うじむし36 しでむし05
俺は穴蔵の中で考えていた。
何をって?
復讐についてだ。
俺の家族は不気味な灰色の人型に凍らされ、踏み付けにされ、殺された。
家族といっても、俺も向こうも昆虫だ。虫けらだ。
意思疏通なんて出来なかった。
何が言いたいのかも、何を考えているかも分からなかったし、親虫に至っては最初の頃、子供食ってた。
だけど、お互い協力出来るように立ち振る舞えば、共食いは起こらなくなったし、仲間で連れ立って餌場を探すこともできた。
兄弟、と思えるような奴だっていた。
俺は、上手くやれてたんだ。
昆虫として生きる決心や覚悟はまだ出来てなくて、死んだ動物の肉を食うことも出来なかったけど、俺は、この第二の人生……虫生も悪くない、と思っていたんだ。
それを、あの灰色野郎が全部踏みつけて壊しやがった。
俺は一人で無様に逃げて、生き延びた。
家族達とは少し違う進化をしたから、ただそれだけの理由で、俺は生き残る術を得た。
だが何故俺の家族が死ななければならなかった?
昆虫だ。虫けらだ。だけど家族だったんだ。
愛着だって湧いていたし、俺になついてくれてた奴だっていたんだぜ?
馬鹿みたいだろ、たかが虫なんかに、ここまで感情移入するなんて。
俺もバカだと思う。だって、俺の心は人間のままなんだから。
例え今の俺の体が六本足で触覚があって、複眼でものを見てる極彩色の甲虫なのだとしても、俺は人間のままなんだ。
でも昆虫でもあるんだ。
ごちゃまぜになった意識が言う。
家族を、仲間を殺した奴を許すな、このままにしておくな。
必ず奴を倒し、その屍肉を食ってやれ、と叫ぶ。
あぁ、いいさ。
そうしてやるよ。
是非もない。
あのバケモノを殺せるなら、俺はなんだってやる。
レベルを上げて、進化して、強くなって強くなって強くなって!
絶対にアイツを殺す。
俺は決意と共に穴蔵を這い出した。
外はすっかり冷え込んでいる。
何故と考えるまでもない。あのバケモノが放った氷がまだ残っているのだ。
すぐにでも追い縋り、噛み殺してやりたいが、今の俺には不可能だ。せめて、同じかそれ以上の体格を手に入れなくては。
幸いにも、俺には人間であった頃の記憶が殆ど残っている。
沢山読んだ小説のなかには、異世界で成り上がる、というものも多かった。
あの知識を駆使すれば……物語ほど上手くはいかないだろうが、強くなることは不可能ではないはず。
さしあたって俺がしなければならないのは、まず進化ルートと取得できるスキルに目星を付けることだろう。
その為にも、レベルアップと進化をしなければならない。
まずはレベルを上げるための獲物を見つけなければ……。
だが、こんなステータスで勝てるのだろうか?
俺の持っているスキルは『穴堀り』だけ。
攻撃というより、巣を掘ったり餌を探したりが基本のスキルだ。
落とし穴掘れるかも、と思ったけど、昆虫の小さい体で実用的な落とし穴を掘るのに何日かかるんだよって話。
ここは一先ず、穴を掘って地面の下で獲物を探すことにしよう。
決めたら即行動だ。
這い出した穴蔵に戻り、トンネルを掘り進める。
掘っていると、すぐにニョロリ、と太いミミズの横っ腹が現れた。俺の目の前をずるずると進んでいく。
ラッキー!
肉食昆虫の俺にはミミズが御馳走に見えるぜ!
いや、気持ち悪いとは思ってる。
だって、ミミズだよ?
ぬるぬるにょろにょろのミミズだよ?
人間の俺の意識は、ゲボりそうです。
だけど、昆虫の俺の本能は、もう我慢できないとばかりにミミズに食らいついた。
ネズミの死体も食いそびれてたからな。
腹はペコペコだよ。
それに、腹が減っては戦は出来ぬって言うし、わざと辛い思いをして恨みを忘れないようにするって言葉もあったな。たしか、臥薪嘗胆だっけか。
そうだ、今は堪え忍び、恨み忘れず、溜まりに溜まった思いをいつかあのバケモノにぶつけてやるんだ。
だから、今はミミズを頂きます。
突然俺に噛みつかれて、ミミズはパニックを起こしていた。
が、狭いトンネルの中、暴れられるスペースもない。
残念だが、お前はここで俺のご飯になるんだよ。
ブチり、と噛み千切り、力無く震えるミミズを食す。
悪いな、これも俺が生き延びて強くなる為だ。
更に少し掘り進むと、またミミズがいる。
どうやら、ここら辺はミミズの巣であったみたいだな。
こいつらを食えば経験値も溜まるだろ。
そうすりゃ進化出来る。スキルも手に入る。強くなれる。
いいぜ、どんどん食らってやる。
全員経験値に変えてやる。
そうして俺はミミズに食らいついた。
食らいつきまくったのだった。




