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うじむし53 ヒーロー04

本日二話投稿しています




 俺は何をしているんだろう……?


 赤井雄大は一人静かに肩を落とした。

 机に座り、黒板に向かい、講師の話を書き取る。

 高校卒業間近だったとはいえ、まだ学生だった身、この状況は慣れ親しんだものだと言っても過言ではない。


 ここが、今まで自分がいた日本が存在している世界ならば、だ。


 隣に目をやると、同じく日本出身の友人たちも退屈そうにしていた。

 異世界知識って、もっとわくわくするものだって聞いてたんだけどな……。


 狂人曰く、ここは剣と魔法、魔物と人間が争う異世界らしい。

 幸いにして、狂人と友人数名が異世界を題材にした物語に詳しく、どんなイベントが起こりやすいか、などを説明してくれた。


 だが、雄大たち学生七人には、圧倒的に足りないものがあった。

 この世界の知識、常識だ。


 自分の研究以外に全く興味を示さないマッドサイエンティスト、ドクター蒔島はこの世界の常識の説明を早々に放棄し、最も手っ取り早い方法を強制した。


 即ち、分からないことがあるなら学校で学べ、ということである。


 この世界の人間からすれば、自分達が異世界人。

 そして、この世界の中で異世界人というのは、役立たずの代名詞みたいなものらしい。


 何故なら、異世界人は膨大な魔力を備えているがそれを使うことも取り出すことも出来ず、身体能力は並以下、生活様式が違いすぎてトラブルをよく起こす。たまに突拍子もないアイデアを実行し、混乱を引き起こす。そんなレッテルが貼られているのだ。

 後半は主に蒔島のせいだろうと雄大は思っている。


 友人の一人、黄瀬義人などは、無双チートが無理でも、知識チートなら出来る! などと張り切っていたのだが、ドクター蒔島が居ることからも分かるように、この世界で地球出身者というのは特別珍しくもないらしい。蒔島から言わせれば、動物園のパンダレベル、だそうだ。

 つまり、義人が考え得る知識は出尽くしているのだった。

 その時の義人の意気消沈っぷりたるや、酷いものだった。


 雄大たちがいるのは、『英雄学園』という実力主義のエリート学校の中で、異世界人用に作られた特別クラス。名前もそのまんま、異世界人クラスだ。

 現在のクラスメイトは七名。


 赤井雄大

 青山孝介

 黄瀬義人

 緑川鈴音

 桃園彩華

 黒岩鉄男

 金谷春彦


 つまり、全員が友人だ。

 そして悲しいことに、全員が人外だ。いや、改造人間と言えるだろうから、ぎりぎり人間の範囲内かもしれない。


 雄大の視線が、ちらりとバックに落ちる。

 勉強用の筆記用具やテキストが入ったバックの中には、学園生活とは全く無縁の代物が入っている。

 これこそが友人全員の頭痛の種、変身ベルトだ。

 正式名称はアンリミ……なんちゃららしいが、変身ベルトで通用するから皆そう呼んでいる。


「……えー、つまり、この世界の文明のレベルを引き上げたのは正しく異世界人の功績であったが、反面、それは急激な変化を引き起こし、各国の争いの原因にもなったわけです」


 壮年の男性講師が黒板にチョークで異世界の歴史を書き出していく。

 因みに、この男性講師も日本人だ。

 異世界の日本人率の高さよ。こちらとしては有り難いが、なにか作意めいたものを感じる。


「遠くの山から川を引っ張ってきて、治水工事を行い、上下水道を配備した兄弟についてはテストに出ますのでよく覚えていて下さいね。はい、では今日はここまで」


 講師の言葉と同時にチャイムが鳴る。

 ほんと、これだけ見ると異世界に来た感じしないな。


「なんかさぁ、異世界に来た感じ? しねぇよなぁ」


 春彦がぼやく。

 あぁ、まさに今、俺も同じことを思ったよ。


「でも、学食メニューとか見ると、びっくりするよね」

「あぁ、丘陵海老ヒルシュリンプ炒めというからエビかと思いきや、巨大なバッタだったからな」


 その時のことを思い出したように孝介が顔をしかめる。

 自分の皿に子犬ほどもあるバッタが置かれた時の孝介の顔は見ものだった。

 冷静沈着を気取っている孝介が、目を皿のようにして固まったのだ。あれには大笑いした。


 しかし、巨大バッタもここでは一般的らしく、女学生が焼かれたバッタの足をもいで、美味しそうに頬張っていたりする。

 文化の違いって怖い。

 昆虫って高蛋白らしいし、栄養面ではきっと素晴らしいのだろう。きっと。


 ここのメニューは食品サンプルなど無く、木札に墨で書かれたものがぶら下がっているだけなので、俺たちは毎回ビビりながら注文している。

 食堂を切り盛りしているのは気の良いおっちゃんおばちゃんの夫婦で、学生がやる気を維持できるように毎日メニューを変えて楽しく美味しく過ごせるように頑張ってくれている凄い人たちだ。

 ただ、そのお陰で俺たちは毎回なにかしらゲテモノを引いている。


「……もう昼時だが」


 鉄男が皆を促すように教室のドアの前に立っていた。

 うん、確かに腹へった。

 新しい知識を詰め込むのって体力も脳も使うんだよな。


 だが、みんな視線を交わしあい、誰が先に行くかを無言の内に譲り合っている。

 地雷を踏む確率は最初であればあるだけ高い。できれば誰もが誰かに先に行って欲しいのだ。


「私は、先日最初に行きましたよね?」


 鈴音が静かに、しかし迫力を込めて微笑む。

 彼女は、これなら外れないだろうと青花茸ブルーファンガスの新鮮サラダを注文し、うねうねと動く青いイソギンチャクのようなものの活け作りを食べたのだ。サイズは缶コーラ程度の大きさのものが、4つ程。


 ここのおばちゃんは、どっかの忍者の卵の食堂のおばちゃんみたいに、お残しを決して許さないので、注文した以上は食べきらなければならない。


 その日の午後は鈴音は勉強になら無かったと言っていた。お腹の中でいつまでも触手が動いていたらしい。


「それを言うなら、僕はその前に行ったよ」

「黄瀬ちゃんは当たり引いたじゃねぇか」


 義人が逃れようとするが、春彦の言う通り、彼は当たりを引いている。

 と言っても、巨大バッタや胃の中で動くイソギンチャクに比べればマシ、という程度ではあるが。


魅惑雌牛ファシナカウの乳煮込み……。ピンク色液体の中に皮を剥いだ牛の頭が浮かんでたんだけど……」

「食べたら美味しかったって言ってたよね?」


 ここで彩華の援護射撃。

 彼女も必死だ。唯一彼女のみ、時間内に食べきることが出来ず、食堂のおばちゃんにお説教をくらい、残った料理を持ち帰らされたのだから。


 彼女が食べたのは英雄馬グレイトスタリオンの勇者焼き。

 孝介の後だったので、海産物はヤバイ、と判断しての選択だった。しかも、おばちゃんに滅多に入らない上物の肉が入ったのだと教えてもらっていたということもあった。

 そういう言葉に日本人は弱い。

 おばちゃんも100%善意だったしな。


 しかし、出されたのは想像の遥か斜め上。

 雄馬の局部を焼いたものだったのである。勇者焼きというだけあって、味はすごく美味かった。

 何故味を知っているかと言えば、彩華が食べられずに持ち帰ったものを、男たちで食べたからだ。

 かなり複雑な気分だった、とだけ言っておこう。


 それ以降、彩華は一番に成りたがらない。

 まぁ、仕方ないとも言える。


 義人の視線が、俺、孝介、春彦、鉄男に向いた。

 順番的に言えば、俺らではあるんだけどな……。


 全員が全員、等しく地雷を踏んでいるから、俺ばっかり、とか次は誰々がやってよ、というのはあまり通用しない。

 結局、順番制にするしかないんだよな……。


「あ、雄大君が諦めた顔をしてる! 引き受けてくれる気満々だよ!」


 義人ぉ! お前、友を売るのか!?


「順番! 順番を決めようぜ!? っていうか毎回順番決めようって言ってるじゃん!?」

「順番を決めたら、その日が必ず憂鬱になります。かといって勝負事で決めれば禍根が残ります」


 鈴音が、これは必要な犠牲なんだ、と悲しそうな表情で言っているが、これかなり禍根を残すと思うんだけど!?


「あぁ、極めて民主的に話が決まったようだな、さすが雄大だ」


 孝介が満足そうに頷く。

 おのれ、明日はお前に擦り付けてやるからな……。



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