うじむし35
『他の選択肢ではどうなのですか?』
悩む私に、システムさんが気を遣ってそう言ってくれた。
でもねぇ、私は魔王ルートに入りたいのよ。
そして出来れば私をこの世界に叩き落として、うじむしなんぞに変え、屍肉を食わせる状況に陥れた奴に復讐したいんだよね。
アッサリと語っているけど、私の怒りは根深くしつこい。
私は執念深い女なんだ。
この恨み忘れぬ。忘れぬぞぉ……。
蛭やミミズの進化ルートでは、魔王とか、それに準ずる強さを持ったモンスターに進化していける気がしない。
精々が手強く厄介なモンスター止まりなんじゃないかな?
ゲームでも、ミミズやヒル型のモンスターはラストダンジョンにさえ出現しないし。
たしか、ハムスターなら出たと思うんだけど……。
出来れば、暴食の魔王に至るルートでいたいので、蠅モンスターの道から外れるわけにはいかないね。
うん。
じゃあもう選択肢は一つだ。
ちょっとギャンブル性が高い気がするけど、『ミュータントマゴット』に進化することにするよ。
『瑠璃様、本当によろしいですか?』
あ、ちょっと待って。
進化中に襲われると恐いから、『氷魔法』でシェルター作っとくわ。
ガッチガチの固い奴で、カウンター気味に周囲に冷気を放つタイプをね!
『なるほど。素晴らしい考えです』
でしょでしょ?
ふっふっふ、私も頭を使うのさ。
『それでは、シェルターが完成し次第、進化に入ります』
はいよ、そこはよろしく、システムさん。
『おまかせ下さい。瑠璃様』
氷のシェルターの中で丸くなると、私はゆっくりと目を閉じた。
起きたら、今よりもっと強くなれているといいな。
◆◆◆
『白氏 瑠璃 の進化進行中……経験値、カルマ値、保持スキル・称号から上昇ステータスを計算中…………おや?』
システム、と名乗る存在は、訝しげな声を上げた。
彼、というか、システムと名乗るそれは、正確にはそれらと呼ぶべき物である。
この世界の魔力、経験値、カルマ、スキル、称号、それら全てを統括管理する、世界の集合意識。それがシステムであった。
彼は白氏 瑠璃の担当であり、よく関わりを持っているが、彼自身は巨大な集合意識のほんの僅かな断片でしかないのだ。
世界意識そのものであるが故に、システムに理解できないことなど殆ど無い。
相手によって開示できない情報はあるが、それはレベルや親密度が足りないためであり、システムが知らないわけではない。
そんな彼が、僅かにでも訝しげな声を上げるということは、天変地異レベルで異常な事態だった。
『システムへの不正アクセス…………世界に存在する経験値、及びカルマの簒奪を確認。収束中……。レベルアップ・進化の兆候は確認できず。これは、限定神化……』
システムは知らないことであるが、今、死の淵から蘇った異世界人が、「変身」と唱えたのである。
システムはあくまでこの世界の集合意識。
異なる世界、異なる次元からやってきた異なる存在について知ることはできない。
つまり、異世界人はシステムの恩恵を受けることが出来ないのだ。
それは魔法の使用であり、進化の促進であり、スキルの獲得である。
異世界からの魂が、こちらの生き物の体を得ていれば問題ないのだが……。
心も体も異世界製の存在には、良くも悪くもシステムは関わることが出来ないのだ。
誰が知るだろう?
異世界人が力を持つことが出来ないという世界の理をねじ曲げる為に、一人の狂った男が、生涯に渡る研究を完成させ、無理矢理世界の力を奪う方法を確立した、など。
世界の異物であった者達が、世界に抗う力を得る。それが強制限定神化機構。
その実は寄生虫のように世界から養分を吸い取り己の戦う力に変える、世界を殺すための機構である。
『防衛機構機能せず。限定神化の許可は降りていません。ですが収束した経験値とカルマの総量は進化を超えて限定神化に届いています。前例の無いことです。システム総意、準警戒体制に移行します』
幸いにも、経験値とカルマの異常な収束は、一度で止まったようだった。
しかし、これが何回も重なるようであれば、世界のバランスが崩れる。
システムに感情らしい感情はない。
ただ膨大な過去と思考から未来予測を弾き出す。
『不正限定神化、完了確認……。今後この異常現象が繰り返して起こる確立……100%……。早急に手を打たなくてはなりません……』
システムに感情らしい感情はない……筈だが、この未来予測には恐怖にも似た思考の揺らぎを感じた。
経験値とカルマ。
これらは生物の行動や生死によって、僅かづつシステムに蓄えられていくものである。
溜め込まれた二つの要素が、供給されるよりも早く消費され、枯渇すれば…………。
『10年以内でのシステムの消失、及び世界の崩壊……現在の確率……20%』




