うじむし66 ヒーロー11
俺の名前は青山孝介、絶賛異世界トリップ中の高校生だ。
異世界に来て、特撮めいた格好に変身するという珍イベントを体験して早々、でかいイモムシみたいなモンスターが現れて、魔法を放ったと思ったらさっさとトンズラした。
これが今の俺の状況。
何を言ってるのか分からないと思うが、俺にも分からない。
というか、異世界に来てから訳もわからず勢いに流されることが多すぎる。
だいたい雄大と義人と春彦が先走ってしまい、逃れようの無い流れが出来てしまうのだ。
いつものことなのに止められない自分が不甲斐ない。
俺としては、もっと安全確認してから動きたいんだが……。
こんな状況で言っても無意味か。
モンスターの魔法を吹き飛ばしたのは、鈴音さん。第二射を雄大と義人が掻き消した。
鈴音さんは鳥のような姿であり、雄大はライオン、義人はヘビだ。
俺はクジラのような鎧を纏う姿に変身した。水を操り、タフネスに優れる壁役らしいのだが、いきなりのモンスターの攻撃に対応できなかった。
今まで経験したことの無い感覚。それが魔力、魔法なのだと理解したとき、俺の足は竦んで固まってしまったのだ。
またもや不甲斐ない。
この友人メンバーの中では頭脳役であると自負していたのに、密かに憧れていた異世界トリップをしてから、俺は何も出来ていない。
頭脳労働も、肉体労働も、ダメダメだ。
こんなんじゃ駄目だ。俺も何かしないと。
せめて、みんなに危険が及ぶような攻撃は、全部俺が受け止めてみせる。次こそは。
俺たちを襲ってきたイモムシだが、その動きは、明らかに知性があるものだった。
何故俺たちを狙ったのか分からないが、もしかしたら縄張り踏み行るなどしてしまったのかもしれない。
ならば、このまま相手が逃げるのに任せるのが正解では無いだろうか?
俺たちは“変身できる”という妙な自信のせいで、殆ど事前準備なしに学園迷宮に乗り込んでいる。
今回はここまでとして、次回に向けての情報集めを優先することが大事なのではないだろうか。
「あぁッ! 逃げるなんて卑怯だ! 逃がすかァ!」
「おっ、義人やる気だな! よっしゃ、俺たちも行くぜ!」
「当然だろ、俺だってまだまだ試してねぇしな!」
く……、ちょっと考えている隙に三馬鹿がまた暴走しやがった、鈴音さんは雄大のお守りのような所があるし、彩華さんは勘は良いが、そもそもの思考が刹那的だ。半数以上が動けば、俺や鉄雄も動かざるを得ない。
不安だ。不安だが、行くしかない。
他のメンバーはもう走り出してしまった。俺は鉄雄と目配せをして、やれやれとため息を吐いて仲間を追うのだった。
イモムシが通った後は一目瞭然だった。
氷の道が出来ているからな。これなら三馬鹿がいかに盲目的でも迷ったりはぐれたりすることは無いだろう。
だが、一つ問題が発生していた。
仲間にじゃない、俺にだ。
この体、変身後の方が重い。
体力や筋力も相応に増加しているようなのだが、それを差し引いても重く感じる。
やはり、俺は機動力よりも防御力なタイプなんだろう。
みんなから少し距離を離され、ようやく追い付いた時には、俺以外の全員が走り抜いた疲労を回復させる程度の時間が経っていた。
そこは階段だった。
森の中に唐突に階段があるのだ。
ここはダンジョンで、そもそもがファンタジーなのだとは分かっているが、その光景は中々にシュールだ。
イモムシはどうやら下層に逃げ込んだらしい。
「下層に逃げる? 元々下層から来たってことでしょうか?」
「鈴音、考えるのは後だ、孝介も漸く来たし、追うぞ!」
「ちょっと雄大くん、僕に倒させてよ!?」
「なんかさー、危うくない? 罠かもよ?」
「……向こうにも知恵があるなら、可能性はあるな」
「キモいイモムシの罠なんざ関係ねぇよ、丸ごとぶっ潰しゃいい」
「ぜぇ、ぜぇ……、みんな、待ってくれ、俺の変身だけ、明らかに鈍重なんだが……」
本当にちょっと待って欲しい。俺は今来たばかりなんだが。
駄目か、駄目なのか。
仕方がない。
3階層は出現するモンスターの様相も代わるだろう、もしかしたらあのイモムシが通常エンカウントするモンスターかもしれないから、油断できない。と、主張することで、全員で慎重に進むことにした。
罠なども警戒しながら進むので、気は休まらないが、少しでも体を休められるなら、まぁ、良いだろう。
3階層は、鬱蒼とした森林の2階層とはうって変わって、幻想的な光に包まれた地下世界だった。
コケやキノコ、鉱石などがほのかに発光し、辺りを照らしている。
「綺麗……」
鈴音さんが思わずといった風に呟いていた。
あぁ、まったく、こんな光景を、本物として見られる日が来ようとは思っても見なかった。
心を奪われる風景に、俺たちの動きは止まっていた。
だが、それは命が危険に晒されるダンジョンにおいて、大きなミスだった。
ザァアアッ、と雨が打ち付けるような音が響く。
地下世界に雨? いや、雨ではない、これは、羽音だ。
頭上にびっしりとくっついていた、コウモリのような羽の生えたヒルという不快な生物が、俺たちを獲物と見なして襲いかかって来たのだ。
「「きゃあああああああ!」」
生理的嫌悪感を掻き立てる魔物の姿に、女子二人の悲鳴が上がる。
正直、俺もこういう気持ち悪い系はノーサンキューなのだが……。
先程守ると決めたしな、男共よりも女性を守るほうがモチベーションも高くなるというものだ。
俺は盾役として文字通り体を張って鈴音さんと彩華さんに殺到するヒルの群れに立ち塞がった。
全身にヒルがビタビタとくっつくが、鯨鎧を貫ける様子は全く無い。
落ち着いて水の範囲攻撃で撃退していけばいい。
「うぉお!? キメェエエエ!」
「うわ、なにコレ!? 前が見えない!?」
「あぁ? コレが罠か? うざってぇ!」
「……能力を使えば、駆除は簡単だろう」
ヒルが多すぎて視界が悪いが、声から察するに三馬鹿と鉄雄も無事か。
じゃあ遠慮することもないな。
「悪く思わないでくれよ」
これから命を奪う魔物たちに、自己満足の言葉をかけて、能力を発動する。
瞬間、俺を中心に発生する水の竜巻。立ち上る渦潮、と言ったほうがいいか。
巻き上がる水の勢いに、ヒル達はあっという間に弾き飛ばされ、溺れたり壁にぶつかったりして死んでいく。
ドクター蒔島が言っていたが、この世界に適合していない異世界人が、レベルアップしたりスキルや魔法を使えることは無いらしい。
俺たちの変身ベルトはスキルや魔法に因らずに超常現象を引き起こす、この世界に反逆する道具なのだと言う。
だから、俺たちに殺される魔物の死には、なんの意味もない。
経験値になることも、スキルや魔法の熟練度になることも無いのだ。
それでも、魔法に似た力を使っているという事実は俺の心を踊らせる。
止めよう、こんな考えは。
魔物の死を悼むのも、能力を使ってはしゃぐのも、結局は自己満足なのだから。
「あ、青山くん、ごめんなさい、私、取り乱しちゃって……」
「やだーもーホント無理。ああいう沢山いる系は無理なのよあたし」
女性陣もすこし冷静になったかな?
渦潮の外で戦っている男共は、ヒルの体液まみれで、まぁ酷い姿になっている。
それでも戦闘が終わった様子はないので、今しばらくはここでゆっくりさせてもらうとしよう。
さっき休めなかったしな。これくらいいいだろ。
ヒルの波が止んだのは、それから数十分後のことだった。




