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うじむし54 ヒーロー05





「ちょっと良いかな?」


 こんな感じで声をかけられたのは、俺が注文した料理に悪戦苦闘している時だった。


 因みに、水晶魚クリスタルフィッシュの唐揚げだったんだが、この水晶魚という魚、食べられる場所が目玉しかないらしい。俺の皿には丸い唐揚げがごろごろしていた。

 水晶魚が目玉しか食べられないというのは常識らしいです。

 サクサクの衣に、噛むとぶちゅんと飛び散る中身がね……、いや、美味しかったけどね? 一回、噛もうとしたら魚の目玉がつるんと衣を抜けて、そのまま目の前に座っていた鈴音のオデコに命中し、乱闘になりかけた。

 土下座外交って本当に効果あるんだね。


 ……と、話はそこじゃない。いきなり話しかけてきた奴だ。

 見かけは、俺らとタメくらいかな?

 すげぇ、栗色の髪の毛が横でロールしてる! 鼻が高い(物理)!お坊ちゃんって感じだな。

 あー、ということは、アレか、義人たちが言ってた、新入生とか実力者に絡んでくるバカ貴族、もしくは荒くれ冒険者、というイベントか?


「……水晶魚クリスタルフィッシュだなんて贅沢なものを食べているじゃないか。異世界人の癖に」


 おぉ! やっぱり絡んでくるイベントか!

 やばい、笑いそう。

 話に聞いただけの俺がこうなんだから、実際物語を読んでいた孝介、義人、春彦、彩華の四人はかなりキツいだろう。

 春彦め、頬を噛んで耐えてるな。孝介は、こういう時は無表情が上手い、だが分かるぞ、あれは内心笑い転げている。義人は目を輝かせていた。異世界への憧れが強いみたいだからなぁ。彩華は鈴音の陰に隠れていた。声を殺して大笑いしてる。器用なことをするもんだ。


 贅沢というが、金銭の価値だってようやく最近掴んできたのだ。

 ここで暮らす分は蒔島が払ってくれているので、俺たちはあまりお金を使っている実感がない。

 蒔島はマッドサイエンティストなのに、金持ちだった。何でも、適当な発明が国に認められ、研究費用がガンガン入ってくるらしい。

 以前ちょこっと聞いたときは、未完成の魔力結合破断光線銃が取り上げられてなんとかとブツブツ言っていた。関わらないようにした。

 とにかく、これでは不味いので、お小遣い制にしてもらって遣り繰りしようと思ったのだが、貰えるお小遣いの桁が違う。

 結局、金銭感覚は麻痺しっぱなしである。


「……何か文句があるのか?」


 鉄男がじろり、とお坊ちゃんを睨み付けた。

 お坊ちゃんはそれだけで若干怯んだようだった。

 おいおい、鉄男の顔はいつもそんな感じだぞ、これでビビってたらコミュニケーション取れないぞ?


「そ、そうだ、文句がある。先ほどの騒ぎだが、ここは誇りと伝統がある英雄学園なのだぞ? 他の学生の憩いの場である食堂で騒ぐなど、もっての他だ」


 あら、正論だった。

 笑ってた四人も正気に返ったようだ。そうだよな、お約束な展開とか、早々無いよな。

 ていうか、日本の学生のノリで食堂で騒いだ俺達が悪い。俺たちの高校、そこら辺は自由だったからなぁ……。


「……すまない、当然の話だったな。俺たちの常識が無かった」

「お、おぉ、素直に謝るんだな」

「うん、僕たちがうるさかったよね、ごめんなさい」

「というか、私と雄大さんですよね、主な原因は」

「あー、なんというか、まだこっちに来たばかりで、あんまり向こうの感覚が抜けてないんだ、ごめん」


 俺達が異世界人であるということは周知の事実だ。

 そもそも英雄学園に入れたのも、異世界狂人の蒔島の推薦あってだしな。

 異世界人から魔力を取り出す実験の経過を見るのに丁度良いとかなんとか理由をつけて送り込んだらしい。

 それで騙される国が馬鹿なんじゃい! ひゃひゃひゃ! と蒔島は笑っていた。


 多分だけど、泳がされてるだけだと思うんだよな、一国を運営している人たちが、そこまで抜けている筈もない。きっと、俺たちには監視が付けられている。

 蒔島はそこまで頭が回っていない、というよりも、監視? したければすれば? 理解できねぇだろうけどな! みたいな感じ。


「いや、迷惑かけちまったんだから、謝んのは当然だろ、お前の言い分の方が正しいぜ。まぁ、食いもんに文句つけられる筋合いは無かったけどな」


 春彦にそう言われて、お坊ちゃんは何故か感激したようだった。


「君たちは随分良識のある異世界人なんだな、今までの異世界人というと、それはもう、独特な人ばかりだったから、すまない、こちらも色眼鏡で見ていたようだ」

「いや、俺たちも同じだったからね」

「ねぇねぇ、今までの異世界人ってどんなことしたの?」


 孝介が頷き、彩華が興味津々で聞く。

 おっと、いつまでも立ち話させとくのも失礼だな。


「良ければ座って、話を聞かせてくれないか? えーっと……」

「グロッセ・ラーマンだ。魔術と剣技の両立の研究を専攻している」

「魔法戦士!」


 義人が飛び付いたが、話が進まないので後にして貰おう。

 俺達がそれぞれ自己紹介を終えると、グロッセは一人一人に握手を求めた。この国の習慣かな?


「それで、君たち以外の異世界人の話だったね。まぁ、本当に色々さ。もう知ってるかもしれないけど、僕たちのこの世界は、君たち異世界人の知識によって随分と発展したんだ、特に、生活面においてね。だけど、ある程度充実した後に来た異世界人の中には、それが面白くないと感じる人も多かったみたいなんだ」


 義人が罰の悪そうな顔になった。

 まぁ、無双だ知識チートだと叫んでいたからな。でも、グロッセの言う奴らはそれで済まなかったんだろうな。


「それに、異世界人は魔法が使えない。もちろんスキルもなんだ……。これは知ってた?」

「あぁ、知ってるぜ。だから一々気にする必要はねぇよ」

「ありがとう。だけど、異世界人の殆どは、それを受け入れられないんだよ」


 ……俺たちは、いざとなったら変身ベルトがあるからな。

 狂人の執念の結集であり、死んだ俺たちを蘇らせてまで使用できるようにした、異世界人の願望の果てから来たようなアイテムが。


 だから、まったく魔法やスキルが使えない通常の異世界人に比べれば、気が楽なのかもしれない。


「……それでも、異世界の人達は戦う力が無いからね、大体自暴自棄になって犯罪行為に走って捕まるか、そのまま一般人として生きるかって感じになるんだ。諦めきれずにどうにかして学園に入ってくる人達もいるんだけど、そういう人達に限って、自分は特別なんだって暴れるのさ」

「だから俺たちに注意してくれたんだな。ありがとうグロッセ」

「異世界から来る人たちが、みんな君たちのように気持ちの良い人なら良かったんだけどね」


 気持ちよくない人代表みたいな奴から推薦を貰っている身としては、申し訳ない気持ちで一杯です。はい。


「君達はここに来て、まだ一週間かそこらだよね? まだ見ていない場所もあると思うから、良ければ案内しようか?」


 グロッセがそんなことを言ってくれた。

 俺たちは普段、蒔島の研究所から異世界人クラスを往復するだけなので、この申し出は非常に有り難い。

 学園探検とかもしてみたかったが、絡まれるとウザったいので珍しがられなくなるまでは待とう、という話になっていたのだ。


 グロッセがいれば、無駄に絡まれることもないだろう。

 魔術の実験や剣術の訓練、そんなものも見れたりするんだろうかね?


 義人や孝介が異世界にわくわくする気持ちが少し分かるな。



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