うじむし48
HP、MP、SP、全部がすっからかん。
もうね、生命活動すら危ういレベル。
カタツムリモドキに有効打を与えられる手段が、私にはもう無い。
カタツムリモドキが口を開いた。
うわぁ、近くで見ると牙がおッそろしいわ。かじられたら、絶対そのまま食い千切られるな。
怖い、見てられない。
我慢できずに目を閉じる。
システムさん、システムさん、私、死にそうなんだけど。
『――――現在、システムアクセスが不可能です。時間をおいてから、またお試し下さい』
うぅ、こんな平淡な機械音声みたいな声じゃなくて、システムさんの温かい低音ボイスを聞きたいよぉ。
最後に聞く声が、システムさんじゃないなんて嫌すぎる。
ふぇえん、システムさぁん、何で来てくれないのよぉ……。
「「「オォッ!? オォオオオオ!!」」」
……?
何か、カタツムリモドキの悲鳴が聞こえた。
こんなのもう死ぬしかないじゃない、と諦めたから、幻聴でも聞いたのかな?
いやでも、いまだに噛まれないし。
恐る恐る目を開けると、カタツムリモドキは私には目もくれず、首を激しく振り回していた。
え? なに、何が起こってるの?
「「「オオオオォォォ!!?」」」
うわうわ、カタツムリモドキの首が、何本も生えてる首が、ビターンビターンって!
絡み合ったり壁や地面に叩き付けたり、もうしっちゃかめっちゃか!
あぶッ、危なッ!? 私にぶつかりそう!
やばい、バックバック! ちょっと離れよう。うん、カタツムリモドキは今私に構っている暇が無いようだから、ここは下がっても大丈夫でしょ!
あれ、つまり、私は助かった? マジで? 超ラッキー?
いや、まてまて、慌てるな、結論を急ぎすぎだ。少しでも呼吸を整えてHPとMPの回復に努めるんだ。
液体窒素を上手く使えば、討伐は無理でも撃退はいけるかもしれない。
私は、じりじりと下がって退路を確保しつつ、いつでも魔法を撃てるようにスタンバイしてればいい。
しかし、何だろう、この暴れっぷり、何かを思い起こさせる……。
うーん、人間の時の思い出だったような……。
あぁ、蜘蛛に引っ付かれた友達がこんな感じでパニック起こしてたなぁ。イヤァ!? 取って取ってェ!! って。
まさか、カタツムリモドキは何かに襲われているのか?
反撃が難しいくらい小さな生き物に張り付かれていたとしたら、あの反応も頷ける。
まさか、システムさんが何かしてくれたの?
でも、システムさんが直接何かをしてくれるなんて、今までに無かったと思うんだけど……。
やっぱり、何が起こっているのか分かんない。
びしゃり、と黒紫色の液体が飛び散った。
これ、カタツムリモドキの体液だ。
激しく暴れまわる奴の首の一本、その一部。私が『氷寒魔法』で生み出した液体窒素で裂断させた皮膚から止めどない出血が続いているのが見える。
血が止まっていない理由は、単に皮膚が裂けたからじゃない、そこに、抉れたような穴が開いていた。
あれ、私がつけた傷じゃないよ?
まさか本当にシステムさんがこちら側にログインして助けてくれてるの?
だったら、私はシステムさんのサポートをしなきゃ!
回復は十分じゃない、というか、まだ瀕死に近い。
だけど、乗るしかないこのビッグウェーブに!
『腐食性血』を『氷寒魔法』で凍らせて、弾丸状に形成、それを『狙撃』で撃ち込むのだ!
ほんの僅かに回復した分で捻り出した、正真正銘ラストシューティング!
準備完了、体力、魔力、気力ともに限界、だけどこの一発はウジムシにとっては僅かな一発だけど、勝利に向かっては大きな一発だ!(瑠璃は極度の疲労で混乱している)
まるで望遠スコープ覗いているかのように、カタツムリモドキの動きがはっきりと分かる。
コイツの弱点は分かっていないけど、頭がいくつもあるモンスターってのは、大体その付け根が弱点だと相場が決まっているんだ!
相手の弱点に魔法をシューーーッ!
お返しの気持ちを込めて、杭状に形成した『腐食性血』がカタツムリモドキの首元に突き刺さった。
「「「オ"オ"オ"オォォオオ"オ"!!?」」」
肉が強酸で焼けて腐る臭いが立ち込める。
カタツムリモドキの暴れていた首は力を失い、感覚器官っぽい角も力無く縮んでいた。
渾身の『腐食性血』&『氷寒魔法』&『狙撃』のコンボは相当効いたようで、白い煙を上げながら、首の一本が根本から溶け落ちた。
うわ、グロい。
ぶちゅぶちゅと黒い体液が吹き出してるし、臭いし、これは最悪ですわ。最後の最後までSAN値削ってくるとか無いわー。
ていうか、カタツムリモドキの野郎め、まだ死んでない。
首一本犠牲にしてダメージを抑えたのか、大本の体はよろよろと這いずり、逃げようとしている。
ここで追撃……した方が良いんだろうけど、もう無理。体が動かぬぇ。
私が疲労困憊の極致で死にそうになっていた時、待ち望んでいた声が頭の中に響いた。
『――――許可申請、受領。ダンジョン管理者権限の特例行使を発動します。該当モンスター“特異個体ミミック”はダンジョンに設定されたレベル及び適正階層のルールに違反している為、即時、外界追放処置を執り行います』
シ、システムさぁぁあん!!
信じてたよ! 待ってたよ!
うわぁああん、システムさぁん、大好きぃい!
『瑠璃様、お待たせしてしまい申し訳ありません。例のミミックに対応する為、席を外しておりました』
ううん、良いよ、もう。
だって、今来てくれたんだもん。
私から逃げようと這っていたカタツムリモドキの体が光に包まれ、ぼんやりと薄らいでいく。
なんか、ワープしてるみたい。
『その認識で間違いありません。あのミミックはダンジョンに設定されたレベルと棲息階層を大幅に逸脱した為、レベルにあった地域に転送されるのです』
え……、えぇ……?
そんなこと出来るんだ……?
だったら、初めからそうなってれば良かったのに。
私が死にかけたのは一体なんだったのか……。
『今回は特例中の特例です。私が即時対応案件として、ダンジョンマスターに捩じ込みましたので。加えて、ここは初心者訓練用ダンジョンとして売っているので、あのようなイレギュラーは困るのです』
システムさん、ダンジョンマスターにも干渉できるのか……。
カタツムリモドキは全身を光に飲み込まれ、消えた。
このダンジョンから、文字通り消えたのだ。
ていうか、ここ初心者訓練用ダンジョンなのか。
どうりでダンジョンにしては冒険者っぽいのとあまり会わないなぁ、と。
一人、腕切り飛ばしちゃった子がいたけど……、あの子は腕を回収してくれたかなぁ……。治るといいけど。
何にしても、もういいよね?
気ぃ抜いちゃってもいいよね?
うわぁッはーい! 生き残ったぞぉお!




