うじむし33
首なしゴブリンの体はもう半分以上私の胃の中に消えた。
流石に『過食成長』による成長の効果も実感できてきている。
食べる前よりも、体が二周りほど大きくなっているのが分かる。
口に含める肉の量が増えている。
視線が高くなった。
知覚できる範囲が広がった。
シェルターが狭く感じてきた。
私、大きくなってる!
食べることでMPも僅かに回復しているけど、明らかに消費の方が多い。
シェルターの範囲を広げたことと、ゴブリンの苛烈な攻撃で傷付いた箇所を修復するので大赤字だ。
MPが切れたらヤバい。
経験したことはないけど、ろくなことにならないのは分かる。気絶か死亡というのが一般的だもんね。
「ギィガァ!」
あれ、ガツガツ叩いていた奴等が、手を止めた。
なんか嫌な予感がする。
ゴブリンの群れが割れて、一回り小さなゴブリンが現れた。
なんかヨボヨボな感じがするから、長老とか、そんな感じか?
少し嫌な予感がする……。
その小さいゴブリン、ローブ着てるんだよね。
アイツ、もしかしなくてもゴブリンメイジって奴じゃね?
「ギョーン!」
ゴブリンメイジが甲高い声で叫ぶと、シェルターが火で包まれた。
炎、というほど勢いはない。ちろちろと燃える火だ。
だけど、マズい。
氷に火っていうイメージがマズい。
シェルターはただ固いだけの氷。火を近付けられれば溶けてしまう。
『溶けた氷の修復にMPを使いすぎています。警告です、このペースで消費していると5分と保ちません』
う、もうこれ以上は駄目だ。MPは使えない。
氷シェルターは放棄。これよりゲリラ戦に移行する!
『ゲリラ戦? 何をするつもりです?』
ゲリラ戦の真髄、それは嫌がらせです。
もう戦いたくないという精神状況に追い込むことがゲリラ戦というものなのです。
氷シェルターが振り下ろされた棍棒の一撃で砕かれる。
怒りに満ちたゴブリンの黄色い目が、私をようやく叩き潰せる、と喜びに輝いた。
その両目に向かって『酸性血』を口から『射出』。
ジュッ! という音と肉が溶ける臭い、白い煙が上がる。
「ギギギャアア!」
一匹のゴブリンが悲鳴を上げて転がり回ると、周囲のゴブリン達は怯み、僅かに後退りしていた。
戸惑いと恐怖が生まれたのを見計らい、更に近くのゴブリンの目を潰す。
「ギィイイ!?」
シェルターを壊して勝ちを確信させてからの、心を折るような残虐な一手。
これは怯えますわ。
ましてや私は、表情の見えないウジムシ。それもちょっと大きくなって、今や体長50センチ、幅20センチはある立派な寸胴体型。
あー、シェルターの中キツかった。
もうミチミチに詰まってたからね。壊してくれてどうも、ゴブリンさん達。
お礼に戦意を挫く目潰しを、雨あられとご堪能下さい。
口から次々に『酸性血』を『射出』してゴブリンの目や鼻を撃ち抜いていく。
それそれ、そぉれそれぇ! 逃げ惑えゴブリンどもめぇ!
ハッハッハ! 恐かろう恐かろう! 逃げたいだろう! 逃げたいだろう!
許します! 逃げていいです!
だからお願い早くどっか行って! 私が悪かったからもうお互い不干渉でいさせて下さい!
「ギョーン!」
おっと、この声はゴブリンメイジの魔法だ。
ふふふ、大きくなった私にそんなものは効かないぜと言いたいところだがそんなことは無かったぜ!
アッツゥい! これアッツゥゥウい!
体が大きくなった分、一気に焼き尽くされるということはないけど、熱くて痛い!
この野郎! 乙女の白い肌になんちゅうことを!
頭に来たので口から大量の『酸性血』をゴブリンメイジに浴びせかける!
吐いてる訳じゃなくて攻撃だから、これ。歴とした攻撃だから。
『知っていますよ。誰に言い訳をしているのです?』
私自身にだよ、システムさん。
「ギョェエエエエエッ!!?」
ゴブリンメイジはこっちまで鳥肌が立つような断末魔を叫び、骨まで溶けて地面の染みとなった。
酸鼻きわまる光景に、一瞬、辺りがシン、となる。
私はなるべく無機質な、不気味な感じで周囲のゴブリンを見回す。
ウボァアア、命が惜しくない奴はまだいるかぁ? 溶かすぞぉお。
ごぺ。
やだ、少し漏れた。
「ギャ!? ギャギギャギャ!!」
リーダー格っぽいゴブリンが叫び、一目散に逃げ出した。
これが決定打となり、ゴブリン達は我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
ふふふ、ふふ、ふ……。
ふはぁ……。良かった、ビビってくれた……。
最後の『酸性血』で血を吐きすぎて、HPがゴリッと削れてたのよね。
私、ビビりすぎ、カッコ悪い。
でも、生き残った……。
自分で撒いた種とはいえ、怖かったよぉお、もう駄目かと思ったよぉ、体が大きくなって無かったら死んでたよぉお。
『お疲れさまでした。ご無事で何よりです』
無事じゃない。
HPもMPももうカツカツだよ。タンスの角に足の小指ぶつけただけで死んじゃうくらいHP減ってるからね?
『今回で大量の経験値とポイントを獲得したようですね。実は戦闘中にレベルアップも何度かしています』
え、私それ聞いてないよ?
『邪魔になっては悪いと思いまして、消音しておりましたので』
おぉう、流石出来る男システムさん。
それじゃあ倒したゴブリンを頂きつつ、チェックしてみようか。




