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うじむし62 ヒーロー10




 やって来たのは2階層。

 途中で『剣と骨』の二人とすれ違った。女の人の方は、なんか氷の塊を抱えていたけど何だったんだろ、あれ。

 レアドロップとかかなぁ、いいなぁ羨ましい。


「雄大くん、何をぼさっとしているんですか? ここからは復活機能が無いのですから、油断しないでください。万が一だってあるんですよ?」

「おっと、悪い悪い、でも鈴音の能力で索敵出来るんだから、安心なんだよ」

「だからといって貴方が気を抜いていい理由になりません」


 ちぇ、鈴音は固いな。

 全10階のダンジョンの2階だぜ? 不思議な迷宮で鉄製の金庫を持って帰ってくるよりも楽勝だと思うんだけど。


「……そろそろ、お前達も変身に慣れておいた方がいいんじゃないか?」


 やや先を歩いていた鉄男が振り返り、俺たちをジト目で睨み付けた。

 まだ鉄男しか変身してないもんな。俺たちもさっさと恥をかけと言いたいらしい。


 鉄男はやむにやまれず変身したけど、依然として俺たちに変身の機会は訪れていない。

 この階層でも変身する必要があるかどうかは怪しい。ていうか、たぶん無い。


 と、なると、今度変身する機会は何時か?

 少なくとも更に深く潜れるようになるまで、即ちダンジョンの安全が確認されてからになる。だがそれが何時になるかはまだ分かっていない。

 未だに一人変身ネタで弄られる鉄男は、そろそろ我慢の限界なのかもな。


「よし、仕方がない、ここは俺が――――」

「はいはい! 僕が変身するよ!」


 あれ、俺が変身しようかと思ったのに、まさかの義人がノリノリである。

 世界観が違うとか文句言ってたのに。

 他の連中も同じことを思ったのか、何か言いたそうに義人を見ていた。


「うん、まぁ、あれだよ、何かしらのパワーが手に入るんだったら、もう何でもいいかなって。だって、ここはこういう世界なんでしょ?」


 うむむ、侮り難しオタク脳。案外柔軟なんだな。いや、もう超能力ならなんでもいいのか。

 日本むこうだったら、“シャーペンの芯が折れにくくなる程度の能力”でも喜んで受けとりそうだな、義人。


「じゃあ早速行くよ! 変身!」

「躊躇いが無いな! いきなりか!?」


 ……。


 …………。


 何も起こらないが……?


「……ベルトを付けて、魔力を出せ。下っ腹に力を込めるよう意識すればいい」

「あ、うん……」


 変身するという気持ちが突っ走り過ぎて、いろいろとすっ飛ばしていたらしい。

 気づかない俺たちも俺たちだけど。


「なぁ、変身することにリスクとか無かったよな?」


 鉄男に確認するように春彦が言う。

 蒔島の説明では安全であった筈だが、実際に変身した鉄男に聞く方がいい。そもそも、あの爺さんは頭おかしいから信用できないし。


「……思い付く限りでは、無い。……お前らにからかわれる以外はな」

「いや、その、悪のりが過ぎたとは思っているよ」


 一番笑っていた春彦ではなく、何故か孝介が謝っていた。孝介も弄ることがあったらしい。


「まぁ、それは良いとしてよ、いい機会だし、俺たち全員変身してみようぜ」

「どういう風の吹き回しよ? 春彦、アンタ、一番嫌がってたじゃん?」

「まぁなぁ……、でもよ、一階層でモンスターぶっ殺して、やっぱ、俺らもいつかそう・・なる可能性があるなって思ったらさ……」

「先ず、自分の力を把握しておいた方が、良いだろうね」

「じゃあ全員で変身しちゃおうよ!」


 義人が早速変身ベルトを腰に巻いていた。

 新しいライダーだと、バックルにあたる部分だけあって、装着する場所にかざすだけでベルトになるんだけどな。

 蒔島その世代の人間ではないんだろう。いちいち巻くのは少し面倒くさい。


 てか、この流れ、もう全員で変身すること、確定してないか?

 鉄男が警戒してじりじりと距離を取っていたが……。


「鉄男くんも、変身しただけで戦う練習はしてませんよね? 」


 あっさり鈴音に捕まっていた。

 鉄男、諦めろ、もっと早く察せなかった時点で詰んでいたんだ。


「……はぁ、俺だけ2回目じゃないか」

「まぁまぁ、もう誰もそれで鉄男をからかったりはしないって」

「……彩華、だといいがな」


 文句を言いつつも、ベルトを取り出す辺り、鉄男も分かっているな。


 俺たちのベルトはそれぞれの髪の色に対応している。

 全員が装着すると、なんかの戦隊みたいだな……。


「ねぇ、これさ、○○レンジャー的な名前決める?」

「……勘弁してくれ」

「あははっ、さすがのあたしでもそれは冗談かなぁ」

「さすがにキツいよ」


 彩華の冗談は鉄男と孝介にはウケなかったようだ。

 ……俺は少し、いいんじゃないかなって……。

 あ、ダメだ、流石の義人も顔をしかめてやがる。これ賛同者いないわ。


「グダグダやってないで、変身するって決めたらさっさと変身しようぜ、俺はもう先にヤるぞ……。変身」


 春彦が勝手に変身してしまった。

 いや、別に一緒に変身しようとか決めてた訳じゃないんだが、なんだろうな、この肩透かしくらったような感じは。

 俺は必要以上に変身することに期待を抱いていたみたいだ。


 鉄男の時は真っ黒な光だったが、春彦の体からは金色の光が溢れていた。

 それはまるで柱のように空に立ち上ぼり、そしてベルトに集まっていく。

 所々でバチバチッと電気が弾けるような音がするから、春彦は雷属性の魔力なんだな。



強制限定神化機構マキシマム・システム……開始スタートアップ




 ベルトから、あの低い男性の声が聞こえてきた。


 ベルトのバックルに吸い込まれた魔力が水晶に変化し、そこから改めて金の光が漏れて春彦を覆う。


 変身の仕方はどうやら皆同じらしいな。



『――――――完了コンプリート



 金の光がはじけ、アーマーに覆われた春彦が現れる。

 その造形は、どことなく虎を思わせた。


「へぇ、なかなかスゴいじゃん。なんつーか、こう、力が溢れてくるな」

「あまり力に溺れるなよ? ろくなことにならない気がする」

「わーってるよ、それより、雄大……っていうかお前ら全員、早く変身しろよ」

「オーケーオーケー、じゃいくぞ、変……身ッ!」

「そもそも、僕が最初に変身しようと思ってたのに……、まぁ、いいや、変身!」

「……変身」

「結局、みんな乗り気なんじゃないか……、おっと、俺だけ出遅れる訳にもいかないな、変身ッ!」


 俺、義人、鉄男、孝介がそれぞれ魔力の光に包まれる。

 俺は赤い光、炎に変化し吹き上がる部分があるから、炎属性の魔力だな。

 義人は黄色い光、地面を巻き込むように光が立ち上る。あれは土属性、ということなんだろうか?

 鉄男は、最初に見た通り、黒い光の闇属性だ。

 孝介は青い光、霧が渦巻き、魔力の柱と共に立ち上っている。これは水属性か。


 同じ色の水晶がバックルに形成され、光が弾ける。


 義人は蛇を思わせる黄色いアーマー。鉄男は黒い狼、そして孝介は青くて丸い……クジラ? たぶんクジラ。

 皆に見てもらった所、俺は赤いライオンのようだったらしい。ここに鏡があればな。


 虎、狼、蛇、獅子、ときて、一人戦闘的なフォルムじゃないクジラの孝介は、少し落ち込んでいるようだった。

 もう少しシャープなアーマーを想像していたのだろう。

 でもいいじゃん鯨。ヒゲクジラというよりかはハクジラっぽいし、充分攻撃的だよ。防御力も高そうだし。


「さて、次はお嬢さんがたの番ですな、孝介さん」

「そうですな雄大さん、まさかこの期に及んでやっぱ止めるとは言いますまい」


 アーマーに身を包んだ俺たちが、傍観を決め込んでいた女性陣を振り替える。

 虎な春彦と蛇な義人はもう能力確認に入ってますよ? やっぱり、変身するときに魔力の柱に見られた属性に基づいた攻撃が出来るっぽい。だが一番の恩恵は、身体能力の向上だな。


 春彦、鉄男、それに俺は主に素早さと攻撃力に大きな向上が見られた。

 その中でも、春彦はより攻撃に、鉄男は素早さに、俺はどちらも二人には及ばないが、体力や防御面でも大幅な向上があったようだ。

 アタッカー、遊撃役、オールマイティ、って感じで区別できるな。


 義人と孝介の変化はちょっと独特だ。

 義人は隠密性が上がったらしい、また、感覚器官が強化されたのと共に、熱源を感知できるようになったらしい。蛇にはピット器官という熱を感知する部位があるから、きっとそれを再現しているのだろう。斥候や探索などで効果を発揮できそうだ。

 孝介は体力と防御力に最も向上が見られたそうだ。多分、状態以上にも強いだろう。相手のヘイトを自分に集める技能があるのも確認できたらしい。つまり、ガチガチのタンカーだ。


「さぁさぁ、鈴音ちゃんも彩華ちゃんも、観念して変身しちゃおう! これ以上焦らすなら魔法少女的な振り付けアリだからね!」


 蛇のアーマーをまとった義人が楽しそうにピョンピョン跳ねながら二人を急かす。

 ヘルメットが蛇めいて怖いのだが、行動がまんま義人で、違和感がスゴい。


「はぁ、やるしかないですよね、実際、必要な訳ですし」

「この機会逃しても、後に回せば回すだけ恥ずかしさは増すと思うよ? やるなら今だよ、鈴音ちん」

「そうですよね……、では、変身」

「あたしもするよー、へんしーん!」



強制限定神化機構マキシマム・システム……開始スタートアップ




 俺たちのベルトとは違い、やや高い、女性のような声だった。

 だがそれ以外はだいたい同じだ。

 鈴音からは若葉色の柱が風を纏いながら立ち上ぼり、彩華からは桃色の柱が強い光を放ちながら吹き上がった、そして、バックルに水晶を形成する。



『――――――完了コンプリート



 光が弾け、アーマーに身を包んだ二人が姿を表した。


 鈴音は鳥……っぽい。鳥と言っても色々種類がいるが、鈴音のアーマーは、鶴のような細く美しいフォルムをしていた。

 対する彩華は、ウサギだ。孝介のように、一目見ただけでは戦闘に向いているようには見えない。カッコいい、とか美しい、という言葉は似合わない。可愛らしいというべきだろう。


「二人とも、変身後の変化や能力は分かるか?」

「そうですね、私の場合、鳥のような外見ですから恐らく飛べます。どれだけの時間かは分かりませんが……。それと、素早さが上がっているように感じます」


 うん、この“~のように感じる”ってのが厄介だよな。

 俺たちはステータスとやらを見ることが出来ないのだ。

 異世界人はみんなそうらしい。反面、相手からも見られることは無いのだそうだが……。

 出来ることが多そうなのに、何が出来るか分からないというのは不便だ。

 日本じゃそれが当たり前なのに、異世界に来ているとステータスが見れないだけで不利だろって感じる不思議。


「あたしは、なんか回復が出来るっぽい。一人をがっつり回復か、範囲で中程度の回復か選べそう。後は、あたしも素早さが上がってる感じかな? 素早さってか、素早しっこさ? ちょこまか動ける感じ、あと耳も良いよ」

「話を聞く限りでは、鈴音は飛行能力があるから、探索と斥候、それに奇襲なんかも得意そうだな。地上の探索は義人、上空からの監視で鈴音って感じか」

「彩華は言うまでもなくヒーラーだな。ちょこまか動けるということは、回避にも優れるということだろうか? 警戒役もこなせそうだし、かなり有能そうだ」


 俺も孝介も同じ意見のようだな。

 春彦、義人も同意、鉄男は、あんまり興味無さげだった。


「じゃあこのメンバーで探索する場合、義人、鈴音、彩華で探索と警戒をお願いな。戦闘時は俺と孝介で盾役、アタッカーは春彦、俺は出来る限りアタッカーも兼任するわ。鉄男、義人と鈴音は素早さを活かして遊撃と攪乱、彩華は状況を見て回復を使い分けてくれ」


 配置としてはこんなもんだろ。

 無難過ぎる気もするが、警戒役は多いに越したことはないし、義人、鈴音、彩華以外だって何も出来ない訳じゃない。

 俺や春彦、鉄男は匂いで追跡や探知が出来そうだし、孝介はエコロケーションを使えばコウモリみたいに反響音を利用した探索が出来るだろう。


 それぞれのモチーフになっている動物の能力が概ね使えそうなので、一人一人が出来ることが多い。

 これは嬉しい事実だった。


「なんで雄大が仕切ってんのか、気に入らねえけど、まぁ妥当な配置だな」

「……問題はないだろう、恐らく」

「うんうん、ステルス状態からの奇襲・暗殺なんかもしちゃうよ!」

「俺は盾役専門か……、やれやれ、痛いのは嫌いなんだが……その内慣れるか」


 しかしこの義人、ノリノリである。蛇がモチーフであるのがお気に召したのか。

 土属性で蛇? まぁ、アリだろう。


「攪乱に遊撃ですか、具体的にどうしたらいいんでしょう?」

「要は状況見て自己裁量で動けってことでしょ? 難しいっちゃあ難しいけど、簡単っちゃあ簡単よ。あたしもそんな感じだし、戦いになったら一緒に行動する?」

「えぇ、彩華さん、お願いね」

「任せてよ、鈴音ちん」


 ふぅ、これで七人全員が変身出来た訳だけど……。

 この2階層で変身した俺たちの敵なるモンスターなんているのかね?


 ま、これは練習モードってことで、気楽にいきますか。



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