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うじむし27 ヒーロー02




「地球じゃない……?」


 茫然と呟かれた声は誰の者だったのか。

 そんなことも分からないほど、雄大は衝撃を受けていた。


 自分が実は死んでいた。

 ここは地球じゃない。


 まるでお話の世界だ。

 性質の悪いファンタジーだ。


 そんなこと、信じられる訳がない。


「ワシが子供の頃に流行ってたんじゃがの、お前らは『人が異世界へ転生する物語』を読んだことあるかい?」

「…………ないです」


 雄大は首を振ったが、友達の中には『異世界に転生する物語』について知っている人がいるようだった。


「あぁ、親父が持ってたな、そんな本。少しだけど、読んだことあるぜ」

「春彦ちゃんから借りたから、あたしあるよ」


 春彦と彩花が老人に頷く。


「実は、よく読んでいる」

「うん、僕もよく読んでる。面白いよね! いきなり自分の常識が通用しない世界に放り込まれた主人公が、その世界で強くなっていくんだよ。孝介君はどんなのが好き? 僕はやっぱり生産職系の……」


 そこまで言って、義人はハッと動きを止めた。

 春彦も彩花も、孝介も、まさか、と言いたいような顔をしている。


 雄大、鉄雄、鈴音の未読組も馬鹿ではない。

 四人が察したことを、彼らも察していた。

 分かりづらいが、鉄雄は眉間のシワが深くなり、鈴音は顔を青ざめさせている。


「まさか、ここは、異世界なの……?」


 か細く義人が呟けば、蒔島はゆっくりと頷いた。


「そうじゃ。ここは正しく別の宇宙、別次元。異世界じゃ。しかも、剣と魔法の世界じゃよ。ハイファンタジーって奴じゃな、分かるか? んん?」


「帰る方法は?」


 ぼそり、と鉄雄が呟いた。

 小さな声だったが、抑えきれない激情が滲んでいた。


「知らんな。この稀代の天才、悪魔の才能、機械魔工学の産みの親にして狂気の鬼才であるドクターマキシマにして、知り得ぬ」


 ぷらぷらと手を振り、肩を竦める。

 蒔島の態度に、明らかに鉄雄の雰囲気が変わった。

 体から黒い光が噴き出し、鉄雄を包んでいく。


「な、これは……!?」


 孝介が驚いたように声を上げた。


「うわぁああ!?」

「助けてぇ!」


 周囲の仲間は一斉に鉄雄から距離を取った。

 これが魔法と言うものなのか。まるで一人の人間が、そのまま兵器になったかのような恐ろしさだった。


 光に触れた所が、浸食されるように朽ちていく。

 綺麗だったシーツが、あっという間に塵になって消えた。


「やはりお前は『闇魔法』に適性があるか。だが、やり過ぎると死ぬぞい?」

「ふざけるな、俺は、帰るぞ……!」


 ブチキレて魔力を放ち続ける鉄雄に、蒔島はやれやれとため息を吐く。


「本当にもう話を聞かん奴等じゃのー。手助けするの止めちゃおっかのー。ワシ、メンドイの嫌いじゃし」


「待ってください! 手助けって、帰れる方法が有るんですか!? 助けてくれるんですか!?」


 雄大が叫ぶ。

 それは蒔島に確認を取るというよりも、鉄雄に聞かせる為だ。

 帰れる可能性があると分かれば、鉄雄も頭を冷やしてくれる筈だ。


「…………!」


 雄大の声が聞こえたのか、鉄雄はびくりと震え、動きを止めた。


「…………すまない」


 自分が何をしてしまったのか気付き、苦々しげに目を伏せる。

 彼が帰りたいと強く願う理由を知っている面々は、怒る気にはなれなかった。


 鉄雄には妹がいるのだ。

 年の離れた小さな妹であり、母子家庭で働き詰めの母に代わり面倒を見てくれる兄にとてもなついていた。

 鉄雄も、妹と関わるときはいつもの鉄面皮が嘘のようによく笑う。

 近所でも評判の、仲の良い兄妹だった。


 一刻も早く駆け付けてやりたいのだろう。

 重度のシスコンである鉄雄ならば仕方の無いことだ、と仲間は生暖かい目で許していた。


「…………どうやって止めればいい?」


 鉄雄は困ったように蒔島を見た。

 体からは黒い光が噴き上がりっぱなしである。


「やり過ぎると死ぬぞって言ったじゃろうに。お前らは特別製・・・じゃからの。命の代わりに魔力を詰めてあるんじゃ、で、今その栓を自分でブッ壊しちまったんじゃよ」

「そんな、このままじゃ黒岩君は……!」

「一度空っぽになったらもう戻せないじゃろうなぁ、あー、残念じゃったなー」


 話している間にも、鉄雄の魔力は止まらず、彼の表情が段々と苦しげに歪んできた。


「なんとか……、何とかならないんですか!?」

「貴方が私達を蘇らせてくれたのですよね!? だったら、きっと何か方法を知っている筈です!」


 孝介と鈴音が蒔島に詰め寄る。

 雄大と春彦は噴き上がる魔力を押さえ込もうとでもいうのか、じりじりと鉄雄に近付いていた。

 義人は何か助ける手がかりや道具が無いかと走り、彩花もそれに続いている。


「ふふん、この稀代の天才、悪魔の才能、機械魔工学の産みの親にして狂気の鬼才であるドクターマキシマが何も手を講じていないと思うかね? 思わんじゃろ? そうじゃろ? これいいぞぉ! ワシの発明を試す機会が早速巡ってくるとは! ひゃひゃひゃひゃ! 天才は運も強いッ!」


 蒔島は笑いながら走りだし、近くの机に飛び付くと、中身を取り出した。


 それは、真っ黒なベルトだった。


 バックルの部分が大きく、何かを嵌め込むかのように丸く開いている。

 サイドには動きの邪魔にならない程度に装飾が付いていたが、ただのベルトの装飾にしては大きい。

 そう、まるで装備、とでも言った方が相応しいだろう。


「ひゃひゃひゃ! さぁ! 黒髪の木偶の坊! これを装着するがいいぃッ!」


 蒔島が興奮し、口の端から涎を垂らしながら叫び、ベルトを鉄雄に向かって投げる。

 ガシャン、と目の前に落ちたベルトを、鉄雄は震える手で掴み、装着した。


「分かるじゃろ!? 分かるじゃろ!? お前らも男じゃ! このロマンが分かるじゃろうよ! そして使い方もなぁ! ひゃぁひゃっひゃっひゃ! さぁさぁ、装着するのじゃ! そして言え! 叫べ! あの言葉をなぁあああ!」


 鉄雄は、それで理解したのか、今まで一番酷く顔を歪めた。

 凄く嫌がっている時の顔である。


 まさか、高校卒業目前になって、こんなことをする羽目になるとは……。


 だが、魔力が抜け続ける自分が助かるには、もうこの手段しかない。

 ブチキレてしまったことを今さら後悔するが、もう遅い。


 ちらりと周囲を窺うと、男性陣は既に何が起こりそうなのか気付いている様子であり、女性では彩花が若干冷えた目でこちらを見ていた。

 鈴音だけがキョトンとしていた。少し救われた。


 自分だって好きでやるわけではない……。

 だが、生きて帰って、妹の栞奈に会うためだ


 鉄雄は観念して目を閉じ、口を開いた。





「…………変身」


強制限定神化機構マキシマム・システム……開始スタートアップ


 ベルトから低い男性の声が聞こえてきた。

 もう勘弁してくれ、と鉄雄は顔を覆いたくなる。


「ひゃひゃーッ! いいぞいいぞぉ! ワシの研究は! ワシの発明は! 素晴らしいぃいいいッ!」


 噴き出していた魔力はベルトのバックルに吸い込まれ、一つの水晶のようになる。

 そこから改めて黒い光が漏れだし、鉄雄を覆う。


 ちらりと薄目で見たが、春彦がベッドの上に転がっていた。

 あれは笑っている。

 子供のヒーローのように変身する高校三年生をみて、腹筋を捩れさせている。


 あとで締めよう、と固く誓う鉄雄だった。


『――――――完了コンプリート


 鉄雄を覆っていた光が風に吹き散らされるようになくなると、そこには、全身を黒いアーマーで覆われ、狼を模した仮面を付けた戦士が立っていた。


 そう、まるで日曜朝の特撮のような……。



「せ、世界観が違うよぉ……」


 義人が茫然と呟いた言葉が、全員の気持ちを表していた。



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