うじむし02
何だこれは?
いったい何が起こっているとうのだ!?
全身を打ち付けた痛みがなければ、これは夢だと思うことも出来ただろう。
こんな体じゃ頬をつねることも出来ないけど、感じている痛みは本物だ。
つまりこの水面に映っている気色悪いウジムシが、今の私なのだ。
昨今ネット小説で人気である人外転生を、私はやらかしてしまったということだろうか?
うん。現実感がまったく無い。
痛みを感じているくせに、まだ頭がこの状況を受け入れることが出来ないみたいだ。
血の池地獄から上を見上げると、巨大な目が見えた。
私が転がり落ちた場所、焦げ茶色の草原だと思っていたネズミの目だ。
とっくに死んでいる。
ウジムシが湧いている位だから、生きている訳がないだろうけど。
不思議と嫌悪感は無かった。
食欲を誘う匂いというのは、このネズミの死体の腐臭だったようだ。
それがご飯だもんね、嫌悪感覚えてたら食べられないわ。
まぁそれは恐らくウジムシとしての本能で、人間としての価値観は『マジかよキメェ』って思ってる。
食べなきゃ死ぬということも、その本能で分かる。
私が意識を取り戻す切っ掛けとなった『レベルアップ』は、恐らくこの死体を食べることで起こったものだ。
食べた分のエネルギー―――経験値なのか?――――はその際に消費されてしまったようで、今は酷くお腹が空いている。
ここでジっとしているだけで、どんどん体力が消耗されていくのだ。
小動物や小さな虫の中に、は燃費が悪く、一日で自分の体積よりも多く食べなければ衰弱してしまうような種類もいるらしい。
運の悪いことに、私はその種類であるようだ。
このまま寝転がっていれば、青白いイモムシに生まれ変わったというおぞましい生を終わりにできる。
もしも、キモい幼虫の姿でも生きたいと願うなら、覚悟を決めるしかない。
手足が無く、動き辛い体を捩ってネズミに向かって進む。
途中、獣臭く鉄臭い血を啜った。
それだけで活力が少しだけ戻ってくる。
腐乱死体食べますか? そのまま死にますか? という選択を前に、私は死体を貪ることを選んだ。
死にたくない。私はまだ生きていたい。
こんな体で何をするのか? 何ができるというのか?
何も決まっていない、何も分かっていない。そんなの今すぐ決められる訳がない。
何でこんなことに。
何でこんなことに。
地面を這いずりながら、心の中で突然の理不尽と不条理に怒りを吐き散らす。
雑魚に転生して成り上がる物語なんてのは、一読者として見るから面白いのだよ。
憧れることもなきにしもあらずだったけども、誰がマジでやってくれって頼んだよ?
もしも私を転生させた神様がいるならば、ソイツはとんだクソ野郎だ。
いたいけな女子高生を不気味な虫に変えて、地面を這いずっている様を見て大喜びしているに違いない。
死んだネズミの瑞々しさを失った体毛を登り、腐臭を放つ傷口に顔を埋める。
うげ。
おえ。
げえ。
気持ち悪い。感触が最悪だ。なのに体が美味いと感じている。もっと食べたいと求めている。
ネズミの体に残っていた僅かなエネルギーが、私に入ってくるのが分かる。
私は死なない。生き延びてやる。
私をこんな姿で生まれ変わらせた悪意ある神め、私が絶望して死ぬだろうと思ったんだろうが、そうはいくものか。
もしかしたら完全な事故かもしれないけど。
転生することそのものが誰も何も仕組んでいないパターンだってあるからね。
だが、事故でも故意でも絶対にゆ"る"ざん"!
居るかもしれない神を憎むことで、私は生きる活力をたぎらせていた。
もしも私をこんな姿にした奴がいるのなら、ソイツには手足が使えず腐肉に顔を突っ込んでウジムシのように貪るよりも、もっと酷い屈辱を与えてやる。
私は口いっぱいにネズミの死肉を詰め込みながら、暗い怒りに燃えていた。
『獲得経験値が一定の値を越えました。名前:未設定 はLv. 2からLv. 3にレベルアップしました』
食べて、食べて、力を蓄えて、必ずこの復讐を果たすのだ。




