うじむし56 ヒーロー07
松明に照らされた薄暗い地下への階段を降りる……とかなら雰囲気が有ったんだろうけど、そんなことは無かったぜ!
地下への通路は、なんだか病院を思わせるような白で床も壁も統一されていて、おそらく魔術によるものだろう明かりで煌々と照らし出されていた。
さすがに材質はリノリウムじゃないけどな、白レンガって感じだ。何故だか少し涼しげで過ごしやすい。
「ここは季節に合わせて湿度や温度を調整する魔道具が一定感覚で埋め込まれているから、地下だけど快適なんだ。除湿した分の水分は、地下栽培しているキノコや野菜類使われているよ。そっちも見ていくかい?」
「いえ、今は良いです。ダンジョンの方へ行きましょう」
青花茸というキノコらしき食材に痛い目を見た鈴音が即答した。
どんだけ嫌いになったんだよ、キノコ。
異世界に来てから着々と苦手な食材が増えている我々です。
あぁ、米とかカップラーメンとか、そういうのが恋しい。
米探しも異世界生活の定番らしいけど。大体東の方にアジアテイストな国があって、稲作している場合があるらしい。
義人知識だからどこまで本当か分からないけどな。
ダンジョンの前まで来ると、何やら騒がしい声が聞こえた。
こら、義人、彩華、春彦、イベントっぽいからってあからさまにわくわくするな、失礼だろうが。
突っ走りそうな義人の襟首を掴んで阻止。ぐぇ、とか言ってひっくり返ったけど、大丈夫だろ。
「――――このままじゃ引き下がれないのよ! 訳も分からない内に腕一本丸々切り飛ばされて、なにもしないなんて、それこそチームの名前が地に落ちるじゃない!」
「ですから、学園長の指示ですので。学園長直々に調査をなされていますから、落ち着いてお待ちください。報告はなるべく早めに送りますから」
「守衛さんだってこう言ってくれてるじゃねぇかヴェリ、無茶を言ってる自覚はあるんだろ? 腕だってまだ定着してねぇじゃねぇか」
「ジョナスは黙ってて! 死霊術と錬金術を組み合わせて培養した腕よ、もう平気に決まってるじゃない!」
「そう言われましても、貴女の腕の件で更に厳戒体制になったのです。ダンジョンが危険な状態での無謀なポイント稼ぎはお止めください。命がいくつあっても足りませんよ?」
「百も承知よ! 」
守衛さんに突っ掛かっているのは、男と女の二人組、というより、女の方だな、随分と頭に血が上っているようだ。
「ありゃ何を騒いでるんだ?」
春彦が興味津々に覗き込む。
乱闘に発展しそうなら飛び込むつもりだな。もう高校卒業目前なんだし、春彦にはもう少し落ち着いてほしいものだ。
高校卒業、出来なくなっちゃったけどな。
「あれは、チーム『剣と骨』だね。その……、無理矢理閉鎖されたダンジョンに突っ込んで返り討ちにあったチームなんだ」
「先程言っていた、腕を切り落とされた死霊術師の女性徒のチームか」
「といっても、二人組しかいないチームなんだけどね……。うーん、このままじゃ守衛さんが気の毒だから、ちょっと止めてくるよ」
グロッセ君の良い人レベルが止まるところをしらない。
ここまで周囲に気を遣うのが自然に出来る人が日本人以外にいるとは……。
いや、日本人が大量流入しているらしいから、グロッセ君が日本の文化を知っていたり、ともすれば血を引いている、なんてことあるかもな。
「ジョナス、ヴェリ、チーム『剣と骨』は謹慎処分を受けたはずだよ? なんでここで騒いでいるんだい?」
「あー……すまん、止められなかった」
「グロッセ……、あんたには関係ないでしょ?」
「ヴェリ、もうすぐ二十歳になる君が焦る気持ちも分かるけど、今はダンジョンが安定していないんだ、問題解決の為に学園長直々に調査しているんだよ? なのにここで無理を通そうとするなんて、学園長を信頼していないということにも受け取られてしまうよ」
グロッセは落ち着いて正論を説いたが……、感情的になってる奴にそれは上手くいかないんじゃないかねぇ。
ほら、ヴェリとかいう女の人、悔しそうな顔してるじゃん。
「……あんたは良いわよね、研究員として将来が決まっているんだから」
「おいヴェリ、グロッセの将来とお前の状況は関係ないだろうが」
「何他人事ぶってんのよジョナス、あんただって後がないでしょ、ダンジョンがちょっと危ないからって足止めくらってられないのは一緒じゃない」
「別に、卒業失敗したからって死ぬわけじゃないだろうに……」
ジョナスって男の人とヴェリさんには、なんか温度差があるんだな。
ヴェリさんに事情ありか?
うーん、ゲームとかだったらここでクエスト発生なんだろうけど、異世界とはいえ現実。クエストマーカーもヒントも無い状態で、自分のこともままならないのに人助けとか、難しいよな。
ちらりと仲間たちを見る。
春彦、彩華、義人は案の定、首を突っ込む気だな。
鉄男、孝介、鈴音は様子見、もしくは不干渉でいたいようだ。
こうなると、俺はどっちに着くか……。
できれば様子見といきたいところだけど、様子見派が退いても、首突っ込む派はダンジョンに行っちゃいそうなんだよな。
「なぁおい、良ければ手伝ってやってもいいぜ?」
あぁ!? 春彦のやつ、先走りやがった!
「おい、ちょっと待てよ、俺たちの立場分かってんのか? それに手を貸すってことはお前、戦うってことだぞ?」
暗に変身したいの? と聞いてみるが、春彦には退く気がないようだった。
「これって明らかにイベントだろ。無視するとか無いわ。それに、いつかヤんなきゃいけねぇなら、早い方が良いだろ?」
「この世界はゲームじゃないんだぞ? 下手に首を突っ込んで引っ掻き回すべきじゃないだろ?」
「ゲームじゃないってのは分かってるよ。だから早く慣れなきゃいけねぇんだろうが」
春彦の目はマジだ。
早く慣れなきゃいけないってのは同感だけどさ……。
「雄大くん、僕も春彦くんに賛成だよ。ここが初心者向けのダンジョンなら、練習にはピッタリだと思うんだ」
「二十歳までしかいられないなら、私たちにだって時間はあんまり無いんだよ? 常識や文化知るのに一年とかかけてられないっしょ? ていうか、法務科の卒業試験で通る気がしない」
義人、彩華の言ってることも、正しい。
俺たちが学園で過ごせる時間は、一年半くらい。もうみんな十八過ぎてるしな。
俺も法務科の試験はキツいと思うし……。この中でチャンスがあるのは、孝介、鈴音、くらいだな。
ダンジョンをクリアしての卒業を目指すんだったら、挑戦は早い方がいい。一回でクリアできるとは思えないし。
後がない、と騒いでいるヴェリさんには悪いが、援助を申し出てダンジョンを体験するのに利用させてもらうのもありかもしれない。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、なんでいきなそんな話になったんだ? 何度も言ってるけど、君達異世界人に戦う力は無いんだって!」
グロッセの慌てっぷりも仕方がないだろうな。あそこまで説明しておいて、ダンジョンに潜りますって言ってるんだから。
「はぁ? 異世界人なのアンタら、見ない顔だと思ったけど、来たばっかりなのね。あのね、異世界人とか使えないから、さっさと帰って、邪魔しないで」
……その異世界人の中でも、俺らは特異なんだよなぁ。今まで改造人間なんていなかっただろうし、想像もつかないと思う。
色々埋め込まれ、換装された体は、もはや通常の人間よりも遥かに強化されている。
筋肉、神経伝達速度、思考速度に至るまで、この世界の人間よりもブーストされているのだ。
ぶっちゃけ、剣を持った大人と殴りあっても余裕で勝てると思う。
その上、変身という反則気味の更なる強化があるのだ。
力加減を覚えるって意味でも、確かに早めに慣れた方がいいよなぁ。




