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うじむし47




 拝啓、システム様。いかがお過ごしでしょうか? 私は今、初心者用であるはずのダンジョンの中で、ベテラン探索者も発狂待った無しの怪物と戦っております。


 いや、これもう戦いって呼べるのかな?

 私が出来ることって、地面を転がってキモスギカタツムリモドキのゲロ攻撃を何とか凌いでいるってことだけなんだけど。


 アイツ、こっちの逃げ道を塞ぐようにゲロ吐いてくるから、マジで厄介。

 瞬間接着剤のように固まるゲロで、逃げ道がどんどん無くなっていく。


 やられっぱなしは癪だから、私もこっそり攻撃を仕込んでるんだけど、正直、逆転の目がない。

 あの化け物が攻撃をやめて、私の作戦の効果が出るまでじっくりゆっくり待ってくれれば勝てるかもだけど。

 ここ本当に全十階層のダンジョンの三階層目なんだよね?

 私、システムさんの話を聞き間違ったりしてないよね?


『――――現在、システムアクセスが不可能です。時間をおいてから、またお試し下さい』


 私の脳内に響いたのは、いつもの低音渋めのオジサマ素敵ボイスのシステムさんじゃなくて、やけに平淡な音声だった。


 え? これ、システムさんじゃない。

 あれ、やば、システムさん、もしかして、私を置いて逃げちゃった……?




 うそ



 うそうそ


 そ、そんなことない! システムさんは私に逆転の秘策を伝える為に頑張ってくれているんだ! だから私に応える余裕がないだけなんだ!


 ここでシステムさんを疑えば女が廃る。『相思相愛』は伊達じゃないッ!

 私とシステムさんの重ねた時間は少ないかもしれないけど、過ごした時間の濃さは誰にも負けない!

 システムさんが私のために何かしてくれているのが分かる。なら私に出来るのは、それに信じて応えて待つこと。それまで死なないこと!


 もうHP温存とか不確定要素怖いわぁとか言ってられんわ!

 出来る手札を全部切って、生き残ってやる!


「「「オオオオォォォオオオオ」」」


 もう何度めか分からないゲロが吐き散らされる。

 アイツは完全に私を弄んでいる。

 自分が負ける筈がない。私で遊ぶのは当然だと思っている。

 わざと接着ゲロを吐く量を減らしたり、ギリギリ逃げられる場所を作ったりしてやがるからな。


 ふざけやがって。

 私は、私を踏みにじる理不尽が大嫌いなんだ!

 お前が私を踏みにじる理不尽なら、私は死んでも抵抗してやる! 見てろ、一寸の虫にも五分の魂、追い詰められたウジの底力を思い知らせてやる!


 『腐食性血』を口から吐き出す。

 カタツムリのゲロとぶつかり合い、刺激臭を伴う白い煙となって溶けていく。

 血を吐く訳だから、当然私のHPも溶けるように減っていく。

 でも出し惜しみは無し!


 お次は『欲望喚起』! 欲望全てに影響できるなら、こいつもいけるはず!


 スキルを受け、カタツムリモドキは鬱陶し気に頭を振り、角を引っ込める。

 よし、効いてる! 『欲望喚起』で睡眠欲を促進させた。スキル版ラリ○ーといったところか。


 動きが鈍ったところに『氷寒魔法』。

 空気中の水分が枯れている今、『氷寒魔法』を発動しても何も起こらない。この世界の魔法は、ゼロから物を生み出すものではないからだ。

 だけど、凍らせる、のではなくて、変化させられるものなら、まだある。


 『氷寒魔法』という名称で冷たいイメージに引っ張られてしまう私の魔法だが、冷たいものは何も氷だけじゃない。

 二酸化炭素が固まればドライアイスだし、窒素が液体化したものなど、理論上マイナス196℃まで冷やすことが出来るらしい。


 魔法に大事なのはイメージ。

 私はまだ、目に見えない二酸化炭素や窒素が『氷寒魔法』でどう変化するのか、うまくイメージ出来ていない。

 だけど、逆に考えれば、イメージで補完できれば多少の物理や科学の法則をすっ飛ばして結果を得られると言うことだ。


 イメージしろ、一瞬で空気中の窒素が液体化して辺りに降り注ぐ様を。

 真っ白く凍り付いて、芯までガラスのように脆くなった世界を。


 ゲロを避けながら周囲に仕込んでいた『氷寒魔法』の魔力と、私のイメージを呼応させる。

 私の発した意思に魔力が応え、空気中の窒素を変化させる。


 降り注げ、液体窒素!


 パチィン、と弾けるような音がした。

 私の意思に応えて液体化した窒素はごく僅か、何本も生えているカタツムリモドキの首の一部に少しかかっただけ。

 だけど、カタツムリモドキは私の思わぬ反撃に驚いたらしい。びくりと震えて、首の何本かが殻に引っ込んだ。

 弾けたような音は、強烈な冷気に曝されて縮小したヤツの皮膚が裂けた音だった。


「「オオオオォオオオオォォォオオオオ!!」」


 私の反撃か、それとも驚いて首を引っ込めてしまったことか、とにかくヤツはプライドをいたく傷付けられたようだ。

 口の端しから垂れる黒い液体が激しく泡立ち、全身の纎毛が逆立った。残忍に光る感覚器官のその全てが私を捉えている。

 激おこらしいです。


 ふ、ふへへ、さっきの『氷寒魔法』、成功したんだけどさ、水分以外のものに働きかけるのは、とんでもない量の魔力が必要みたい。

 もともと防御のために『氷寒魔法』を連発しいていた私には、ちょっと荷が重かったな。


 こういうピンチに陥りたくないから、魔法やスキルの練習はしっかり行ってきたんだけどな……。

 やっぱ、私って詰めが甘い。


 もう残りHP的に『腐食性血』も撃てないし、『欲望喚起』も、怒り狂ってる相手に効果はないだろうな。


 ここまで、なのかな……。



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