うじむし45
システムさんが言っていた意味はすぐに分かった。
いや、笑ってしまうような話なんだけど、階段だ。階段が迫ってくる。
段々になった石の塊が、ゆっくりこちらに向かってくるのだ。
巨大キノコ程は大きくないけど、一軒家くらいはあるよ、これ。
ハ、ハハ……。
何と言うか、まぁ、凄い光景だ。
『あれはダンジョンに発生する擬態箱の一種ですね。恐らく特異個体です』
ミミックというと、宝箱に潜んで冒険者を襲うモンスターだね。
でも、あれ全く潜んでないよ。むしろ堂々とダンジョンを闊歩してるよ。
『瑠璃様、ダンジョンの宝箱とはどういうものか分かりますか?』
んん? いきなりな質問だね。
うーん、私が読んだことのあるラノベや漫画だと、ダンジョンが挑戦者を誘き寄せる為に設置するもの、だったよ。
『その通りです。宝箱とは、ダンジョンを形成するコアの魔力で産み出されるもの。極論、ダンジョンの壁や階段と同じ物質で作られていると言えます。そして擬態箱は宝箱に寄生するモンスターなのです』
……ダンジョンの魔力で作られた宝箱に寄生出来るから、壁や階段へ寄生も可能ってこと?
それはちょっと暴論でしょ!? 無理があるよ!
大体、階段に寄生したからって、地面から階段引っこ抜いて歩き出すか、普通!?
『しかし、実際目の前で起こっていますので……』
ホント事実は小説より奇なりだねー、って喧しいわ!
階段ミミックはこっちに向かってきてる訳だけど、私を認識してはいないんだよね?
餌を求めてうろうろしてるだけ?
体が大きいから餌も大量に必要なのかね?
キノコでも食ってろ。
『この階層でモンスターを見かけなかった理由が分かりましたね。恐らく、あのミミックに食べられてしまったのでしょう』
え、じゃあアイツ倒さないと、私はコウモリヒル以外に食べるものがないということ?
Oh……。
『加えて、階段を取られていますので、倒さなければ階下に降りることも不可能です。冒険者を捕食するミミックとしては、理想的な寄生先かもしれませんね』
システムさん、興味深そうに言ってる場合じゃないよ。
あのミミックが餌を探して徘徊しているのだとしたら、今の私はすごく危険だ。
だってもう食べられる餌って私しかいないもん。
後は天井にくっついているコウモリヒルか、巨大な猛毒キノコだけ。
さすがにコイツもキノコだけは食べないみたいだし。
まぁ、私も同じなんだけどさ。
アイツを私が倒すにしても、真正面からは不利だ。
回避能力の低い私では、自分よりも明らかにタフなモンスターと殴りあうような真似は出来ない。
こちらの取り得る作戦としては、遠距離狙撃からの引き撃ちか、罠に嵌めて一方的に撃ちまくるかのどっちかしかないな。
いや、どっちも有りか。
遠距離狙撃で最初に大きくダメージを当てて、その後、上手いこと罠に嵌めて更にダメージを狙う。
上手いことっていうのが難しそうだけど、成功すれば勝ちは確定じゃないの?
よし、そうと決まればまずは罠だ!
『瑠璃様、ミミックが近付いています。これ以上は、逃げることが困難になります』
むぅ、罠の前に身の安全か。
ミミックに気づかれる前にここを去らねば。
まず距離を取ろうと回れ右した私に、妙な音が聞こえた。
しゅぽん。
シャンパンのコルクを抜いた時のような、軽い音。
何かが起こらなければ、こんな場所で聞こえる筈がない音。
状況に合わない何かが起こった時というのは、大体危険が迫ってる時だと相場が決まってる!
咄嗟に氷の壁を作り出す。
分厚くしている時間が無かったから、薄い膜のような物だった。
氷はあっさり砕け、私に鋭い痛みが走った。
うぐぅ、痛ィ!
私の体に石の杭が刺さってる!
『腐食性血』で石杭は白い煙あげて溶け落ちた。そのまま抜けるのは良いんだけど、傷口は開きっぱなし、血が止まらない。
石杭が短いのは幸いだった。貫通して地面に縫い止められてたらシャレにならん。
くっそ、とっくに向こうはこっちに気付いてたってことか。
『瑠璃様、想定よりも早くミミックに存在を気付かれました。攻撃を受けています』
うん、やっぱりそうだよね、それ以外に無いもんね。
『ミミックはこちらの位置を正確に把握しているようです。第二射が来ます』
しゅぽぽん。
また気の抜けるような音。しかも今度は連続で。
今度ははっきりと確認できた。
緩やかな曲線を描き、尖端をこちらに向けて落下してくる石の杭が。
なるほど、このミミックはデカくてノロマな点を、こうやってカバーしていた訳だ。
石杭による曲射狙撃。コイツもスナイパーか。
コンニャロウ、点攻撃で私と張り合うとはいい度胸だ!
こちとら現代ゲームに慣れきったオタク女子、それも格闘ゲーム愛好者だぞ!
タイミングを合わせたブロッキングなどお手の物だよ!
落ちてくる石杭に合わせて、氷の弾を下から『狙撃』する。
軌道が乱れた石杭はくるくると回転しながら、私から離れた地面にぶつかった。
へへん、どんなもんよ?
しゅぽぽぽぽぽぽん。
えっ、ちょ、多い!
発射音明らかに多かった!
う、うぉおお! 負けるかぁ!
氷の弾で次々に『狙撃』。
だけど逸らしても逸らしても代わりの石杭が撃ち込まれてくる。
くそ、ダンジョンのミミックは化け物か!?
はい化け物ですね!
バカやってないで迎撃しろっての!




