ味が目立つけど、まぁ食べられないことはない。

 時おり口の中のキノコ片から染み出すは辛苦く、痺れを感じる。

 一噛みごとに洞窟の埃と泥、キノコから発する妙な磯臭さが口の中に溢れ、胃の奥がぎりぎりと痛むような気がした。


 総評すると、生食には向いてないかな。

 エグ味は人によっては癖があって美味しいと思うかもしれないけど、私はノーサンキュー。水分を飛ばして出汁を取れば、独特なスープなんかができそう。

 エスニックとかアジアンなスパイシーさを追加した泥臭いホヤ。そんな感じ。


 料理する機会があったら試してみるのも悪くないかもしれない。


 タコでもフグでもキノコでも、取り合えず食べてみるのが日本人。

 毒さえ除けばみんな食材だよね。


 しかし、さすがに3階層の猛毒巨大キノコ。食べると一気にHPやSPが回復していくのが分かる。

 『過食成長』も発動し、すこし体躯が太ましくもなったようだ。


 もしかしたらレベルも上がるかもしれないけど、まだ戦闘継続と見なされているらしく、レベルが上がった感じがしない。

 システムさんがいればすぐに分かるのに。


 コスプレイヤー達は毒液からのダメージから回復していないようだった。

 コスプレ鎧を腐食させる勢いで毒が侵食しているというのに、鎧を脱ごうとする気配がない。


 恐らく、アレを脱げば戦闘力が落ちるのだろう。

 ヒーローは変身解除すればとたんに弱体化するものだからな。


 つまり、まだ私に警戒しているということか。


 私としては、今はさっさと帰って欲しいんだけど。

 今回コスプレイヤー達にダメージを与えられたのは本当に偶然。


「くそ、くそぉ、なんだよ、あと少しだったのに、僕の必殺技がッ!」

「落ち着け義人! 恐らくこれが本命の罠だ! 毒液にこれ以上当たるのはまずい、撤退するぞ!」

「雄大くん! せっかくこんな力を手に入れたのに、たった3階で敗走なんて!」


 蛇鎧くん、少し落ち着け。ダメージが一番大きい君が冷静さを欠いてどうする?

 私は平気だけど、毒液シャワーはまだ止む様子がないよ?


「情報不足ってやつだなァ、相手について知らなすぎる。調べてからもっかい挑戦すりゃいいんだよ、このままじゃ不利だ」

「……春彦の意見に賛成だ。盾役の孝介と回復持ちの彩華が動けない今、戦闘続行は不可能だ」

「く……っ」


 キノコを咀嚼しながら、警戒は怠らずにコスプレイヤー達の攻撃に備えている。

 HP、SPは半分以上回復し、それに伴いMPもじわじわと回復し始めた。

 これでまたボブスレーで逃げ出すことができる余裕が出来た。


「春彦、彩華を頼む、俺と鉄男は孝介を、鈴音は義人を助けてやってくれ」

「チッ、分かったよ」

「……任せろ」

「えぇ、行くわよ義人くん」

「分かった、退くよ。そこのモンスター! 勝ったと思うなよ! 次こそは僕の本気を見せてやる!」


 おぅおぅ、いかにも負け犬な台詞をどうも。

 こっちも再戦希望だよ。次は万全の状態で戦わせてもらう。システムさんを苦しめた罪、あがなってもらうからね!

 決して負け惜しみじゃないんだから!


 コスプレイヤー達は勝手にキノコの毒を浴びて退散していった。

 どいやらそれが私の作戦だとかってに思い込んでくれたらしい。

 ありがたやありがたや。

 考え過ぎてドツボに嵌まる残念なタイプの秀才だな、アヤツ等。


 とりあえず目先の危険は去った。

 後は、システムさんさえ無事に戻って来てくれれば完璧なんだけどな。



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